DOG DAYS 記憶喪失の異世界人
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第6話 最後の休息、そして戦へ………
「で、この子は誰じゃ?」
「隠し子」
レオからナイフが飛んできた。
咄嗟に顔を横に動かしたおかげで切り傷ですんだが、あのままだったら確実に突き刺さっていた………
「真面目に答えねば次は当てる」
「俺と同じ異世界の迷い人です!!」
本当にレオはおっかない。
「レイ、大丈夫………?」
「あ、ああ………」
そんな俺に優しく語りかけてくるアリシア。
………良い子や。
「で、貴様の名前は何と言うのだ?」
「………アリシア………よろしく」
と王様に対し、態度が俺の時と全く代わらないアリシア。
………と言っても何も覚えていないとなると仕方がないか。
「何故この世界に来た?」
「………分からない。お母さんと一緒に来たみたいだけどお母さんも死んじゃってたから………」
そうアリシアが言われ、この場にいるガウルやビオレさんや他みんなも押し黙ってしまった。
「でもレイもいる………それにアンネローゼも」
「アンネローゼ………?」
「ああ、アリシアの面倒を見ていた魔族の女性だ」
「「「「「魔族!?」」」」」
この場に居る全員が声を揃えて大きな声を上げた。
よく大きな声を上げてるゴドウィンはともかく、いつもクールなバナードまで大きな声を上げた事はびっくりした。
「伝承だけだと思ってました………」
「まさか本当に実在しているとは………」
遠くから見ていたバナードがこっちの話に入ってきた。
………さっきまでは関わろうとしなかったくせに。
「やっぱりそんなに珍しいのか?」
「何故そんなに余裕なのだ!?昔、ワシ達の先祖が戦争した相手の末裔だぞ!?また、何をしでかすか………待てよ、もしや最近魔物が増えてきたのも………」
「レオ、ちょっと待て。なあ、みんなは何で人柄も見ないで敵だって認識するんだ?」
「何故って、実際に魔族は俺達の国に侵攻を………」
「ガウル、過去がそうだからって本人もそうだとは限らないだろ?それはただの偏見だ」
「レイジさん、ですが………」
「ビオレさん、目先だけ見て敵と決めつけるのは良くない。だからこそ彼女はこの世界でずっと一人ぼっちで、この世界を破壊すると歪んでしまったんだ」
「レイジ、どういう意味だ?」
「レオの見解は間違ってないよ。彼女が教えてくれた、魔物がフロニャルドの加護がある場所に出没し始めたのは彼女のせいだって」
「レイジ、ならその場に部隊を送り………」
「無駄だよ、恐らく彼女はもう行方をくらましたと思う」
「………一応調べてみる、バナード、部隊の編成を」
「ハッ」
「レイジ、場所を教えてくれ」
「………分かった」
俺はアンネローゼと会った場所をバナードに教え、バナードは兵を連れ、出ていった………
「それで話とは何だ?」
あの後。俺はアリシアをビオレさんに任せ、レオと2人になった。
レオの部屋に行き、椅子に並んで座った。
結局アンネローゼの家はもぬけの殻だった。どこに行ったのかは俺もアリシアも分からない。
「さっきのアンネローゼについてだ」
「魔族の女か………」
「レオは彼女を捕らえたらどうするんだ?」
さっきの話を聞いて確信したが、魔族もフロニャルドに住んでいる人達も未だに互いを良く思っていない。
どちらも互いを危険だと思っている。
フロニャルドのみんなは今のままで別に問題無いだろうが、魔族の者達にとっては辺境に追いやられ、殆どの人が1人で生活しているのだ。
この世界を恨み、破壊しようと思ってもおかしく無いだろう。
「捕まえれば二度とこのような事を起こさせない為に城の牢に幽閉する」
「レオ………」
「言いたい事は分かる、だが今回の星詠みの原因も恐らく彼女のせいなのだろう。だったら許せる事ではない」
「レオ、聞いてくれ。彼女はレオと会わなかった俺だ。誰も助けてはくれず、種族の壁で迫害にあう。俺もレオに助けれられなかったらこうなっていたかもしれない」
「そんなこと………」
「無いと言い切れるか?魔族よりも特徴がない普通の人間を見て………?」
そう言うとレオは返す言葉が無いのか黙ってしまった。
