Element Magic Trinity
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悲しみを背負うには
六魔将軍は壊滅、ニルヴァーナは破壊され停止。
リチャードとジェラールのと別れを経験しながらも、連合軍は勝利を収めた。
そして―――戦いで傷つき疲れた体を休める為、連合軍はウェンディ達のギルド、化猫の宿に来ていた。
「わぁ!かわいい!」
「私の方がかわいいですわ」
金髪を三つ編みにし、頭に花飾りを付けたルーシィが自分の着ている服に目を向ける。
肉球模様のトップスに腰に大きめのリボンが付いたロングスカート、足元はヒールのないサンダルだ。
鏡の前に立つシェリーは逆三角形にフリッジの付いたトップスにフリルをあしらったミニスカートを着ている。
「ここは集落全部がギルドになってて織物の生産も盛んなんですよ」
「私が着ていたケープとワンピースもここで作られた物なんです」
「ニルビット族に伝わる織り方なの?」
ホルターネックの緑色ワンピースを着るウェンディと、パフスリーブの白いワンピースを着るココロは首を傾げる。
「今・・・思えばそういう事・・・なのかな?」
「あなた達、ギルド全体がニルビット族の末裔って知らなかったんでしたわね」
「私もウェンディちゃんもアラン君も後から入ったから」
シェリーの言葉にココロが頷く。
彼女たちは着ていた服がボロボロになってしまった為、ギルドの服を着させてもらっているのだ。
そんな会話をしていると、ルーシィの目にテントの隅で1人座るエルザが映る。
「エルザも着てみない?かわいいよ」
ルーシィがそう言うが――――
「ああ・・・そうだな・・・」
エルザの返事はどこか上の空。
ジェラール逮捕の一件以来、ずっとこの調子なのだ。
だがジェラールが逮捕されてすぐに立ち直れという方が難しいだろう。
そしてもう1人、ブチギレていたティアはというと――――
「あーもう!人を人形みたいに扱わないでよ!」
声が響いた。
何が起こっているかを簡単にまとめると・・・
・ギルドに来て早々、ギルド女性陣がティアの整った顔立ちに目を付けた。
・口が悪いが口さえ開かなければ人形のように可愛らしいティアはすぐさま連行された。
・そして現在、着せ替え人形のようにギルド生産の服を色々着せられている。
「みなさーん、あんまりティアさんで遊んじゃダメですよー」
「大丈夫よ。もう終わったから」
心配そうなウェンディの声に女性の声が返す。
すると、シャッと部屋を仕切るカーテンが開いた。
「全く・・・何で服1着着るのにこんなに疲れてるのかしら、私」
その表情に僅かな疲労を滲ませるティアはフワフワとしたワンピースを着ていた。
裾や首周りには肉球模様、足元は少し装飾されたサンダルを履いている。
頭に帽子はなく、髪の毛は巻き直したのか綺麗にカールしていた。
が、どうやら怒りは綺麗に消え去ったようで、ウェンディとココロを見るなり口を開く。
「そういえばアンタ達、化猫の宿っていつからギルド連盟に加入してたの?私、はっきり言ってこの作戦が始まるまで名前すら聞いた事なかったんだけど」
「そういえばあたしも」
「私もですわ」
ティアの言葉に同意するようにルーシィとシェリーが頷く。
「そうなんですか?」
「うわ・・・ウチのギルド、本当に無名なんですね」
それを聞いた2人は顔を見合わせ、苦笑いを浮かべた。
胸元にリボンの付いた服を着ているシャルルが腰(?)に手を当て口を開く。
「どーでもいいけど、みんな待ってるわよ」
「妖精の尻尾、青い天馬、蛇姫の鱗、そしてウェンディとシャルル、アラン、ココロ」
集落の中央。
そこに連合軍全員と化猫の宿の全員は集合していた。
「よくぞ六魔将軍を倒し、ニルヴァーナを止めてくれた。地方ギルド連盟を代表してこのローバウルが礼を言う。ありがとう、なぶらありがとう」
深く礼の言葉を述べるローバウル。
「どういたしまして!マスターローバウル!六魔将軍との激闘に次ぐ激闘!楽な戦いではありませんでしたがっ!仲間との絆が我々を勝利に導いたのです!」
「「「さすが先生!」」」
よく解らないポーズを決めながら叫んだのは一夜だ。
それに続くようにトライメンズもポーズをとる。
