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エイプリルフール番外編 【Force編その2】
次の日。
「んっんーっ!」
ぐいっと背を伸ばすと眠気を飛ばした。
一日眠ったあたしの体は全快。すこぶる調子が良い。
その後起きたヴィヴィオ達とおはようと声を掛け、アオお兄ちゃんが用意してくれた朝食を食べると、アオお兄ちゃんに呼び出され外へ。
「それじゃ、どれだけ強くなったか、自分自身の実感が欲しいだろうから…俺達と模擬戦しようか」
「アオお兄ちゃん達とですか?」
「こっちは俺と久遠、それとロザリアの三人。そっちは四人全員で。一応この辺りはフロニャルドの守護の力を応用している。全力で挑んでも大きな怪我はしないよ。まぁ死ななければ俺が治して上げられるしね」
なるほど。
「どうする?止める?」
そのアオお兄ちゃんの問いにあたし達は視線を合わせると。その瞳に闘志を燃やす。
「受けて立ちましょう」
とアインハルトさん。
「わたし達がどれくらい強くなったか見せてあげます」
「弟子は師匠を越えるものです」
とヴィヴィオとコロナ。
「あー…でも、アオお兄ちゃんを越える事は不可能なような…」
「リオっ!分かってるけど、そう言う事は言わないのっ!ここは倒すくらいの気持ちで挑む位でちょうど良いと思う」
「はーい」
互いに距離を取るとデバイスをセットアプ。準備を整える。
それぞれのバリアジャケットの腰にはおそろいの羽扇、ミニ芭蕉扇がささっている。
「それじゃ、ロザリア」
「うん…リアクト・エンゲージ」
少し控えめに呟いたロザリアちゃんはアオお兄ちゃんにユニゾン・イン…あれ?リアクトだっけ?まぁ効果はさほど変わるまい。
隣の久遠ちゃんは子狐モードから大きめの獣の姿に変わっていた。
空中に魔法陣でカウントダウンが映し出される。
「3」
「2」
「1」
「行くよっ!みんな」
「はいっ!」
「てっ!あっち速すぎるっ!」
え?っと視線を向ければ既に巨大な輝力を練りこんでいるのが見て取れた。
「木遁秘術・樹界降誕」
「えええええっ!?」
ちょっ!アオお兄ちゃんもう術の発動っ!?しかもこれは広域殲滅タイプの術だ。
地面から無数の木が乱立し、うねりながら津波のように押し寄せる。
「紋章発動っ!」
あたしも遅れながら輝力を合成。ヴィヴィオ達も冷静に後に続いた。
今ならアレを使っても余裕が残るはず。
「ヴィヴィオっ!」
「う、うんっ!」
あたしとヴィヴィオは素早く印をくみ上げる。
「火遁・豪火滅失っ」
「風遁・大突破っ」
「「合成忍術、爆炎乱舞っ!」」
あたしの火遁をヴィヴィオの風遁が煽る。
炎は勢いを増し、迫り来る木々を押し戻し、燃やしていく。だが、中に混じる巨木は止まらない。
「任せてっ!」
と、コロナが前に出る。
「創世起動っ!土遁・ギガント・フィストっ!」
土の中からいくつもの巨大な掌が現れ、巨木をその手で掴み、その握力で粉砕していく。
「おっと、まさかこんなに簡単に止められるとは思わなかったよ」
なんて呟いているアオお兄ちゃん。視界の塞がるような攻防。だから…
「今ですっ、アインハルトさんっ!」
「覇王・断空拳っ!」
巨木を隠れ蓑に隠で気配を絶って接近し、空中からアインハルトさんの一撃。
流でコブシを強化して打ち下ろされた断空拳の一撃は、余波で空気が震えている。
『プロテクションっ!』
アオお兄ちゃんのデバイスが緊急障壁を展開するけど、アインハルトさんの攻撃の一撃は凄まじく、障壁を貫通。本体に迫るが、コブシに合わせる様にアオお兄ちゃんの回し蹴りが炸裂。すかさず左手にオーラを移し、ガードしたアインハルトさんだが、抵抗むなしく吹き飛ばされる。
まぁ、自分から飛ばされたみたいだから、ダメージはそんなに受けてないだろう。ヒット箇所に輝力を集めていたみたいだし、ティオも障壁を張っていたしね。
「フィンガーショットッ!」
コロナが巨木を受け止めきった巨人の腕の指先をアオお兄ちゃんに向けると、扇状に複数展開されている全てのギガント・フィストの指先を向けると、その指先からショットガンのように礫を飛ばしていく。その分巨人の掌は減っていくが、まぁ防御に使った余りものを有効利用しているだけだからいいのかな?
『ラウンドシールド』
質量を持った攻撃に、さすがのアオお兄ちゃんもシールドを展開し、下がった。
はっ!?久遠ちゃんはっ!?
アオお兄ちゃんだけに気を取られている場合じゃない。
「誰かくるっ!」
ヴィヴィオが張った円に感知されたのだろう。ヴィヴィオはどうやら本質的には戦闘タイプでは無いらしく、こう言った補助の方に適正が高い。隠で近づいてきた敵すら動いているのなら見逃す事は無いようだ。
あたしは対処出来るように印を組み、千鳥を発動。迎撃の用意を整えると、堰き止めた巨木の隙間から高速で近づいてきた誰かは、人間ではありえない動きで地面を掛けてくる。
「ストライク・レーザークローっ!」
って、千鳥を纏わせた爪を振るってるっ!?しかも狙いはコロナのようだ。
あたしはそれの攻撃に横から割って入り、千鳥を纏った右手を振るう。
バチバチと互いに交差する千鳥。久遠ちゃんは強引には押さずに身を翻し、距離を置いて着地、再び此方へと狙いを定めている。
「くぅん」
「土遁・多重土流壁」
突っ込んでくる久遠ちゃんにすかさずコロナが印を組んで防御。両手を地面に付くと、いくつもの岩の壁が出現、久遠ちゃんの進路を妨げる。
と、あたしも見てるだけでは終わらない。
『ライトニングバインド』
設置型バインドを使ってされに久遠ちゃんの行動を阻害する。まぁ、見えているのか引っかからないんだけど、それならそれで問題ない。
進路を限定した先にはヴィヴィオが待ち構えている。
「ディバイーン、バスターーー」
こぶしの先に光球が現れ、それをコブシで叩きつけるように発射された砲撃魔法。
避ければライトニングバインド、受けてもバインドで捕まえるだけの隙が出来るはずだ。
しかし久遠ちゃんは口元に黒い光球を作り出すと、その球を口元から発射。ヴィヴィオのディバインバスターと撃ち合いになり、爆発。その余波でバインドは全て弾き飛ばされ、土流壁も崩れている。
溜めもほとんど無しでバスターと撃ち合って相殺するとは…久遠ちゃん侮りがたし。
爆風に紛れ、久遠ちゃんはヴィヴィオに一閃。シールドを貫通した一撃はヴィヴィオを貫き、そして…
ポワンと煙と共に消えた。
ここに残ったヴィヴィオは影分身だったのだ。本体はアインハルトさんの援護にとアオお兄ちゃんの所へと既に向かっている。
「火遁・龍火放歌の術」
あたしは印を組むと口から龍を象った炎を幾つも連発して久遠ちゃんを攻撃する。
さらに同時にコロナも土遁の印を組んでいる。
「土遁・飛び礫」
地面からいくつもの礫を飛ばし、久遠ちゃんに逃げ場の無い攻撃を仕掛けた。
久遠ちゃんは避けられないと悟ったのか、四本ある尻尾を輝力で強化すると、グルリと自分の前に持ってきて防御の体勢。
礫と火龍が久遠ちゃんを直撃するが、久遠ちゃんはその攻撃を受けると、その威力をも利用して後方に飛びのき、距離を取ったようだ。
さて、仕切りなおしたあたしとリオと久遠ちゃんはさておき、アオお兄ちゃんの方はと言えば、ヴィヴィオとアインハルトさんが連携してアオお兄ちゃんに近接戦闘を挑んでいる所だった。
左右から挟みこんで、連携によるスイッチで隙の無い攻防を繰り広げているが、紙一重でアオお兄ちゃんには全て防がれている。
「セイクリッド・クラスターっ!」
ヴィヴィオの射撃拡散攻撃魔法が迸る。
『プロテクション』
拡散攻撃にアオお兄ちゃんもバリアを張ったようだ。
しかし、ヴィヴィオがアオお兄ちゃんの動きを阻害してからのアインハルトさんによる必殺の一撃。
「覇王流破城槌っ」
振り下ろされたコブシは輝力での強化も含めて凄まじい威力を秘めていた。
「ちょっ!…す、スサノオっ!」
アオお兄ちゃんを護るように現れたスサノオの肋骨。しかしアインハルトさんの攻撃は凄まじく、展開直後のスサノオの肋骨を粉砕。アオお兄ちゃんに直接ダメージを与えるまでは行かなかったが、その威力でアオお兄ちゃんは地面まで吹き飛んでいった。
しかし、落下途中もアオお兄ちゃんは印をくみ上げると、空中に居るヴィヴィオ達を攻撃する。
「火遁・火龍放歌の術」
あたしが使うよりも速く、そして多くの数の火龍がヴィヴィオ達を襲う。
それを二人は持ち前の動体視力でかわしていく。
「ストライク・スターズっ!」
攻撃をかわしつつもヴィヴィオの大威力砲撃。
今までのヴィヴィオなら、こんな芸当は出来なかっただろうな。確実に修行の成果が出ていた。
『マルチディフェンサー』
何重にも槍型に展開したディフェンサーがヴィヴィオの攻撃を裂きながら防御する。どうやらアオお兄ちゃんは防ぎきったようだ。
追撃に出ようとしているヴィヴィオ達だが…
「ヤバイっ!」
何の意味も無くアオお兄ちゃんが大量の火遁を放つわけが無かった。大量の火龍を打ち上げた事で出来た上昇気流に空気が暖められてヴィヴィオの頭上に雷雲が形成されていた。
あたしは嫌な予感がして咄嗟に口寄せの術式を行使、地面に手を着くと、ヴィヴィオとアインハルトさんを呼び戻す。
「え?」
「なぜ?」
と現れた二人が戸惑うが、一瞬後、爆音が響き渡る。
ヴィヴィオとアインハルトさんが居た所に上空から極大の落雷が襲ったのだ。
「…さすがのアオさんですね」
「はい…あの攻撃すらフェイクだったなんて…」
「うん…」
と、アインハルトさん、ヴィヴィオ、コロナが呟く。
「さて、仕切りなおしだよっ!」
「「「はいっ!」」」
まだまだ闘志は十分だ。
「さて、わたしもそろそろ本気を出す頃だね」
「ヴィヴィオ?」
「わたしもこの二年間言われるままに修行してきたわけじゃないって事だよ」
と言って一度瞳を閉じた後、再び開いた右目が赤く染まる。
「なっ!?写輪眼がっ!?」
「両目です…」
驚きの声を上げるあたし達。
「ふっふっふっ!リオが両目で使えるのに竜王のクローンハイブリッドであるわたしが使えないはずは無いっ!」
「いや…そうかもしれないけど…何で黙ってたの?」
「使えるようになったのってリオがその眼を移植してからだから。平行世界のわたしが使えたんなら、あたしが使えない訳ないじゃない?そう思って頑張ったら使えるようになったんだ」
「あ、そう…」
平行世界のヴィヴィオが使えたからってこっちのヴィヴィオが使える理由にはならないんだけど…
「さらにこれだけじゃなくて…って!来たっ!?」
何か言おうとしていたみたいだけど、一匹の火龍があたし達に襲い掛かる。
「水遁・水陣壁」
アインハルトさんが水遁で防御壁を張ると、どうにか相殺。その隙にあたし達はその場を離れる。
更に降りかかる火龍の嵐。
それを避けつつ、当たりそうになるのはアインハルトさんが相殺していく。
「水遁・水龍弾の術」
火龍に水龍を当てて相殺していくが…
「アインハルトさんっ!」
火龍の影にもう一匹の火龍。
「くっ…」
「水龍じゃダメっ!リオっ火遁を使ってっ!」
ヴィヴィオの絶叫。火遁には水遁の方が有効なのだが…しかし、ヴィヴィオの必死そうな声にあたしは従い、火遁の印をくみ上げる。
「火遁・豪龍火の術」
あたしの火龍がアオさんの龍に当たると、炎を上げて燃え移り、焼き尽くした。
「え?まさか木龍?」
アオお兄ちゃんは火龍の中に木流を混ぜていたんだ。それを火龍の影に混ぜて撃ちだした。
「しかし、なんで?」
ヴィヴィオには分かったのだろう。あたしの写輪眼ですら判断が間に合わなかったと言うのに。
「ヴィヴィオっ…」
と視線を向けるとヴィヴィオの右目の写輪眼の形が変わっていた。
「ヴィヴィオっ!それ…っ!?」
「この眼?これはスーパー写輪眼(仮)。この眼は普通の写輪眼よりも精度が高いのっ!…リオに黙っていたつもりは無かったんだけど…」
ああ、あたしが使えないと思って言い出せなかったのね。
「いや、それはそんな名前じゃないから…」
「ええっ!?ちゃんとした名前があるの?…あうぅ…なんかカッコいい名前を考えようと思ってたのに…」
しょぼくれるヴィヴィオ。
「万華鏡写輪眼。それがその眼の名前」
形はアオお兄ちゃんのそれにそっくりだった。
そう言うとあたしも万華鏡写輪眼を行使する。
両目に現れる撫子模様。
「リオも使えたのっ!?」
「て言うかっ!この眼はリスクがあるんだよっ!あたしはこれで失明したんだからっ!」
「ええっ!?」
今度はヴィヴィオが驚く番だ。
「ヴィヴィオ、視力は落ちてない?」
「すこぶる良好。両目とも良く見えるよっ!」
ええっ!?どういう事だろう?
