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Fate/DreamFantom

作者:東雲ケイ
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stay night
  01Anfang

 
前書き
 違反をして一度は削除されたものですが、よろしければ見てください。 

 
 世界は夢幻で構成されている。
――Die Welt besteht aus Träumen und phantasms.――
 
数多の正義と数多の悪。
 ――Reichliche Gerechtigkeit und reichliches Unrecht.――

 目指す先には光があり、
 ――Licht ist unter den Punkten zu Ziel dabei,――

 悔やむ先には闇がある。
 ――Dunkelheit ist unter den Punkten zu Bedauern.――

 視線の先に生はなく、
 ――Es gibt roh kein im Punkt eines Aussehens,――

 心のどこかに死が付きまとう。
 ――Der Tod lungert in Herzen irgendwo herum.――

 故にこの体に心は存在せず、
 ――Deshalb existiert das Herz nicht in diesem Körper,――

 命を遊ぶ人と成れ。
 ――Änderung in jenen, die ein Leben spielen.――



 雷鳴が轟く黒雲に包まれた暗黒の大地に、彼女は立っていた。
 無数の血で体を染め、光という(いかづち)に照らされる女の子。
 焦土の様に焼き焦げた大地の奥に、噴火し続ける火山が見える。
 湖は灼熱のマグマによって構成され、水分は目で見えるものは汗しかない。
 命という概念が破壊され続ける世界。
 生がない世界。
 死を具現化した世界。
 多くの言い方があるだろうが、男にとってはこの世界は自分自身。
 心象世界と呼ばれる自分の写し鏡。
 だがそれを否定したくなるほどの地獄絵図。
 まさにトラウマそのもの。
 一歩踏み出すたびにじゃりという石が擦れる音が響く。
「君は、誰だ」
 心象世界に佇む血で体を染めている女の子。
 それに話しかけた少年は、彼が振り向くと同時に――



――目を覚ました。
「っ! はぁ、はぁ……」
 悪夢の様な光景に冷や汗を流し、起き上がった少年は汗だくになっていた。
「これで何回目だよ……」
 およそ十年前から永遠と見続けている悪夢。
 それは必ず女の子が振り向くと同時に夢から覚醒する。
「訳が分からない」
 自身が知らないはずの単語が次々と自身の口から出てくる。
 心象風景、写し鏡。
 そして必ず最初に聞こえてくる、ドイツ語らしき言葉。
 ドイツに行ったことなど一度しかなく、悪夢を見始める前に起きた両親の事故死からは一度も行っていない。
 そう。両親の事故死からこの悪夢を見始めたのだ。
「関係あんのかなぁ……」
 そんな呟きは虚空に消え、起き上がった少年は汗だくになった寝間着を脱ぎ捨てると台所で水を一気に飲み干した。
「はぁ……」
 水を飲み終えた少年はリビングに飾ってある写真を悲しそうな表情で見た。
 そこに写っているのは少年と、その両側に立つ男女。
 もしかしなくても、少年の両親だ。
 少年は写真を見てからまだ朝日が昇っていない空を見て、ジャージを着ると外へ出た。
「はっ、はっ」
 毎日続けているトレーニングであり、十年前から一度として怠ったことはない。
 風邪を引いた時も、怪我をした時も必ず走っていた。
 そのおかげか知らないが、少年は学校で最も速い男子として有名になっていた。
「俺はまだまだだ」
 それでも足りない。
 少年を埋めるものが何か欠陥している。
「今日も早いな、少年」
 教会の前まで行くと、そこにはその教会で働いている言峰綺礼がいた。
「神父さん、おはようございます」
「おはよう。頑張っているようだな」
 立ち止まると、一礼する。
「はい。今年は最後の中体連があるので」
「そうか。そんな年か。ということは、君は5歳から走っているということかな?」
「一応そうなりますね」
 そんな年から走っている人物がおかしいという概念を、少年は持っていない。
「その年から走り続けているとは、君にもきっと神の加護があるだろう」
「ありがとうございます。じゃあ俺はこれで」
 走り出した少年を見て、綺礼は愉悦の笑みを浮かべた。
「珍しいな、綺礼。貴様が他人の努力に笑みを浮かべるとは」
「英雄王。彼もまた、聖杯に選ばれるのだよ」
 現れた金髪の男性に対し、綺礼は簡潔に事実を伝える。
「ほぉ……あの小僧、魔術師だったか」
「いや、気づいてはいないだろう。ただ内なる魔力は死すら恐れる量だ」
 綺礼は今までの人物からその魔力と才能を推測する。
「そうだな。我が教え子の凛と同格、むしろそれ以上かもしれん」
「何?」
 凛の実力を知っているギルガメッシュだからこそ、その表現に対し怪訝な表情をした。
「それほどの奴が何故存在している?」
「彼は十年前に家族を亡くしていてね」
 その言葉だけで、ギルガメッシュは大抵の予想がついた。
 だからこそ少年を称える。
「我以外に、泥を飲み干す奴がいるとはな」
「飲み干してはいないだろう。ただ死ななかっただけだ」
 それだけでも脅威に値するのだが、綺礼はその程度だと割り切る。
 そうでなければギルガメッシュと同格ということを認めなければならなくなるからだ。
「奴の名は?」
仞凪(はかなぎ)夕璃(ゆうり)だ」
「仞凪か。我はあいつが気に入った」
 ギルガメッシュがそう言ったのを聞き、綺礼は更に愉悦の表情を深めるのだった。