「ちゃっかりおいしいトコ持っていきやがって」
「アイツ、誰かと戦ってたっけ?」
「なー、オレさ。エルザ探してる時に随分遠くの木に引っかかってる一夜見たぞ」
それを見たグレイとルーシィは首を傾げ、アルカは今更ながらの目撃情報を口にする。
因みに男性陣もギルド生産の服を着ていた。
一夜とトライメンズは変わらずスーツだが。
「終わりましたのね」
「お前達もよくやったな」
「ジュラさん」
蛇姫の鱗の3人はお互いに労いの言葉をかけ合う。
さて、激闘が終わりお礼の言葉をもらい。
この流れで次に来るものは――――――
「この流れは宴だろー!」
「あいさー!」
「宴だー!」
そう、宴だ。
ナツとハッピー、ルーが拳を突き上げ超え高々に宣言する。
そして、どこから持ってきたのかニンジンを持った一夜が口を開く。
「一夜が」
「「「一夜が!?」」」
「活躍」
「「「活躍!」」」
「それ」
「「「ワッショイワッショイワッショイワッショイ!」」」
一夜の言葉に続くようにトライメンズが踊り出す。
それをバックに、一夜も踊り出す。
「宴かぁ」
「脱がないの!」
「フフ」
「アンタも脱ぐなっ!」
そして何を着ても脱ぎ癖は発動される。
踊り出す青い天馬メンバーを見て笑みを浮かべるグレイとリオンだが、つい先ほどまで着ていた上半身の服はない。
ルーシィとティアがツッコみを入れた。
「さあ、化猫の宿の皆さんもご一緒にィ!?」
「「「ワッショイワッショイ!」」」
一夜はマイク代わりに持っていたニンジンを化猫の宿メンバーに向ける。
―――――が。
「ワ・・・」
―――――空気が重い。
ヒュウウウウウウ・・・と冷たい風が吹く。
ウェンディ達以外のメンバーの表情は暗く無反応であり、お祭り騒ぎの欠片もない。
凄まじい温度差に踊っていたトライメンズやそれにつられて踊っていたエルザとティア、ヴィーテルシアを除く妖精メンバーは踊った大勢のまま固まった。
蛇姫メンバーやエルザ、ティアとヴィーテルシアもその無反応に不思議そうな表情になる。
「皆さん・・・ニルビット族の事を隠していて、本当に申し訳ない」
その重い空気をローバウルの言葉が破った。
「そんな事で空気壊すの?」
「全然気にしてねーのに。な?」
空気を壊した理由がニルビット族の事を隠していたからだと知るが、ナツとハッピーは全く気にしていない。
それは他のメンバーも同じだ。
「マスター、私達も気にしてませんよ」
ウェンディが言い、ココロがこくんと頷く。
が、アランは何の反応も見せず、ただ暗い表情で俯いていた。
「皆さん、ワシがこれからする話をよく聞いてくだされ」
ローバウルは語り出す。
その声には真剣さがあり、大事な話だというのは頭のネジが1本抜けて代わりにエノキが刺さっていると思うくらいにマヌケなルーにも解った。
「まずはじめに・・・ワシ等はニルビット族の末裔などではない」
「ニルビット族そのもの。400年前ニルヴァーナをつくったのは、このワシじゃ」
400年前ニルヴァーナをつくったのはローバウル―――――。
その言葉を意味は意外にもすぐに頭に入った。
「何!?」
「はぁ!?」
「うそ・・・」
「400年前!?」
「「・・・」」
リオンとティアは目を見開き、ルーシィが呆然と呟き、ハッピーが驚愕する。
ナツとルーは突然のスケール大きめの話にポカーンとするばかり。
ウェンディとココロは目を見開き、その体が自然と震えた。
「400年前・・・世界中に広がった戦争を止めようと、善悪反転の魔法ニルヴァーナをつくった。ニルヴァーナはワシ等の国となり、平和の象徴として一時代を築いた」
善悪超反転魔法であるニルヴァーナは危険な魔法であると同時に、ニルビット族の都市だった。
だが・・・かつてティアが言ったように、魔法は無敵の力ではない。
魔法で全ての事が解決するなんて有り得ない。
「しかし強大な力には必ず反する力が生まれる。闇を光に変えた分だけ、ニルヴァーナはその“闇”を纏っていった」
光を与える代わりに闇を与えられる。
人から闇を奪い、それを纏う。
その輪が崩れてしまえば、バランスが崩れる。
「バランスを取っていたのだ。人間の人格を無制限に光に変える事は出来なかった。闇に対して光が生まれ、光に対して必ず闇が生まれる」
「そう言われれば、確かに・・・」