考えられるとすれば…
「アオお兄ちゃんのクローンだから?」
最初から適合しているとか?
「わかんないけど…」
「なるほど、万華鏡か」
「っ!?」
いきなりヴィヴィオの背後に現れたアオお兄ちゃん。
高速移動とか、瞬間移動とか。そう言った感じではなかった。
ヴィヴィオは驚きつつも回し蹴り。
が、軽々と防がれてしまった。
「桜守姫だね」
「オウスキ?」
「極限まで写輪眼としての能力に純化した写輪眼。洞察眼、観察眼の最高峰。…この封印はもういらないかな」
ボウっとアオお兄ちゃんの指にオーラが集まると、ヴィヴィオの耳の後ろを叩いた。
「ぐぅ…つぅ…」
ふらつくヴィヴィオ。
「ヴィヴィオさんっ!」
アインハルトさんがコブシを振り下ろし、ヴィヴィオとアオお兄ちゃんを分断。
三人の距離が離れた。
再びヴィヴィオの左目が開かれると、そこには万華鏡写輪眼が浮かんでいた。
「ヴィヴィオの左目は最初から万華鏡を開眼していたからね。余りの危険な能力のため俺達が封印していたんだ」
そういえばなのはさんがそんな事を言っていたような?どうだったか…
「万華鏡写輪眼を開眼したのなら半端の状態の方が危険だ。使えるならしっかり使えるようにならないとね」
それはヴィヴィオに、そしてあたしにも向けられた言葉だろう。
さて、模擬戦はまだまだ終わらない。
アインハルトさんがヴィヴィオを助け出す一瞬でヴィヴィオが行使したディレイ型のバインドが決まる。
「おっと…」
『クリスタルケージ』
更にそれを強化するようにケージ型結界を行使。
「叩いて砕け、ゴライアスっ!」
さらにコロナのゴーレムクリエイト。その巨大な手がアオお兄ちゃんに振り下ろされる。
クリスタルケージ事粉砕し、アオお兄ちゃんを地面に叩きつけた。
「やった?」
「やってないっ!」
クリスタルケージが粉砕される一瞬、スサノオを行使していたのが見て取れた。
「木遁・木人の術」
現れる巨体はゴライアスと同等。その手に持った剣がゴライアスに振り下ろされる。
「くっ…耐えてっゴライアスっ!」
ゴライアスを輝力で強化。周と流の要領で的確に剣の当たる部分、ガードした両腕を強化し耐える。
一度ガードにまわったゴライアスは攻めに転じる隙を見つけられない。
あの巨人を燃やし尽くすとなると、生半可な炎では無理かな…
あたしは一度右目を瞑り、そして開く。
「天照…」
ピントが合った瞬間に木人が黒い炎に包まれ燃え上がる。
「消えない炎…」
ヴィヴィオはその桜守姫で天照を解析したのだろう。その特性を言い当てる。
「コロナ、黒炎が燃え移った所はパージ。再構成してっ!」
「う、うん…でも」
「いいからっ!あれはリオでも制御できていないっ!」
とヴィヴィオが叫ぶ。
失礼なっ!ちゃんと鎮火できるようになってるよっ!…ただ燃え広げる方が簡単なだけだ。燃え広がりすぎた炎を消すのは…ちょっと難しいけどね。
とりあえず木人は天照の炎で焼き尽くされ灰になっていく。
「くぅ…」
右目から血涙が流れる。…前よりも少なくなってきているが、まだ反動は大きい。
「断空拳!」
アインハルトさんは木人が燃え尽きるより先にアオお兄ちゃんに接近し、コブシを振り下ろしている。がしかし、バキィと音がして衝突したそのコブシはアオお兄ちゃんの背中から出ている巨大な肋骨に防がれた。
「アインハルトさんっ!」
流石に劣勢を悟ったヴィヴィオが援護に向かうが…
「くぅんっ!」
「くっ…」
上空からクロスするようにヴィヴィオの前に現れた久遠の尻尾による打撃攻撃をヴィヴィオはガードした為に間に合いそうに無い。
ゴライアスは再構築がまだだ。
他のどんな出の速い技でもアオお兄ちゃんのカウンターは防げそうに無い。
本当にそうだろうか?
あたしは左目でアオお兄ちゃんを睨む。
あたしはタケミカヅチを行使。音すら置き去りにする速さでの落雷を落とし、アオお兄ちゃんに直撃させる。
まぁスサノオを突き破るほどの威力は込めていないが、アインハルトさんが脱出する時間は稼げただろう。
左目からも一筋の血涙が流れるが、気にしてられない。
『トライデントスマッシャー・マルチレイド』
三つの魔法陣が現れそれぞれに魔法をチャージする。
「トライデント・スマッシャーっ!」
三つの魔法陣それぞれから三又の槍の穂先のような砲撃が伸び、アオお兄ちゃんを囲うように放出する。
「コロナっ!」
「本当はあんまり得意じゃないんだけど…」
と言いつつ集束の終えたブレイカー魔法。
「スターライトォ…ブレイカーーーーっ!」
リオが放つ極大のスターライトブレイカー。
「ちょっ!食義を覚えてのそれはシャレになれないっ!」
と言うとアオお兄ちゃんはスサノオの右手を素早く顕現。大きな剣が瓢箪から現れると、さらにそれに銀色の何かを纏わせた。
その銀色に輝く剣でどうするのかと言えば…
「スターライトブレイカーを…」
「切り裂いたぁ!?」
振るった刀の衝撃でスターライトブレイカーを切り裂いてしまったのだった。
流石にこの状況にはあたし達一同唖然の表情。
ハの時に分かたれたスターライトブレイカーは地表を焼くが、アオお兄ちゃんは無傷。
とりあえずあたし達は爆風にまぎれて距離を取った。
閃光と爆風が晴れると既にアオお兄ちゃんは遠距離攻撃の準備を整えていた。
いつの間に現したのか、振り上げたスサノオの左手の先に三つ巴の勾玉が繋がりあっている。
「八坂ノ勾玉」
あたしに向かって放たれたそれは、バリアを貫通しそうなほどの威力だ。
『マルチディフェンサー』
多重起動するディフェンサー…だけど、多分足りないっ!
「スサノオっ!」
叫んだあたしに呼応するかのように髑髏が一瞬で現れる。
肉付く髑髏。
ガリガリとあたしのマルチディフェンサーは削られて行くが、最後の一枚が砕け散った頃にはすでにスサノオは鎧を着込んでいた。
食義を極めた結果、スサノオの起動時間が格段に短くなっているのが分かる。
八坂ノ勾玉手裏剣を受けたあたしだが、スサノオに…いや虹色の膜に護られたあたしは無傷だった。
「スサノオ…」
「いつの間にリオも使えるようになったの?」
と、アインハルトさんとコロナが問い掛けた。
「万華鏡写輪眼が使えるようになってからかな」
「それじゃ、スサノオって…」
「写輪眼の瞳術…だったんだ」
コロナの言葉をヴィヴィオが引き継いだ。
あたしはスサノオの右手に持った炎球から天照の黒炎をとばしアオお兄ちゃんを攻撃する。
飛ばされた黒炎を最小の動きで避けていくアオお兄ちゃん。天照では速度が足りないか…
ならばと左手の雷球からプラズマを飛ばして攻撃する。
流石にこの攻撃速度にはアオお兄ちゃんも避けれなかったようで、スサノオの左手を前に出してガードしている。
プラズマが着弾する前にカガミのような盾が現れ、あたしが放ったプラズマを弾いていた。
「すごい…」
と呟いたのはコロナだったか。
たたみ掛けるようにプラズマを連射するあたしだが、一向にダメージが通っている気配は無い。どうやらあの盾は尋常じゃないようだ。
しかし、あたしの方が押している。そう思った時、上空から途轍もないプレッシャーが感じられた。
視線を上に向けると、バスタークラスの魔法を易々と相殺させた黒い塊の何倍もある大きさのそれを口元に溜めている久遠ちゃんの姿が見えた。
「みんなっ!避けてっ!」
「リオはっ!?」
「あたしは大丈夫だからっ!」
と言う会話の後、飛行魔法の限界速度で遠ざかるヴィヴィオ達。
あたしはと言えば、スサノオの質量を纏っているためにどうしても飛行速度が落ちてしまう。あの攻撃をかわす事は難しいと判断し、受け止める事を考えた。
「紋章発動っ!」
「かっ!」
輝力を合成して、虹色の防御膜を強化。それと同時に放たれる久遠ちゃんの黒い塊、尾獣玉と言うらしいその攻撃はあたしのスサノオを飲み込み、踏ん張りの利かなくなったあたしは地面へと打ちつけられる。
「ぐぅ…」
ズザザーと地面を転がりようやく停止。外傷は無いものの、ものすごく吹き飛ばされた。
上空を見れば、いきなり小山を越えるほどに巨大化した久遠ちゃん。
「ええええええっ!?」
巨大化するなんて聞いてないよっ!?
さらにそのままあたしに圧し掛かかろうとしてるっ!?
「リオっ!」
あたしのピンチを助けてくれたのはコロナのゴライアスだった。ゴライアスは地面を蹴ると、玉砕も構わないと久遠ちゃんに突撃、一緒に錐揉みしながら地面を転がり久遠ちゃんとそのまま交戦に入った。
「ありがとう、コロナっ!」
「うん…だけど。ちょっときびしいかな…」
「どうするの?」
「万物兵装を使うしか…」
「大丈夫なの?」
「食義のお陰で余力は大分あまってるから多分大丈夫だよ」
と言う会話そしている内に、ゴライアスが窮地に陥っている。
「木遁・木龍の術」
地面から現れた木で出来た巨大なゾウのような鼻をもつ龍がゴライアスを縛り上げる。
怪力を持つゴライアスを締め付けて離さない。そのまま押さえつけられているゴライアスを久遠ちゃんが粉砕する。
って、木龍がこっちにもきたっ!?
