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【IS】何もかも間違ってるかもしれないインフィニット・ストラトス

作者:海戦型
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闖入劇場
  第七三幕 「貴方の隣に居座る混沌」

 
前書き
アニメ一期終了辺りで変えようかと思ってたけど、いい加減長すぎると思って次の部に突入とします。あと、前回のあらすじを考えるのがいい加減面倒だし不要な気がしたので廃止。(要望あらば復活させます) 

 
見上げる空は多少の雲こそあれど、概ね快晴と呼べる青天井を露出している。だが、自分のこれから向かう地域は此処と同じとはいかないらしく、午後からは雨が降るんだそうだ。現代人は当たり前のように天気予報の恩恵を受けているが、昔はそんなに便利なものなど存在しなかったことを考えるとずいぶん簡単な世界になったように思える。

先人が台風による犠牲者を減らすために必死の思いで設置した富士山レーダーでさえ当時は画期的なものだったのに、今や人類の英知は青空を超えて宇宙にまで到達している。その気になればISを用いて単独宇宙飛行が可能だと聞いたら、果たしてユーリイ・ガガーリンはどんな顔をするのだろうか?

いつかそのISさえ時代遅れになる日が来るのかな、とユウは一人呟いた。

IS学園から日本本土までを結ぶこのモノレールも数年前までは殆ど国内に普及していなかった。そこから時代の流れを感じ取れるほどに、時の移ろいは早いという事だろう。まだ10代の自分でさえこんな事を考えるのだから、自分より年上の大人たちはもっとそれを切実に感じているかもしれない。

現在、このモノレール乗車駅には人が全く見当たらない。現在が早朝であるのも原因の一つだが、そもそも今日は本来授業日であるためただでさえ平日は少ない人影が更に減っているのだ。こうも静寂に包まれているとこのホーム内が異質な空間であると錯覚してしまいそうになるが、ユウはその気分を現実に引き戻す人影がホーム内のベンチにちょこんと座っているのを発見した。

「おはよう、つららちゃん。もう来てたんだ?」
「あ、おはようございます!」

元気いっぱいに返事をする少女の名は峰雪つらら。ユウの同級生であり、今日から”最上重工のテストパイロットとして正式に雇われる事になる”少女だ。普段はべったりとセシリアにくっついているのだが、流石に部外者のセシリアに公欠を取ってまで付き合わせるわけにはいかないため自重してもらった。

「昨日の内にお姉さまからタップリ活力(セシリウム)を頂いたので今日も調子はばっちりです!」
「それを聞いて安心したよ。今日は不肖ながら僕がセシリアさんの代役を務めさせてもらうね?」
「はい!お姉さまからも言いつけられましたので、頑張って私の手綱を握ってください!迷子になりやすい性分なのでっ!!」
「・・・ほ、ほどほどにね?・・・あ、始発がそろそろ出るみたいだ」

電光掲示板に映し出される発着予定時刻が点滅するのを見て、発車待機中のモノレールを見る。既に扉は開かれており、車内から微かな冷房のつめたい空気が漏れ出していた。
行こう、と短く伝えて社内に向かう。自分の足音にぴったり合った歩調でつららはユウの後ろを付いてきた。子犬が延々と後を付いてくるような感覚に少し落ち着かない気分になると同時に、セシリアさんの気持ちがちょっとだけ分かるような気がするな、と苦笑いを漏らした。

「楽しみですね!ユウさんも初めてなんでしょう?」
「ああ、どんな人が風花の面倒を見てくれているのか楽しみでしょうがないよ」
「私のパートナーになる3号機もですよね!ふわー・・・どんな所なんだろう、最上重工本社!」

代役といっても付添いが精々だが、セシリアにやたら念を押されたので頼まれた以上はベストを尽くそう。特に根拠はないが迷子になりそうな気がするつららを見て、ユウは改めてそう考えた。

期待に胸を膨らませる意外なコンビを乗せて、モノレールは学園の外へと発車していった。



 = = =



風花の全面強化に伴う操縦者同伴の最終チェック。それが本社から学園経由でユウに届いた報せだった。トーナメントで盛大に壊してしまった風花は全面調整見直しもかねて本社に送られていたが、ユウはこの連絡を今か今かと待ち構えていた。そもそも初戦闘を行ってはすぐに本社戻りし、今回もそうなっていた風花の操縦時間は他の専用機持ちに比べて結構少なくなっている。ISはそれ自体が経験を糧に成長することを考えればかなりのハンデだ。

