問題児たちが異世界から来るそうですよ? ~無形物を統べるもの~
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神明裁判 ②
湖札が落ち着いてから、話し合いは再開される。
「とりあえず、湖札さんのお兄さんが開催したギフトゲームは気になりますが・・・今現在、問題はないものとして話を進めましょう。」
そう言っているリンのギフトカードに浮かぶのは、『裁くべき悪』。
殿下やアウラ、グライアにマスクウェルのギフトカードにも同じ文字が浮かんでいる中・・・
《兄さんは、どうして・・・》
湖札が見ているギフトカードには、『裁くもの』と浮かんでいる。
つまりは、今回のゲームにおいて湖札は主催者側のプレイヤーに、残りのメンバーは参加者側のメンバーにカウントされているのだ。
「では、まず私からいいかね?」
「・・・なんでしょう?」
マクスウェルが発言を求めたのを警戒しつつ、リンが発現を許可する。
「何、増援が来た、という話だ。」
その一言で、その場にいるマクスウェル以外の全員が息を呑む。
ジンは、この場に新たな敵が増えることに対して。
残りのメンバーは、自分達を監視する役目を持つヤツが増えることに対して。
「・・・どんな方が、来たのでしょうか?」
「私の親友だよ。」
《えー・・・》
湖札はその発言に対して、心の中で不満をもらした。
湖札も女性であり、コイツがウィラに対してしてきたことは知っている。
そんな性格のヤツと親友をしていられるなど・・・一体、どんなのが来たのやら、と心配になったのだ。
そして同時に、まだ見ぬ被害者に対して同情の念を向けた。
「そろそろ来ると思うのだが・・・お、来た来た。」
マクスウェルが空を見上げて、そういった。
つられて他のメンバーも空を見上げて・・・蝶のような羽を羽ばたかせ、こちらへと向かってくる人影が見える。
その姿は、神々しく素敵なものであるのだが・・・油断してはならない。
相手は、このマクスウェルと親友となれるヤツなのだから。
「こちらだ、我が親愛なる友よ!」
そして、そんなヤツに対してマクスウェルは声を張り上げ、
「おお、そこにいたか、我が親愛なる友よ!」
そいつもまた、近づいてきながら声を張り上げた。
この瞬間には、四人の中にあった『性格は真反対なのに馬が合う』という可能性は消え、『単なる同類』であるとの烙印を押された。
「どうだい、君は運命の花嫁を娶る事が出来たのか、マー君よ。」
「「「「「マー君!?」」」」」
五人がついその呼び方に突っ込みを入れてしまったのは、仕方のないことだろう。
「いや、ダメであった・・・」
「そうか・・・だが、気にすることはない!あれだ、ツンデレというヤツだ!」
「ツンデレ・・・なんだ、それは?」
「好きな相手には、ついツンツンとした・・・尖った態度を取ってしまうことだ。」
「おお・・・確かに、それはウィラにピッタリ当てはまる!」
《いや、普通に嫌いなだけでしょ・・・》
湖札は、あえて突っ込みを心の中で行った。
その右手は、つい気持ち悪さからリンの左手とつながれている。
どちらかが意図的に行ったのではなく、自然に、お互いが。何かにすがりたかったのだ。
こんな気持ち悪い話、聞かされている身にもなってほしいのだろう。
「それに、この状況!なんともおあつらえ向きではないか!」
「おあつらえ向き・・・何のことを言っているのだ?」
「このギフトゲームのことだ。」
そう言いながらその男が取り出したのは、“神明裁判”の契約書類。
「このゲームにおいて、我々は『裁くべき悪』となっている・・・ということは、様々な困難があることだろう。それを乗り越え、マー君がウィラ嬢の元にたどり着くというのは・・・」
「おお・・・なんと運命的なのだ!!」
自分の開催したゲームをそんなふうに解釈されている一輝は、いい迷惑だ。
「・・・では、ついでに一つ頼まれてくれませんか、マクスウェルさん?」
リンはこれをチャンスと見て、マクスウェルに提案をする。
ただし、左手は湖札と繋いだままだ。
「なんだね、“軍師”殿?」