「ふぅ」
 走り終えた夕璃は学校に行く支度をすると、朝食を簡単に作ってから学校に向かう。
 実は夕璃を世話してくれる人物は誰一人としていない。
 本当ならば親戚のおばさんが世話をしてくれる予定になっていたのだが、一人だけ生き残った気味が悪い子供ということで何もしないで放置している。
 だから全てのことを自分でやっているので、夕璃の家事スキルは相当なものとなっている。
「おはよう」
 クラスに入ると色々な友達から挨拶を貰い、それに一度一度返してから席に座る。
 それから家事に手を取られてできない予習をやり、授業に備えるのだ。
 いつもの学校生活。
 いつもの生活。
 それだったはずなのに、全ては放課後に変わった。
「痛っ!?」
 帰宅途中に自身の左甲に現れた紋章。
 それが全ての始まりだった。
「なに、これ……」
「あんた、マスターなの?」
 その声に気付いて見上げると、そこには赤い服を着た女子がいた。
「誰……ですか? というか、マスター?」
「惚けているのか本当なのか知らないけど、令呪があるということはそういうことよね」
 その隣に現れる赤い外套を見て、夕璃はぞっとした。
 自分とはかけ離れた存在のような気がして、夕璃はかなり動揺していた。
「どうやら彼は相手との実力差くらいわかる人物らしい」
「やばいよね、これ」
 逃げ出そうとする夕璃を見た凛は追いかけるように命ずるが、アーチャーが律した。
「待て凛。今は追撃するよりも、奴がサーヴァントを召喚するもしくは霊体化を解除させるまで待ったほうがいい」
「そうね。じゃあアーチャー、よろしく」
「まったく人遣いが荒いマスターだ」
 アーチャーが姿を消すと同時に、陰からそっと見守る姿があった。
「そろそろ本題を切り出してやるとするか」
 それは愉悦を浮かべた綺礼だった。