肋骨も無事治り、現在は慣れない訓練機でギリギリの模擬戦ばかり繰り広げていた所に飛び込んできた朗報。しかしその報せには続きがあったのだ。

実は最上社長はトーナメント後に一人の女の子をテストパイロットとして勧誘していたらしい。それなりに競争率は高かったようだが向こうが興味を持ってくれたので交渉は上手くいったという。そして、その女の子と本契約を済ませる日がISの受領日と重なっているため一緒に来てくれないか、というメッセージが添えられていた。
そう、その女の子の名前こそが・・・

「ねぇ、つららちゃん。ちょっと聞いていいかな?」
「はい!何でしょうか?」

本来ならばモノレール内でのおしゃべりはマナー違反だが、この車両は事実上の貸切なのでわざわざ気にすることもないだろう。

「ちょっとした好奇心なんだけど・・・つららちゃんは専用機に憧れとかあったの?なんとなく君はそういうのに興味なさそうな気がしたんだけど・・・」

ユウの私見なのだが、つららは1年生の中でも成績が上の方でありながら、ISそのものよりも技術面に強い関心を持っている節があった。いわばISに乗る側でなく作る側に行きたがっているような印象を持っていただけに、おかしいとまではいかないが少し以外には思っていた。

「そうですねぇ、ほかの子たちほど強い羨望は確かになかったですね~・・・その質問お姉さまにも聞かれたんですけど、二人ともよくそういうことが分かりますね!その観察眼にはけーふくします!」

まぁ君ってIS知識以外はセシリアさんの事しか興味なさそうだし・・・とユウは言いかけて止めた。言ってこれ以上セシリア談義を広めると後々面倒になりそうな気がしたからだ。だがユウの予想はある意味当たっていた。彼女が専用機を求める切っ掛けはごく最近の出来事だった。

「私、この前大会で優勝した時にちょっと悪口言われまして。『セシリアお姉さまの強さを利用してお零れをもらってる』って」
「ぞっとしない話だね。ホント感心しないよ」
「・・・悔しかったです。私だってお姉さまのために頑張ったのに、周りからはそんな風に見られてたと思うと・・・口惜しいです。遺憾です」

少し肩を縮めて俯くつららの言葉にユウは思わず顔を顰めた。人がたくさん集まる場所なのだから、必然的に他人を貶めるようなことを言って不満を解消しようとする人間はいるだろう。ユウのいた中学には不良が多かったためそういった事柄にある程度の理解はある。だが、理解と許容はイコールではない。
それにつららのIS捌きは結構なものだ。恐らく専用機持ちを除けば佐藤さんに次ぐだろう。決してセシリアさん頼みの素人ではないのだ。彼女にもそんな邪な目的でセシリアを慕っている訳ではないことは彼女を知る人ならよくわかっている筈だ。せめて、その子たちがつららに近しい1組の人間であってほしくないな、とユウは思った。

「お姉さまは凄い人です。だからこそ、お姉さまについてゆくには周りに笑われたりしない立派な操縦者にならないといけないと思って・・・」
「・・・そっか。確かに素晴らしい人に付き添うなら、そういう意識も必要なのかもね」

その言葉に言いたいことはあったユウだが、セシリアが時たま「文句があるなら実力を示せ」と言っていることを思い出した。セシリアのそれは一見乱暴な理論に思えるが、世の中力のない人間に耳を傾ける者は少ないのが現実だ。理想を叶えるにはそれに見合った力が必要、とは誰の言葉だったか。

「はい!そーいう事なので、ここらで箔をつけてお姉さまの隣にふてぶてしく居座ってやろうとそう思ってた矢先、スカウトの人たちが来たんです。何人かいて皆熱心に勧誘してくれたんですけど・・・社長さんだけ会うなり『うちの新型に乗らないか?』って」

つららは落ち込みから一転、ぱっと花のような笑みを浮かべた。この世の中で我を通すためにある種の我儘を通すセシリアと一緒にいるのならば、周りに文句を言わせないだけの実力が必要という事なのだろう。その形の一つが新型機という訳だ。

