とあるの世界で何をするのか
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第二十七話 怪談と都市伝説
「ねー、神代君はこの後どうする? 今日は御坂さん達と会う予定だから、一緒に行かない? 御坂さんもその姿見たがってたしね」
学校終わりで佐天さんから声をかけられる。俺はシステムスキャン以降姫羅で登校することが多くなっていたのだが、この前学舎の園に行って以降今度はずっと騎龍で登校しているので、佐天さんや初春さんをはじめとしたクラスメイト全般が、俺のことを「神代君」と「神代さん」で使い分けるようになっているのだ。
「えー……」
「なんでそんな嫌そうな顔するんですか!?」
俺が渋ると佐天さんからツッコミが入ったわけだが、実のところこのやり取りはすでに三回目だったりする。学舎の園に行った時からはほぼ一週間が経過していて、その間に佐天さんから御坂さん達と一緒に遊ぼうと誘われたことが二回あったというわけだ。そして、その二回とも俺は誘いを断っているのである。
「やっぱりこっちだと抵抗あるからなー」
「ハーレムじゃないですか、私はともかくとして初春は可愛いし、御坂さんもかっこよくて綺麗だし、白井さんも……見た目だけは……まぁ……」
俺を誘うために久しぶりにハーレムのアピールをしてくる佐天さんだが、白井さんのところで言葉に詰まってしまう。まぁ、白井さんも見た目はいいんだけどあの性格があるからなぁ。
「それなら今日は行きますか」
アニメではそろそろ佐天さんの眉毛が消えたぐらいの時期にあたるはずだし、そろそろ何か起こるかもしれないので行くことにした。
「おー、ハーレムが効いたのかな?」
「じゃー、当然佐天さんは俺のハーレムの一員で確定!」
「えっ!?」
どうしても佐天さんはハーレムのネタで引っ張りたいようなので、佐天さんを指差しながら俺が宣言すると佐天さんが固まってしまった。
「初春さんはどうするの?」
「当然私も行きますよー」
佐天さんが硬直しているので、俺は初春さんにも聞いてみたら少しずれた答えが返ってきた。
「あー、そっちじゃなくてハーレムのほう。俺のハーレムに入るかどうか」
「な……何言ってるんですか、入るわけないじゃないですか!」
言い直すと顔を赤くしながら初春さんが答えた。まぁ、まだクラスメイトの半分くらいが残っている状態で、こんな話をしていたら恥ずかしいというのもあるのだろう。
「そりゃそうだよねー。まぁ、佐天さんは自分の友達を巻き込んでまで、俺のハーレムを作りたがっていたんだけど……」
「そ……そんなわけないじゃないですかっ!」
初春さんの答えを聞いて俺がつぶやくと、今度は復活した佐天さんが顔を真っ赤にして反論してきた。
「えー? でも前にもこんなことがあったよね。ねぇ、アケミさん、むーちゃん、マコちん」
「あったねー。るいこって神代君に気があるんじゃないのぉ?」
こちらに意識を向けていた事には気付いていたので、俺達とは別でおしゃべりをしていた三人に話を振ってみると、三人とも頷いてアケミさんが佐天さんをからかいはじめる。
「な……な……そんなんじゃなーいっ!!」
佐天さんの声が教室中に響き渡るが、教室内のほぼ全員に俺達の話が聞こえていたようで、誰も気にするようなことはなかった。そして、佐天さんはしばらくの間、アケミさんを筆頭とした三人にからかわれ続けていたのである。
「元を正せば佐天さんがハーレムとか言ったからじゃないですか」
「それを言うなら神代君が来ようとしなかったからでしょ」
学校を出てファミレスに向かっている途中、初春さんが佐天さんに注意すると佐天さんはその矛先を俺に向けてきた。
「いや、逆にそういうのを言われるから俺は行きたくなかったんだけどね」
「それならそうと言ってくださいよ」
俺が答えると佐天さんからなぜか責めるような口調で言い返される。
「今までも遠まわしに言ってきたんだけどなぁ」
「遠まわし過ぎたんですよ」
何か釈然としないままつぶやくと、今度は初春さんに諭されてしまった。
ファミレスに到着すると、すでに御坂さんと白井さんは来ているようで、ケータイで連絡を貰っていた初春さんに案内されてその席に向かう。
「御坂さん、白井さん、連れてきましたよー」
御坂さんたちの姿が確認できたところで佐天さんが声をかける。
「あ、初春さんに佐天さん……アンタ、もしかして神代さん?」
「こっちの姿では初めまして。神代騎龍です」
初春さん達に挨拶している途中で俺に気付いて御坂さんが尋ねてきたので、俺は普通に初対面っぽい挨拶を返す。
「男になるとこんな感じなんだ……」
「本当に殿方なんですのね……」
「ま……まぁ、そうだけど……」
御坂さんと白井さんにじろじろと見られて俺は少したじろぐ。
「どうなってるのか本当に不思議だわ」
