ソードアート・オンライン~神話と勇者と聖剣と~
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異なる物語への介入~クロスクエスト~
遭遇1―Encounter1―
前書き
ひとりとだけコラボするとか言っておきながら、応募してくださった全員とコラボする。加えて『六門神編終ってから』といったのに終わる前に我慢できなくて更新する。そんなうそつきAskaです。如月ガクトさん,侵蝕さん,麟太郎さん,頑張ろう、自分さん,ありがとうございました!
なお、本編は未公開話の微弱なネタバレを含みます。ホントに微妙なネタバレですけどね。
「ふぅ……そろそろこの狩場もPop尽きるかな」
ハリンは五十三層のダンジョンでレべリングをしていた。現在のレベルは100。文句なしに最高クラスだ。初期の頃の死に物狂いの無茶なレベル上げで、他の攻略組に追随を許さないレベルまで強化されてしまった。
――――それに、このスキルもあるしね。
ハリンは両手にそれぞれ装備された刀を眺める。《マーニス・シン》及び《フレイム・シン》なる銘のこの刀。本来ならば《カタナ》スキルでは。刀は一本しか持つことができない。それに刀は両手武器。片手では本来もてない。そもそも両手に一本ずつ武器を持つのは、通常不可能なのだ。なぜならばそれを行った瞬間、システムが《イレギュラー装備状態》と認識し、SAO最大の魅力であるソードスキルが使えなくなってしまうからだ。
しかし、ハリンの持つエクストラスキル《双刀》は違う。片手に一本ずつ別々の刀を装備できるのだ。手数と攻撃力ならば通常のプレイヤーを大きくしのげる。
アインクラッドの中盤で出現したこのスキルは、いったいどうしたことなのか出現条件が全くの不明。それに、現在のところ保有しているのはハリンだけの様なのだ。ヒースクリフという《血盟騎士団》なるギルドのリーダーが持つ《神聖剣》と並んで、この様な専用スキルは《ユニークスキル》と呼ばれている。
ハリンはこれを大衆の前で堂々と使ってしまったため、隠す必要がなくなってしまった。そのため、こういった普通の狩場でも使うことができるのだ。
「……そう言えば、今日はいつにもまして人が少ないね……」
五十三層にあるこのダンジョンは、最前線から二十層以上離れていることに加え、さほど『中層』ともいえないことから人気が無い。ただし、出現するモンスターはかなり経験値を多く放出してくれるので、レベルインフレになってしまった強力な攻略組プレイヤーがここでレべリングを行っている。そのため、十人ばかりはいつもプレイヤーがいるのだ。時には《聖竜連合》の大規模パーティーがやって来ることもある。
しかし今日は、それが全くない。まるで、世界にハリンだけが残されてしまったように―――――
「……何を考えているんだ僕は」
そんなことあるわけがない。SAOはログアウト不可能。ここに閉じ込められた、現在6800人ほどと思われるプレイヤー達は、アインクラッドの最上階たる第百層がクリアされるまで、このゲーム内での死が本物の死になるデスゲームから抜け出せないのだ。
だが……。
「本当に、どうしてしまったんだ……?」
アインクラッド第五十三層の主街区、その転移門広場にやってきても、プレイヤーの陰は全くない。それどころか、NPCすらが姿を消している。バックBGMは消え、常に動いていたはずの転移門でさえも動きを止めていた。
バグ?システムに重大なバグが出た?否。ありえない。SAOは《カーディナル》という名前のシステムが管理している。このシステムはいわば《自己修復機能》を持っており、あらゆるバグを即座に消すことができる。それに、バグならばプレイヤーがいない説明がつけられない。
「……夢、とか?」
一応頬をつねってみる。が、反応はない。とりあえず夢という線は消してみる。ならば、これは一体どうしたことなのだろうか。とにかく、町の中を歩いて何か情報を探してみよう――――
そう思い立ち、転移門広場から足を踏み出した、その時。
ふと、視界の端に何かが映った気がした。急いでそちらを見る。しかしそこには何もない。
「気のせいかな……」
そして視線を前に戻し……また、何かの気配。もう一度。振り向いたハリンは、一瞬だけ白い何かが横切ったのを見た。《それ》は五十三層の中世ヨーロッパ風の柱の後ろに隠れた。
「!!」
今度こそ見間違いようがない。何かが……恐らくはプレイヤーがいるのだ。
「(よかった、何が起こっているのか聞けるかもしれない……)」
ハリンがそちらに向かって一歩踏み出した、その時――――
ギュァッ!!と音を立てて、《それ》が高速で踏み込んできた。ぎらり、と何かが光る。直感的に反応。あれは、刃物の光―――――!!
