ドリトル先生と京都の狐
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第二幕その九
「これはね」
「へえ、歌舞伎なんだ」
「そう、石川五右衛門もね」
王子はこの人のこともお話します。
「日本の大泥棒だよ、かつては忍者だったね」
「あっ、忍者だったんだ」
「それが大泥棒になったんだ」
「それでその五右衛門さんがなんだ」
「今のチーチーみたいにね」
「この山門に登ってなんだ」
「絶景かな、絶景かなって言うんだ」
歌舞伎の舞台の中でだ、そうするというのです。
「それで下にいる羽柴秀吉と向かい合うんだ」
「羽柴秀吉ってあの」
「うん、日本の英雄の一人だよ」
まさにその人とだというのです。
「向かい合うんだ」
「ふうん、そうなんだ」
「丁度今のチーチーと僕みたいにね」
「じゃあ僕が五右衛門さんかな」
チーチーは王子の言葉を聞いて考える顔になってこう言いました。
「それだと」
「そうだね、僕が秀吉だね」
「僕泥棒なんかしないよ」
「そんなことしたら駄目だよ。五右衛門さんは最後釜茹でにされるしね」
「煮られて殺されたんだ」
「そう、その秀吉さんの宝物を盗もうとしてね」
王子はチーチーを見上げつつ言います、山門は高くてそしてとても綺麗です。その風情の中にあっての言葉です。
「それで捕まってね」
「釜茹でにされたんだね」
「そうだよ、だからチーチーもね」
「盗みなんかしないで」
「これまで通り真面目にね」
「うん、先生と一緒に暮らしていくよ」
チーチーもこのことを約束しました、そしてでした。
一行は南禅寺の中で湯豆腐を食べました、そのお豆腐がです。
とても美味しくてです、ホワイティも言いました。
「いや、噛めないけれど」
「それでもだね」
「ええ、美味しいわ」
こう言うのでした。
「とてもね」
「普通のお豆腐と違うね」
「全くの別ものだよ」
そこまで違うというのです。
「何か幾らでも食べられそうだよ」
「あれっ、お豆腐は確かに食べやすいけれど」
ダブダブも湯豆腐を食べながら言います。
「ここまで食べやすいものかしら」
「ううん、何かこのお豆腐だとね」
どうかとです、先生も言うのでした。あったかい湯豆腐を食べながら。
「本当に幾らでも食べられるね」
「不思議ですよね」
ダブダブは先生にも言います。
「このお豆腐って」
「こんなお豆腐があるんだね」
「神戸のお豆腐とはまた違いますね」
「南禅寺のお豆腐は特別なんだ」
王子もです、そのお豆腐を食べつつ皆にお話します。
「幾らでも食べられるんだ」
「そうなんだね」
「そうだよ、だからここでね」
「うん、お腹一杯だね」
「食べてね」
こう皆に言ってです、湯豆腐を勧めるのでした。皆で湯豆腐を食べてそうしてなのでした。南禅寺を出ますが。
ここで、です。ジップが不意にでした。
何か匂いを察してです、周りを見回してこんなことを言いました。
「あれっ、おかしいな」
「どうしたんだい?」
「はい、狐の匂いがしました」
こう先生に言うのでした。
「八条動物園にいる狐君達と同じ匂いが」
「狐かい?」
「はい、それが」
したというのです。
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