あたしに迫る二匹の木龍。
あたしは炎球、雷球を形態変化させ、二振りの剣に作り変えると、迫る木龍を切り裂き燃やし尽くした。
が、しかし、それはフェイク。
あたしの足元から更に二匹の木龍が出現し、スサノオを縛り上げる。
「ぐぅ…まさか…輝力が吸われているっ!?」
この木龍、どうやらエネルギー吸収能力が付いているようだ。
ヤバイっ!このままでは…
縛り上げられていて剣は使えない。
あたしは剣の付け根にある炎球から天照をとばすと、自分に燃え広がるのを覚悟で木龍を燃やす。
巨大化した久遠ちゃんへはヴィヴィオとアインハルトさんがけん制の攻撃を仕掛けているが、相手の大きさに苦戦している。
巨体であると言う事はデメリットも大きいが、その分一撃に加えられる攻撃力と言う点では段違いだ。
さらに久遠ちゃんは獣形なので、人型とは比べるまでも無く…なかなかに手強い。
アオお兄ちゃんとの距離はかなり離れている。天照は射程外。さてどうしようか。
背後ではリオが万物兵装の準備に入っている。
自分を中心に、周りにある物質を分解、吸着、再構成させるていく。リオの念と魔法のミックス術式であり、ある意味リオのゴーレムクリエイトの極限。
ただし、巨大になればなるほど、その製造にはやはり時間が掛かる。その間の時間はあたし達が稼がなければならない。
久遠ちゃんはヴィヴィオとアインハルトさんが止めてくれている。アオお兄ちゃんはあたしが止めなければ。
そう言えば、アオお兄ちゃんが飛ばした勾玉。あれはアオお兄ちゃんの固有能力だろうか?それともスサノオの能力?
右手の剣を一度引っ込めると、見よう見まねで力を込めてみる。
すると、掌から勾玉のような物が現れ、渦を巻く。
これかっ!
感覚を掴んだあたしは、そのままアオお兄ちゃんに投げつけてみた。
アオお兄ちゃんの連結された一つの大きなそれに比べて、数個の勾玉がバラバラに飛んでいく。
しかし、小さいと言う事は、アオお兄ちゃんのそれと違って威力も小さいと言う事。見ればアオお兄ちゃんのスサノオもすでに鎧を纏っている。その益荒男の剣の一振りで飛ばした勾玉は斬り伏せられてしまった。
むぅ…ダメか…でも、もしかしてこれに天照を合わせれば遠くまで飛ばせるのでは?
再び、勾玉を作り出すと、炎球から天照を飛ばし、勾玉に纏わせる。
出来たっ!
グォンと再び勾玉を投げつける。
黒い炎を纏って撃ち出されたそれに、アオお兄ちゃんは今度は斬らずに左手に持った盾を前面に押し出して防いだ。
ドドドドドーンッ
爆音と共に火柱が炎上し、アオお兄ちゃんを襲う。
なるほど、凝縮された天照が着弾と同時に爆発炎上したのか。
しかもその炎は消える事の無い天照。アオお兄ちゃんのあのカガミのような盾はどうやら特別製のようで、天照の炎を食らっても燃え移る事は無かったが、その他の場所はそうは行かないはず。
燃え広がる天照はスサノオの鎧を焼いていき、所々内側が見えてきた。
が、しかし…アオお兄ちゃんはその天照をさらに焼くように黒い炎を放つ。黒い炎が黒い炎に焼き尽くされて消えていく。
「なっ!?なんで…」
「なんでって…俺も天照を使えるからだけど?」
「なんでっ!?」
万華鏡写輪眼は片目にに一つずつ個別の能力を宿す事が出来ると言ったのはアオお兄ちゃんで、アオお兄ちゃんの万華鏡写輪眼の能力はタケミカヅチとシナツヒコの二つと聞いた。なのになぜ?
「アオお兄ちゃんは幾つ万華鏡写輪眼の瞳力を持っているの?」
「今の所7つだよ」
今の所って何っ!?
「万華鏡写輪眼の能力って増やせるのっ!?」
「普通は左右で一つずつ、それとスサノオで三つ。それ以上は増えない」
「だったらなんでっ!?」
「秘密」
うがーーーーーっ!
再び投げる天照を封入した八坂ノ勾玉手裏剣。別に当てなくても炸裂させれば足止めには十分。
そう言えば、アオお兄ちゃんが纏っているスサノオ、なんかいつものと形が違うような?それにアオお兄ちゃんはタケミカヅチもシナツヒコも使っていない。使ったのは天照だけだ。それも何か関係が有るのかな?
分からない事は取り合えず分からなくても良い。それに時間は稼いだ。
眼も眩むほどの一瞬の発光の後に、ズシンと音を立てて現れる異形。
竜のような体躯をしたメカニカルなデザインのゴーレム。
前足は鋭くとがっている金属ブレード。背中には背負い込むようにレールカノンの砲塔を背負い、所々体表に機動力を補助するためのブースターが付いている。
全長は巨大化した久遠ちゃんと同じくらいだろうか。
万物兵装。
コロナの念能力と魔導とのハイブリッドであり、その形体は一定しない。まぁコロナの好きに組み上げられると言う事だ。
今回のこれは久遠ちゃんに対抗する為に獣形を模しているのだろう。
ガシャンと言う音と共に間接が折れ曲がり、地面を蹴る。
ブースター補助を使って地面を掛けると、久遠ちゃんにそのまま突進、同じような巨体が出てくる事に驚いていた久遠ちゃんはまともにその攻撃をくらい、跳ね上げられてしまった。
「久遠っ!」
叫ぶアオお兄ちゃん。
エキドナの砲塔がグルリと旋回すると、体内で精製した金属片を弾丸に変えてアオお兄ちゃんに発射する。
「くっ…」
撃ち出された砲撃にアオお兄ちゃんは堪らずと回避を選択。穿った地面にクレーターが出来ていた。
対人戦に置いてコロナはあたしやアインハルトさんに遠く及ばないかもしれない。しかし、対軍…殲滅戦に置いては多大な威力を発揮する事になる。
『ぐっはぁ…無理…もう無理…さすがにこの大きさは輝力がガリガリ減っていくよ…』
コロナからの念話。
制圧力は凄いのだが、やはり巨体ゆえに消費の問題が出てくる。たしかに食義を覚え、食没を覚えたコロナは地力は増えたかもしれないが、やはりそれでも中々一人では扱えない能力であった。
『ヴィヴィオ…へるぷっ!』
『しょうがないなぁ…』
『私も行きましょう』
『アインハルトさん。…はい、二人でコロナを助けましょう』
『ええ』
『何でも良いから、はやくっ!』
エキドナから飛ばされる二つの光球はヴィヴィオとアインハルトさんに当たると包み込み、エキドナの体内へと戻っていった。
『わたしはエキドナの維持に全力を注ぎますので、アインハルトさんは体の制御をお願いします』
『はい』
『ヴィヴィオは兵装の管理と索敵、ブースター補助をお願い』
『わかったよ』
うーむ。エキドナの中は感性制御された空間で、コロナ達は光の球の中に浮かんでいて、そこでエキドナにエネルギー供給と操作をしている。なんと言うか、ユニゾンデバイスのユニゾン時を想像してもらえれば近いかもしれない。
ヴィヴィオをアインハルトさんを取り込んでエンジンが三つになったためにようやくエキドナも本格稼動できる。
『行きます』
アインハルトさんがそう言うと、先ほどよりも速い速度でエキドナは駆ける。
久遠ちゃんに取り付くと、持ち前の格闘センスを生かして四足での戦いをこなしていた。
地面を蹴って舞い上がると前足で切り裂く攻撃。クルリと身を翻した久遠ちゃんはそのまま回転を利用して尻尾をぶち当てる。
吹き飛ばされたエキドナだが空中でクルクルまわって姿勢制御。
着地と同時にレールガンを久遠ちゃんに向けて発射。久遠ちゃんも口に溜めた尾獣玉で応戦。爆発を起こしつつ、爆風を眼くらましに互いに距離を取ると、再び接近して格闘戦。
どちらも一進一退の攻防が続く。
あたしはあたしでアオお兄ちゃんとスサノオによる戦闘を繰り広げていた。
あたしの中で最硬を誇る聖王の鎧だが、アオお兄ちゃんの銀色のオーラを纏わせた十拳剣の前には一瞬の均衡しか許してくれない。
あたしはその一瞬で左右から剣を振るってアオお兄ちゃんを攻撃。どうにか聖王の鎧を絶ち切られる前にアオお兄ちゃんの攻撃をキャンセルさせ、同時に本体を狙うが、引き戻した十拳剣と盾に阻まれて届かない。
「その銀色のヤツはいったい何なんですかっ!?なんか凄く強烈なプレッシャーを感じるんですけど…」
実際、あの剣でいやあの銀色の水銀のような物が張り巡らされた十拳剣はブレイカークラスの魔法する軽がる切り裂いたのだ。
「これはすべてを切り裂く、神の『権能』」
「神さまの?」
神とは宗教的な観念における人間が及びも付かない奇跡を起こせる高次元の何かと言う解釈が多いだろうか。
聖王教会と言うものが一般化されている地域では余り馴染みは無い物かもしれない。
しかし、普通の人間が持てる能力では無いと言う事はなんとなくアオお兄ちゃんのニュアンスから感じ取れた。
そうか…アオお兄ちゃんはすでに神の領域に足を踏み入れてたのか…そりゃ強いはずだよね。
だけど、まぁ…だからってただで負けるのはやっぱり悔しいじゃない?だからせめて最大限に抵抗する。
あたしの成長も確かめてもらいたい…
「さて、それじゃぁ、ギアを上げていくか」
そう言ったアオお兄ちゃんはスサノオを消した。
「え?」
スサノオを消したアオお兄ちゃんはその生えている尻尾の形状が変わっていた。普通の猫の尻尾から蓮のような花が幾つも連なって出来た尻尾が一本生えている。
と見ている間にその尻尾の数が増えていく。
さらに凄い輝力だ…
尻尾の数が増えるごとに輝力が増えていくのが感じられる。
「なんて輝力…」
尻尾の数は十本でようやく止まり、アオお兄ちゃんは準備が出来たとばかりに空気を蹴って加速。
「はっ速いっ!」
ギリギリ写輪眼で捉える事は出来たが、既にアオお兄ちゃんは目の前。大量の輝力をその右手に集めてのコブシの一撃は聖王の鎧を破壊するまでは行かなかったが、踏ん張りは当然利かずにその衝撃で吹き飛ばされる。
「くぅ…」
しかも、その一発でアオお兄ちゃんの攻撃は終わっていない。尻尾をあたしのスサノオの腕に巻き付けると吹き飛ばされているあたしに併走し、さらに殴る。
「ぐぅ…」
ミシミシとひび割れる虹の膜。
ヤバイっ!抜かれるっ!
焦りを感じたあたしは、しかしなんとか冷静に右目の天照を行使。視界を媒体にアオお兄ちゃんを燃やしに掛かる。
が、しかし。瞬間的にアオお兄ちゃんは発火地点から離れると、天照の炎は空を切った。
あたしもそのままでは終わらない。スサノオの右腕にある炎球から更に天照を撃ち出し、発火した天照を飲み込んでさらに大きな黒炎龍を作り出すとアオお兄ちゃんに飛ばす。
しかし、キーーンと言う音を立ててアオお兄ちゃんの口元に集まる黒い塊。
「なっ!?」
あれは久遠ちゃんが使っているやつと同じっ!?
カッと撃ち出された尾獣玉はあたしの火龍と拮抗。
天照の炎が尾獣玉を燃やし尽くそうと燃え移るが、その威力に押され天照を纏ったままあたしのスサノオに着弾。虹色の防御壁を揺るがす。
「ぐぅ…」
さらにアオお兄ちゃんはスサノオの虹の防御膜の薄いところを見極めて的確に何度もダメージを与えている。よほどの事が無い限り抜かれる事は無いと思っていた聖王の鎧は、しかし体勢を立て直そうとしている最中に追加で加えられた二発目の尾獣玉によってバリンと音を立てて破壊されてしまった。
規格外すぎるっ!