「うん、それは俺もそう思う」
しばらく俺を観察した後、席に戻ってつぶやいた御坂さんに対して、俺自身もどうなっているのかが全然把握できていないので賛同する。
「しかし、良く普通に遊んでいられますわね。性別が変えられるなんて能力……いえ、能力ではありませんでしたわね。まー、能力でないにしても性別が変えられるなんて特殊な事例を、研究者達が放っておくなどとはとても思えませんの」
今度は白井さんから疑問を投げかけられるが、これに関しては研究所で聞いたことをそのまま話せばいいだけである。
「あー、それに関してはなんか大丈夫みたい。システムスキャンに行った研究所で研究者から聞いたんだけど、俺の女性化については上からの指示で調べられないって言ってたから」
「そうなんですの」
俺の答えに白井さんも納得してくれたようだ。
「それで、これからどうします?」
「それなら、こんなのはどう? じゃーん!」
俺と常盤台組の会話が終了したところで初春さんが声をかけると、佐天さんがバッグの中から風呂敷のような黒い布を取り出した。
「マジックショーでもする気?」
「しませんよっ! これで光を遮断して怪談をするんです。どうですか?」
俺がボケると即座に佐天さんのツッコミが入る。しかし、これはもしかしなくても多分アニメの展開だよなぁ。
「これは先輩の友達の彼氏が実際に遭遇したっていう話です」
全員で黒い布をかぶり、ケータイの画面の明かりで自分の顔を照らすという方法で怪談の雰囲気を作り上げて、佐天さんが話し始める。内容はアニメ通りで、彼氏さんが女性に道を教えていたら女性が脱ぎ始めたという『脱ぎ女』の話である。
「って、全然全くちっとも怖くないじゃん!!」
佐天さんの話の途中、女性が脱ぎ始めたところで御坂さんが立ち上がって叫ぶ。それによって黒い風呂敷が俺達柵川組の上に落ちてきた。
「えー、でも実際に居たら怖いと思うけどなー」
「それは怖いって言うよりもただの変質者じゃない」
佐天さんと御坂さんが議論を続ける中、初春さんがノートパソコンを取り出してテーブルに置いた。
「だったらこんなのはどうですか?」
そうして初春さんが学園都市伝説のタイトルを読み上げていく。中にレベルアッパーの都市伝説も入っていたのだが、佐天さんでさえ気に留めていないようだった。
「これなんか学園都市ならではって感じですよねー。どんな能力も効かない能力を持つ男! とか」
「そんな無茶苦茶な能力あるわけないですわ。ねぇ、お姉さま。……お姉さま?」
「え? あ、うん。そうよね。そんな能力あるわけないわよ。もし居るんだとしたら、ソイツと一度戦ってみたいものね」
初春さんの言葉をきっかけに御坂さんの様子がおかしくなる。白井さんから声をかけられたことで変なテンションになっていたが、当然上条さんのことを考えていたのだろう。なので、少し助け舟を出すことにした。
「じゃー、次は俺が行くわ」
「まだやるの? この怪談ごっこ」
俺の一言で御坂さんのテンションも一気に元通りだ。
「じゃー、やめる?」
俺としては御坂さんのテンションが元通りになったので、どっちでもいいのである。
「神代君の怪談、聞いてみたいです」
「折角これも用意してるんだし、もう一個くらいは怪談やってもいいよね」
「まー、そうですわね」
「そう言うなら聞いてあげるわよ」
初春さんと佐天さんが俺の怪談を聞くという方向でまとまったので、白井さんと御坂さんは渋々といった感じで了承してくれた。
「これは今考えた話です」
「こらっ! 今考えたって何よ!」
黒い布をかぶり、ケータイの画面で顔を照らして俺が話し始めると、即座に御坂さんからツッコミが入った。
「まーまー、今考えたけど、ちゃんと怪談だから」
そう御坂さんをなだめてから、俺は一つ咳払いをして話し始める。
「これは去年の話です。その春高校に上がってから知り合って、付き合い始めた一組のカップルが居ました。彼氏はレベルこそ低いものの学園都市の中では珍しい能力の持ち主で、彼女はレベル4の電気操作能力者でした」
電気操作能力者と言ったところで御坂さんが少し反応したが、俺はかまわず話を続ける。
「彼女はゴールデンウィークに入ってから全然連絡が取れなくなっていた彼氏に会いに行きましたが、彼氏の部屋はすでに何もなくまるで夜逃げをしたかのようでした。彼女は必死に彼氏を探しましたが、学校では転校扱いになっており、どこの学校に転校したのかも分かりません。彼氏を探しているうちに夏休みに入ってしまいましたが、それでも諦めずに自分の能力でハッキングを繰り返して探し続けた結果、ようやく彼氏が最後に行った場所が分かったのです。そして、彼女はそこへ侵入することにしました。彼氏の消息が途絶えた研究所へ……」
そこで俺は一旦話を区切って周囲を見回す。そして話を続けた。
