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紫と赤

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第五章


第五章

「僕達は今ハンバーガーショップにいたんだ」
「そうだよ。じゃあ」
「うん」
 コリンが自分にとって左手を見るのに合わせて彼は自分から見て右手を見た。そこに彼が今までその存在を忘れてしまっていたものがあった。
「食べようか」
「そうだね。しかし本当に忘れていたよ」
「その集中力が凄いよ」
 彼のそこを褒めるのだった。
「本当にね」
「何かね、絵のことになったら忘れるんだ」
 チャーリーも苦笑いになって述べた。
「ついね。どうしてもね」
「それが凄いんだよ。その集中力がね」
「そうかな」
 自分では今一つ自覚がないチャーリーだった。言われてもぼんやりとした返事だった。
「僕は別にそれは」
「そういうのは自分ではわからないからね」
「だから気付かないっていうんだね」
「そういうことさ。まあとにかく」
「うん」
「食べよう」
 コリンが今いうのはこれに尽きた。
「人間食べないと何もできないからね」
「確かにね。それなら」
 まずはエネルギーの補給だった。そのハンバーガーとコカコーラという如何にもアメリカ人の食事を終えた彼はコリンと別れロスでも有名な化粧品店に向かった。そこでは色とりどりの鮮やかなまでの様々な色の化粧品がショーウィンドウそのままに飾られていた。そこにいる店員達も化粧をして実にお洒落なものである。そういうことが好きなチャーリーにとっては悪くないどころか非常に好感が持てる場所だった。
 その場所に入り彼がまずとりわけ奇麗なアジア系と思われる背の高い店員に対して言ったのは。この言葉であった。
「リップとマニキュアとアイシャドーだけれど」
「その三つですか」」
「そう、色は赤」
 実際にこう述べたのであった。カウンターに右手を置いた彼の横にはリップが逆さまに立てて置かれている。ガラスのその中にも様々な化粧品がこれみよがしに置かれている。だが彼は今はそれはちらりと見るだけで店員にその三種を見せてくれるように言うのだった。
「赤を頼むよ」
「赤ですか」
「あと紫も」
 言い忘れそうだったのですぐに付け加えた。
「それも。頼むよ」
「どちらもかなりの種類がありますが」
「全部見せて欲しいんだけれど」
 こう店員に告げた。
「全部ね」
「全部といいますと」
 そのアジア系の店員は彼の言葉を受けてまずは目を怪訝なものにさせた。顔はすました感じだがわりかし表情豊かなようである。
「かなりの数になりますが」
「うん、わかってるよ」
 チャーリーはその怪訝な顔になった店員に対してにこりと笑って言葉を返した。つまり全然構わないというわけである。笑顔で語るのであった。
「それはね」
「ですが紫もですよね」
「それもね」
 このこともはっきりと答えるのだった。
「頼むよ。いいかな」
「お客様さえ宜しければ」
 怪訝な顔をそのままに答える店員だった。
「お出しします。アイシャドーにマニキュアにリップですね」
「それでな。髪の毛を染めるのは。どうかな」
「それもありますが」
 ここでは生真面目に答えてきた店員だった。こうしたことはちゃんとわきまえているようである。怪訝な顔を見せてはきてもしっかりしていると言えた。
 
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