「――――ッ!!」
とっさに背中の二刀を抜き放ち、迎撃。ガキィン!!という音を立て、《それ》が止まる。そして、遂にその姿をさらした《それ》を見て、ハリンは息をのんだ。
ハリンを攻撃したのは、巨大な鎌だった。SAOの中でも《鎌》スキルは言ってみればキワモノ扱いだ。攻撃力は高いが、しかし扱いづらい。俗にいう『ロマン武器』の範疇である。そのため、このスキルを使う者は少ない。しかもハリンを攻撃してきた鎌はかなり高位の武器と見える。なぜならば、《魔剣》と呼ばれる超高位のアイテムであるハリンの二刀が、先ほどからみしみしと悲鳴を上げているからだ。
だが、ハリンが驚いたのはそんな少数派な武器にではない。その使い手の方にだった。
途方もなく美しい少女だった。ハリンの攻略パートナーであるオウカや、《血盟騎士団》のアスナも美しい女性だが、彼女はそれとはまさしく異次元の域にある。硝子の様に繊細で、しかしそこにふしぎと儚さはない。磨き上げられた剣の美しさである。純白の髪に、白い肌。強い意志力を秘めたオレンジ色の眼が映える。黒いマフラーが良く似合っていた。
「……君は、誰……?」
ハリンは思わずそう聞いていた。すると鎌使いの白い少女は、ぴくり、と一瞬だけ震え、その後、冷淡な声を発した。
「……対象に敵対行動は無しと判断。これより交渉に移行します」
かちゃり、と音を立てて、鎌が下ろされる、少女が鎌から手を離すと、それはヒカリになって消えていった。SAOではありえないアイテムの消滅である。ハリンはますます絶句してしまう。
くるり、とこちらを振り向いた少女は、先ほどの冷淡な表情はどこから、といえるほど優しい笑みを浮かべていた。
「《双刀》のハリンさんですね。初めまして。グリーア・イクス・アギオンス・オブザーバゼロ……天宮刹那です。刹那、もしくはグリーアとお呼びください」
***
「何が起こってるんだ!?」
アインクラッド第七十五層層主街区にて、アツヤは叫んでいた。異変に気づいてからすでに一時間。しかし、一向に原因が解明される気配はない。
アツヤはアインクラッド七十五層の迷宮区で、《聖騎士》ヒースクリフから依頼されたマッピングを行っていた。そろそろ帰るか、とダンジョンを出て、夕飯の用意を頼む、と、パートナーであるヒメカにメッセージを送信しようとすると……フレンドリストには、一切のプレイヤーネームが存在していなかった。まっさらな状態は、アインクラッド第一層で初めて開いたウィンドウと同じ状態だった。ヒメカだけならまだしも、もうひとりのパートナーであるアヤセや、友人のキリト、アスナらの名前も消えているのはあまりにも不自然だった。
拠点としている七十五層主街区《コリニア》に戻っても、プレイヤー達の陰はない。それどころか、消えるはずのないNPC達すら存在していないではないか。
「くそっ、どうなってるんだ……」
転移門は起動できなかった。試してみたが、転移結晶も効果がない。これでは、他の層がどうなっているのかわからないではないか。
まるで、自分だけが世界に取り残されたようだ――――。そう感じたその時。
街角に、何かが見えた。光だ。そう、あれは――――
「モンスター!?」
モンスターのPop現象だった。出現したのは、黒い人型の何か。今まで見てきたどんなモンスターとも異なる外見であった。さらに最大の問題点は……
「HPバーが、出現しない……?」
SAOのモンスターは、基本的にHPバーが出現する。しかしこのモンスターにはそれがない。それだけではない。SAOに存在するありとあらゆる動的存在にあるはずの、カラーカーソルスラが出現しないのだ。
「本当にモンスターなのかよ」
一応背中の二本の大剣、《性》と《悪我》に手をかけておく。そこでアツヤは、新たな異常に気が付
いた。
―――悪我の声が聞こえない。黒い方の大剣を手にすると、それに宿った意識が語りかけてくることがある。しかし、今はそれが聞こえないのだ。まるで、先ほどの『自分だけが取り残された』が事実であるかのように。
「ウウォ―――ン!」
モンスターと思しき、HPの出ない怪人は、泣き叫んでいるようにも聞こえる咆哮と共に、ものすごい勢いで突進してきた。そのスピードは、攻略組プレイヤーにも匹敵するほどだ。
「うわぁ!?」
とっさに双大剣を抜き放って迎撃する。しかし、押し込まれるのは大剣の方。全力で怪人の攻撃をはじくが、しかし恐ろしいスピードで次の攻撃が来る。相手は素手だ。しかし、こちらの防御をじりじりと追い込んでくる。
「マジかよ……ッ!」
アツヤのレベルは110。キリトよりも高い、攻略組の中ではほとんど最高といってもいいレベルだ。加えて、二本の大剣を持つために、筋力値はかなり高めにあげている。それが、これほどまでに一方的に押し込まれる……!