開いた穴が塞がる一瞬にアオお兄ちゃんはその虹色の膜を付き抜け膜の内側に侵入。ゼロ距離から尾獣玉を発射し、あたしのスサノオの防御を抜いた。
「きゃーーーーっ!」
尾獣玉に吹き飛ばされ、その威力にスサノオも消失してしまったあたしは、ダメージを負いながら空中へと飛ばされてしまった。
スサノオのお陰で戦闘不能にはならなかったけれど、相当にダメージを負ってしまったあたしは吹き飛ばされたのを利用してアオお兄ちゃんから距離を取るが、すぐさま追撃してくるアオお兄ちゃん。
「くっ…」
あたしは素早く印を組み上げると大きく息を吸い込んだ。
「火遁・龍火放歌の術」
けん制にと、輝力を振り絞って火龍を連射すると、どうにかアオお兄ちゃんの行動を阻害できたようだ。
ドドーンとあたしが飛ばされる方向に久遠ちゃんと格闘を繰り広げていたエキドナも一端距離をとって着地していたそこに、あたしはその
頭に乗るように着地してアオお兄ちゃんを睨む。
アオお兄ちゃんは追撃をやめると、あたしと同じように久遠ちゃんの頭の上に着地した。
両陣営同じような図で対峙している。
『リオっ無事っ!?』
『大丈夫、ではあるのだけれど…』
コロナの念話に答える。
『やっぱりアオお兄ちゃんは強いねぇ』
『…はい、久遠さんもやはり私達とは生きてきた時間が違います』
とアインハルトさん。
『でも…まだやれます』
『はい』
『うん』
『そうだね』
ヴィヴィオの言葉に皆同意する。
『じゃぁ、もう少し頑張ろうか』
『だねー』
皆限界が近いはずなのに、まだまだ気合は十分だ。
「さて、リオのスサノオ。なかなか制御できているみたいだけど、スサノオにはまだ他の使い方がある」
とアオお兄ちゃんが語る。
「他の?」
「スサノオを他のものに纏わせ、強化させる方法だ」
そう言うとアオお兄ちゃんから放出された輝力は自身の周りにスサノオを形作るのではなく、久遠ちゃんを包み込むように展開。武者鎧のようなものを着込んだ巨大な獣が現れる。
スサノオを纏った久遠ちゃんは巨体に見合わない速度で駆ける。
「速いッ!?」
駆けたと思ったらすでい目の前。
『シールドっ!』
『あのクラスを止めれる障壁を張れる輝力は無いよっ!』
とヴィヴィオとコロナが叫ぶ。
空中から身を捻っての尻尾による攻撃が迫る。
『一歩、初動が遅かったです…』
とアインハルトさんは回避を試みているが間に合いそうに無い。
ヤバイッあたしはともかくエキドナのこの巨体じゃこの攻撃はかわしきれないっ!
どうする?どうやってあの攻撃を受ける?魔法による障壁ではあの質量は大きすぎる。…ならスサノオ?ダメだ、人型のスサノオを顕した所でやはり大ダメージは変わらないし、エキドナはリタイアだ。
ならばどうする?
…答えはアオお兄ちゃんが見せているじゃないか。
あたしは輝力を練りこむとエキドナを包み込んでいく。
間に合え…間に合ってっ!
久遠ちゃんの攻撃がヒットする前にエキドナの背中に現れる甲冑。
『きゃあっ』
『ぐぅ…』
バシンと久遠ちゃんの攻撃を受けたエキドナだが、硬い鎧が威力を押し殺し、何とか受けきる事に成功した。
『これは…』
背中部分だけだった甲冑がエキドナ全体を包み込む。
『スサノオ?』
と、アインハルトさんとヴィヴィオの呟き。
「どうにかする方法はアオお兄ちゃんが見せてた。エキドナを護る為にはエキドナにスサノオを纏わせれば良いっ!」
「そうだ、それでいい」
とアオお兄ちゃん。
しかし、巨体の為か聖王の鎧が全てを包み込むのは難しいらしい。虹が揺らぎ、荒が目立つ。
だが、エキドナの強化には成功している。両前足は右手に天照を、左手にタケミカヅチを形態変化させて必殺の攻撃力を宿し、レールガンはタケミカヅチで大幅に強化。打ち出す弾丸には天照の力が込められている。
『行きますっ!』
アインハルトさんが気合を入れるとエキドナが地を駆ける。
キィーンと口元に尾獣玉を溜める久遠ちゃん。
エイキドナの砲身が旋回し、迎撃する為にレールガンが唸る。撃ち出された弾丸は天照を伴って久遠ちゃんの尾獣玉と討ちあい相殺した。
その爆風を聖王の鎧とスサノオの鎧の防御を頼りに突き破り進んで久遠ちゃんにその鉤爪を振るう。が…
ギィン
その攻撃を久遠ちゃんの肩から突如生えた腕に持たされたカガミが弾いた。
キーンと再びチャージされる尾獣玉。
『くぅ…』
至近での尾獣玉は流石に厳しい。
しかし、軌道を変えれれば…
そう思ってチャージもそこそこに撃ち出されるレールガンだが、その球筋はあさっての方向を向いていた。
なっ!?木龍っ!?
見れば木龍が砲塔の絡みつき、締め上げている。
『ヴィヴィオ、パージお願いっ!』
『うんっ!』
コロナがヴィヴィオに言って砲塔を切り離す。
『アインハルトさんっ!』
『はいっ!』
エキドナはグルリと体を捻ると竜尾を鞭のようにしならせて久遠ちゃんに叩き付けた。
スサノオの持つ盾にガードはされるが、衝撃は久遠ちゃんの尾獣玉を遅らせ、距離を取る事に成功した。
『再構成はっ!?』
『残り輝力では瞬時には難しいよっ!』
ヴィヴィオの問いにコロナが答える。
レールガンの再使用はこの戦いでは不可能のようだ。
『あとは正面アギト口内から放つ純魔力砲…スターライトブレイカーだけ…だけど、チャージに時間が掛かるよ』
と、ヴィヴィオ。
『チャージの時間は私が稼いでみせます』
とアインハルトさんが決意の言葉を顕す。
『だけど、あの盾を抜く事が結構難しいよっ!』
「あたしのタケミカヅチで貫通力を上げればっ」
『今はそれに賭けましょうっ!』
と、アインハルトさんが瞬時に判断。実行に移る。
駆けて来る久遠ちゃんの格闘攻撃をアインハルトさんが凌ぐ。
隙を見てアオお兄ちゃんが木遁で攻撃してくるが、右爪を巧みに操り、切り裂き、天照の炎で焼いていく。
その間に口内であたしとヴィヴィオがブレイカーの準備。
光球が口内で光りだす。それにあたしは慎重に比率を意識して針に糸を通す気持ちでタケミカヅチを混ぜ込んでいく。
ハイレベルな四足での戦闘の最中に久遠ちゃんは尾獣玉を連射。
連射なんてできたのっ!?まぁその分威力は落ちているので虹の膜で弾けているが、それでも攻撃のチャンスを逸してしまう。
『準備できたよっ!』
ヴィヴィオがブレイカーのチャージが終わった事を告げる。
うん、確かにいつでも行けるね。
『ですが、確実に当てなければ相殺されてしまいます…』
「そこはアインハルトさんが頑張る所かと」
『…くっ…分かりました。必ずや、そのチャンスを作りましょう。コロナさんっ』
『はいっ!アインハルトさんっ!』
勝負は至近での一発。出来ればカウンターの一撃が望ましい。
あたし達がチャージを開始している事を感じてか久遠ちゃんも尾獣玉をチャージしている。
だけど、あたし達の方が速い。
アインハルトさんが繰るエキドナは地面を駆けて久遠ちゃんへと迫る。
アギトを開き、口の中でチャージされているブレイカー砲撃。
久遠ちゃんは発射を潰せればと威力は不十分であろうと尾獣玉を発射する。
グッ
アギトを閉め、発射をディレイ。
『リオさんっ!』
「はいっ!」
聖王の鎧を前面に押し出して尾獣玉を受ける。
「くっ…」
かなりの威力…やっぱり辛いね。だけど、これを通させるわけには行かないんだっ!
よしっ!弾いたっ!
「木遁・樹界降誕」
足元から樹木の波が襲い掛かる。
物量による圧倒的な攻撃力をエキドナを一度グルリと尻尾を巻き込むように巻き込ませると、一気に尻尾を鞭のように振り回し、迫り繰る樹木をなぎ倒す。
『今っ!』
コロナの気合の声を受け、エキドナは更にそのまま垂直方向に叩きつけ、ブレイク。
尻尾に込めた輝力をその質量と共に爆発させ、樹界降誕の術を相殺させた。
しかし、これでエキドナは尻尾を失った。
爆風に隠れて久遠ちゃんに近づくき、飛び掛るように久遠ちゃんを捕らえる。
『とったっ!』
「まだっ!」
アギトを開き、ブレイカーを撃ち込もうとしていたヴィヴィオを止める。
いつの間にか久遠ちゃんの肩から現れたスサノオの右手。その右手には既に権能を纏った十拳剣が握られていて、エキドナの顔を切り裂く太刀筋で既に振り降ろされていた。
『くっ』
左のタケミカヅチを宿した爪をかろうじて前に出し、十拳剣を妨害する。一瞬の均衡しか許されずに腕は切り落とされてしまったが、頭は無事だ。
そのまま後ろ足でさらに地面を蹴って懐へ。右手を伸ばし強引に左手のヤタノカガミを跳ね除ければ久遠ちゃんはもう正面だ。
ようやくとアギトを開けるエキドナ。
『スターライトォ』
「プラズマ」
「『ブレイカーーーーーーーっ!』」
ゴウゥと閃光が久遠ちゃんに走る。
そして爆発。
衝撃は辺りの物をなぎ倒し、拡散していく。
『もう無理…だからっ!最後っ!』
コロナが気合を入れると、エキドナ自体が爆発。中心地から円を書くように金属片が飛び散り、内包輝力が爆発する。
コロナ最後の大規模殲滅魔法。…魔法なのかは分からないが、要するに自爆技だ。
「はぁ…はぁ…」
「はぁ…はぁ…はぁ…」
肩で息をするあたしとヴィヴィオ。
「お疲れ様でした、コロナさん」
「きゅぅ…」
コロナをお姫様抱っこで抱えるアインハルトさんと限界を超えて気絶しているコロナ。
流石に、もう無理だよね。みんなも限界だし…
アオお兄ちゃんはと見れば、眼下には何重にも覆われた樹木のシェルターがあった。
シュルシュルとその垣根が剥がれ落ちると、中から小狐モードになった久遠ちゃんとアオお兄ちゃんそれとリアクト解除されたロザリアちゃんが現れた。
「全力防御にまで追いやられるとは思わなかったよ…うん、みんな強くなったね」
「でも、まだアオお兄ちゃんには敵わないね」
「そりゃね…でも、驚愕に値する成長だよ。俺がリオ位になるのに何十年掛かったと思ってるんだ?」
「まぁ弟子は師匠に追いつこうと頑張るものですから」
と言ってへへっと笑う。
アオお兄ちゃんも「そうか」と言って満足そうだった。
「さて、ヴィヴィオ」
「何てすか?アオお兄ちゃん」
アオお兄ちゃんに呼ばれて返事をするヴィヴィオ。
「万華鏡写輪眼、使えるね」
「は、はい…」
「使ってみて」
「はい」
そう言うと両目に写輪眼が現れ、更に模様の形が変わる。
アオお兄ちゃんも万華鏡写輪眼を使っているみたいだが、左目の万華鏡写輪眼の色合いの赤と黒が反転している。
あれは?
アオお兄ちゃんはその反転している左目でヴィヴィオの写輪眼を覗き込む。
「その左目…わたしと同じ能力…」
「あら、分かっちゃったね。…そう、さっきも言ったけど、これは桜守姫。観察眼と洞察眼の局地。見たものを分析し解析、解明する能力」
「解析…でもそれって普通の写輪眼でも…」
「だから言ったよ。写輪眼としての能力を純化させた物だって」
「ですね。つまり、リオみたいな攻撃力の有るものじゃないって事ですか」
「そうだね。この桜守姫は解析する能力に特化している。その眼で事象を解析し続け、データを蓄積させる事である種の未来視に近いものは出来るだろうね」
「未来視?」
「日常の全てをその眼で解析し続けていければ自分の身近に起こる未来くらい予測できるだろう。ただ、四六時中使っている訳にもいかないからね。戦闘では技の解析と相手の攻撃が何となく分かる程度かな」
「そうですか…」
「それで左目だけど」
あ、そうです。あたしもそれは少し気になってたんだよね。アオお兄ちゃんは左目の万華鏡写輪眼には触れなかったから。
「ヴィヴィオの左目の能力。それは対人能力の中で一番恐ろしい」
「は?」
「え?」
「ええっ!」
「………」
あたし達全員今までアオお兄ちゃんの言葉に割って入らなかったが、その言葉には驚きの声を上げる。
「左目の万華鏡写輪眼の能力を思兼と言う」
オモイカネとヴィヴィオは口の中で呟いている。
「幻術系の能力で、その効果は思考の誘導」
「えっと?」
ヴィヴィオが戸惑いの声を上げる。それのどこが恐ろしいのかいまいちまだ分からないからだ。
「簡単に言えば、人を操る能力だ」
「人を…」
「操る?」
とヴィヴィオとコロナ。
「この能力の怖い所は自発的にやらねばならないとその思考を誘導する。それ故に一見すると操られているようには見え辛く、また掛かった本人もその事実に気が付かない」
「…ディレイやステイも可能なんですか?」
とアインハルトさんが問いかける。
「……可能だよ。だからこそ恐ろしい。何の抵抗力も無い普通の人間に使えば、出会った瞬間に自殺させる事も容易だ」
そんな使い方はしてはダメだとアオさんは言う。けれど、確かに相手を操れると言う能力は途轍もなく恐ろしい。
「だから、俺達はヴィヴィオの左目の万華鏡写輪眼を封印した。未成熟な精神に相手を操れる能力は脅威だったからね」
「はい…」
「だけど、もうヴィヴィオは物事の分別は可能だろう。今のヴィヴィオなら思兼の能力を悪用はしないだろう?」
「はいっ!」
怖い能力、いや、便利な能力だけど、ヴィヴィオなら自制する精神力を持ち得ているだろう。
「ヴィヴィオの万華鏡はすでに永遠の万華鏡写輪眼だね。これは元が俺のクローンハイブリッドだからだろう。とは言え、万華鏡写輪眼の能力は俺が持つ5つの中から後天的に選択されたらしい。あの子が発現した万華鏡写輪眼の能力とは違うしね」
5つ?
