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パンデミック

作者:マチェテ
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第五十三話「そして現在」

―――【エクスカリバー本部内・第8医務室】





「そんな……………ことが…………」

ソレンスはヴェールマンの話に"信じられない"という表情を浮かべた。
しかし、ヴェールマンは自身の話を続けた。

「ゲートが閉じた後、私とブランクは必死にゲートを叩き続けた。そんなことしても開くわけがない。
分かっていてもゲートを叩き、向こう側にいるフィリップに開けるように言い続けたよ。しかし……」

「ゲートが開くことはなかった……と?」

「そうだ……私は絶望で泣いたよ。情けないことだが……ブランクはしばらく放心していた。
それから少しして、私達の無事を確かめるために戻ってきたタガートとその隊の兵士に連れられ
私達は爆撃機に乗せられた。結果として……フィリップを置き去りにした」

ヴェールマンはそこまで話すと、下を向いて俯いた。

「確かにフィリップは感染した……連れ帰ることはできなかったかもしれない……だが……時々思うことが
ある。"もしあの時、掴まれた腕を放さなければ"………"もし無理を通してでも連れ帰ることができて
いたら"と………しばらく後悔し、立ち止まっていた」

「司令…………」





「懐かしい話をしてますね、司令」

声がした方を見ると、ブランクが目を覚まして身体を起こしていた。

「ブランクさん、もう起き上がっても大丈夫なんですか? まだ寝ていた方が……」

「そうはいかない……司令、本部内の現状を教えてください」

ブランクがそう言うと、ヴェールマンは静かに頷き、本部の現状を説明し始めた。










「そうですか………司令、俺が"暴走"した時、どんな感じでしたか?」

「私よりソレンスに聞くといい。彼の方が私よりもその時の状況を見ている」

そう言われ、ブランクはソレンスの方に顔を向け、ソレンスの言葉を待っている。
ソレンスはその時の様子を、自身の主観で話した。

「俺が本部内に侵入してきた感染者を殺し回っていたら、倒れていたブランクさんを見つけたんです。
心臓を貫かれたような傷口があって、そこから信じられない量の出血が……正直、もう助けられない
と思いました。その時です。ブランクさんに変化があったのは………」

「変化?」

「心臓の傷口から、黒い液体が溢れ出てきて……それが傷口を塞いだんです。何が起きたか分からず混乱
していた俺の目の前で、ブランクさんが起き上がって……でも、それは俺の知るブランクさんじゃなかった」

「どういうことだ…………?」

「覚えていないんですか? 装甲壁のゲートの方を見て"殺す"って言ったんですよ?」

ブランクとヴェールマンは驚きを隠せずにいた。
ブランクは頭を抱え、当時の状況を必死に思い出そうとしている。

「ブランクさん、あのスコーピオとかレオとか言う適合者はブランクさんが追い払ったんです」

ソレンスの言葉と同時に、ブランクは大きく目を見開いた。



「…………………思い出した」



「俺は………フィリップ…いや、スコーピオに心臓を刺し貫かれた………その後に、強烈な殺意が
混み上がってきて………その後は思い出せない。一体、俺は………」

適合者である自分への疑問と嫌悪感。
ブランクの心の中にそれらが渦巻き始めた。

「適合者とは本当に分からないことだらけだ……それにブランク。何があったかは知らないが………
あいつは………フィリップは………」

「違います」

ブランクはヴェールマンの言葉を即座に遮った。



「"アレ"はフィリップじゃない。殺すべき敵、人類の害です」

「ブランク……」












「司令、緊急の会議が……目ぇ覚めたのか、ブランク」

医務室にレックスが入ってきた。

「あぁ……」

「緊急の会議?」

「はい、"クラウソラス"、"カラドボルグ"のメンバーは全員集合し、本部防衛作戦の報告をしろ、とのこと
です。暴走したブランクの処遇も、この会議で決めるそうです」

「暴走した姿を見て、兵士達の間で動揺が広がっているからな……」

「………そういうことだからブランク、お前は大人しくここで待ってろ。部屋から出ない方がいい」

「……………分かった」



ヴェールマンは椅子から立ち上がり、ソレンスに「ブランクを頼む」と言い残し部屋を出た。






「ソレンス………俺は、やはり化け物……かもしれないな」

その言葉に、ソレンスは肯定も否定もしなかった。


「それを決めるのは俺じゃありません………決めるのは自分自身だと思いますよ」 
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