魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~
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Ep13テスタメント考察~Interval 1~
「予想外に楽しませてもらった礼だ。しっかりと受け取れ!!」
「キャロぉぉぉぉぉッ!」
――穿たれし風雅なる双爪――
グラナードの高らかな声の後、フォヴニスの両ハサミから放たれる翠色の砲撃。それが一直線にボロボロになっているキャロとフリードリヒへと向かう。エリオはギリギリ射線から逃れているにも関わらず、キャロを護るという想いで砲撃の前に立ち塞がった。
「エリオ君!?」
「僕が護――」
砲撃がエリオとキャロとフリードリヒを飲み込んだ・・・かのように見えた。だが実際は直撃することなく、彼らの両脇を通り過ぎていっただけだった。しかしそれでも十分過ぎる脅威。彼らを挟むようにして通り過ぎていった砲撃が巻き起こした衝撃波で、エリオとキャロとフリードリヒは上空へと吹き飛ばされ、地面へと叩きつけられた。
それで終わりだった。エリオもキャロもフリードリヒも、もうピクリとも動かなくなった。
・―・―・―・―・―・
ズドン!と鈍い音が響く。それと同時に「かはっ」と呻きを漏らすスバル。アマティスタことクイントの“リボルバーナックル”の一撃をまともに受けたことによるものだ。
「スバル、今のくらいは避けなさい」
「なん・・・で・・・お・・・あさん・・・?」
腹部を左手で押さえながらも立ち上がるスバル。しかしその目には力が無い。幼い頃に死に別れた母親と戦わなければならないという現実が、スバルの戦意を根こそぎ刈り取った。
「あなたは自分の、管理局員としての役目を果しなさい・・・!」
クイントは疾走し、スバルへと急速接近する。スバルは無意識に構えをとって反撃に転じようとするが、しかし心がそれを邪魔する。かつて洗脳を受けた姉ギンガとの戦闘とは違い、間違いなく自身の意思で戦っている母・クイント。それがスバルの戦意を挫き、動きを鈍らせていた。
「お母さん!」
「私たちを止めて見せなさい!」
クイントの“ローラーブーツ”を装着した右足によるハイキック。スバルは無意識にも避けられると瞬時に判断するが。
――ウイングロード――
藍色のウイングロードがスバルの左顔面を通過点として頭部後方へと伸び、“ローラーブーツ”を加速させるレールとなる。急加速したハイキックを紙一重の差で左腕で止めるスバル。クイントは「うん」と満足そうに頷くが、すぐさま次の一手を講じた。
「くあ・・・!?」
スバルの下顎への左足による蹴打。トンッと左足で地面を蹴り、クイントはスバルの下顎へと爪先の蹴りを入れた。スバルがその場でバック宙する。そのまま地面に叩きつけられそうになるのを、クイントが受け止めそっと地面に寝かせた。横たえられたスバルは完全に気を失っていた。
・―・―・―・―・―・
――クロスファイアシュート――
ティアナの震えた両手が持つ“クロスミラージュ”から放たれる魔力弾。それをきっちり撃ち落としていく、ティアナの兄・アグワマリナことティーダの魔力弾。拮抗しているかのように見える戦況だがそうではない。やはりティアナも動揺を隠せずにいた。その所為で次第に狙いが雑になっていく。
「・・・っ!」