と言いますか。今聞き逃してはいけない言葉が有った様な?
「アオさんはヴィヴィオさんのオモイカネ、オウスキ、両方使えると言う事ですか?」
それだっ!とアインハルトさんの言葉に納得する。
「使える。だからこそその危険性は熟知しているよ」
「そうですか」
便利な能力に、それでも頼らないと言うのはどれだけ自制心を導入すれば良いのだろうか。
「さて、最後に。両目に別々の能力を宿らせる事で得られる能力がある。それが…」
「スサノオ…」
「正解。…だけど、まだヴィヴィオは使えないみたいだね。これは俺が長く左目を封印していた弊害なのかもしれないね」
「使えるようには…」
「なるとは思うよ。ただ、もうしばらく時間が必要かな」
「はい…」
ちょっと残念と言う感じでしょぼくれたヴィヴィオ。
さて、模擬戦は終わったし、そろそろ修行も終わりかな。
ひと休憩して屋敷でくつろいでいると、ふと、そう言えばを思い出した。
「あ、そう言えばこの間敵のデバイス?を拾ったんだった」
「デバイス?」
とアオお兄ちゃん。
「これです」
とソルの格納領域から取り出す刀とナイフのような物体。
「これは…」
「なんですか?」
「ECディバイダーとリアクター…」
と、アオお兄ちゃんがあたしの手に持っている刀とナイフを見てそう言った。
そう言えばはやてさん達の説明で聞いたことが有ったかも。エクリプスウィルス感染者が使用することで魔法の結合解除を行える兵器。
魔導殺し。
なるほど、これが…
「たしか…こう…」
あたしはナイフを手に持って自分の掌へと押し当て、傷つけた。
『リアクトエンゲージ・ケーニッヒ944』
ズブズブとあたしの掌から中にナイフが埋まっていき、手に持ったディバイダーの形が変わる。
手に現れる二振りの小太刀。
リボルバーが付いていて、一見普通のベルカ式デバイスのようだ。
だけど…
「形状が違う?」
あのサイファーと呼ばれていた女性のもっていた刀とは形が若干異なっていた。
「形状は起動した人物により変わるらしい。まぁリオはその形体があっていたと言う事だろ」
とアオお兄ちゃんは言うと、指を立ててシューターを放ってきた。
「わっ!?」
しかし、その魔力球はあたしに着弾することなく、一定距離に来ると全て跡形も無く消えてしまった。
「魔力エネルギーの結合分断。それがディバイダーとリアクターの能力。その二つが揃えばアルカンシェルすら無力だろうね」
「アルカンシェルすら…」
「さらにリオなら魔力だけじゃなく、オーラや輝力まで無力化できるかもしれない」
「それは…」
なんてチート?
「とは言え、衝撃を受け流せる訳じゃないし、分断効果を使えば自分のエネルギーも分断される。分断するエネルギーを取捨選択しなければ戦う事すら出来なくなるよ」
魔力を分断すれば自分の魔力が、オーラを分断すれば自分のオーラが使えなくなる。ただ刀を振っているだけと言う展開になるらしい。
それでか。フッケバイン…エクリプス感染者の攻撃がどちらかと言えばオーラに近しい性質なのは自分魔力結合を解除されるからその他のエネルギーで攻撃しているのか。
おそらく体内に入ったエクリプスウィルスが生命力を変換してエネルギーに変えているのだろう。だからオーラに近しい性質で、魔力では無いから自分のゼロフィールドでは中和されないと。
「無敵と言うわけじゃないんですね」
「そりゃそうだ。無効化する能力を無効化するという能力が有れば事実無効だ…何を言っているのか分からなくなりそうだが、そう言う展開もありえる」
なるほど…
「普通にアオお兄ちゃんなら出来そうですね…」
「………干渉するフィールド事切り裂いてみればあるいは?」
出来るんですね…
「とりあえず俺が預かっておこうか。余り使わない方が良いだろうし、管理局を無闇に敵に回さなくても良いしね」
「あ、はい」
と言ったあたしはリアクト・アウトしてディバイダーとリアクターをアオお兄ちゃんに渡す。
さて、それじゃ名残惜しいけれど、そろそろ箱庭を出る頃合だろう。
訓練場へと戻るあたし達。そこはあたし達が箱庭内に入った時と殆ど変わらなかった。
「じゃぁ、俺達は帰るね」
そう言ったアオお兄ちゃん達はあたし達の挨拶を聞き終える前にドロンと煙のように消える。フロニャルドへと帰ったのだろう。
その日はそれでお終い。ヴィヴィオ達は帰り、あたしも隊舎へと戻った。
…
…
…
ある日の特務六課隊舎。
「あ、リオ。ちょっと良いかな?」
と、あたしはトーマに呼び止められた。トーマくんの側にはリリィとアイシスが一緒だ。ついでに今回はなのはさんも一緒だった。
立ち話ではとカフェスペースへと移動し、飲み物を購入してから席に座ると、トーマが魔導書型のデバイスを取り出した。
そのデバイスから流れる動画。その内容はカレン・フッケバインからのもので、最初はトーマに宛てたもの、そして後半はあたし宛だ。
「そこにデタラメちゃんも居るのかしら?見ていなかったら伝えてくれる?あなたのお陰でアルのディバイダーは喪失するは、サイファーのディバイダーは紛失するはで大変なのよ。あたしも下半身と泣き別れ状態だったし…天下のフッケバインが散々コケにされちゃった感じね。だから、その借りはきっちり返すから、首を洗って待っていなさい。…今度は必ず殺してあげるわ」
うわー…
「と、言う事なんだけど…」
「デタラメちゃんって…あなた、何したのよ」
と、トーマとアイシス。
「あはは…襲われたから精一杯抵抗してやっただけです」
「魔法の効かない相手にどうやってって…あなたもECウィルス感染者だったわね」
勝手に納得しているアイシス。まぁ訂正は面倒だし、いいかな?
「まぁデタラメで終わっているあたしなんかは可愛い物かと…」
「え?どういう事?」
「世の中にはデタラメを越えた理不尽な存在が居るんです…」
「は?」
意味が分からないとアイシス。
「あぁ…」
なのはさんにはそれで通じたようだった。うん、アオお兄ちゃん達は理不尽の権化だからね…
「まぁフッケバインからのリオちゃんの殺害予告とも取れるビデオメールだったからね。リオちゃんの監視はこれまで以上に強くなるかな」
となのはさんが言う。
「ええ!?すでにいっぱいいっぱいなんですが…」
「こればっかりはガマンしてもらうしかないね。まぁ、わたしか、フェイトちゃん、もしくはキャロ辺りについてもらうから、ガマンして」
「はーい…」
「それで、リオちゃんは保護対象なんだけど、リオちゃんには前線に出てもらう事になると思うから」
「え?」
「トーマもそうだけどね。囮捜査かな。内側に囲っているだけじゃいつまでたっても事件は解決しない。それじゃリオちゃんも困るでしょ?」
「それは…」
「狙われているのはリオちゃんだから、少し表に出さないと敵も動かないだろうしね」
「つまり餌ですか…」
「大丈夫。絶対護るよ。…って言ってももうリオちゃんの方がわたしよりも強いかな?」
「ええっ!?」
「本当ですかっ!?」
なのはさんの言葉にガタリと立ち上がるトーマとアイシス。
「多分ね。アオくんの弟子だし。わたしなんて同じくアオくんの弟子だった九歳の女の子にも負けたことがあるんだよ」
「「「ええっ!?」」」
今度はリリィを含めて三人で驚いている。
負けた相手はソラお姉ちゃん…いや、もしかしなくてもなのはお姉ちゃんなのかな?
「でも、あたしにはここでは使えない技術が多すぎます」
「大丈夫だよ。ディバイダーすらよく解明できなくても実戦に投入するって言っているんだよ?」
とトーマの方を見るなのはさん。
「…それに、本当はこんな事あっちゃ、いけないんだろうけれどエクリプス感染者への殺傷許可は下りているもの…」
なのはさんの表情が曇る。
だが、フッケバインなどはシグナムさんを撃墜し、はやてさんすら切り伏せた相手だ。
魔導技術ではほぼ太刀打ち出来ない敵に非殺傷設定の魔法を幾ら当てても暖簾に腕押し。効果はゼロ。
だからこその『ストライクカノン』であり『ウォーハンマー』であり、第五世代デバイスなのだ。
極論すれば、魔力結合が出来ない場所での攻撃を実現する為の兵器なのだ。
もちろん非殺傷と言う理念からは遠ざかってしまう。必要だからと用いられるが、必要なくなったら手放せるだろうか?
まぁそれはあたしが考える事じゃないか。
「まぁ、それは仕方ないとして…何を何処まで使用しても良いのでしょうか?」
「うーん…と言っても、リオちゃんがどんな事を隠しているのか、隠したいのか分からないからねぇ…」
「えっと…ほとんど全部?」
「全部って…写輪眼も?あれなら先天性技能として誤魔化しが効くと思うけれど?」
「どっかの文献に残ってないですかね?竜王家のレアスキルだって」
「ああ…それは…マズイね」
教会関係の横入れが面倒そうです。
「シャリンガン?」
「竜王?」
と、アイシスとリリィが疑問顔。
「実はあたしは古代ベルカ、竜王家の血を引く一族だったのだっ!」
バッバーーーンっ!