「最上重工のISは未知数な所が多かったんですけど、風花とユウさんを見てたら興味が湧いちゃって」
「へー・・・こんな所に思わぬ宣伝効果があったんだ」

えへへ、と後ろ頭を掻くつららの言葉にユウは少し驚いた。
―――迷惑かけてばっかだと思ってたけど、こうやって貢献することも出来るんだな、とユウは感心する。ただISを乗り回しているだけで会社との関わりがあることに実感を持てなかったが、こう言われると「自分は最上の看板を背負う身なんだな」という自覚が芽生えてくる。

「次はつららちゃんと3号機を見て最上に惹かれる人が来るのかな?」
「そうだと良いですね!嬉しいの連鎖です!ネズミ講です!」
「それは違うと思うな!?というかネズミ講は最終的に破綻するからね!?」

間もなくモノレールは海を越えたターミナルへ辿り着く。その先には果たしてどんな“嬉しい”が待っているのか、ユウは待ちきれなくなってきた。



= = =



「はぁー・・・タリィなぁー」

本来なら学生は学校に行っていなければならない朝の9時ごろに街を闊歩する、明らかに学生な一人の少女。つけ爪に化粧、一目で染めたと分かる茶髪。何故そんなに短くするんだと聞きたくなるほど丈の短いスカート。おまけに学校の制服。10人が10人「学校をサボっている不良生徒」と思うであろうその少女は、事実サボリで不真面目な少女だった。

人間は中身で勝負と言うが、その中身が外見から漏れ出ているという事実にはなかなか気付けないこのおバカな少女は、高校の授業を面倒と言うだけの理由でよくサボっていた。いわゆる常習犯という奴だ。彼女の通う学校はさして優良と言える学校ではないので彼女のお仲間も存在するが、彼女は大人数より一人二人でうろつく方が好きな性質だった。

「2限は・・・数学だっけ?めんどいし、その辺のカフェで宿題写すか」

不真面目な人間は自力で勉強をしたりはしない。頭の回るお人よしが問題を解く係で自分は回答を写す係だ。前日に既に友達が解き終わった宿題を借りていた不良少女は2限の授業時間いっぱいをそれに費やす気らしい。彼女の写す宿題は現国の宿題で、その現国があるのは3限。流石の不良少女も友達に借りた宿題を提出期限まで返さないという不義理を働くことには抵抗があるらしい。と―――

「・・・あれ?あの後ろ姿は・・・」

ふと視界に写った自分と同じ年頃の少女の後ろ姿に不良少女はぱったり足を止める。見覚えのあるおさげを凝視した彼女は、その後ろ姿に見覚えがある気がした。あれは・・・そう、宿題を貸してくれた自分の友達の後ろ姿に良く似ているではないか。
しかしそれはおかしい。不良少女の知るその友達は決して自分の様に用事もなく授業をサボるような不真面目な人間ではないのだ。だから見間違いだろうと―――そう思いたかったのだが。

彼女の手に握られている時代遅れの携帯電話、そのストラップが彼女の疑惑を確信に変えた。
そのストラップは彼女がゲームセンターのクレーンゲームで捕り、欲しがる友人にプレゼントした品だったからだ。ストラップには最近巷で人気のIS操縦者“佐藤さん”の試合中の写真がプリントされている(不良少女は知る由もないが、実は本人の許諾なしの違法グッズである)。

見覚えのある後姿、見覚えのある携帯電話とストラップ。彼女のそれほど賢いとは言えない脳でも、これが偶然の一致とは考えにくい事くらい理解できた。だが、何故友人がこんな時間帯に、しかも私服で町をうろついているのやら。不良少女の知る限りではそれらしい理由は思いつかない。

「もしかして変な奴に脅されてるとかじゃねーよな・・・」

しばしの逡巡の末、不良少女はその友人と思しき人物を追いかけることにした。それなりに長い付き合いだ。面倒事なら力になってあげたい。そんな彼女の―――彼女の事を知る人に言わせたら「天変地異の前触れ」な―――気遣いが、後に彼女の運命を大きく歪めてしまうとは知らずに。
 
 

 
後書き
3号機のパイロットが佐藤さんだと思った?残念つららちゃんでした。

著作権や肖像権とかって基本的に侵害された本人が権利行使しない限りは問題にならないので、アイドルの写真や東方・ボカロ・流行のアニメやゲームのイラストがプリントされたアイテムにはそういうの多いです。訴えること自体にもそれなりの手間とお金がかかるので権利者側も(○ィズニーを除いて)あまり積極的には動かないとか。そっちは専門じゃないので詳しく知りませんが。 
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