両親を早くに亡くしたティアナにとってティーダは唯一の肉親で、射撃魔法の師で、大好きで憧れで、彼の遺志を継いで管理局入りを決意したくらいの大事な人。“ランスターの弾丸”はすべてを撃ち抜く。それを証明するために頑張ってきて、そして今では認められて執務官となった。だというのに・・・。
「僕は、ティアナには管理局員になってほしくなかった」
ティーダはティアナの想いを否定する言葉を放つ。ティアナの心が揺れる。激しく揺れる。目を見開き、“クロスミラージュ”を持つ手がさらに震える。
「僕は、ティアナには普通の女の子として生きてほしかった。こんな危ない仕事に就かせたくはなかった。でも、もうそれも遅い。だから・・・」
――クロスファイア・オーバードライブ――
ティーダの周囲に50はある黄色のスフィアが展開される。
「今回の事件で僕を乗り越えられないなら、そこで局員としての道を閉ざすんだ、ティアナ」
「っ! お兄ちゃん!」
「シュート」
一斉に放たれる魔力弾。1つのスフィアから2つの魔力弾だ。計100発の魔力弾がティアナ1人に目がけて飛んでくる。ティアナはもう1度「お兄ちゃん!」と叫び、防御も回避も取らずにただ目を強く瞑った。
直後、ティアナへと迫っていた100発の魔力弾が一斉に自爆した。巻き起こる爆煙。その中からドサリとティアナが倒れた音がした。直撃とは言わずとも100発の魔力弾の一斉自爆。それによる衝撃波と爆音がティアナの意識を刈り取っていた。
「ティアナ・・・。強くなって、僕たちを止めてみせてくれ。それくらいの気概が無ければ、僕たちを止めることなんて出来ないから。でも・・・僕たちは止まらない、捕まらない。それは絶対に、だ」
横たわるティアナを悲しそうに見つめ、ティーダは左手で自らの顔面を覆った。
・―・―・―・―・―・
「ダメです! アウグストの命中を確認できません!!」
オペレーターが叫ぶ。先程から“スキーズブラズニル4番艦”へと“ヴォルフラム”の艦載砲アウグストを放ってはいるが、なかなか障壁を抜くことが出来ないでいた。はやては悔しげに顔を歪める。なのはとフェイトがトパーシオを足止めしてくれているのに、それに応えることが出来ない、と。
「司令!」
別モニターを見ていたリインフォースⅡが叫ぶ。その尋常ではないリインの呼びかけに、はやては嫌な予感を抱き、すぐさま彼女の見るモニターに視線を移した。はやての目が見開かれる。映し出されているのは顔を青くし、気絶しているのかぐったりとしてフェイトに支えられているなのは。その彼女の両肩に突き刺さる螺旋を描く氷の杭。
『こちらシャマル医務官です! 重傷者1名です! 医療班は治療準備!』
地上のシャマルから通信が入る。それと同時に、「司令! トパーシオが来た!」今度はアギトが叫ぶ。別モニターには、メノリア武装を解いたトパーシオの姿があった。しかし少し様子がおかしい。フラついていて、危なっかしい飛行だ。今なら勝てるかもしれないと思う。しかしはやては決意する。
「スキーズブラズニルへの攻撃中止! スターズ1、ライトニング1、シャマル医務官を緊急収容! 他の幹部たちの逮捕に動いとる降下部隊の様子は!?」
オペレーターが強く頷き、地上の様子を複数のモニターに映し出す。その光景を見て、はやてを始めとした隊員たちは絶句した。スバルとティアナのスターズ分隊、エリオとキャロのライトニング分隊が力無く倒れ伏しているからだ。
「こんなことって・・・。っく、急いで降下部隊を収容!」
はやては指示を飛ばした後、小さく「負けた」と悔しげに呟いて、拳を強く握りしめた。
・―・―・―・―・―・
(ヴォルフラムが攻撃を中止した・・・?)