「彼女はその研究所について調べ上げ、研究所の監視システムをハッキングして見つからないように侵入しました。自分が映らないように監視カメラの向きを変え、ドアのロックを外し、ドアの開閉が警備室に通知されないようにして進み、事前に一番怪しいと睨んだ部屋に辿り着きます。その部屋は保管庫なので監視カメラも付いていないことを確認して、懐中電灯を点けると……、最初に照らされたのはホルマリン漬けの眼球でした。彼女は一瞬悲鳴を上げそうになりましたが何とか抑えます。気を取り直して部屋を捜索しますが、置いてあるのはホルマリン漬けの臓器や脳の一部ばかり、彼氏の行方に関しての情報は見つかりませんでした。彼女はこの部屋を諦めて次に怪しいと思う部屋へ移動しようとしましたが、脳の一部が置いてある通路を歩いている時にふと気付きました。これだけの量を全部つなぎ合わせたら人間の脳ぐらいの大きさになるのではないか……と」
そこまで話したところでまた一区切りつける。生唾を飲み込む音が聞こえる中、更に話を続ける。
「『まさかっ!』と、彼女は声に出していることすらも気付かずに片っ端からホルマリン漬けを見て回っていました。この保管庫にあるものを全て足せば人間ひとり分にはなるだろう、しかし、これら全てが彼氏のものだという確証なんてどこにもないし、それ以前に人間のものであるという確証すらない、そう、まだ複数の動物のものだという可能性だって残っているのです。彼女はそう自分に言い聞かせながら人間のものではない証拠を……いや、彼氏のものではないという証拠を探しました。そして、一つのものを思い出します。一番最初に見た眼球です。さすがに彼氏の網膜まで知っているわけではないが、少なくとも目の色が違えば彼氏のものではないという確証が得られるでしょう。彼女は入り口付近まで走り、眼球のホルマリン漬けを懐中電灯で照らします。彼女は一言『違う……』と呟いて懐中電灯を当てる方向を色々変えて確認しました。微妙にではあるものの彼氏の目とは色が違う、彼氏のものではないと確信が持てたことで、彼女は腰が抜けたようにその場に座り込んでしまいました。そのとき急に部屋の明かりが灯されたのです」
ここでまた区切りをつける。皆が息を呑んで続きを待っているようなので、俺は大きく息を吸い込んでからなるべく低い声でしゃべる。
「『そこで何をしているんだね?』」
「ひっ!」
「っ!!」
俺の一声で御坂さんが微妙に声を出し、佐天さんが声にもならない悲鳴を上げた。
「彼女はその声に驚いたものの、その声には聞き覚えがありました。彼女がゆっくりと振り返るとそこには何ヶ月も行方不明になっていた彼氏が居たのです。話を聞くと、彼氏は研究者でもあり学業よりも研究を優先するために、転校扱いでこの研究所に篭っていたということでした。そしてこの研究所の敷地内には寮もあり、今はそこで暮らしているということだったのです」
「なーんだ」
「それでは怪談になりませんの」
俺の話をさえぎるように御坂さんと白井さんがしゃべっているが、俺はそれを無視して女声と男声を使い分けながら話を続けた。
「『もう! あなたがああなったんじゃないかと思って心配したんだからっ!』彼女がホルマリン漬けを指差しながら言うと彼氏は優しく答えました。『ああ、あれは前の彼女。今からキミもああなるんだよ』」
「ひぃっ!」
「そ……そうなるんでしたのね……」
「うわぁー」
「おぉー」
俺の怪談話が終わると御坂さん、白井さん、佐天さん、初春さんと四者四様の反応が返ってきた。しかし、初春さんの反応ってどうなんだろう。
こうして俺の話を最後にこの日の怪談はお開きになったのである。
後書き
お読みいただいた皆様、ありがとうございます。
今回は佐天さんがイジられ役でした。ってか、佐天さんがイジられる時ってハーレムネタばっかりのような気がする……
騎龍が即席で作った怪談話は、金曜ロードSHOW!でルパン三世を見て思いつきました。ホルマリン漬けの脳みそを元に何か……と思っていたのですが、そこに『プロデュース』という学園都市の実験の要素を取り入れることによって、学園都市らしい怪談が出来上がりました。といっても、そんなに怖くはないですが……^^;
書いていて何となくAKIRAを思い出してしまいましたが……。
ここ2~3話に比べると文字数が極端に減っていますが、第一話からの文字数を見るとこのぐらいで丁度良いと思います。
元々一話当たり5000文字を目安にやってきたので、今後も“一応”目安は5000文字ということでやっていくつもりです。
しかし、前回アップしたときは日曜日の早朝だったのに、UAとかが異常に減っててへこんだ><
まー、システムの不具合だったわけだけど、モチベーションはそう簡単に戻ってこなかった;;
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