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稲荷の祟り

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第一章

                      稲荷の祟り
 岳田克耶は今時珍しいタイプの人間だった、どういうタイプの珍しさかというと共産主義者だったのだ。それも共産党以上にだ。
 完全なマルクス主義者で君主制も宗教も否定している、ブルジョワだのプロレタリアだのをいつも言い愛読書は市民主義者達の出す雑誌だ。北朝鮮にも何度も行っていて従軍慰安婦だの南京だの強制連行だのも事実だと主張している。
 新土人保護法この殆ど誰もが忘れていた法案を批判していたこともある。そして本多勝一を尊敬している。ネットではいつも批判されているが聞いていない。
 職業は政治家だ、勿論支持母体はプロ市民という本当に如何にもという人間だ。その岳田がどうかというのだ。
 国会では論客のつもりで所属している民酒党では重鎮の一人だ。この政党は労働組合や教職員、それに他国の団体が支持母体でありマスコミ受けもいい。その為知名度はあった。
 その彼がだ、議員を引退すると言い出したのだ。それで彼の周りにいるマスコミや知識人達が彼に今後のことを尋ねた。
 するとだ、彼はこう答えた。
「知事になりたいんだ」
「知事?」
「知事にですか」
「うん、これからは地方だよ」
 マスコミの主張をそのまま言うのだった。
「だからだよ」
「そうですか、知事ですか」
「県知事になられるんですね」
「うん、そうなるよ」
 彼の出身というか地元の県の知事になるというのだ。
「あの県の財政を立て直すよ」
「あの県も財政が危機的ですしね」
「だからですね」
「うん、僕には考えがあるんだ」
 その四角くフランケンシュタインの出来損ないを思わせる顔で語る。
「そのビジョンがあるんだ」
「財源はもう見付けておられるんですね」
「財源は何処にでもあるよ」
 こう言うのだった、堂々と。
「無駄を省くんだ、あと公共事業を止めて」
「あれも無駄ですからね」
「だからですね」
「そう、それと無駄な場所の再利用」
 とりあえず周りのマスコミが好みそうなことを言っていくのだった。
「自衛隊の基地も厚遇はしないよ。外国人の権利の保障に社会保障の充実」
「そういうこともですね」
「進めていきますね」
「そう、改革は地方からだよ」
 こう言って知事選に出るのだった。そして各種団体特にマスコミの全面的なバックアップを受けてであった。
 岳田は知事になった、知事になった彼はすぐに公共事業の大規模な縮小と県の北にある自衛隊基地への圧迫をはじめた。そして各種団体へのバラマキと怪しげな外国人の権利を大幅に拡げた。財源というか埋蔵金は見つからなかったがマスコミはスルーした。
 その中でだ、自衛隊の基地の近くに稲荷神社があった。岳田はその神社の神主にこう言ったのだった。
「神社はいらない」
「えっ、ですが」
「神様はいないじゃないか」
 平然とだ、こう神主に直接言ったのである。
「それにその神社には何があるんだい?」
「何とは、稲荷神社ですが」
「そこに参拝している人は誰かな」
「自衛隊の方々ですが」
 基地に近いのでだ、自衛官達が参拝して色々と神社の活動に協力しているのだ。比較的大きな神社である。
 その神社の神主にだ、岳田は言うのだ。
「自衛官こそ科学的でないといけないのじゃないかな」
「ですが信仰は」
「だから神様はいないんだよ」
 自身のマルクス的無神論からだ、岳田は言うのだった。 
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