トパーシオはメノリア武装の反動の所為で意識を失いそうになるも、何とか意識を繋ぎとめながら飛行している。その彼女の視界に入る“ヴォルフラム”が、“4番艦”への攻撃を中断したことに彼女は眉を顰めた。“ヴォルフラム”がそのまま“4番艦”から離れていく。
『トパーシオ、私たちの負けや。そやから、そっちの幹部たちの戦闘行動を中止してほしい』
はやてから音声のみの通信が入る。
「八神二佐、勇気ある決断に感謝します。【テスタメント各幹部、任務完了。帰艦してください】」
トパーシオははやてにそう返し、幹部たちに“スキーズブラズニル四番艦”へ帰艦するように指示を出す。
気を失い動かなくなったエリオ達を、フォヴニス頭部から見下ろすグラナード。
【テスタメント各幹部、任務完了。帰艦してください】
「【・・・グラナード了解】騎士エリオ・モンディアル。・・・オレは、お前に決めた。来い、お前のその雷光の槍でオレを貫き、そしてオレの未練を晴らしてくれ」
グラナードは倒れ伏すエリオにそう告げ、その姿を消した。
「スバル、私を乗り越えてみせなさい」
クイントは気を失い倒れているスバルの前髪をそっと撫で、その姿を消した。
「・・・ティアナ。僕は本気だ。テスタメントとして、管理局と戦う」
倒れ伏すティアナへと歩み寄りそう告げてからティーダも、クイントに遅れてその姿を消した。
・―・―・―・―・―・
“4番艦”が3隊を回収し終えて上昇していく。それを黙って見ているしかない“ヴォルフラム”のブリッジに居るはやてを始めとした隊員たち。
『こちら管理局所属艦ベルキューズ、オースティン・ウェストミンスター提督。特務六課ヴォルフラム、我々もテスタメント逮捕に協力する』
『同じく管理局所属艦ヴェンジャンス艦長アストン・マーティン提督だ。我々にも手伝わせてくれ』
『ヴィクトリア艦長ベルニレッタ・フェラーリ提督です。私たちも協力します』
『ヴィンセント艦長カールトン・ボクスホール提督だ。我々も助力しよう』
“ヴォルフラム”のブリッジに流れる、同じ管理局に所属する艦の提督たちの声。はやて達の表情が悔しげなものから勝利を確信した表情へと変わった。リインがはやてに向かって、「やったですね!」と微笑みかける。アギトも「よっしゃぁ!」とガッツポーズをとった。
「こちらヴォルフラム、八神はやて二佐です。ご協力感謝します」
立ち上がりモニターに映る4人の提督に頭を下げるはやて。4人の提督は頷き、通信を切った。
「アレだけのXV級艦に包囲されて、テスタメントもスキーズブラズニルも下手に動けんへんやろ」
はやては艦長席に体重を預けて、上昇を止めた“4番艦”を見上げた。
・―・―・―・―・―・
「おいおいおい、なんてこった。XV級じゃねぇか」
グラナードが上空から現れた管理局所属艦4隻を見て、少し焦りを含んでいるがそれでも楽しそうな声を出す。今ブリッジに居るのはグラナードただ1人。甲板に降り立ったと同時に意識を失い倒れたトパーシオの様子を見るために、クイントとティーダは居住区だ。イスキエルドも機嫌が悪く、帰艦したと同時にすぐさま居住区へと引っこんでいった。そして3隊もまた居住区に居るため、彼らは“4番艦”に起こっている緊急事態を知らない。
「あー、しゃあねぇな。フォヴニス武装を使って――」
『ん、グラナードだけか? ・・・まあいい、ディアマンテだ』
グラナードが最大戦力を使うために甲板へと上がろうとしたその時、彼ら“テスタメント”の本拠地に居るディアマンテから通信が入った。
「お? 悪いがディアマンテ、今立て込んでいてさ、話なら手短に頼むぜ」
『そちらの状況はこちらでも十分捉えている。こちらに任せておけ』
「あ、おい!・・・任せておけって・・・? まさか・・・ついにアレが完成したか!?」
一方的に通信を切ったディアマンテの自信に満ちた声を聞き、グラナードはその自信の正体を察し驚愕の声を上げた。
・―・―・―・―・―・