勇者の様に受け入れられる場合もあるが、あれは勇者として呼ばれたからだ。
………まあ俺の場合は魔族の様な過去の出来事に無いので普通に受け入れてくれそうだが、実際はどうかなんて分からない。
「アンネローゼはずっと1人でいて寂しく辛かったんだ。愛する人も親友だった人もいなくなって………だからこそ俺は彼女を救いたいと思う。俺を受け入れてくれたガレットの皆のように俺も彼女にこの世界の居場所を作ってやりたい」
「………」
俺も言葉を聞いてもやはり簡単に納得は出来ないようだ。
「頼む、アリシアも彼女の事を気に入ってるし、あんな小さい子を悲しませたくないだろ?」
暫く静かになるレオの部屋。
その沈黙を破ったのはレオだった。
「レイジの気持ちは分かった。………だが星詠みの原因がその彼女ならどちらにしても捕らえねばならん。その時にレイジ、お前が説得せよ。それで駄目なら二度とこんな事態にさせぬよう幽閉する」
「………ああ、ありがとうレオ」
彼女が一体いつ動き出すか分からない。だが近々動き出すのは確実だ。
その時に必ず彼女を救ってみせる………
「ビオレさん、話が終わったのでアリシアを………」
レオと話を終えた俺はアリシアを迎えに、ビオレさんが何処に行ったのかメイドさんに聞いて、衣装室に来ていた。
「こら、アリシアちゃん、逃げない!!」
「………キツイ」
「痛っ!?」
衣装室に入ろうとノックをしようとした瞬間、勢い良くドアが開き、そこからドレス姿のアリシアが現れた。
元々綺麗な金色の髪をしていたアリシア。髪と同じ黄色のドレスはとても似合っている。
しかし鼻が痛い………
「あれ?レイジさんいらしてたんですか?」
「鼻が………」
「レイ、誰にやられたの………?」
「アリシア、君ですよ………」
「?」
いや、不思議に思われても………
「まあそれはともかく、どうですアリシアちゃんのドレス姿は?可愛いでしょ?」
鼻を抑えている俺をスルーして、アリシアを抱きしめるビオレさん。
完全に人形扱いだ………
「く、苦しい………」
「あっ、ごめんなさい。つい可愛いくて抑えられなかったわ」
「ビオレさんにしては確かに珍しいですね………」
「本当は姫様にって準備したドレスなんだけど、姫様ってこういうドレス好きじゃないから余り着ないのよね………だからガウル殿下に着せようとしたらダッシュで逃げちゃうし………」
ガウル、相当苦労して育ったんだな………
「………ってもしかしてビオレさんって以外と年増グホッ!?」
年増と言葉を漏らした瞬間、顔にめり込むほどの拳がレイジの顔に放たれた。
「私は小さいときからメイドをやっていたんです!!決して、決~して!!年増なんかじゃありません!!」
「はい、済みませんでした………」
ビオレさんの鬼気迫る物言いにそう答えるしかななかったのであった………
「でやっ!!」
「っと」
さてその後、ドレスを着替え直し、普通の年頃の女の子が着る服に着替えたアリシアと手を繋ぎながら兵士達が訓練している中庭へ。
そこではガウルと兵士達が訓練していた。
「とりゃ!!」
「おっと」
袈裟斬り、横薙ぎなど様々な攻撃で斬り合うレイジとガウル。
訓練の様子を暫く一緒に見ていたレイジとアリシアだったが、ガウルの要請により、レイジも訓練に参加することになった。
「もらった!!」
「あっ!?」
レイジの放った横一閃の攻撃は見事ガウルの木の剣を弾き、
「俺の勝ちだな」
「くそっ………」
首もとに木の剣の先を向けたのだった。
「ちぇ、最近じゃ全く勝てないな………」
「まあ剣だったからな」
「それ以外でも勝てない事もあるし………」
とグチグチ言い始めるガウルに苦笑いしか出ないレイジ。
「でもそれでも100%じゃない………」
「アリシア………?」
そんな会話にいきなり入ってきたアリシア。しかも戦闘についての指摘だ。
「アリシア、分かるのか?」
「うん………魔力の流れが不自然………」
「見えるのか………!?」
「うん………でも何でだろ?」
リスみたいに首をかしげるアリシアだが、俺達に聞かれても分かるわけが無い。
「しかしアリシアって意外と凄いんだな~俺、天然不思議少女にしか思ってなかったぞ」
「天然不思議少女?」
「まあ謎大き少女って事」
「凄いの?」
「「う~ん………」」
どうなんだろ?