「シェリーが闇に変わった分、リチャードが光に変わったしね」
ローバウルの説明に、実際闇に変わってしまったシェリーから攻撃されたグレイとティアはシェリーとリチャードを思い出す。
「人々から失われた闇は、我々ニルビット族に纏わりついた」
「そんな・・・」
「それって・・・」
信じられないというように目を見開き、ローバウルの話を聞くウェンディとココロ。
そんな中、アランは強く拳を握りしめ、唇を噛みしめた。
「地獄じゃ。ワシ等は共に殺し合い、全滅した」
それを聞いた連合軍メンバーは静かに息を呑んだ。
その話が嘘だとは思えない。
だが本当だとなると・・・ローバウルは仲間同士の殺し合いを経験している事になる。
「生き残ったのはワシ1人だけじゃ」
ローバウルが視線を落とす。
ウェンディとココロの目が、見開かれる。
「いや・・・今となってはその表現も少し違うな。我が肉体はとうの昔に滅び、今は思念体に近い存在」
400年前から存在し続けるローバウル。
肉体が滅びてしまうのも当然の事だった。
「ワシはその罪を償う為・・・また・・・力なき亡霊の代わりにニルヴァーナを破壊出来る者が現れるまで、400年・・・見守ってきた」
これこそがローバウルの罪。
そして・・・見守っていたニルヴァーナは破壊された。
「今・・・ようやく役目が終わった」
そう呟くローバウルの表情には笑みが浮かんでいて、どこか満足そうだった。
「ウソだよ・・・ウソ、ですよね・・・?」
「そ・・・そんな話・・・」
信じたくない。
目の前にいるマスターが亡霊なんて嘘であってほしい。
体を小刻みに震わせながら、ウェンディとココロは声を震わせる。
すると―――――異変が、起こった。
「!」
シュッ、と。
化猫の宿のメンバーが消えた。
それに続くように、1人、また1人と消えていく。
「マグナ!ペペル!何これ・・・!?みんな・・・」
「アンタ達!」
「何で・・・何でみんな消えちゃうの!?」
煙が消えるように、次々に人が消えていく。
ブレた映像のように。
その顔に、優しい笑顔を浮かべて。
「どうなってるんだ!?人が消えていく!」
「オイオイ・・・瞬間移動じゃなさそうだな!」
ヒビキが戸惑ったように叫び、アルカが周りに目を向ける。
基本何でも面白いと捉えるアルカだが、突然周りから人が消えたら面白いどころではないようだ。
「イヤよ!みんな・・・!消えちゃイヤ!」
「どうして何も言ってくれないの!?ねえっ!」
願う。
だが、その願いは届かない。
「騙していてすまなかったな。ウェンディ、ココロ」
ローバウルは微笑む。
「ギルドのメンバーは皆・・・ワシの作り出した幻じゃ・・・」
2人は目を見開いた。
その目に涙を浮かべて。
「何だとォ!?」
「人格を持つ幻だと!?」
「何という魔力なのだ!」
「しかもこの数を維持し続けてた・・・!?」
会話をしながらも消えていくメンバー達。
その全てが幻であるという事に、ナツ、リオン、ジュラ、ティアは目を見開いて驚愕し叫ぶ。
「ワシはニルヴァーナを見守る為に、この廃村に一人で住んでいた」
集落は廃村。
住んでいたのはローバウルだけ。
ローバウルは語る。
メンバー全員が幻のギルドをつくった訳を。
「7年前、1人の少年がワシの所に来た」
『この子達を預かってください』
その少年は、青い髪が特徴的だった。
顔の右側には赤い紋章がある。
その少年こそ・・・ウェンディ達を助けたというジェラールだった。
「少年のあまりに真っ直ぐな眼にワシはつい承諾してしまった。1人でいようと決めてたのにな・・・」
そう語るローバウルの脳裏。
流れるのは、預かったばかりの頃の3人の思い出だった。
『おじいちゃん、ここ・・・どこ?』
『魔法使う人が集まるっていう・・・ギルド、だよね?』
『こ・・・ここはじゃな・・・』
幼いウェンディとココロに問われ、ローバウルは答えに迷った。
『ジェラールさん、僕達をギルドに連れて行ってくれるって・・・』
じわ、と。
アランが呟くと同時に、3人の目に涙が浮かぶ。
それを見たローバウルは少し考え―――
『ギ・・・ギルドじゃよ!ここは魔導士のギルドじゃ!』
『『本当!?』』
『本当ですか!?』
『なぶら、外に出てみなさい。仲間達が待ってるよ』
「そして幻の仲間達を作り出した」