睨み合いを続ける4隻の管理局艦と“4番艦”。本当に“テスタメント”は降参するつもりなのか一切の動きを見せようとしない。
「司令、なにか・・・嫌な予感がするです・・・」
しかし先程までの余裕が消え、リインは翳りのある表情でそう囁いた。それははやても同じだった。一切の行動を見せないというのがかえって不気味だった。
「そやね、こういう感じの時は良うないことが起きる前触れや」
はやても重々しい表情で、5隻の巨大艦を見つめる。
「・・・? なんか、空が・・・光った・・・?」
アギトが怪訝そうに空を見上げる。同時に、遥か上空から白銀の極太レーザーが降ってきた。レーザーは並列していた管理局所属艦の4隻を上から切り払うかのように直撃した。
“ヴォルフラム”のブリッジに鳴り響く警報、緊急灯の光がブリッジを赤く染める。遅れて先程より細い白銀の砲撃が“ヴォルフラム”を掠めるように振ってきた。掠めただけだというのに激しく艦体が揺れ、ブリッジに悲鳴が上がる。
「なんや今のは!? どこからの攻撃や!?」
「判りません!」
「駆動炉出力が今ので10%を切りました!!」
「直撃を受けたベルキューズ、ヴェンジャンス、ヴィクトリア、ヴィンセントが墜ちていきます!」
「ウソだろ!? 何なんだよ今の攻撃は!?」
「たった一撃でXV級艦船を4隻も落とすのか!?」
「計測・・・出ました! 次元跳躍攻撃で間違いありません! 物理破壊ではなく魔力結合のキャンセル!」
「駆動炉出力低下もその所為です!」
半ば悲鳴のようなものに近い報告が上がる。4隻の管理局艦は、魔力結合の分断を行う効果を有する砲撃の直撃を受けたことで駆動炉が完全停止、航行不能に陥っていた。“ヴォルフラム”は直撃を免れている為に、なんとか航行を可能としている。しかしそれでも艦体が少しずつ傾いていこうとしていた。
「艦体の姿勢制御に集中!(テスタメントはこんなもんまで用意しとるんか!?)」
徐々に高度を落としていく“ヴォルフラム”の姿勢を立て直すように指示を飛ばすはやて。そんな中で“4番艦”が光の粒子となってその巨体を消滅させていく様を睨みつける。圧倒的すぎる対艦攻撃。しかも次元跳躍という反則のおまけつき。“テスタメント”幹部個人の凄まじい戦闘能力。
「テスタメントって、ホンマなんなんや・・・」
“4番艦”が完全に光の粒子となり消え去った。続いて4隻の管理局艦が轟音を立てながら山間部に不時着する。それを見届けたはやてが、艦長席のひじ掛けに握り拳をガンッと叩きつける。
“特務六課”設立直後、エルジアでの初任務。“テスタメント”幹部の圧倒的な実力と謎の次元跳躍砲撃の前に敗れ、任務失敗となってしまった。
・―・―・―・―・―・
エルジアでの“テスタメント”逮捕任務失敗の翌日。本局医務局のとある個室のベッドに横になっている1人の女性、なのは。トパーシオによって負わされたダメージは、どういうわけか軽度だった。シャマルが両肩の治療を開始しようとしたとき、氷の杭は勝手に溶け始め、溶けたその液体は傷を塞ぎ、完全とは言わずとも癒したのだ。
始めからそうなるようにトパーシオが仕組んでいたらしい。それは優しさか余裕か、または警告か。いつでもどんなときでも撃墜できる力を持っているという。それはなのは達には判らない。しかしどっちにしろ、この程度で済んだのは不幸中の幸いだった。
「なのはママ・・・」
「ごめんね、ヴィヴィオ。心配かけて。でもママは大丈夫だから」
右肩が若干痛むのを堪えて、なのははヴィヴィオの身体を自分に寄せて抱きしめた。ヴィヴィオはそれに甘えるようにそっと力を抜いて、なのはにもたれ掛かる。
『フェイトちゃん、スバル達は?』
『みんなそれほどダメージは重くないってシャマル先生が。エリオはさっき目を覚まして、今は先に目を覚ましたキャロとお見舞いに来てくれたレヴィと話をしてると思う。スバルとティアナにはナカジマ三佐やギンガ達がお見舞いに来てる。でも・・・』