「とりあえず、貴方は今から避難民と残存戦力を叩いてください。空間移動が可能な貴方なら、一人でもそれが可能なはず。」
リンの提案に、マクスウェルはほんの少し顔をしかめる。
その様子から、このまま後少し押せば・・・と、リンは追い討ちをかける。
「はぁ・・・全く。マクスウェルさんは、乙女心が分からない人ですね。」
「「は?」」
二人のキモイやつらの声が重なった。
そんな様子のマクスウェルに『ビシィ!』と音がなりそうな勢いで指を差し、
「いいですか?貴方の花嫁・ウィラ=ザ=イグニファトゥスは今、窮地に立たされています。きっと・・・いえ、間違いなく心細いことでしょう。誰かに支えて欲しいことでしょう。抱きしめられて、安心したいことでしょう。頼りになる運命の王子様に迎えに来て欲しいことでしょう!こんな絶望的な場面に颯爽と現れる実力派美形残念ストーカーがいたらどんなに気持ち悪い相手でもチョロインよろしくメロメロコロンになることは、確定的に明らかなのです!」
「ちょっと待ってリン!それはさすがに無茶が、」
「メロメロコロンだと!?」
「なかった!?」
湖札が突っ込み役になってきた。
「そうです!上手くすればモミモミでパフパフです!」
「も、モミモミでパフパフだとッッ!!?」
「それはないです!さすがに、どんだけチョロインでもないですよ!!!」
湖札の、一人の恋する乙女として精一杯のウィラのための叫びは、しかし誰にも聞き入れられることはなかった。
「そうです、最新の魔王様!貴方の花嫁・ウィラ=ザ=イグニファトゥスは今まさに、王子様が駆けつけてくれるのを待っているのですッ!」
ズドオオオオオオオン!!!
と、そんな馬鹿っぽい爆発音とともにスイッチがONになるマクスウェルを、湖札は冷めた目で見る。
ああ、コイツ・・・どんな女性でも生理的に無理だ、と。
「あの・・・そこの初めてお会いするお嬢さん」
「!?・・・な、なんでしょう?」
湖札は、キモイ人二号に声をかけられて、鳥肌をたてながら応答する。
「その、だな・・・君なら、自分のピンチに助けに来てくれた殿方に対し、そのような感情は抱くのか?」
「え、あ、そうですね・・・」
湖札はその丁寧な口調に驚きつつ、同時にそれでも収まることのない鳥肌から、コイツも、どんな女性でも生理的に無理だ、と直感する。
そして、それを抑える意味合いでも、回答をするためにも少し妄想。
自分が超特大のピンチのときに、颯爽と駆けつけて自分を助けてくれる兄の姿。
そのまま感情に任せて抱きついて、唇と唇が・・・
「ホワァ~・・・」
「あの・・・」
「あ、そ、そうですね・・・」
湖札はどうにか現実に戻ってきて、返答をする。
「とりあえず・・・普通の女性であれば・・・思い人がいなければ、そう言う感情を持つのではないかと」
少し、間があいて・・・
「マー君・・・」
「オーちゃん・・・」
二人がアイコンタクトを取り、同時に一つ頷いてから、
「う、おお・・・ウィ、ウィラアアアアアアア!!!今行くぞオオオオオオォォォォ!!!」
「う、おお・・・ヒ、ヒメエエエエエエエエ!!!今度こそ、放さないぞオオオオオオォォォォ!!!」
マクスウェルは熱風と冷風を撒き散らして去っていき、
もう一人のキモイ人は、再び翼を広げて、飛び去っていった。
二人ともが、一陣の恋の風となって出陣していった。
「・・・・・・・・・」
“魔王連盟”一同は、一連の出来事を遥か彼方の宇宙のように生温い瞳で見守る。
そんな空気がそろそろ耐えかねなくなってきたころ・・・リンがコホンと咳払いをして、
「さてさて。私と湖札さんのファインプレーで邪魔者・・・いえ、超キモイコンビは去りました。」
「そうだな。」
「そうね。」
『うむ。』
「何気にひでェなお前ら。」
「私としては、被害者が倍になったことがすごく心配になったんだけど・・・」
一人、恋する乙女がその人に思い人がいたときのことを考え・・・かなり、同情していた。
そんな中でリンはジンに歩み寄り、膝を折って顔を近づける。
「ジン君。本題に移ろう。さっきの話の続きを、今度は全員でね」
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