少年と女神の物語
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第四十七話
「・・・何故、まだ生きているのだ神殺し」
「アンタこそ、あれだけのことで俺を殺せると思ったのか?」
俺は梅先輩から貰った知識から推測し、次に来るであろう場所で神を待ち構えていた。
その場所は・・・出雲大社。
「だが、悪いな。やはり、まだ汝と戦えそうにない。ここならいると思ったが、ここにもいなかったのだ」
「そうかよ。・・・でも、いくら捜しても無駄だぞ」
また飛んでいこうとした神が、俺の言葉でとどまる。
「どういうことだ、神殺し」
「お、初めて声に感情が乗ったな」
「御託はいい。早く、こちらが聞いたことを」
「焦るなよ。物事には、順序ってもんがあるだろ?」
今ここで、その理由を話すのは得策じゃない。
まずは、コイツの正体を暴かないと。それから、ここから離れる理由をなくす。
「まず、アンタが訪れたところをまとめていくか。面倒だから、一つにまとめて山だ。この訪れた山に何かしらの意味があるのかと思って考えてみたが、それはなさそうだな」
「・・・確かに、細かい意味はない」
俺の話に興味が湧いたのか、神はこの場を離れずに俺の話しに付き合ってくれている。
そうでないと、今頑張ってくれている梅先輩の頑張りが無駄になる。
「となると、山であることが重要だった、そう言うことになる」
「いかにも、その通りだ」
俺たちは、ただ会話をしているだけ。刃を交えているわけではない。
だが、それでも俺たちの間には・・・かなりの緊張感が漂っている。
「となると、あんた自身かあんたが探してたヤツが山に何かしらかかわる神、ってことになる。これ以上の推測は不可能だから、いったんこれは置いておこう」
そう、これ以上山から推測を重ねるのは不可能。
だから、次に重ねていくのは他の情報からの推測。
答えを知った上で、推測の形を続ける。
「次にアンタが訪れた回数が多いのは、水辺。ここでは特に何もしていないようだから、ただ休んでいただけなんだろうな」
「・・・・・・」
「水辺で休んで回復する、と言うことはあんたは水神としての属性を持つ。何もしなかった以上は、それはあんた自身のもののはずだ」
「いかにも、そうだ」
最初は口をつぐんでいたが、だんまりを決め込むのは不可能と判断したのか俺の言い分を認めた。
そして、水神と山の神は相性がいい。
ということは・・・
「水神と山にまつわる神とは、相性がいい。つまり、アンタが探していた神の属性が山の神、あるいは山に何かしらの形でかかわりを持つ神であるはずだ。特に三輪山なんて・・・」
続きは、神の表情がゆがんでいたので言わない。
挑発の意味も込めて、これ以上はいわないほうがよいと判断して、肩をすくめる。
「となると、それ以外であんたが訪れていた場所は全て、あんた自身に関わる場所。俺にあったことで、あんた自身の力を高めるために訪れていた土地のはずだ。実際、今のアンタは初めてあったときとは比べ物にならない」
「だから、どうした。我が正体、見破ることができたのか?」
そう言いながら、神は獲物を構える。
それは間違いなく俺をメッタ刺しにした武器で・・・コイツ自身の正体を暴く、絶好の鍵になる。
「その細長い武器、珍しいよな。その見た目から考えても日本の神様なのに、そんな武器は日本にはない。じゃあ何故、あんたがそんなものを持ってるのか・・・」
「口が動きすぎだ、神殺し」
こちらに向けて何度も突き出してくるその武器を、蚩尤の権能で作り出した盾で防ぐ。
同じ鋼の力で作った武器でありながら、こちらの盾が一方的に壊されていく光景に、背筋が冷えた。
「そこで、アンタのせりふについて考えてみる。確か、言ってたよな。会うのは三回目だって。でも、俺の記憶ではあの時点でアンタに会ったのはまだ二回目のはずなんだよ」
「では、我の勘違いかも知れぬな」
「いや、あんたは間違えてないよ。俺が、怒りで自分の感覚にも気付かないでいただけだ・・・ちゃんと、あんたは川にいたんだから」
俺が大量の鬼相手に大立ち回りした川。
上流から流れてくるには、間違いなく不自然なものが二つあった。
「そうだろ?自分が打ち倒した鬼に見守られながら、間違いなくあんたはお椀の船で川を流れてたんだ」
「二度も言わせるな。口が過ぎるぞ、神殺し」
その瞬間に俺の盾が完全に壊れ、神の持つ武器が腕を掠める。
「となれば、あんたが探してた神も分かってくる。国を作った神。大黒天と同一視されることによって、同じく大黒天と同一視されるシヴァとも同一視されている神。・・・アンタが国づくりを手伝った神を捜しているんだろう?」
「・・・そうだ。我は、我が友の光臨に伴い、この地に現れた」
よし、梅先輩の霊視は間違っていない。
「山を訪れていたのは、国づくりにおいて、山と言うのは大きな意味を持つことが多い。噴火によって新たな土地ができるように、山そのものに国づくりの力もある。椅子代わりにして休む、何てのもあったな。・・・だから、国づくりの神は山と深い縁をもつんだ」
「それゆえに、我は山をめぐった。友に会うために」
「アンタがその友の従属神とならなかったのは、今回のアイツは・・・大国主は、シヴァとしての属性を色濃く持って現れた。だから、アンタはつられて現れながらもまつろわぬ神として現れた」
アイツは間違いなく、シヴァだった。
自分の中にある名のひとつを名乗ったのではなく、ほぼシヴァであったからその名を名乗ったんだ。
「・・・汝、何故そのようなことを」
「ここまで分かれば、アンタの正体も見えてくる」
その質問には後で答えてやるから、もう少し待ってくれよ。
「水神としての属性を微々たる物であるが持ち、ほんの数箇所だけ訪れた人里にゆかりのある英雄。・・・他にも、酒造の神、医薬の神、禁厭に穀物、知識、温泉、常世に石なんかの神でもあるだろ?」
「・・・どうやら、我が正体はもとより見破っていたようだな」
「バレたか・・・ま、そういうことだ」
そろそろ、準備も終わっただろうか・・・知に富む偉大なる者で梅先輩の頭を覗いてみると、もう既に終わっていた。
なら、そろそろいくか。
「アンタのことを、昔話では一寸法師と言う英雄として語られる。その武器は、一寸法師が使う針を自分のサイズに合わせたんだろ?」
「いかにも、我が名の一つはその名。これはその名の象徴だ」
そして、その元となった日本神話の神は・・・
「アンタの原初の名はスクナヒコナ。・・・そうだな?」
「そうだ。我が名はスクナヒコナ・・・こちらが一つ答えたのだ、汝も我が問いに答えよ」
「いいぜ」
俺はそう言いながら、これまで以上に警戒を強める。
たぶん、俺が答えた瞬間が一番危険だろうから・・・
「汝は何故、我が友がどんな状態であったのかを、知っているのだ」
怒気を含んだ声から、もう既に予想がついている、と言うことが分かる。
「簡単なことだ・・・数日前、俺がシヴァを殺した」
その瞬間に神・・・スクナヒコナははっきりと怒りを表した。
「キサマアアアァァァァァァァ!!」
「我は緑の守護者。緑の監視者である。我が意に従い、その命に変化をもたらせ!」
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