なのははヴィヴィオの頭を撫でながら、念話でフェイトへとそう尋ねる。フェイトは言いにくそうにスバルとティアナのことを話し始める。戦った相手が、今は亡き母親と兄だったということがショック過ぎて塞ぎ込んでいると。
『それで少しは元気になってくれればいいんだけど・・・』
『ちょっと難しいかもね・・・・』
なのはとフェイトは難しい顔を表には出さす、2人してヴィヴィオをそっと抱きしめた。今回の事件は今まで以上に辛く、そう簡単には終わりを迎えられない。本当に乗り越えられるのか。その不安を何とかかき消すように。
・―・―・―・―・―・
ベッドの上でスバルは体育座りをして、両膝の間に顔を埋めている。頭の中を駆け巡る昨日の、母クイントとの戦闘。信じたくない。これは夢だ。若しくは誰かが変身魔法で母に変身しているんだ。だがスバルの心が、思いがそれを否定する。間違いなく母のクイントだったと。
「スバル・・・」
「・・・ギン姉・・・?」
至近で声を掛けられたスバルは、声を掛けてきた姉であるギンガへと顔を向ける。ギンガの後ろには、父ゲンヤと妹のディエチとノーヴェとウェンディが居た。
「スバル、大丈夫っスか? 信じられないっスよ、スバルが負けたなんて・・・」
元気が服を着て歩いているような赤毛少女ウェンディ。その彼女が珍しく神妙な顔でスバルへと声を掛ける。しかしスバルは口を震わせ、何も言わない言えない。
「・・・八神から聞いた。母親かもしれない相手と戦って負けたんだってな、スバル」
「「「「っ!」」」」
ゲンヤが重々しく口を開き、ナカジマ家の娘たちは目を見開き、一斉に父へと視線を向ける。ゲンヤはその視線に頷くことで応え、そして今度はゲンヤからスバルへと視線を移す。スバルは身体を震わせ、そして再び顔を膝に埋め泣き始めた。
「おとーさん、クイントって・・・まさか・・・」
「お母さんが・・・? え? どうして? だってお母さんは・・・」
泣きだしたスバルの様子に戸惑いながらノーヴェはゲンヤへと視線を移し、ギンガが信じられないといった風に声を震わす。ゲンヤは「本物かどうかはまだハッキリと判らねぇが」と前置きする。
「だが本物の可能性もあるってぇのが八神の言だ。詳しくは知らねぇが、どうやらルシリオンが関わっているらしい」
ゲンヤは溜息を吐き「アイツやシャルロッテ嬢ちゃんは故郷に帰ったんじゃなかったか?」と首を傾げているが、ルシリオンの正体を知っているディエチとノーヴェとウェンディが驚愕する。ギンガは混乱の中、ルシリオンの名を聞いてある種の納得を得た。ルシリオン。彼なら現代の次元世界では出来ないことも可能なはずだと。
「マジっスか・・・。だってルシリオンは・・・」
「・・・今回の事件、マジでヤバくねぇか」
ウェンディとノーヴェが今回の“テスタメント”による事件の危険性に身を震わす。
「・・・悪いが俺は先に帰るわ。片づけねぇといけねぇ仕事が残ってるんでな。スバル。迷うなって言わねえ。だが、諦めるんじゃねぇぞ」
ギンガ達は「うん」と頷き、病室を後にするゲンヤを見送った。それからスバルをギンガに任せ、ディエチとノーヴェとウェンディはティアナの元へと向かった。
・―・―・―・―・―・
「元気そうで良かったよ」
「ママもすごく心配してたから」
椅子に腰かける2人の少女、ルーテシアとレヴィのアルピーノ姉妹。彼女たちはエリオとキャロのお見舞いに来ていた。エリオとキャロは少し翳りのある笑みを浮かべる。それから2人揃って見舞いに来てくれた2人に向かって「ありがとう」と礼を述べた。
「・・・ふぅ、結構シャレにならない相手みたいだね、テスタメントの幹部というのは」
「ちょっと心配だよ。なのはさん達も入院を余儀なくされるような相手だから」
「・・・うん、正直怖かった。あのフォヴニスとかいうサソリの存在感・・・怖かったんだ」
「エリオ君・・・」
ベッドの上に座るエリオの手が若干震えているのを見て、キャロは震えたエリオの手を自らの両手で優しく包み込む。しかしそのキャロとて死の恐怖を思い出し、今も少し手が震えている。
