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久遠の神話

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第九十六話 剣道家その二

 きっとした表情でだ、こう言ったのだった。
「貴方がお断りすれば」
「それで、ですね」
「はい、終わることですが」
「上城君、ここはね」
 どうすべきかとだ、樹里も必死の顔で彼に言って来た。
「絶対に」
「中田さんの申し出をだね」
「うん、断ろう」
 是非だ、そうしようというのだ。
「そうすれば闘うこともないし」
「僕も中田さんも」
「若し何かあったら」
 その『何か』はこう言うまでもなかった、三人共そのことはよくわかっていた。
 それでだ、樹里も必死に言うのだった。
「だからね」
「受けないべきだっていうんだね」
「そうしよう、本当にね」
「いや」
 だが、だった。ここでだ。
 上城は確かな顔でだ、こう言ったのだった。
「受けるよ、僕は」
「えっ、それは」
「そんなことしたら」
「いや、このことはね」
 上城はその顔のまま驚く二人に答えた。
「わかるんだ、中田さんの気持ちが」
「あの人の気持ちが?」
「僕も剣道をしていてね」
 そしてだというのだ。
「あの人も剣道をしているじゃない」
「同じ剣道をしている者同士として」
「そう、わかるんだ」
 こう樹里に言うのだった。
「僕も同じ立場なら。中田さんと同じことをしているよ」
「戦いを止めたくても?」
「うん、それでもね」
 剣の道を進んでいる、それならというのだ。
「いや、止める為にも」
「その為にもなの」
「そう、あの人も止めてね」
 そしてだというのだ。
「戦いを終わらせる為にも」
「だからなの」
「僕はあの人と闘うよ」
「それじゃあ」
「そう、僕はあの人の申し出を受けるよ」
 迷いはなかった、それは。
 その迷いのない澄みきった顔でだ、上城はまた二人に言った。
「じゃあいいね」
「わかりました、では」
 聡美がだった、最初に上城のその決意を受け入れた。残念に思う気持ちがあるのは確かだ、だがそれでもだ。
 彼の心を受けてだ、こう言った。
「倒れないで下さい」
「はい、それは」
「このことは約束して下さい」
 生きて帰って来る、そのことをだというのだ。
「そして出来れば」
「中田さんもですね」
「死なないでいてくれることを願います」
 こう言うのだった。
「あの人も」
「誰も死なないことがですね」
「憎み合ってもいない二人が闘い」
 そしてだというのだ。 
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