ロシアのお婆さん
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第五章
「私はね」
「そこまで言うのならいいけれど」
「あんたが食べればいいじゃない」
「このケーキ凄い美味しいお店のなのよ」
「美味しいんだね」
「そう、有名なね」
「じゃあ余計にね」
娘である彼女が食べればいいというのだ。
「あんたが食べればいいじゃない」
「ううん、じゃあね」
「一緒に食べようね」
こうも言うお婆さんだった、娘に。
「いつも通りにね」
「わかったわ、じゃあね」
「紅茶でね」
紅茶は欠かせない、こうしてだった。
お婆さんは娘と一緒にお菓子を楽しむ為にテーブルに座った、そのうえで紅茶を飲み硬いケーキを食べる。そうしながら柔らかいケーキを食べる娘を見てだった。
微笑んでだ、こう言ったのだった。
「美味しそうだね」
「食べる?半分」
「半分貰ってるよ、もうね」
「?どういうこと?」
「もう私は満足してるんだよ」
そうだというのだ。
「あんた達を見てね」
「私食べてるだけれど」
「食べるその顔と心を見てるからね」
それでだというのだ。
「半分貰ってるんだよ」
「何かよくわからないけれど」
「あはは、そうなんだね」
「それでいいのね」
「そう、いいんだよ」
全く以てだというのだ。
「私はね」
「もう半分貰っていて」
それで満足だと言う、娘は母の言葉の意味が最初はどうしてもわからなかった。
しかしケーキの美味しさを味わいつつそれと共に母の笑顔を見る、それでようやく母の言っている意味がわかったのだった。
「ああ、私の今の顔を見てなの」
「美味しくて幸せだね」
「美味しいものを食べるとね」
それでだとだ、娘として母であるお婆さんに答えた。
「やっぱり嬉しい顔になるわ」
「あんたのその嬉しい顔を見てるからね」
「半分貰ってるのね」
「そうだよ、それにね」
それに加えてだというのだ。
「私はそれで満足なんだよ」
「だからいつも質素なものでいいのね」
「そうだよ、私はね」
いつも笑顔でいられるというのだ。
「そうだったんだよ」
「だから質素でもだったの」
「質素とかそういうのは気にならないんだよ」
お婆さんはそうだというのだ。
「大切なことはね」
「私達がどうかなの」
娘はここでわかってきた、お婆さんがどうしていつも笑顔でいられるのか。
それでだ、こう言ったのだった。
「だからお母さん私が子供の頃から」
「そう、あんた達の笑顔が一番いいんだよ」
「それで幸せになれるのね」
「そうだよ、あんた達の笑顔が私の最高の贅沢なんだよ」
それでなのだった、お婆さんは。
「私はそれで満足なんだよ。他のことはいらないんだよ」
「そこまで大事なのね」
「そうだよ、じゃあね」
「これからもなのね」
「このままでいいんだよ」
質素なままでいいというのだ。
「むしろ贅沢過ぎるよ。これ以上望んだら罰が当たるね」
「ううん、そこまで言うのならね」
娘も納得した、こうしてだった。
お婆さんは質素なままで最高の贅沢を楽しみ続けた、そうして安楽椅子に座って編みものをしつつ孫達と一緒にいる猫が編みものに使っている毛糸にじゃれているのを見て目を細めさせて孫達に対して言った。
「幸せだね」
「うん、とてもね」
「マターリョフもいるしね」
孫達もその猫と遊びながら言う。
「猫っていいよね」
「こうして一緒にいるだけで幸せになれるよね」
「幸せは近くに一杯あるんだよ」
遠くにあるものではないというのだ。
「だからね」
「近くを探せばいいんだ」
「幸せになりたいなら」
「そうだよ、近くにあることを頭に入れてね」
そしてだというのだ。
「楽しむんだよ」
「うん、そういうもなんだね」
「幸せって」
「このことをいつも覚えておくんだよ」
毛糸と孫と猫達を見ながらだった、お婆さんは目を細めさせ続けていた。今自分が最高の幸せの中にあることを神に感謝しながら。
ロシアのお婆さん 完
2013・11・23
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