「「・・・これで大丈夫、っと」」
ルーテシアとレヴィは椅子から立ち上がり、エリオとキャロの手をさらに自分たちの手で包み込んだ。2人からの視線を受け、ルーテシアは「ほら、震えが止まった」と笑みを浮かべた。
「キャロの手、温かくて柔らかくて・・・気持ちいい。ふにふに♪」
「エリオの手も温かいよ。それに、やっぱり男の子だね、少し硬いかな♪」
「く、くすぐったいよレヴィ!」
「えぇ!? ルールー、いきなり何!?」
レヴィがキャロの手を、ルーテシアがエリオの手を取っていじり出す。その突然の2人の行動にエリオは慌てふためき、キャロはくすぐったさに破顔する。
「そうそう。エリオとキャロにはやっぱりそういう表情が一番似合ってる」
「思い出して。すぐ近くには居なくても、私たちが側に居るって」
「ルーちゃん」
「レヴィ・・・」
それからしばらくの間、4人の手いじりは続いて、病室から笑い声が漏れていた。
・―・―・―・―・―・
エースオブエース・高町なのはの敗北。個人で小型とはいえ艦船1隻を相手に出来るトパーシオ。前線メンバーの全滅。管理局が手にして間もない情報を手にしているその情報網。大型であるXV級艦船4隻を一撃で航行不能に出来る次元跳躍魔力結合分断砲撃(仮)。
「・・・最悪や。ホンマにあんな連中に勝てるんか・・・?」
「あの、はやてちゃん、あまりそういうのを口に出すのは・・・」
部隊長の執務デスクに展開されているモニターを見て、はやてが肩を落とす。それを側で聞いていたリインフォースⅡは、これ以上の士気低下を防ぐためにそう窘める。
「そやな・・・、そうなんやけど・・・」
はやてはコンソールを操作して“テスタメント”幹部と戦う前線メンバーを映し出す。エリオとキャロとフリードリヒによる、グラナードと無限の永遠ラギオンの戦闘。
「エリオの攻撃を受けてもビクともしないラギオンが、フリードの火炎砲で倒れた。そんでグラナード自身もエリオの一撃を受けて膝をついた、と。でも・・・」
「フォヴニス。巨大サソリの砲撃で、エリオとキャロは負けたのですね」
リインが息を飲む。黒い甲冑のようなもので全身を包んだような巨大サソリ。隙間という隙間から漏れる翠色の光がどこか幻想的。しかし実際は凶悪。両のハサミから放たれた翠色の砲撃から発生した衝撃波でエリオ達は意識を刈り取られた。直撃していれば無事では済まないほどの威力だ。
「問題なんは、グラナードの正体と思われるこの人・・・」
別モニターに映し出された1人の青年の顔写真と経歴。その顔写真は間違いなくグラナードがエリオ達の前に晒した素顔だった。
「メルセデス・シュトゥットガルト三等空佐。享年28歳。元第1801航空隊所属。任務中に同隊のディムラー二等空尉の誤射により撃墜。その日から1年の間、想起障害を起こし前線から退く・・・」
「それから少しの間は事務員として働いていたようです」
「・・・そやけど、それから11ヵ月後、記憶障害が治ってすぐに事故死・・・」
「・・・不自然ですね」
はやてとリインは、グラナードの正体の候補であるメルセデスについて話し合う。記憶障害が治ってすぐに死亡した。しかも事故を起こしたのはまたも管理局員だった。
誤射とはいえ記憶障害を起こすほどの、撃墜するほどの威力を持った魔法を撃ったのも管理局員、事故を起こしてメルセデスを死亡させたのも管理局員。しかもその2人の管理局員もそれからすぐに事故死と任務中に殉職した。
「ザフィーラからもらった報告、カルド・イスキエルドが口にした名前も調べてみた」
メルセデスの情報が映っていたモニターに重なるようにして展開される3つのモニター。カルド・イスキエルドが見せた素顔の他に、2人の男性の顔写真と3人の経歴が映し出される。ジータ・アルテッツァ。ガウェイン・クルーガー。ジョシュア・エルグランド。
「カルド・イスキエルドの正体候補、ジータ・アルテッツァ空曹。享年23歳。新暦54年、闇の書事件で殉職。ガウェイン・クルーガー三等空尉とジョシュア・エルグランド空曹長も同年、闇の書事件で殉職・・・」