「アリシアちゃん、これも食べてな~」
「ありがと、ジョー」
「何で後1文字がでえへんのやろ………」
「ジョー私も」
「ジョー、私にも取って下さい~」
「あんたらまでジョー言うな~!!」
「騒がしい………」
夕食、騎士団の食堂で食べている俺とアリシア。
そんな俺達の所に3バカがやって来た。アリシアの事が気になったのだろう。
だけど3人一緒に面倒を見ようとするから勝手に騒がしくなる。
なので………
「いい加減にせぬか!!少しは静かにしろ!!」
「「「は、はい………」」」
こうやってレオの怒りを買うんだよ………
「全く………」
珍しく騎士団の食堂でご飯を食べると言ったレオは俺達と一緒に来たのだが、そんなレオの姿を見てもいつも通りの3バカ。
怒りを買うのも当然である。
「まあアイツらも悪気は無いんだから………な、アリシア」
「おいしい………」
ごはん粒を頬に付けながら呟くアリシア。
「付いているぞアリシア」
そう言って取って上げるレオ。
「ありがと、レオお姉ちゃん………」
「………!!」
お礼を言われたレオは驚いた顔で固まってしまった。
「レ、レオ………?」
「お、お姉ちゃん………」
何か感極まった様子でわなわなと震えている。
「レオ………?」
「お姉ちゃんって呼んじゃ駄目………?」
「か、可愛い………」
「ん?」
「可愛いー!!!!」
そう言って思いっきりアリシアを抱きしめるレオ。
いつもの毅然した態度は何処へやら、年頃の女の子様な声を上げた。
食堂で食べていた全員が思わず立ち上がってしまうほど、見ない光景なのだ。
「………ん?どうした皆?」
「い、いや………」
「アリシア、ワシの膝の上でご飯食べんか?」
「どっちでも良い………」
「なら」
と言って膝にポンと乗せるレオ。
「アリシア、あ~ん」
「あ~ん」
スプーンでスープを取り、アリシアに食べさせて上げる。
「うまいか?」
「おいしい………」
「そうか~」
もう顔がとろけてるぞ………
「「「「「「可愛い………」」」」」」
………気が付けば、食堂に居た皆が同じ様になっていた。
『アリシア………私の可愛いアリシア………私が必ず………必ず生き返らせてみせるから………』
誰………?
『お母さん、お母さーん!!!』
『フェイトちゃん、駄目!!』
誰………?
黄色い子は………私………?
『願い………真っ直ぐで娘思いの………だから我々は………』
「お母さん………フェイト………?そして最後は………誰?」
一人、レイジの部屋で寝ていたアリシアは窓の外から見た夜空にそう呟いた………
「どうしたんですか?閣下、こんな夜遅くに………」
アリシアがこの城に来て2日後の夜、レオはバナードとビオレさんと俺を自分の部屋に招き入れた。
レオもどうやら決心したようだ。
予想通り、レオの話は星詠みの話とこれからの事についての話だった。
「そうだったんですか………」
「確かにこの頃の閣下の様子はおかしいと思っていましたが………」
「すまんが後一度、ワシに力を貸して欲しい。次の戦に必ず勝ち、聖剣を暫く封印する。さすればミルヒ達もレイジも巻き込まずに済む」
2人に深々と頭を下げ、お願いするレオ。
それほど次の戦にかけているのである。
「頭を上げて下さい!!姫様の願い、私達が断るわけありません!!………だけど酷いです、もっと早く言ってくれれも………」
「ビオレの言うとおりです。私達は閣下に忠誠を誓った身。そんなに薄情ではありませんよ」
「すまん、ビオレ、バナード………」
耳を垂らしながらしゅんとして謝るレオ。
「………でもこれで私達も何も気にせず姫様の為に尽くせます」
「ええ、今度は私も前線に出ます。姫様の為に力を尽くさせてもらいますよ」
「ああ頼む2人共………」
「では………」
「2人共、おやすみなさい」
ビオレさんもバナードもそう言って静かに部屋を出ていった。
しかし結構あっさり部屋から出ていったな………もしかして気を使わせた………?