「へぇ」
「ふーん」
反応の薄いリリィとアイシス。
「あれ?」
「まぁこんなもんでしょう。面倒なのは教会関係者と学者さん。他の人にしてみればどうって事無い事のはずなんですけどねぇ」
「って言うか、リオってレアスキル持ちだったの?」
と、そっちに食いついてきたのはトーマだ。
「持ってますよ。とびっきりのレアスキル。これがあれば一対一の対人戦はほぼ負けません」
「へぇ、(リオって)凄いんだ」
「(写輪眼は)凄いんですよ」
何か微妙に食い違っているような気もするけれど、いいかな。
「まぁ困難な状況での使用はアオお兄ちゃんからも許可されていますし、状況次第では使いますよ。他の技術も同様です。自分が死ぬかもしれない場面ではなりふり構ってられませんからね」
ただ、防御にオーラを使う程度で極力使わないけれどね。…フッケバイン一家の前じゃ無理かもしれないけれど。
「そうだね…ただ、そうなると、ストライクカノンかウォーハンマーかな?」
「ですね。まぁどちらも趣味じゃないですけど、どちらかと言えばハンマーですかね」
「趣味じゃないんだ…まぁそれでも、リオちゃん用に一機用意してもらうね」
「お願いします」
…
…
…
さて、この後、どうやら六課はラプターと言うロボットを受け取りに行くそうだ。
説明を受けたが、人型で、生身の人間が活動が難しいところでの活躍が望まれているらしい。
まぁまだまだ活動時間に問題があるのだが、これが解決されない事を祈る。
ついでに、このラプターが強奪されるとフッケバインからトーマに連絡が入ったのだが…あたしの姿を見たカレンが怖い怖い…
「そこに居るデタラメ娘ちゃんは背後に気をつけることね」
いや、被害者はあたしだよ?逆恨みはんたーい。
ラプター搬入強奪への防衛には借り出されたが、むしろあたしには厳重に護衛が付けられている感じだ。
あたしはキャロさんとエリオくんの班に組み込まれ、ラプター搬入の警備に当たる。
まぁ主戦力はあたし達じゃなくても居るから、二人は本当にあたしの護衛なんだろうね。
心なしか現場から離れているしね。
なんかラプター強奪犯が来たようだけれど、なのはさん、フェイトさん、トーマ達もいるしシグナムさんとアギトさんもいる。過剰戦力でしょう。
「おや、これは好機かな?」
と後ろから緊張感の無い声が掛かる。
「貴方は?」
エリオくんが職務質問。
「なに、ただの通りすがりだよ」
と言いつつそのてに現れる銃剣と銀十字の魔導書。
「なっ!?ディバイダーっ!?キャロ、緊急通信をっ!?」
「ああ、だめだめ、当然通信妨害はしてある。こちらの異変に気が付いて局員達が駆けつけてくる頃には君達を殺して、後ろの彼女を連れて逃げているさ」
エース級魔導師二人を前に確定事項のように話すスーツ姿の男性。その軽薄さは異常だ。戦いに関する緊張、恐れなどを全く感じていないようだ。
それは圧倒的な実力者…捕食者である余裕。
そしてそれたある意味正しい。まだ対EC兵器が万全とは行かない今、エリオくん達が二人掛りでも倒せるか分からないのだ。いや、相手の態度を見るに相当余裕なのだろう。
そして放たれる凶刃。
手に持った銃剣を振るうと、普通の人には見えない何かが飛び出し、エリオくんを襲う。
ヤバイッ!
あたしは直ぐにエリオくんを横合いから押し倒すように直線上から移動させる。そのさいウォーハンマーは落としてきたがしょうがないだろう。
「リオっ!?」
驚いている所悪いけど、今はそれどころじゃないよっ!
「キャロさん、全力でシールド防御っ!」
「あ、うんっ!」
振られる二撃はキャロちゃんのシールド装備によってガードされるが、その一撃でシールド機能の半分がダメになってしまったようだ。
「おや、これは…やはり見えてますか」
と、飛ばした斬撃が見切られた事にはそれほどのショックは無いようだ。
「余裕でねっ!それと、良い事を教えてあげます」
「何でしょうか?」
まだ軽薄そうな笑みが消えない。
「この世の中には対峙する事が既に愚策と言う相手も居るんですよ?」
「ええ、この私のような感じですかね?」
「はい、このあたしのような感じです」
幻術・写輪眼
グンっと写輪眼が回転し、一瞬で相手を幻術に陥れる。幻術を操れる相手に一人で対峙するのは愚策なのだ。
感覚に訴えかけるこの幻術系の技はこの世界ではあまりレジストされない。だから容易に掛かる。
ガクンといきなり力が抜けたように動かなくなる男性。カランとその手から銃剣が落ち、魔導書がその起動を停止する。
「リオちゃん、何をしたの?」
「一種の催眠術です」
キャロさんの言葉に答える。
「催眠術?そんなのいつ仕掛けたの?」
「にらみ合った一瞬で。あたしのレアスキルの一種ですよ」
「そんな能力を持っていたんだね」
とエリオくん。
「さて、障害と公務執行妨害で逮捕しないと」
と、エリオくんとキャロちゃんが男に近づいた瞬間、第三者により二人が一瞬で捕縛され、分断されてしまった。
「なっ!?」
短距離転移っ!?
「ほ~ら、デタラメ娘ちゃんを見張っていて正解だったでしょう」
と現れたのはカレン・フッケバイン。
あたしの視界から外れるように三点で現れたフッケバインファミリー。
カレン本人と、斧のようなディバイダーを持った男、後は銃剣型のディバイダーを持った男だ。
二人の男にエリオくんとキャロちゃんは捕まり、ディバイダーを突きつけられている。
「あなたの能力は視点媒介のもの。…つまり、視界に入らない物は攻撃できない。違う?」
「くっ…」
見せすぎたか。
「前回の恨みはまぁ有るのだけれど、まぁ今はこちらが優先だしね」
と言うとカレンの隣にもう一人居る女性がスーツの男に近づいていく。
「この男は油断ならなそうだから、無力化してくれて助かったわ」
とカレンが言う。
「エリオくんとキャロさんを無傷で返してください。もし、二人を殺したりなんかしたら…その瞬間、全員燃やし尽くしてあげますよ?」
死んでさえいなければ、最悪アオお兄ちゃんがどうにかしてくれる。アオお兄ちゃんを頼るのは心苦しいのだけど、仕方ない。
だが、人質は生きていてこそ。もし殺したら、その瞬間相手も窮地になる事は前回で理解しているはずだ。
「くっ…クソっ!…ごめん、リオちゃん…」
「ごめんなさい…」
相手に短距離転移能力者が居た事が既に敗因だ。あたしならかわせたかも知れないが…不意打ちの上にエリオくんはともかくキャロさんでは到底無理だ。
そして、カレンの側に居た女性がスーツの男性の手にそっと触れた。
「どう?原初の種のありかは分かったかしら?」
とカレンが問う。
「ばっちりよ。お代は後で請求するわ」
「了解~。幾らでも請求してもらっても構わないわよ。ついでにそこのデタラメ娘ちゃんにも触って欲しい所だけど…」
「藪を突付いて蛇を出したいですか?あたしに何か有るとデタラメを通り越した理不尽が現れますよ」
「おお、怖い」
「姉貴、こいつが姉貴とサイファーをやったやつなんだろう?」
「そうよ。だけど、止めておきなさい。手を出せば誰かが塵も残さず燃やされるわね。仲間は大事なのだろうけれど、自分の身を差し出してまで護るような考え方はしてないみたいだし」
違う?と視線で問いかけてくるカレン。
…確かにそうかも。あたしも多大にアオお兄ちゃんの影響を受けているからねぇ。
「目的も達成したし、帰るわよ」
「ちっ」
舌打ちした後に銃剣を持った男はしぶしぶと引き下がる。
転移の術式をカレンが起動。エリオくんとキャロちゃんを置いて綺麗に居なくなっていた。
「くそっ!あいつら何かをあの男から情報を抜き出していた」
「エリオくん…」
悪態を付くエリオくんを心配そうに見つめるキャロさん。
「通信妨害は彼らもしていたみたいで繋がらなかったけれど、…今なら使えるか」
そう言うとエリオくんは六課へと通信を繋げると、急いで事の次第を説明。応援を呼んだ後に男の護送へと入る。
が、しかし…幻術はいつまでも掛けていれるものではない。先ほどの女性ほどのソフトな接触ならまだしも、護送ともなれば幻術は解けるが、まぁこの人数の中での抵抗はしないでしょう。
男は抵抗せずに護送されていった。
「流石にこれでヴァンデイン・コーポレーションに捜査令状が出せる」
とフェイトさん。
「そやね。手遅れになる前に指名手配とヴァンデイン・コーポレーションの家宅捜査令状の執行を上にせっついてみるか」
「その辺は二人に任せるよ」
となのはさん。
などどまぁ良く分からないけれど、はやてさん達は難しい話をしていた。
取り合えず、ラプター護衛の任務は終了。あたし達は隊舎に戻る。今回あたしが襲われた事件に関してはまた連絡があるでしょう。
◇
とある研究室
そこにカレンをはじめ、数名のフッケバインのメンバーが居た。
周りには数多くの死体。
おそらく彼女達が殺したのであろう。
「これね。これが…エクリプスウィルスの種母体」
カレンが厳重に護られたシェルターの中身を見て言った。
「それに、ご丁寧な事に感染時の自己対滅の軽減の研究まで完成しているわね」
「姉貴、それをどうするんだ?」
とヴェイロンが問う。
「これがあれば破壊衝動の制御だって出来るかもしれないし、何て言ったって…これさえあれば今の社会構造を一変出来る」
「姉貴?」
「ふふ…ようやくね。これさえあれば…」
暗く笑うカレンの声が印象的だった。
◇
しばたく時が経つ。
ヴェンデインコーポレーションは管理局の介入の結果、違法研究の発覚で事実上解体されてしまった。
まぁそれは仕方ない。捕まった男、ハーディス・ヴァンデインはまだ容疑を否認しているが、有罪が確定しそうな中何処か余裕そうだと言う。
そんな中、あたし達が取り逃がしたフッケバインはと言うと…放送局を乗っ取りミッドチルダ全域に流されたビデオレターがあった。
『は~い、私はカレン・フッケバイン。あなた達に新しい社会構造を提案する者よ。
今のこの魔導師が優遇されている現実に辟易している人は大勢いると思う。先天性技術ゆえにFランクのリンカーコアでは他世界の魔法の使えない人間と大差ないとして扱われ、さまざまな不条理を受ける世界に嫌気はさしてない?一部の高ランク魔導師が優遇される世界。そんな不平等が許されて良いと思う?努力したって魔導師として成り立たない人間が大勢居る中で、力を持っている魔導師がどれだけ恐怖の存在であるか、等の本人達は意識しない。
当然よね。足元を這う蟻を気に掛ける人なんて居ないのと同じ事。持っている人は持たざる人の事を判らない。それが普通。
だけど、だからこそ、私は皆に平等にチャンスを与えようと思う。私はあるウィルスに犯されている。致死性の物ではないのだけれど、その結果、後天的に魔導師にも劣らない能力を得る事に成功した。これならチャンスは皆平等。これから私はこのウィルスをこのミッドチルダ全域にばら撒くわ。結果、今の社会を混乱に陥れるかもしれない。でも考えてみてくれないかしら。それによって不利益を得るのは誰?事業家?政治家?宗教家?いいえ違うわね。魔導師を擁護して社会を構築してきていた管理局よ。私が感染したエクリプスウイルス感染者には基本的に魔法が効かないと言う情報も開示しておくわ。その結果、管理局が取った対抗策がこれ』
そう言って流された映像はウォーハンマーやストライクカノン装備やラプターなんかの人造ロボットによる武力の映像。
『私はこれから数日の期間を置いてこのミッドチルダ全域にエクリプスウィルスを散布する。もし、このウィルスに掛かりたくないのなら、この三日の間に逃げても良いのよ?でも、良く考えて。先天性の優劣に左右されない世界を見てみたいとは思わない?今の管理局の制度で本当に満足?』
そこで管理局が何とか送信をジャミングしたが、時既に遅いだろう。
カレンの言葉は民衆に浸透し、あちこちで民衆と管理局との諍いが起き始めている。中には管理局員ですら暴動する側に加わっていた。
「やられた…」
特務六課の会議室で呟いたのははやてさんだ。
「これじゃ鎮圧に当たる管理局が悪者やね」
「はやて」
「はやてちゃん…」
はやてさんの言葉に掛ける言葉を失っているのはなのはさん、フェイトさんだけでは無い。ここに居る全員が見つからない。
「当然、管理局としても自己対滅と言う危険性が高いという情報は出して押さえようとしたんやけど…」