「・・・他の2人は、カルド隊の残りの2人かもしれませんね」
はやてとリインの表情が翳る。“闇の書事件”の殉職者。守護騎士ヴォルケンリッターによってその命を奪われた者たち。リンディにとって夫でクロノにとっては父であるクライド・ハラオウンも、この事件の最後に殉職している。
カルド隊の目的であるシグナムたち守護騎士への復讐。殺した者が幸せになり、殺された者が幸せではない。怒るのももっともだった。
「で、なのはちゃんの言うとったマルフィール隊の正体かもしれへんこの人たち」
さらに映し出される3人の元管理局員の顔写真と経歴。それは以前なのはが自宅で調べたものと同じ情報。
「デミオ・アレッタ三等空佐。エスティ・マルシーダ二等空尉。ヴィオラ・オデッセイ二等空尉。生前は3人とも2118航空隊所属。マルシーダ二尉とオデッセイ二尉は、教導官としてのアレッタ三佐の教導を受けたストライカー」
「任務中に行方不明。その半年後に遺体で発見・・・」
「そして、アグアマリナの正体候補、ティーダ・ランスター一等空尉。アマティスタの正体候補、クイント・ナカジマ准陸尉」
さらに重なるように展開されたモニター。映し出されるのはスバルとティアナが戦う、2人が亡くした家族の姿。スバルの母親クイントとティアナの兄ティーダが、とても大切な家族に拳と銃を向ける。
「もしみなさんが本物なら、元管理局員で殉職した人たちが、テスタメントの幹部として再びその姿を現した、ですか・・・?」
リインはモニターに映る殉職した9人の管理局員の顔写真を眺める。管理局に恨みがある集団かもしれない、と2日前にはやてと話していたことを思い返す。
「辛いな・・・。私らはリインフォース。なのはちゃんはアレッタ三佐。フェイトちゃんはルシル君。スバルはクイント准尉。ティアナはティーダ一尉・・・」
もし本物だとすれば、それは悲しいことだとはやては思う。過去に亡くなった親しい人が敵になる。2人は誰にも気付かれないように溜息を吐く。
「普通なら変身魔法とかを疑うべきやろうけど・・・」
「ルシルさん、ですか・・・。でも全てルシルさんのしたこととは言えないですよ、はやてちゃん」
別モニターに南部海上戦でのルシリオンが映し出される。
「・・・ルシルさんが一体どれだけの力を制限されていて、どこまでの記憶が無いのかが判ればいいんですけど・・・」
「やっぱりそこに行きつくんやな。クイント准尉がルシル君の使い魔やったらまだ判る。ルシル君は入局してすぐにクイント准尉と会っとるし、当時のスバルやギンガとも会っとる。そやけど、シュトゥットガルト三佐やアルテッツァ空曹、クルーガー三尉、エルグランド曹長の4人は、ルシル君がこの世界へ召喚される前に殉職しとる。ティーダ一尉やアレッタ三佐たちとは面識があったかもしれへんけど、同じ任務に就いたことは確かかったはずや・・・」
それはつまり、今挙げたクイント以外の8人はルシリオンの使い魔、“異界英雄エインヘリヤル”ではない、ということだ。
「やっぱり変身魔法なんか? そやったら生命反応が出えへんかったんはどう説明する・・? そもそも私たちと過ごした記憶が無ければ、ルシル君はクイント准尉のことも憶えてへんのとちゃうか・・・?」
はやてがうんうん唸りながら必死に思考を巡らし、無意識に口に出してしまっている。
「テスタメント。界律の守護神のことやないな、今さらやけど確実に。テスタメント。・・・確か意味は・・・聖書、契約、証、信条、他には・・・遺言・・・。他の幹部たちももしかして、かつては管理局に勤めて殉職した本人、もしくはその関係者・・・?」
ついには頭を抱え出したはやてを一休みさせるために、リインはお茶を用意しようと彼女に背を向けた時、彼女たちの居るデスクに近付いてくる隊員が1人。
「八神司令。ゲンヤ・ナカジマ三佐がいらっしゃってます」
