ふざけた呪い
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第一章
ふざけた呪い
昭和六十年、日本中がフィーバーだった。特に関西は。
あの阪神タイガースが日本一になったのだ、二十一年ぶりの誰もがシーズン前は思いも寄らなかったことが起きてしまった。
これに驚かない者はいなかった、中には優勝すれば吉野の吊り橋を渡ると言った大学教授もいたが実際に渡ることになってしまった。
そのフィーバーは大阪でも同じだ、関西の中心地の一つであり阪神ファンが密集しているここではフィーバーも殊更だった。
それでだ、大阪のファン達は大騒ぎだった。
連日連夜だ、まさにどんちゃん騒ぎで喜んでいた。もう昼も夜もなかった。
「阪神日本一や!」
「二十一年ぶりや!」
「バース樣のお陰やで!」
「ダイナマイト打線大爆発!」
「バックスクリーン三連発やったな!」
巨人、今も尚球界の盟主を自称する日本の戦後の病理を象徴する球団を完膚なきまで粉砕した一撃だった。バース、掛布、岡田の三連発でその巨人を力で叩き潰した。巨人を本拠地甲子園でそうしたのだ。やはり巨人には無様な負けがよく似合う。
そのことを殊更喜んでいた、そして。
最早恒例、阪神優勝の時にはそうなっているそれもだ、この時はじまった。
道頓堀に次から次に飛び込む、それは何故かというと。
「優勝や優勝!」
「飛び込んだれ!」
「ほんま嬉しいわ!」
「ついつい飛び込みたくなるわ!」
それでだというのだ、彼等は次々にその一目見ただけで汚いその道頓堀に飛び込む。身体に悪いかということは考慮から外れている。
それでだ、この時にだった。
誰かが言った、その誰かは今もわかっていない。わかっていたとしても最早どうでもいいことであるかも知れない。
「バースに似てへんか?」
ケンタッキーフライドチキンなら何処でも前に飾ってある人形である、あの白いカーネル=サンダースの像だ。
その像を見てだ、こう言ったのである。
「フライドチキンのおっさん」
「ああ、似てるな」
「白人で髭生えてるしな」
何故か阪神ファンは白人で髭が生えているのならバースに似ていると言う傾向がある、似ていなくともだ。
「似とるわ、今気付いたわ」
「そや、バースやバース」
「バース樣に似てるで」
おそらく酔ってもいたのだろう、それでだった。
彼等はだ、そのカーネル=サンダースの像をだった。
持って担いだ、明らかに違法行為であり器物破損罪になるであろうが今彼等はそのことも頭に入れてはいなかった。
像を一緒にだ、道頓堀に入れたのだった。
「ばんざーーーーい!」
「バース樣のお陰やからな!」
「一緒に入れたれや!」
「やったで!」
「優勝したさかいな!」
「来年も日本一や!」
こう叫んでの言葉だった、そうして。
カーネル=サンダースの像は堀に完全に入った。しかし。
ここでだ、一つ深刻な問題が起こった。像を堀に入れたのはいいのだが。
その像は浮かんでこなかった、それも二度と。
幾ら探しても出て来なかった、これにはファン達も今更ながら困った。
「あれっ、見つからへんで」
「何処行ったんや?」
「海に流されたんか?」
道頓堀は海につながっているという、相当に汚い川であるが今も一応はそうなっているとのことだ。
「そやったら今は瀬戸内海かいな」
「そうちゃうか?」
「それやったらしゃあないな」
「もうな」
「海に行ったんやったら」
「もう仕方ないわ」
勝手にそういうことにしたのだった。
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