結果は誰も信じない。社会風潮が管理局を悪し様に報道しているからだ。寧ろ拍車を掛ける結果になってしまっている。
「管理局員としてはエクリプスウィルスの散布を許す訳にはいかへん。例え民衆に恨まれたとしてもな…せやけど…」
「散布が始まってしまったら止めようが無いって事だね…」
とフェイトさん。
「そうや。散布現場に行く言うんは感染しに行く言う事や。つまり、感染した時点で魔導師やあらへん…さらにウォーハンマーやストライクカノン、ラプターも槍玉に挙げられてしまって凍結せざるを得ない…まさに八方塞やね…」
ギリギリ魔導兵器と言う扱いにして有ったのだが、見方を変えれば質量兵器と見なされてしまっても反論できない。
「つまり、止める事が出来るのは俺達だけって事ですか?」
とトーマくんが言う。
「実際散布が始まってしまったらトーマと…」
はやてさんがあたしを一瞥するとすまなそうに言葉を続ける。
「リオちゃんしか近づけん言う事や」
その言葉に真相を知らない数名が此方を向くが、これであたしがウィルス感染者とバレてしまった。…まぁしょうがないか。
「…他に何か手は無いの?」
それは誰の言葉だったか。
「私らに出来る事は散布前にフッケバインを見つけ出し、捕縛する事だけや…」
それがどれだけ困難な事か。潜伏された目標を見つけ出すのは容易ではない。
魔導師、魔導兵器では相手にならない以上、何をどうすれば良いのだろうか。結論は出ないで会議は一時解散する。
…
…
…
「リオ…」
「みんな」
遠慮がちに掛けられた声に振り向くと、ヴィヴィオ、コロナ、アインハルトさんの姿があった。
「どうしたの?特務六課隊舎に来て」
「わたしはなのはママに呼ばれてしばらくわたしも六課住まい」
そうヴィヴィオが答えた。
「わたしとアインハルトさんはヴィヴィオの付き添いで家を抜け出してきたんだ」
「はい」
とコロナとアインハルトさん。
「そうなんだ」
「それで…」
「事件の事、何か進展はありました?」
とヴィヴィオの言葉を継いで遠慮がちに問いかけるアインハルトさん。
「何にも。エクリプス感染者に魔導師が対抗できない以上打てる手は少ないよ」
「そうですか…」
「みんなの家は?」
この事件に対してどう思っているのかと問いかけてみた。
「家は様子見かな。信じてもいないみたいだけど、変革するのならそれを受け止めるみたい」
「私の家もです」
とコロナとアインハルトさんが答えた。ヴィヴィオの親はなのはさんとフェイトさんだから、管理局側だろう。
「私達なら…いいえ、何でもありません」
と言いかけてやめるアインハルトさん。
「結局さ、何をどうすれば良いのか、規模がこれだけでかくなると分からなくなっちゃうよね」
「うん…」
事件の当事者は一人一人で、だけど、その答えは一人が出す事柄ではないし、一人でどうにか出来る事柄でもない。
「難しいね…」
「そりゃそうだよ。あたし達はまだたったの14歳だもの。そんな年齢で社会の構造を一人で選択しろってのは無理」
と、ヴィヴィオの呟きに答える。
これがあの映像が流れる前だったら、フッケバインを悪者として討伐すれば終わったのだ。しかし、今では討伐、逮捕しても問題は禍根を残すだろう。…本当に面倒くさい。
…はやてさん達はハーディスへの尋問とおそらく司法取引での情報の提供を求めるだろう。それで何処まで問題を軽減できるか分からないが。
「あ、こんな所に居たんや。ヴィヴィオ達も居るっ言うんは丁度いいか」
「はやてさん?」
後ろから声を掛けてきたのははやてさんだった。その隣にはなのはさんとフェイトさんも居る。
「どうしたんですか?」
「ちょっとリオちゃんにお願いが有ってな」
「お願い…ですか?」
「今回のテロ予告は実現されれば大きな社会的な問題を残す。いや、止められる手立てが無い以上実現されるやろ。そやから、私らも私らが出来る事を全てやらねばならん」
「…そうですね」
「まだ出来る事を一つ一つ、後悔の無いようにしなければならん。そやから、リオちゃん。アオくん達呼んでくれへん?」
「え?」
「へ?」
「どういう事ですか?」
混乱するヴィヴィオとコロナ。あたしも視線をきつくして問いかける。
「あの時、アオくん達が居たら…なんて他力本願やけど、思いたくないんや。そやから、断られるならそれでもええ。一度話したいんや」
なるほど…
「わたし達からもお願い。ジェラートさんも呼んでくれないかな」
「…知っていると思いますが、基本的にあの人達って面倒事は避けるタイプですよ?」
「分かってる。それでも色々と甘い所があるって事も」
まぁね…
さて、観測機器を外した室内訓練場。そこであたしは右手を傷つけ出血させ印を組み上げるとそのまま床に手を着き術を行使する。
「口寄せの術」
ボワンと現れる一人の人影。
「リオか…」
「ごめんなさい、アオお兄ちゃん」
「いや、いいよ。何となく分かったから」
と言うと視線をはやてさんに向けるアオお兄ちゃん。
「ちょっと協力してもらいたい事がある。話だけでも聞いてくれんか?」
「話…ね?」
「よければジェラートさんも呼んでいただけると…」
と言ったのはなのはさんだ。
アオお兄ちゃんは「はぁ…」とため息を付いた後、印を組み上げ、口寄せの術を行使。ボワンと幾つもの人影が現れた。
現れたのはナノハお姉ちゃん、フェイトお姉ちゃん、シリカお姉ちゃん、ソラお姉ちゃんの四名。
「あれ?」
「ここは?」
「あれ?ヴィヴィオ?」
「また、面倒事ね」
と四者四様。
「かなりミッドチルダがやばい事になっているみたいだ。話だけだけでも聞いてくれってさ」
とアオお兄ちゃんが説明する。
「う、うん」
「わかった」
「まぁしょうがないかな」
「そうだね」
と四人は納得してくれたようだ。
そしてはやてさんの説明が始まる。
要約するともはや自分達では手の打ち様が無い。どうか手を貸してくれないかと、そう言う感じだった。
「うわぁ…」
「大変な事になってるね」
と、ナノハお姉ちゃんとフェイトお姉ちゃん。
「個人的には手を貸してあげたい所だけれど…」
「私達が関わる理由が無い」
とシリカお姉ちゃんとソラお姉ちゃん。
「だねぇ。わたし達が手を貸せば大抵の事は解決できると思うけれど」
「正直に言えば対岸の火事。デメリットしかないね。今回の事件で大量の人が死に、社会構造が改変されたとしても、それは仕方の無いこと。人々が選び取った結果で滅びるのなら、それは必然。ただ此処に居るだけの俺達が関わって良いことではない」
と、ナノハお姉ちゃんの言葉を継いだアオお兄ちゃんは冷たい言葉を吐いた。
アオお兄ちゃん達のコミュニティーはこの次元世界ではなく、一つ上のフロニャルドを基点とした世界であり、ミッドチルダの事など本当に関係は無いのだろう。
この世界で起きた事はこの世界の人たちが選ぶべきものであると言っているだけだった。
それは酷く当然の事で、だけど、事態の解決が容易な人が目の前に居る状況ではただの皮肉でしかない。
「でも、ジェラートさんはわたし達を助けてくれたよ?」
となのはさん。
「にゃはは…まぁね。あの時はたまたまわたしが関わってしまった事件だったからね。いつでも、どんな事件でも頼られたらさすがに困るよ」
とナノハお姉ちゃんからも突き放す声。
「…そう…ですか…」
しょんぼりするなのはさん。
「俺達はいつだって助けるのは自分達と繋がった人たちの命。その人の選択だけだ」
それって…?
「そう言えば、これだけは教えてくれんか?」
とはやてさんが言う。
「何?」
「アオくん達の過去ではこの事件はどう言う結末をたどったんや?」
その言葉に一瞬考えるアオお兄ちゃん。そして…
「関わった記憶が無いな。こんな事件は覚えが無い」
それだけを言い終えるとアオお兄ちゃんは煙だけを残して戻っていった。
「結局何も得られず…か」
とはやてさんが呟く。
『ねえ、みんな。アオお兄ちゃんのあの言葉って…』
と念話を繋ぐ。
『助けるのは自分達と繋がった人たちの命。その人の選択という言葉ですか?』
アインハルトさんがすぐさま相槌を入れてくれた。
『それって…』
『たぶん…』
ヴィヴィオとコロナの呟き。
『完全に見捨てられてはいないって事ですね。…やっぱりあの人たちはどこか優しい』
『はいっ』
アインハルトさんの言葉にあたしは同意する。
そう。完全に見捨てられてなんていない。あたし達の選択。その結果には協力してくれる。そう思う。だから…
具体的な対策すら立てられないままに約束の期日は訪れる。
管理局員が警戒する中、その警戒を潜り抜けてミッドチルダ、クラナガン上空に現れる人影。
「現れましたっ!カレン・フッケバインです」
と、特務六課内の司令室でオペレーターが叫んだ。
「来たか…」
と、つぶやくはやてさん。
なのはさん達はすでにミッド全域へと散らばっていたが、ピンポイントでカレンにエンカウントできた局員では対処できず…その人影は行き成り膨張し始めると、巨大な異形の天使へと変貌した。
空戦魔導師の攻撃は全てゼロエフェクトによりキャンセルされ効果が無い。その内にも体のあちこちから排気口のようなものがせり出してきている。
「あかんっ!ウィルスの散布をする気やっ!」
と叫ぶはやてさん。
「ゴースローから巨大な魔力反応…これは…アルカンシェルですっ!」
警備の強化にと配備されていたと思われていた巡洋艦。その主砲が目標を捕らえていた。
「なっ!?本局はミッドチルダの地表ごと何もかも無くすつもりかっ!?」
「目標からの距離ではここも無事ではすみませんっ!」
「え?」
それは死の宣告。その宣告を出したのはカレンではなく、管理局である。
阿鼻叫喚の叫び声が司令室を包む。
抗議も停止ももはや受け付けまい。だけど、あれがエクリプスウィルス適合者なら…
「…無駄やろうね」
冷静に、一人分析していたのははやてさんだ。
虹色の極光が天使に迫るが…その身に纏うゼロエフェクトで結合を解除され本体は無事。周りの街は全て吹き飛んでしまった。
「アルカンシェル、魔力結合解除されました…」
「…全くの無駄や…今ので住民は全滅…大失態やね」
と、言ってばかりも居られない。天使の前に巨大な魔法陣のようなものが現れると、砲撃がゴースローへと発射される。障壁はむなしく砕け散り、ゴースローは爆砕された。
「ゴースロー、撃沈しました…」
「スターズとライオットに帰還命令っ!」
『はやてちゃんっ!?』
『はやてっ!?』
「もう遅い。ウィルスの散布は止められへん。あとトーマと…あれ?リオちゃんは?」
…
…
…
「行くんだ」
特務六課からの出口で待ち構えていたのはヴィヴィオ達3人だ。
「うん…行く。あたしならウィルス感染の心配は無いからね」
既に感染しているから。
「私達もご一緒します」
「うん」
「わたし達を置いていく事は許さないよ、リオ」
と、アインハルトさん、コロナ、ヴィヴィオの決意を固めた言葉。
「…軽々しい気持ちじゃ無いんだね」
「あの光り、アルカンシェルでしょう?それすら無効化されてしまったんじゃ魔導師じゃ対抗できないからね」
「はい。今のミッドチルダであの怪物に対抗できるのは私達だけです」
とヴィヴィオとアインハルトさんが言う。
「でもエクリプスウィルスが…」
「自己対滅で死んじゃうかもだって?」
と、ヴィヴィオ。
「うん」
「大丈夫です」
と言ってアインハルトさんが取り出して見せたのは無針鍼のアンプル。
「それは?」
「アオお兄ちゃんが戻った後、気が付いたら手の平に有ったの。咄嗟になのはママに気がつかれないように隠したんだけど、これは多分…」
「あたしに打った血清…」
「多分ね。わたし達がきっとこの選択をするって分かっていたんだと思うよ」
「でも…もしかしたら死んじゃうかもしれないよ?」
「だったらもっとここでリオを一人で行かせる訳には行かないよね」
そうコロナが纏めた。
「そっか…それじゃあ…行こっか、みんなっ!」
「うん」
「はい」
「ええ」
力強い友達の言葉に後押しされてあたし達は戦場へと掛ける。
途中はやてさんやなのはさん達から通信が入るけど拒否して走った。
何処まで気がつかれずに行けるか分からないが、わざわざ目立つ必要も無い。
目立てば相手の攻撃でこっちがヤバイ。
「これは…」
「アルカンシェルによるクレーター…」
目の前に広がるクレーター。そこに生き物の気配は無い。いや、文明の後すらなかった。
