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アザミの花

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第五章

「何でも三段で結構強いらしいわよ」
「三段ねえ、中々ね」
「それでいて気は優しくて力持ち」
「いい人なのね」
「そうよ、私も何度か話したけれどね、コンパとかで」
 そうした青年だというのだ、その彼が二人の前にいたのだ。向かい合う形で。
 その織戸がだ、鮎莉の前に来てこう言ってきたのだった。
「あの、前に何回か話したのね」
「コンパとかでね」
 鮎莉も織戸に笑顔で応える。
「そうしてきたわよね」
「うん、その時に思ったけれど」
「コンパの時とかに?」
「別にさ、告白とかじゃないよ」
 織戸はこのことは断った、声も朴訥としたものだった。
「そのことは言っておくね」
「告白ね」
「うん、それはね」
「まあ別にね」
 鮎莉は気さくな感じで笑って返した、右手を少しひっくり返す様に動かして。
「それでもいいけれど」
「俺もう彼女いるから」
「あっ、そうなの」
「そう、だからそれはないから」
 こうした時にお決まりの流れはまずは否定された。
「そのことは言うから」
「わかったわ。それでどうしたの?」
「最近綾坂さん何か違うよね」
 こう鮎莉に言うのだった、隣りに聡美がいる彼女に。
「どうもね」
「最近女の子らしくなろうって思って」
「それでなんだ」
「そうなの、華道とか茶道とかしてね」
 聡美と一緒にいることをだ、こう言ったのだった。
「大和撫子になろうってね」
「そう思ってなんだ」
「そうだけれど」
「ううん、ちょっとね」
「ちょっとって?」
「いや、何か違うなって思ってね」
 織戸は少し残念そうに、寂しそうな笑顔になって鮎莉に答えた。
「それって」
「違うって?」
「綾坂さんは明るくて飾りがなくてね」
 そしてだというのだ。
「屈託のない、あけっぴろげなところがよかったから」
「おっさんみたいでも?」
「おっさんかな」
「ええ、それで変えようとしているから」
 聡美のアドバイスを受けてだ、鮎莉はその聡美の名前は伏せて織戸に答えた。これは親友の聡美を気遣ってのことだ。
「女の子らしくね」
「女の子らしくなんだ」
「そうなろうとしてるけれど」
「これ、俺だけじゃなくて周りもよく言ってるけれど」 
 ここでこう言ったのは彼だった。
「綾坂さんが最近何か違うって」
「言ってるの」
「俺の周りはね」
「そうだったの」
「綾坂さんはそれでいいって」
 これまでのざっくばらんがだというのだ。
「おっさんでね」
「そうなのね」
「そう思うんだ、俺や周りはね」
 それがいいかというのだ、これまでの鮎莉が。 
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