「何なんだよこいつ……!くそっ、《ソードビット》!!」
アツヤの掛け声に答え、どこからともなく《悪我》によく似た剣が二本出現する。アツヤの持つユニークスキルの一つ、《ソードビット》。《二対大剣》を可能とするスキルだ。使用にかなりの意志力を要求されるため、普段は使っていないのだが、今は仕方がない。
「行けッ!」
二本のソードビットが飛ぶ。それは怪人を切り付け、その傷口から、緑と赤を足して二で割った様な奇妙な色の血液を噴出させた。
「何!?」
思わず驚愕に息をのむアツヤ。それは、怪人の血の色がおかしかったからではない。それ以前に――――血が噴き出したことに対してだ。SAOには痛覚も、流血表現も無い。不快な衝撃や流血に思える真紅のエフェクトはあっても、流血自体は存在しないのだ。痛覚も《ペイン・アブソーバー》によって押さえられている。
「グルラッ!!」
怪人が逆上し、殴りかかってくる。気付いたときには、既にその攻撃がアツヤにヒットしていた。痛覚。やはり、ペイン・アブソーバーも無効化されている。これは一体……!?
「ガハッ……」
吹き飛ばされたアツヤは、二本の大剣でバランスをとって着地する。そこに追い打ちをかける怪人。アツヤはソードビットを防御に回し、攻撃をはじく。
集中力が乱れてくる。このままでは負ける――――その時だった。
「うわぁぁぁぁ!?」
ドスン!と何かが落ちてきた。
「うぅ……僕が無重力アトラクション嫌いなの知ってるだろ……?ってなんだこりゃ。SAOか?うわ、懐かしいなオズワルト!」
それは、オレンジ色の髪の青年だった。年齢は17歳ほどか。年の割には背が低いような気もする。その手には、光沢のある真紅の大剣……いや、巨剣が握られていた。
「あれ?ヴェヴィティエールは無いのか……仕方ない、一本だけで行きますかね……あれ?ちょっと待て、此処圏内だよね?何でモンスターがいるの?つーか何でドーパント?あれ、確かコックローチドーパントだよね。Wからメモリ奪った奴。何でSAOにいるのさ」
ドーパント、という言葉に聞き覚えはないが、この青年はどうやらSAOプレイヤーらしい、ということが分かった。しかし、彼の言葉では、まるですでにSAOがクリアされたような……。
「何でもいい!頼む、協力してくれ!」
「ヤヴォール!……えーっと、確かこうだったよな。……ビットスタンバイ」
アツヤが目にしたのは、一層驚くべき光景であった。青年のコートの裏から、三十センチほどの短剣が飛び出したのだ。それも十本。いかなるロジックによってか、宙に浮いている。そして、青年の『ビット』という言葉……まさかあれも《ソードビット》なのか!?
「一本だけで戦うのは久しぶりだなー。《帝王剣》もあるといいんだけど……《ペルーディア・インティカ》」
青年の姿が掻き消える。次の瞬間、アツヤを攻撃していた怪人が、遥かかなたに吹き飛び、建造物にぶつかってポリゴン片へと霧散した。
……何という攻撃力。
「意外と脆いのな。それにしてもスタッフの作り込みがすごいよなー、あれ。ホントなんで日曜の朝にあんなの出そうと思ったのか……あ、ごめんね。倒しちゃって。君の獲物だったんでしょ?」
「あ、いや……助けてくれって頼んだのは俺だしな。俺はアツヤ。あんたは?」
「へぇ、君がアツヤ君か。確か『二対大剣の世界』の勇者だよな。僕はシャノン。よろしく、アツヤ君」
アツヤのことを知っていると思しき、その不思議な口ぶり。しかしにっこりと笑って右手を差し出してくるシャノンに敵意はなさそうで、アツヤはその右手を握った。
異なる物語への介入、その第一幕であった。
後書き
前半戦が終了。天宮兄弟が介入しました~。
シャノンの使った《ペルーディア・インティカ》は二刀で放たれる《アメンラー・インティカ》の下位互換です。
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