「こんな事って…」
三人が驚愕の表情を浮かべる。幸いなのはあたし達の両親は巻き込まれていないと言う所だけ。
「こんな事…このままにしておいちゃダメだよ。結果はどうあれ、アレを止めないと…」
「うん…」
「そうだね…」
「はい…」
「ここ辺りならギリギリエキドナの射程圏内だよね」
「うん…質量兵器以外は効果が薄そうだから、レールガンがメインになると思うけど、ここなら外さないよ」
そうコロナが言う。
「じゃあ…」
と次の指示を送ろうとして、皆が急に苦しみ出した。
「あっ…くぅ…」
「うううぅ…」
「うっ…」
「コロナ!ヴィヴィオ!アインハルトさんっ!?」
容態が急変し、あたしは心配になって声を上げた。
「大丈夫だよ…」
そう言って取り出したのは無芯針。
バシュッと言う音と共に打ち込まれたそれにより病状が一気に加速。
ヴィヴィオ達の体を作り変える。
「みんな…」
あたしは信じて待つ事しか今は出来ない。
「はぁ…はぁ…」
しばらくすると皆の呼吸が落ち着いた。
「大丈夫?」
「うん。結構体力を使っちゃったけど、大丈夫だよ」
とヴィヴィオが答えた。どうやらコロナとアインハルトさんの症状も落ち着いた。
「取り合えず、体力が回復するまでに簡単に作戦を考えるね」
「作戦と言っても何をどうすれば良いのか…」
と、コロナ。
「もう、あんなのが相手なら奇襲からの大威力攻撃で滅ぼすしか無いと思う」
「最大威力攻撃となると…今の状況ではこの間のスサノオを纏ったエキドナですか?」
とアインハルトさん。
「それしかないと思う。ただ、エキドナもスサノオもその展開に多少時間が掛かるね」
「エキドナのフルパフォーマンスにはヴィヴィオとアインハルトさんの力が必要だよ」
と、コロナ。
「そうだね…」
「だけど、そんなに時間は無いみたい。アルカンシェルの攻撃で一時的に動きは止まっていたみたいだけど、浮遊しながら次の都市へ向かっている…」
「コロナ、本体を地面に埋めたまま背面装備だけ地上に出せる?」
「…多分大丈夫だと思う」
「なら砲身だけ覆うくらいのミラージュハイドで姿を隠している内にエキドナを構成、スサノオで強化して遠距離射撃。…それでダメなら地表にでて一気に接近戦って感じでどうかな?」
「そうですね…あの大きさを相手にするのはやはりエキドナが頼りです。その作戦で良いと思います」
「うん」
アインハルトさん、ヴィヴィオとも反対は無し。ならば後は実行するだけだ。
『ミラージュハイド』
周りにあたし達を透かして光を透過する膜を張り、視界での発見を遮る。
「それじゃぁ、行きますっ…エキドナっ!」
コロナが地面に手を付くと、ググンと地面が固まる気配が感じられ、さらに地面から生えるように巨大な砲身が現れる。
「ヴィヴィオ、アインハルトさん、行きますよ」
「はい」
「うん」
いつかのように二人はエキドナのコントロールルームへと乗り込んだ。
あたしは砲身の上に陣取ると一度両目を閉じる。
すうっと再び目を開けた時にはあたしの瞳は万華鏡写輪眼へと変貌していた。
「…スサノオ」
今回は最初から全力全壊。
スサノオをエキドナに纏わせる。
バチバチと帯電する砲身。
『ロックオン完了。いつでも撃てるよ』
とヴィヴィオからの念話が入る。
「それじゃあ、一発デカイのをお見舞いしますかっ!」
『それで終わってくれれば良いんだけどね』
とコロナ。
『そこは祈っておきましょう』
と、アインハルトさん。
『誰に?』
『神様にです』
「神様ねぇ…確かに聖王様に祈れって言われるよりもマシかな」
『リオーーっ?』
「冗談冗談…さて」
『それじゃあ…ネメアー発射っ!』
コロナが最後の引き金を引き、砲身から雷を纏い砲弾が発射される。発射から着弾までは一瞬だった。
一発で相手の頭部を吹き飛ばすこ事に成功。
『やった?』
とコロナの問い掛け。
頭は確実に破壊されている。生物にとっての弱点では有るが…
『いえ、まだです』
アインハルトさんが否定。
「次、急いでっ!」
『次射、行きますっ!』
ヴィヴィオが急いで次射を発砲。
しかし、残った腕から布のような物が伸びてきてその弾に切り裂かれつつも完全に防ぎきった。
『三発目は間に合いませんっ!出ます!』
アインハルトさんの念話が響き、続いて地面から這い出るように獣型のエキドナが現れ地面を蹴る。
その巨体に似合わず俊敏に動き、カレンに向かって駆けるが、歪な巨大天使は両手を布のような物に変えて此方を突くように攻撃してくる。
伸縮自在意な上に偏向も自在なようで、かなりヤバイ攻撃だが、アインハルトさんもさるもの。どうしても避けれない物はそのエキドナにあたしが宿したタケミカヅチで切り裂き、他は全て獣の動きで回避していく。
なんだ?一瞬何かがチラリと見えた気がする。
あたしは視力を限界まで強化し辺りを警戒すると、大きな布に隠れて細い糸が何千本とばら撒かれている。その出所はどうやら髪のようだ。
マズイっ!
瞬間的にあたしは天照をエキドナの表面に纏わせ全身を包んでいた。
『これはっ!?』
「あたり一面細い糸で囲まれているのっ」
『大きい布の腕はフェイクで、本命はその糸だったと言う事ですね』
アインハルトさんは瞬時に理解してくれたらしい。
「でも、あれ位なら触れた瞬間に燃やしちゃうから大丈夫…ただ、燃費が悪いから…」
『短期決戦で行きますっ』
お願いします。
回避しながらもヴィヴィオは正確に狙いを付けてネメアーを発射。
当たっても直ぐに再生してしまうが、攻撃を続けないわけにはいかない。
再生した顔が不気味にアギトを開く…
キィーーーーン
甲高い音が聞こえる。
「こ、これは…」
『砲撃ですっ…!』
叫ぶヴィヴィオ。
「くっ…」
『これを避ける選択肢は私達には有りませんっ…!』
分かってるよっ!
後ろには都市郡。いまだ避難する人々。発射されればその人達の命が危ない。
ザザーーッと煙を上げてエキドナはブレーキを掛けると背中の砲身を天使のアギトへと向け、弾丸んを発射。しかし、一歩遅く相手の砲撃が放たれる。
『クリエイトっ!』
コロナが急いで地面を隆起させ、目の前に壁をつくりだし、威力を削ごうとするが、全く意味を成さない。
『みなさん、覚悟を決めてくださいっ』
アインハルトさんの念話が響く。
もう後はエキドナで受けるしか手が無かった。
あたしはオーラを振り絞り、前面に聖王の鎧を固めて衝撃に備える。
アインハルトさんはエキドナの体を潜り込ませるように砲撃に対して斜めに当たり、そのまま角度を変えていく。
「くっ…くぅ…」
砲撃が上空へと反れたが、相手の攻撃は緩まない。
どれだけの間、そうしていただろうか。永遠とも思える時間がようやく過ぎ、砲撃が終息する。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
あたしの聖王の鎧以外にもヴィヴィオ達がありったけの強化をしてどうにか防いだが、皆息が上がっている。
崩れ落ちるエキドナ。今のあたし達にエキドナを支えるだけの輝力は無かった。
「ヴィヴィオ、コロナ、アインハルトさんっ!?」
呼びかけても返事が返ってこない。エクリプスウィルスに感染直後に無理しすぎだ。普段ならまだ行けるはずであったが、アレで彼女達の体力が大幅に削られた事は確かだった。
「くっ…」
あたしは彼女達の安否を確認するよりも速くエキドナから飛び出し空を駆ける。
二撃目が来るのは彼女達の死を意味する。だったら取り合えず相手の敵愾心をあたしに引き付けなければならない。
あたしはスサノオを顕現させると、これ見よがしに空を駆けた。
天照をスサノオに纏わせて髪の毛による攻撃を防ぎつつ、口からの砲撃は空へ抜ける角度に誘導して回避。
でも、そんな事がいつまでも続くわけが無い。いつだって護る戦いは難しいんだ。
ニヤァと異形の天使が笑った気がした。
いや、確実に笑っていたんだと思う。
ああ、ああ…分かっている。あたしが今の状況でその方向への砲撃を許せるはずが無いと言う事を。
だって、あの方向にはあたしの両親が居るのだ。
全く持ってアイツは最低だ…受けるしか他に手が無いじゃないか。
あたしは急いで相手の射線上へと躍り出ると、タケミカヅチを形態変化させて盾を作り出すと全力で防御する。
放たれる閃光。
「くっ…あう…」
拮抗するも弾くのがやっとだ。
くっ…輝力がもう…
だめ、…誰か…
「アオお兄ちゃん…」
「ほらほら頑張れ。まだ行けるだろう」
「え?」
後ろから聞こえた声に視線を向けるとそこにはいつもあたしを安心させてくれる人の顔が有る。
「アオ…お兄ちゃん?…助けて…くれるの?」
「流石にリオ達がピンチなのに現れない訳には行かないだろう。…まぁ俺達でも敵いそうに無かったら来ないかもしれないけどね」
そこは絶対助けに来るよ、くらい言って欲しかったよ…
「ほら、気合を入れろ」
「え?あ…うん」
言われてあたしはスサノオの維持に努める。するとあたしのスサノオにスサノオを纏わせるようにアオお兄ちゃんのスサノオが被さった。
いつの間にかあたしのスサノオはヤタノカガミを装備して異形の天使の攻撃を弾いていた。
いつまでも撃ちっぱなしは出来ないようで、天使の攻撃が弱まりついには撃ち終わる。
耐え切った…
「絶好のチャンスだね。今を逃す手は無いよ」
「で、でも…距離が…」
「距離なんて俺の前では無いも同然。あの化物の後ろまで飛ぶよ」
「あ、…はい…」
言われたとおり動き出して…あたしは一瞬で異形の天使の真後ろに居た。
「え?ええっ!?」
転移魔法?いや、そんなちゃちな物じゃない。これはもっと別の何か…
そんな事を考えていると、アオお兄ちゃんはおもむろにあたしの右手を握り、振り上げた。
「あ…」
それに呼応するように振り上げられるスサノオの右手。
気がつけばスサノオには下半身があり、いつか見たあの完成体の姿をあらわしていた。
あたしだけの力じゃない。アオお兄ちゃんの力を借りて、今スサノオは完成体へと至ったのだ。
「最後は自分の意思で」
「…うん」
どこまでもアオお兄ちゃんはあたし達を助けてくれるけれど。こう言った決断はしてくれない。
あたしは再び天使の咆哮が開かれる前にその腕を振り下ろす。
「ああああああっ!」
銀色に輝く刀身にあたしは天照を纏わせ振り下ろす。
「GIYAAAAAAAAAAAaaaaaaaa」
あたしが振り下ろした刀身は、異形の天使を真っ二つに切り裂き、さらに細切れに引き裂かれた後に天照の炎に焼かれ消失していった。
あたし達が戦っていた時間なんてどれ程の物だっただろうか。
戦いなんていつも一瞬で決着がつく。あたしはあたしの世界を護る為に誰かの祈りを焼き尽くし…そしてあたしはその結果自分の世界は護られた。
ただそれだけ…
あたしはその一撃で全ての輝力を使い切ると、そこで意識を失った。
次に目が覚めれば自宅のベッドの上だった。
奇跡的にもあの事件を写したカメラにあたし達の姿は無く、大きく取り上げられたのはナゾの異形の天使とそれに食らいつく異形の魔獣となぞの巨人だけだった。
あの事件で亡くなったのは都市一つ分のおよそ7万人。その余りにも大きな事件の余波は凄まじく。アルカンシェルを撃った管理局はつるし上げられているが、パンデミックの脅威を知っていればそれも仕方の無かったものだと思える。しかしそれで人々が納得するかはまた別の問題なのだ。
あたしもあたしの家族があのアルカンシェルで亡くしていれば到底納得できなかっただろう。
誰もが納得できる決着ではなかったが、主母体はあの時の攻撃で消え去ったらしい。これで一応の脅威は去ったと言う事だ。まぁ野良感染者はまだまだ一杯いるし、サイファー達はつかまっていないらしいので問題はまだまだ有るのだが。
エクリプスウィルスに関する事件はこれで一旦巻く引きだ。結局誰があの異形の女神を倒したのか、メディアで騒がれているが…真相にたどり着かない事を祈ろう。
そう気持ちを切り替えるとあたしは再び訪れた日常へと戻っていった。
後書き
やはり酷いアンチ要素でお蔵入り。そして話が収集つかずになってしいました。でもとりあえずエイプリルフールですし、こんなものでも楽しんでいただければ。
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