久遠の神話

「本当にね」
「そうですね、まさか炎の剣士がそうしたことを考えているとは」
「人間はね」
　今度は人間がどうかとも言う智子だった。
「この世で最も難しいものよ」
「その心を読むことはですか」
「ええ、非常に複雑なものだからね」
　それ故にだというのだ、智子は智恵の女神でもあるがそれでも自分の限界についても言及するのだt６た。
「読みきることはね」
「難しいですね、それは」
「とてもね」　
　またこう言うのだった。
「私も読みきれない位にね」
「そういうものですか、お姉様でも」
「万能の神はいないわ」　
　例えそれが自分が司るものであろうともだ、それでもだというのだ。
「アポロン神も死んだ者はどうにもならないし」
「それで、ですね」
「私もね。智恵の女神であっても」
　そうであってもだというのだ。
「人間の心を読み切りことは完全には出来ないわ」
「だから今回は」
「こうなってはどうしようもないわ」
　中田を翻意させられないというのだ、最早。
「もうかなり早い段階から決めていたみたいね」
「水の剣士と闘うことを」
「決意はどうにもならないわ」
　人間の決意、それはというのだ。
「私達のそれ以上にね」
「残念ですね」
「残念でもね。こうなってしまったからには」
　告げ見守るしかない状況になった、それならばだというのだ。
「この中でやっていくしかないわ」
「祈るばかりです」
　聡美は沈痛な声でこう言った。
「今は」
「彼等がどちらも倒れないことをね」
「それをですね」
「はい、最早」
　こう言った聡美だった、そのうえで。
　二人から離れてだ、静かに告げたのだった。
「では今から」
「水の剣士の前に赴き」
「そのうえで」
「告げてきます」
　中田の言葉、それをだというのだ。
「これから」
「辛いわね」
　智子はその聡美に告げた、彼女の言葉を。
「貴女にとっても」
「いえ、これも務めです」
　聡美は全てを受け入れている顔で智子に返した。
「ですから」
「いいのね」
「あの方を止める為に」
　まさにだ、その為にだというのだ。
「私はあらゆることをしようと決意したのですから」
「だからですね」
「そうです、今も」
　上城に告げに行くと言うのだ、こう話してだった。
　聡美は今はその場を後にした、これから彼女がしなければならないことが彼女にとってどれだけ辛いことかわかっていてもだ、覚悟を決めて行くのだった。


第九十五話　　　完


　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　２０１４・１・１０