ローバウルはそう言うと、目を向けた。
その視線の先には、俯くアランがいる。
「アラン・・・ずっと黙っていてもらってすまなかったな」
『!』
ウェンディとココロがその言葉に反応し、アランに目を向けた。
その視線を感じたのか、アランがポツリポツリと語り始める。
「・・・みんなと初めて会った時から、何か違和感があった。最初のうちは気のせいだろうと思ってたんだけど、だんだん気になってきて・・・マスターに聞いたんだ。そしたら・・・今の話を全部聞かされたよ。ニルヴァーナの事も、みんなの事も」
ずっと知っていた。
知っていながら、言えなかった。
言えばウェンディとココロが辛い思いをするから。
「だから僕はニルヴァーナがどんな魔法か知ってたし、ニルヴァーナを破壊すればマスター達がどうなるかも解ってた・・・でも、何も出来なかった」
連合軍として、ニルヴァーナを破壊しなければならない。
が、破壊すれば役目が終わったローバウルは消え、その魔法であるメンバー達も消える。
そしてニルヴァーナを放っておけば、どちらにせよ化猫の宿は闇に落ちて傷つけ合う。
どれを選んでも繋がる結果は同じだった。
「このギルドは・・・化猫の宿は・・・」
ゆっくりと顔を上げる。
その桃色の目から、涙が流れた。
「僕達3人の為に、作られたギルドだから・・・」
たった3人。
ローバウルは3人の少年少女の悲しむ顔を見たくないが為に、全てが幻のギルドを作り出した。
結果として、7年前に泣く事は無かった。
その分の涙が・・・今流れている。
「そんな話聞きたくない!バスクもナオキも消えないで!」
「イヤだよ・・・みんなとずっと一緒にいたいよ!」
何も聞きたくないというように、ウェンディとココロは耳を塞ぐ。
消えないでと叫び、懇願する2人をアランは見つめていた。
「ウェンディ、シャルル、ココロ、アラン・・・もうお前達に偽りの仲間はいらない」
そう言って、ローバウルはゆっくりと指さす。
3人の背後を。
「本当の仲間がいるではないか」
そこにいるのは、ナツ達連合軍。
激戦を勝ち抜いた彼らは既に仲間だった。
ローバウルは微笑む。
優しい笑顔を浮かべる。
「お前達の未来は始まったばかりだ」
そう呟くローバウルの体も透け始める。
その姿が、薄くなっていく。
「「「マスターーーー!」」」
消えゆくローバウルにウェンディとココロ、アランは腕を伸ばして駆け寄る。
確かにこのギルドは幻の仲間で構成されて、マスターは肉体無き亡霊だったかもしれない。
だけど、それでも。
ウェンディ達にとっては亡霊である前に、マスターなのだ。
「皆さん、本当にありがとう。ウェンディ達を頼みます」
伸ばした手は、届かない。
その手が届く前に、ローバウルは光の粒子となって静かに消えた。
それと同時にウェンディ達に刻まれた紋章が、ゆっくりと消えていく。
「「「マスタァーーーーーーーーーーーーー!!!!」」」
残された3人の悲痛な叫びが響く。
恩人を逮捕され、仲間達とギルドを失った・・・その辛さや悲しみを抱えるには、12歳と15歳という年齢はあまりにも幼かった。
7年間一緒に暮らしてきた人達を、7年間会いたいと願い続けた恩人をいっぺんに失う。
その悲しみは純粋に涙へと変わり、3人の頬を濡らした。
「!」
すると・・・そんな3人にエルザが歩み寄った。
そして、ウェンディの肩にトンと手を置く。
「愛する者との別れの辛さは・・・仲間が埋めてくれる」
ジェラールとの別れの辛さを埋めたのが仲間であったように。
同じ経験をしているからこそ、エルザには言える。
「来い、妖精の尻尾へ」
後書き
こんにちは、緋色の空です。
いやー、ハーレムって面白いでしょうかって前回書いたと思うんですが、意見がどっさりと来ました!ありがとうございます!
「ティアの性格だと無理があるんじゃないか」という御尤もな意見があり、でもやってみたいかもという私の思いがあり・・・現在も悩み中です。
あー、この優柔不断さが嫌いだっ!
感想・批評、お待ちしてます。
今のところ、スティングが大人気!
そしてタイトル下手・・・「たった1人の」に出来ないから変えたけど下手・・・。
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