 逃げ切った夕璃は上がった息を整えてから自宅の一室に入っていた。
「なんかやばかったなぁ……」
 何か得体の知れない恐怖を持った赤い外套のアーチャー。
 そして夕璃は何かを感じていた。
 同時に、インターホンが押された。
 出たくはないのだが、出ないのは相手に悪い。
「今出ます」
 出た先にいたのは、無表情の神父こと綺礼だった。
「綺礼さん?」
「やぁ夕璃君。少し話をしたいのだが?」
「いいですよ」
 綺礼を案内すると、リビングでお茶を入れて出した。
「すまないな。今日は聖杯戦争というものについて話に来た」
「聖杯戦争?」
 一口お茶を口に含んで喉を潤してから、綺礼は饒舌でその聖杯戦争について話し始めた。
 サーヴァントを用いて敵マスターを倒す魔術師による戦争。
 それが聖杯戦争だと。
「魔術師……。そんなものが存在していただなんて」
「君もその一人なのだよ。左手の甲に令呪があるだろう?」
「これが令呪!?」
 驚く夕璃はまじまじと自分の左手の甲を見つめる。
「正直、信じられないです」
「ならばその身をもって信じるといい」
 出されたのは魔法陣。そこに一滴の血を垂らし、サーヴァントを召喚する。
「さぁそこに書いてある詠唱を唱えたまえ」
「素に銀と鉄。礎に医師と契約の大公。降り立つ風には壁を四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。
閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)。繰り返すつどに五度。ただ満たされる刻を破却する。
――告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。
 誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。
 汝三大の言霊っを纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ――!」
 詠唱終了と共に風が辺りを吹き飛ばし、両手で顔を防ぐ。
 そして夕璃が顔を離した時、そこには少女がいた。
 青いツインテールの髪に、半眼に開かれた緋色の瞳。
 あの悪夢の中で必死に求めていた少女の顔。
 見ることのできなかった夢の少女。
「召喚に応じました。クラスは……ストライカー」
 それを見た綺礼は顔を顰める。
 おかしい。
「既にサーヴァントは7体揃っているというのに……」
「私、イレギュラー?」
 首を傾げるストライカーを見て、夕璃が口を開こうとしたところで身の危険を感じた。
「ストライカー!」
「む」
 どこからか取り出した黒い槍で飛んできた何かを弾くと、ストライカーは飛んできた方向を見た。
「どこかに、いる」
 右手で持っていた黒い槍と左手に白い槍を手にした。
「見つけ、た!」
 強く踏み込むと同時に超高速で移動するストライカー。
 そして何kmか先にいたアーチャーを見つけた。
「あれを防ぐとは中々の武人だな」
「今呼ばれたばっか。ゆっくりしたかった」
 二本の槍を構えるストライカーは、刹那の内にアーチャーに飛び掛かった。
「くっ!」
 さすがにステータスの差が激しく、中々攻撃することができない。
 アーチャーの剣はストライカーの槍によって逸らされ、それによってできた隙にストライカーが槍を突き出してくる。
「中々やるな!」
 だがアーチャーも負けてはいない。
 二本の剣を上手く使い分けてその槍先をずらすことによって防ぐ。
「そっちも。でも、負けない」
 ストライカーは身をかがめるとアーチャーの懐に入り込み、槍を振って少し傷をつけた。
「ちっ」
 ジャンプして下がろうとしたアーチャーだが、ストライカーの敏捷はA+++。並のサーヴァントでは逃げ切れない。
「これで死ぬ」
 二本の槍を突き出したところで、夕璃が現れた。
「ダメだストライカー!」
 ピタリとストライカーが止まり、その隙にアーチャーが離脱する。
「駄目だよ、女の子が殺しなんてしたら」
「女の子……。でも私は、英霊」
「女の子ったら女の子でしょ? 今日は一杯話さなきゃならないことがあるから、撃退するだけでも良かったんだよ」
 実際はただ単に夕璃が人殺しを嫌っているからであり、ストライカーと話すことも事実であるがそれだけが理由ではなかったのだ。
「わかった」
 夕璃の後をとてとてとついていくストライカーを遠くで眺めながら、綺礼は危険を感じていた。
「あのステータス。恐ろしいものだな」
 筋力と耐久を抜く全てがA以上という馬鹿げた数値。
 そしてスキル。
 だが綺礼が危惧していたのはそんなことではなかった。
「それよりも少年だ」
 どうやってアーチャーの攻撃を察知したのか。
 そしてどうやってあの場所までサーヴァント並みの速さで向かうことができたのか。
「どうやら今回の聖杯戦争は、かなり危険なものになりそうだ」
 綺礼はそう言うと去って行った。
 
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