「よぉ。スバルが世話んなったな」
「ナカジマ三佐・・・」
その隊員の背後に控えていたスバルの父親でクイントの夫であるゲンヤが、少し翳りのある微笑を浮かべていた。はやてはゲンヤを奥の応接エリアへと案内し、テーブルを挟んでソファに腰掛ける。
「司令、ナカジマ三佐、どうぞです」
リインははやてとゲンヤの前に用意したお茶を置く。はやては「おおきにな」と、ゲンヤは「ありがとな」とに礼を述べた。ゲンヤはお茶を半分くらい飲み、一息吐いてからここへ来た要件を告げた。
「突然で悪ぃんだが八神よ、もし本当にクイントだとしたら、クイントを逮捕した後、俺のところに連れてきてくれねぇか」
・―・―・―・―・―・
本局に一晩泊まったナカジマ家とヴィヴィオ、それにルーテシアとレヴィがミッドチルダに帰ってきた。
「本当に送っていかなくていいのかヴィヴィオ」
「うん、ルールーとレヴィが一緒だから大丈夫」
「どんな悪漢が来ようとも、私たちが護ってみせる!」
「うん! ヴィヴィオをバッチリ護るよ♪」
今日はカルナージに帰らずに高町家へ泊まることにしたルーテシアとレヴィが、北部の高町家まで送るというノーヴェの提案を断りヴィヴィオの期待に応えるように自信満々にそう宣言する。ノーヴェは「まぁお嬢たちが居ればどんな奴でも逃げるか。ヴィヴィオも強いしな」と苦笑。そしてノーヴェは姉妹に、ヴィヴィオをしっかり家まで護衛するように頼んだ。
「ルーお嬢、レヴィお嬢、もし変な奴が出てきたらフルボッコっスよ!」
ウェンディがシャドーボクシングのように拳をリズムよく突き出す。
「過剰防衛で捕まったらシャレにならないんだけど?」
ディエチが呆れた表情で、ウェンディの頭をコツンとゲンコツ1発。
「そのところは気を付けるから大丈夫だって」
「それに忘れてない? 私もレヴィも、管理局の嘱託魔導師だってこと♪」
「変人と遭遇することがすでに確定になってきてないか?」
姉妹は力加減するから問題なし、と言いたげに胸を逸らした。そんな馬鹿なことを言っている妹と姉妹に対して冷静にツッコむノーヴェ。
「それじゃレールウェイの時間が近いから行くね」
ヴィヴィオはナカジマ家の面々に大きく手を振って別れを告げる。姉妹もそれに続いて手を振って、同じように手を振るナカジマ姉妹に別れを告げた。
そうしてヴィヴィオと姉妹は快速レールウェイを乗り継ぎ、高町家のあるミッドチルダ北部の市街地に着いた。
「あ、ごめん。少し書店に寄ってもいい?」
ステーションから出てすぐに、ルーテシアは道路の向かい側に建つ大型書店を指差す。ヴィヴィオは「うん♪」と快諾して、レヴィは「何か気になる本でもあるの?」と尋ねた。
「ん? 新刊をちょっとね~」
ルーテシアは顔を綻ばせながら、書店のある向かい側の歩道をふと端から端まで見た。ヴィヴィオとレヴィがルーテシアの隣で書店を見ていると、レヴィの放つ雰囲気がガラリと変わったのを感じた。どうしたのかと思い、ヴィヴィオとルーテシアはレヴィの横顔を見上げる。レヴィはある場所を一心に見つめ、そこから一切視線を外そうとしない。
「レヴィ・・・?」
「何かあるの?」
「ルーテシア、ヴィヴィオ。あそこ」
レヴィが指を差した方へと目を向けたヴィヴィオとルーテシアは、信じられないと目を見張った。
「っ!! ルシルパパ・・・!」
ヴィヴィオ達の視線の先、白コートを纏わずに私服であると思われる黒スーツと黒コートを身に纏ったルシリオンがひとり歩いていた。
後書き
急遽レヴィの参戦を決定してしまいました。
本来、レヴィをカルナージから出す予定は少し後に一回のみとしていましたが、最後のエピソードでありオリキャラは動かしやすいということで、予定変更の出陣です。
最近まではルシルvsヴィヴィオ&ノーヴェとか、だったんですけどね。ということで、次回はルシルvsレヴィ&ヴィヴィオになります。
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