「ありがとう2人共………」
「頼りになるな」
「ああ、2人とも頼りになる大事な臣下だ」
涙目ながらそう呟くレオ。
俺自身この事で多少何か言われると思っていたのだが、2人は特に何も言わずレオの言うことを聞いてくれた。
………まあ直ぐに言ってくれなかった事に多少文句は言ってたけど。
だがどこかおかしいレオをいつも見ていていながらも信じていたからこそ、あの様な対応だったのだろう。
「なあレイジ、………ワシはこの件が終えたら王位をガウルに渡そうと思っている」
「いきなりだな………さっき言わなかったのはあの2人に反対されると分かってたからか?」
「ああ、あの2人なら絶対に反対するからな………」
全くこの姫は………
「これほど戦争を繰り返す王など国民は認めないだろう。ましてや私欲の為に行なったのだ。何らかの責任は取らなくてはならない」
「はぁ………」
何も分かっちゃいない。さっきの彼らの想いも、この城に住んでいる者達や国民の想いも。
「あたっ!?」
そんなアホなレオに俺はデコピンを食らわせた。
「レオ、お前は責任なんて気にしなくていい。確かにガウルは人を惹きつける魅力もあるし、王になればしっかり国をまとめられるだろう。だけどそれはまだ後の話だ。今のガウルじゃ荷が重すぎる。いずれそうなるとしてもまだレオがこの国の王でなくちゃ」
「しかし………」
「それにお前を信じていてくれた2人、それにレオを信じてくれている国のみんなに応えなくちゃいけない。責任の取り方はもっとこの国をよくするために尽力しろ。そっちの方が断然良い」
「レイジ………」
「逃げるのはレオらしくないぞ」
そう言うと俯き黙ってしまうレオ。
しかし顔を上げるとスッキリした顔でさっきよりもいい顔だった。
「全く、ワシもまだまだ楽させてもらえそうにない」
「頑張れよ王様」
そう言ってレオの肩をポンポン叩いた。
「………」
「………あれ?もしかして怒った?」
「レイジ、お前は何処にも行ったりしないよな………?」
「?何を言っているんだ?俺の帰る場所はここしか………」
「そうだな………そうだ………」
「レオ………?」
だがレオは俺の声に答えずそのまま胸にもたれかかった。
「消えないよなレイジ………」
「レオ………俺は何処にも行かないさ、だから安心しろって」
「ああ………」
レイジはそんなレオを抱き返し、2人は暫くそうしていたのだった………
(どうして………どうしてこんなに不安が消えないのだ………?どうしてもレイジが消えてしまう様に………そんな風に感じてしまう………レイジ………)
その次の日、レオは再び戦線布告を行なった。
互いに聖剣を掛ける、レオの決意の戦を………
『2人の異世界の剣士、8つを統べる強大な魔物に立ち向かう。そして世界は崩壊する………』
そして星詠みは新たな不吉を生み出し、戦が始まる………
ガレット領外れのとある霧の深い森の中………
「戦が始まる………これで全てが変わる………必ず、必ず世界を変えてみせる。待ってて下さいヴァレリア様………グロリオサ、セットアップ」
そ言うと光に包まれ、紫のドレスに包まれたアンネローゼが現れた。
「………あなたの武器を借りますプレセア。アリシアには手を出さないので許してください。………と言っても世界を変える以上私は………」
そこでそれ以上の言葉は出ないまま暫く俯いたが、首を激しく横に振って、自分の頬を叩いた。
「覚悟は決めたのよ私!!もう後戻りも出来ない。必ず成功させる………その為にも強力な力を持つ物………4つの聖剣を我が手に!!」
そう言って地面を蹴り、アンネローゼは空に飛び上がったのだった………
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