少年と女神の物語
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『五柱の毛玉』編
第五十話
「ん・・・朝か」
俺は玄関の開く音で目を覚ました。
そしてそのまま、いつものように部屋の隅にある更衣スペースで制服に着替えて一階に下りると・・・
「・・・久しぶりだな。不法侵入はどうかと思うぞ?」
「あ、久しぶり、武双君」
まったく、山から下りてるなんて珍しいな・・・
「なんでまた、オマエが人里に来てるんだ恵那?」
「いや~。ちょっと用事があってさ。明日から動く予定なんだけど、その前に挨拶だけはしとこうかな、って」
そんな理由で不法侵入してくるかよ、普通・・・
「で?挨拶、ってのは?」
「一応、自分が住んでる国に新しい王様が生まれたんだから、さ」
そういいながら、あっけからんと笑っていた恵那の顔が真面目なものに変わる。
「この度は、旧知の中とはいえご挨拶が遅れてしまい、申し訳ありません。私は」
「そういうのいいから」
「あ、やっぱり?一応型としてやってみたんだけど」
そして、一瞬で表情が戻る。
恵那とは一応旧知の仲、ということになるが、お互いの中にあるのは創作物でよくあるようなものではない。
普通に仲のいい知り合いだ。ついでに言うと、氷柱の相談相手でもある。
「はぁ・・・で?人里に下りてきた目的は?」
「もう一人の、日本に生まれた王様のお妾さんになりにきた」
「そうか」
「あれ?予想以上に反応が薄いな?」
つってもなぁ・・・
「どうせ、御老公からだろ?」
「あ、正解。おじいちゃまから言われたんだ」
「んじゃ、頑張れよ。多分逆に口説かれておしまいだろうから」
俺はそう言いながらキッチンに立ち、朝食の準備を始める。
「あ、恵那の分もお願い!」
「図々しいな、オイ・・・」
この状況、委員会のお偉いさんが見たらどんな反応するんだろう。
自分とこの媛巫女筆頭が、カンピオーネに朝食を要求してるぞ。
「ふぁ~・・・って、あれ?恵那さん?」
「あ、久しぶり氷柱ちゃん!」
「はい、お久しぶりです・・・って、そうじゃなくてですね!」
やはり、氷柱もここにいることに戸惑っているようだ。
「大丈夫!おばさんからここの鍵は預かってるから」
「いや、何でですか!」
「たまに降りてきたときに、食事していっていいよ~、って」
「そんなこと・・・言いそう、ですね・・・」
「言いそう、ってか言うだろうな。ものすごく納得した」
それでここにいるのか・・・せめて、俺たちには教えておいて欲しかったな。
「あの・・・どうしたん、ですか?朝からにぎやかですけど・・・」
「あ、悪いな狐鳥。起こしちまったか」
と、そんな感じで騒いでいたら目をこすりながら狐鳥が起きてきた。
狐鳥、スクナビコナを殺した後で空港に迎えに行った子で、一番最近家族になった。小学五年生。
持っているスペックが色々と規格外な上に、人間には到底出来ないと思っていたことを平然とやっている・・・いや、たくさんの犠牲を出しながらやられた子だ。
まったく・・・こんな小さい子にやった、って事実はひたすら苛立つことだけど、それをやることの出来たクズどもの技術、それを受け入れることの出来た狐鳥の持つ異常な才能には、賞賛を送りたい。
「ん?その子、新しい子?」
「ああ。一番最近、うちに来た子だな」
「確か、恵那さんが最後に来てからだと・・・もう四人増えてるんじゃないかしら?マリー姉様には会ったことありましたっけ?」
「あるよー。そうか・・・そんなに増えたんだ・・・」
「そう、そんなに増えました」
いつの間にかいたマリーが声を出して、全員を驚かせる。
ほんとにいつの間にいたんだ・・・あの恵那ですら、驚いてるぞ・・・
「おはよう、武双お兄様。お味噌汁の匂いで起きてきました」
「普段寝坊派のマリーは、ついに匂いで起きてこられるようになったか」
「うん。だから、毎日武双お兄様がお味噌汁を作る、というのを提案してみたり・・・」
「却下で」
俺がはっきり言うと、マリーは不満そうな顔でこちらに歩いてくる。
そんなマリーの歩く様子には一切無理している様子がなく、俺はいつものことながら安心する。
「ん?いつも言ってるけど、足はもう大丈夫だよ?」
「といわれても、心配になっちまうんだよ」
「自分が権能で治したのに?」
そう、マリーの足は権能・・・スクナビコナから簒奪した権能で治した。
名前は、医薬の酒。使った瞬間に毎回違ったサイズの酒樽が出てきて、症状にあわせて中の酒を患部にかけたり飲んだりして、症状を治すことができる権能だ。
発動条件として、治したいと思う傷、症状が目の前にあることが必要となってくるのだが・・・恐らく、俺に対して使う機会は少ないと思われる。
なんせ、これによる回復も沈まぬ太陽を使っている間は打ち消されてしまい、戦闘中はそっちを使っていることが多いんだから。
「まあ、むしろ権能だから心配なんだよな。まだ何が起こるのかわからないし」
「まあ、大丈夫だと思うけどね」
「それなら、気にしないことにするか」
「といいつつ、明日になったらまた聞いてきそうな気配」
うぐ、否定できない・・・
その後、恵那も含めたメンバーで朝食を取り、そのまま各自の学校に向かった。
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