ケロイド
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第三章
「洒落にならないな」
「冗談抜きでお祓いしてもらったらどうだよ」
克幸は本気で広樹に言った、自分の隣に座っている彼に。
「やばいだろ、それ」
「いや、それは幾ら何でもな」
「しないのかよ」
「気にし過ぎだろ」
広樹はこう克幸に返す。
「たまたまだろ、しかしな」
「本当に人の顔そのままだな」
「ああ、やばい位にな」
小さな赤い火傷跡だ、だが。
それが人の顔に見えるのだ、広樹にとっても面白くない。
それで気になっていたがだ、この日は特に異変はなかった。
別に喋らないし動く訳でもない。触ってもだ。
「痛くないか」
「傷としてはな」
完治しているというのだ。広樹は克幸に昼食の時に話した。二人はそれぞれコンビニで仕事に行く前に寄って買ったコンビニ弁当を食べている。仕事場の適当な場所に二人並んで座ってだ。
「触ってもそうしてもな」
「全然だな」
「ああ、痛くもないさ」
「別に噛んだりもしてこないな」
「喋ってもこないさ」
それもないというのだ、広樹は弁当の鮭を食べながら話す。
「全然な」
「そうか、面白い話はないんだな」
「おい、怖いだろ」
広樹にとってはだ、弁当の中のハンバーグを食べる克幸に反論した。
「そこは」
「いやいや、どうせ人間の顔だからな」
「これが人間の顔だからそう言うんだろ」
「まあな」
「これが三角とかだったらな」
今二人は弁当を食べている、だから手袋は脱いでいる。それで今は露わになっている左手の甲を見てそれで言うのだった。
「別なことを言うだろ」
「何とかの紋章とかな」
「じゃあ俺は運命の勇者になってたんだな」
RPGでよくある話だ、ただしこの設定はもう古典である。
「その時は」
「冒険に出るか?」
「出るかよ」
それはすぐに否定した。
「俺はただの工事現場の作業員だぞ」
「それじゃあ冒険の旅にもか」
「出るかよ」
それは絶対にないというのだ。
「別に呪いにもかかってないしな」
「運命の冒険にもか」
「出るかよ、しかしこの跡な」
ここでまた火傷跡を見てだ、広樹は困った顔で言った。
「参ったな」
「喋ったら俺に教えてくれよ」
克幸は笑いながら広樹に言う。
「俺も話し掛けてみるからな」
「するかよ、そうなったら本当にお祓いに行くからな」
「人面瘡って切ってもすぐに出て来るっていうな」
呪いだからだ、それで終わるものではないのだ。
「手術とかは意味ないんだよな」
「そうらしいな」
このことは広樹も知っている、漫画で読んだ知識である。
「どろろだったか」
「あれ面白かったよな」
「不気味だったけれどな」
尚漫画の原作では途中で終わっている、しかしアニメの方では結末まで描かれている。ただしその結末は悲しいものだ。
「よかったな」
「まあ本当に人面瘡だったらな」
「話をしてみたいんだな」
「何て言うかな」
その人面瘡がだというのだ。
「楽しみだからな」
「勝手に言ってろ」
いい加減だ、広樹は言った。
「本当にな」
「まあただの跡だとな」
「それに越したことはないさ」
広樹の本音だ。
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