悪役スター
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第一章
悪役スター
秋山次郎は苦味はしった顔が特徴だ、俳優だけはあると言っていい。
だが彼の仕事は悪役だ、所謂悪役スターだ。
様々なドラマで悪役をしている、その悪役は実に堂に入っていて定評があった。お茶の間の主婦達は秋山を見る度にこう言った。
「あっ、またこの人ね」
「また悪役なのね」
「ふうん、今度は殺し屋なのね」
「悪徳医師もやったし」
「本当に悪役多いわね」
「時代劇でもそれで出てるしね」
皆彼の顔を覚えていた、そして役もだ。
とにかく出る役は大抵悪役だ、それでだった。
特撮に出ることが決まった時もだ、マネージャーの伊武健にこう言われた。
「大佐役ですが」
「軍人だね」
「はい、それで立場は」
「悪役なんだね」
「悪の大幹部です」
幹部は幹部だ、だがだった。
「極悪非道な悪の大幹部です」
「つまり僕のいつも通りの役なんだ」
「そうです」
その通りだとだ、伊武はにこにことして秋山に話す。オールバックで細面の顔は何処かお笑い芸人めいている。
「どうでしょうか」
「面白いね」
楽しげに笑ってだ、秋山は伊武に返した。
「それは」
「では受けてくれますね」
「悪の組織の大幹部だね」
「そうです、世界征服を企む」
まさにお約束の特撮組織の敵役の設定である。
「それこそやっていることは北朝鮮みたいな」
「ああ、わかりやすいね」
「秋山さんもその幹部としてです」
「極悪非道にやればいいんだね」
「テレビ局もスタッフも思い切りやって欲しいと言ってますから」
「わかったよ、極悪非道だね」
「ヒーローを思いきり苦しめる」
まさにだ、悪の象徴としてだというのだ。
「活躍して欲しいと」
「よくわかったよ」
確かな顔でだ、秋山は答えた。そうしてだった。
彼はその役を受けることにした、そして実際にヒーローを苦しめる悪役に徹した。役の中で悪の限りをr尽くした。
その悪役ぶりにさらに磨きがかかった、奥様達は自分の子供達が観ているそ番組を観て今度はこう言うのだった。
「あら、今度は特撮に出てるの」
「今度もまた悪いわね」
「毒ガス使ったり拉致したり核兵器使おうとしたり」
「作戦に失敗した戦闘員粛清して」
「そのまま北朝鮮じゃない」
奥様方もこの国を連想した。
「いや、凄いわね」
「こっちの悪役ぶりもいいわね」
「憎々しげでね」
「いい感じよ」
「本当にいいわね」
「よくないよ」
「そうだよ」
だが子供達は母親にこう反論するのだった。
「こいつ凄く悪い奴なんだよ」
「いつも人を一杯殺そうとするし」
「この前だって改造人間使って街に細菌撒こうとしたんだよ」
「ライダーをいつも苦しめてるんだ」
「悪者だよ」
まさにそれだというのだ。
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