一つだけでなく
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第四章
「安心してくれよ」
「ダンサーなんだな」
「そうさ、じゃあいい店紹介してくれるか」
「シェラスコでいい店を知ってるけれどそこに行くかい?」
「シェラスコか」
「知ってるよな、牛肉の塊を串刺しにして焼くやつだよ」
「それで焼いた端を切って出していくやつだな」
それだとだ、キングも答える。
「俺も好きだぜ」
「そうか、それじゃあな」
「今から行くか」
「そうしような」
こう話してだった、彼自身の何もかもを変える様なものを観てからドミンゴとシェラスコにビンガを楽しんだキングだった。そしてリオデジャネイロでの仕事を終えて。
そのうえでだ、彼はニューヨークに戻ってマネージャーにすぐにこう言った。
「これからは勉強の仕方を変えるぜ」
「ダンスのかい?」
「ああ、これまではトップスターばかり観てきたけれどな」
それぞれのダンスのだ。
「けれどそれを変えてな」
「変えるってどうするんだい?」
マネージャーはキングに問うた、その彼に。
「一体」
「それぞれの踊りのベテランも観ていくぜ」
「ベテラン?ロートルじゃないのか」
「ベテランとロートルは違うさ」
衰えた場合と熟練はというのだ。
「そこは違うからな」
「じゃあ引退した人とかもな」
「日本じゃ爺さん婆さんでも踊るよな」
「ああ、歌舞伎でもな」
「だからな」
これからはというのだ。
「そっちも観ていくぜ」
「また随分と勉強の仕方を変えるんだな」
「それで俺のダンスにもな」
ただ観るだけではないというのだ、尚これまでの彼は勉強をするといっても自分のダンスに強く取り入れることはなかった。ただパフォーマンスに入れる程度だった。
だがだ、それもだというのだ。
「どんどん取り入れていくぜ」
「本当に変えるんだな」
「何もかもな」
そうしていくとだ、また言うキングだった。
「そうしていくな」
「一変させるんだな」
「俺は世界一じゃないからな」
こうも言うのだった。
「とてもな」
「自信家のあんたがそう言うなんてな」
「意外かい?」
「意外だよ」
そうだというのだ、マネージャーは。
「リオで随分なものを観たんだな」
「まあな、だからこう言うんだよ」
「それじゃあそうした人もだな」
「これからは観ていくからな」
そうするからだというのだ。
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