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アザミの花

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第四章

「あんたスカートは嫌いよね」
「高校まで無理して穿いてたわ」
「それならそれでいいから」
 ズボンでもだというのだ。
「そんな野暮ったいのじゃなくて可愛いの、半ズボンとかね」
「それとタイツよね」
「そういうのを穿くのよ」
 ズボンはズボンでもだというのだ。
「ただ間違っても虎柄とか豹柄は駄目よ」
「大阪のおばちゃんみたいなのは」
「そう、絶対に駄目よ」
 それは決してだというのだ。
「百合じゃないから」
「確かにね、百合っていうかね」
「大阪よ」 
 花ですらないというのだ、まさに大阪だというのだ。
「甲子園よ」
「甲子園は西宮でしょ」
「虎だからよ」
 ここでは豹も含まれている、どっちにしても阪神だ。
「女の子でも阪神を応援していいけれど」
「大事なのはファッションなのね」
「阪神帽を被って猛虎法被に黒と黄色のメガゴンも甲子園限定よ」
「私中日ファンだけれど」
「それでもよ、私もカープファンだけれど」 
 そうした武装は球場限定にしているというのだ。
「若い女の子は普通に野球帽を被って外に歩くべきでないのよ」
「おっさんみたいだからなのね」
「考えてみればあんた普通にドラゴンズ帽被って外歩いてるけれど」
「これからはなのね」
「そう、それも駄目よ」
 こちらも禁止だというのだ。
「わかったわね」
「ドラゴンズはスマートなイメージあるけれど」
「何処が!?」
 鮎莉のドラゴンズがスマートという言葉にはだ、聡美は心から否定する顔と言葉で即座に切り返したのだった。
「ドラゴンズの何処がスマートなのよ」
「違うの?」
「名古屋でしょ」
「そうよ」
 野球ファンなら誰もが知っている、ドラゴンズは名古屋の球団だ。中日という球団名にそれがもう出ている。
「紛れもなくね」
「味噌カツ、きし麺、味噌煮込みうどん、鶏、ういろうじゃない」
「どれもっていうのね」
「百合じゃないでしょ」
「確かにね。テレビ塔とかもね」
「何度も言うけれど女の子らしくよ」
 少なくともドラゴンズにはなるなというのだ。
「俺竜じゃなくてね」
「スマートなの」
「そういうことでね、もっとね」
「女の子らしくね」
「そう、頑張ってね」
 その背中を押す言葉だった。
「私も出来るだけアドバイスするから」
「アザミから百合になる為に」
「親父ギャルから大和撫子よ」
 そうなって欲しいとだ、聡美も真剣に言う。そしてその彼女にだ。
「そうなっていくわよ」
「それじゃあね」
 こうしてだった、鮎莉の改造計画即ち花としては百合、人間としては大和撫子になっていく行動が進められていった。
 しかしだ、ここで。
 大和撫子修行をしている鮎莉が聡美と一緒に下校しているとだ、その前に。 
 背が高く朴訥した感じの青年が立っていた、その彼を見て聡美が言った。
「あれ、法学部の」
「ええ、織戸正和君よね」
「同じ学年のね」
「柔道部でね」
 聡美だけでなく鮎莉も言う。 
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