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戦国異伝

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第百五十六話 加賀平定その十二

「それで」
「有り難い言葉ですな」
「松永殿にも事情がありますから」
 それでだとだ、羽柴は穏やかな声で松永に話す。
「それでは」
「お気遣い有り難うございます」
「ではその様に」
「それがし今は織田家の家臣です」
 そうだとだ、松永はこのことは確かに話す。
「そのことは約束します」
「それがしもそう思っています」
「羽柴殿だけです」
 自分をそう言ってくれるのはとだ、松永は微笑んで羽柴に話すのだった。そうした話をしながらだった。
 織田軍は今度は比叡山に向かう、その途中林は怪訝な顔で佐久間に話した。織田軍の進みは速く加賀から越前に入り近江に向かっている。織田軍はお世辞にも強いと言えないがその足は速いのだ。
「比叡山は出来るだけのう」
「揉めたくない相手ですな」
「ある意味において本願寺以上にな」
 今織田家が四つに分かれてぶつかっている相手よりもというのだ。
「戦をしたくない」
「ですな、全く以て」
「しかし」
 ここでだ、林はここで佐久間にこうも言った。
「殿が決められればな」
「その時はですな」
「義教公と同じく」
「比叡山を焼くこともですか」
「やろうぞ」
 こう言ったのである。
「殿のお決めになられたことなら間違いはない」
「ですな、殿ならば」
「それに比叡山は昔から腐った坊主も多い」
 このことは平安の頃からだ、比叡山もいるのは高僧や立派な僧侶だけとは限らないのが現実なのだ。
 それでだ、二人に明智も言ってきた。
「あの寺はよい僧と同じだけです」
「悪しき僧もおるな」
「そうした寺じゃな」
「それは高野山も同じです」
 比叡山を開いた最澄と並び称される空海が開いた寺もだというのだ。
「腐った僧も多いです」
「どちらもじゃな」
「困ったことであるが」
「しかし義教公は」
 室町幕府のこの将軍についてはだ、明智は否定する顔であった。それは何故かというと。
「あの方は恐ろしい方でありましたので」
「あれだけのことをされてはな」
 林も足利義教のことは知っている、室町幕府の将軍の中で最も悪名高い将軍だったからだ。
「何かというと殺生じゃった」
「それが為に御身を滅ぼしました」
 明智がその林に応える。
「あの方は人としてあまりにも不仁でした」
「仁はなくてはならぬ」
 人としてだ、林が言うのはこのことだ。
「義教公の様なことはしてはならぬのじゃ」
「例え戦国の世ではあっても」
 佐久間も曇った顔で述べる。
「絶対にですな」
「比叡山と揉めることもな」
 天下の聖山と言っていい、それ故になのだ。
「殿がどうされるかじゃな」
「今のところ殿はそうしたお考えはありませぬ」
 三人に村井が言ってきた。
「決して」
「そうであろう、殿にしてもじゃ」
「そうしたことはないに越したことはありませぬな」
「だからじゃ」
 それでだというのだ。 
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