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大義

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第六章


第六章

 それを受けてか部屋の隅で何かが動いたように見えた。アンボンは咄嗟にそこに銃を放った。するとまたしても呻き声があがったのだった。
「警察だ!」
「もうこの屋敷は制圧された!」
 二人は銃撃の後で言い放った。
「早く投降しろ。そうすれば命は取らない」
「ただし。そうでなければ」
 容赦はしないということだった。シンカランの言葉を彼等も使ったのである。
「さあ、どうする?」
「投降か。それとも」
「ふざけるな・・・・・・」
 最初の返答はこれであった。
「貴様等如きに我等の大義が」
「大義だと?」
「そうだ」
 ここで一人出て来た。彼は胸から血を流し這い蹲りながら出て来た。どう見ても致命傷を受けているのは明らかであった。
「この世に完全に平等で差別のない社会を作る」
 浅黒い肌の痩せた男であった。
「その理想社会を作る我等の大義を。邪魔されてなるものか」
「大義か」
「そうだ」
 呻きつつアンボンの言葉に答えてきた。
「我等の大義は。誰にも」
 そして口から血を吐き。最後に言った。
「邪魔は・・・・・・されん」
 こう言い残して事切れたのだった。見ればこの男ともう一人しか部屋の中にはいなかった。そのもう一人は壁にもたれかかるようにして倒れ込みその壁に鮮血をつけて事切れてしまっていた。つまり部屋の中にいるテロリスト達は全滅してしまったのだった。
「大義か」
「その為にテロをやったってわけか」
「そうだな」
 アンボンはマナドの言葉に対して頷いたのだった。
「そう言ったな」
「確かにな」
 二人で言い合った。後ろから同じ任務の仲間達が階段を降りる音が聞こえてきた。
「その大義で何人も殺したのか」
「関係のない、罪のない人達をな」
「ふざけるな」
 最初に言ったのはアンボンだった。苦々しい声であった。
「何が大義だ、何が理想だ」
「他人を犠牲にしての大義なぞあるものか」
「少なくともテロに大義はない」
 こう言う二人だった。
「そんなものに大義があれば巻き添えにされた人達はどうなる」
「そうだな。それなら俺達にも大義がある」
「そうだな」
「そういうことになるぞ」
 また二人で言い合うのだった。
「罪のない市民を守るというな」
「それだな」
「そういうことだ。なら俺はこれからもテロリスト達を倒す」
 アンボンは強い声で述べた。
「何があってもな」
「俺もだ。それが俺の大義だ」
 マナドは自分の大義をそれだとはっきり言い切った。
「この連中から市民を守る。それこそがな」
「俺もだ。じゃあこれからは」
「その大義でやっていくか」
「そうだな」
 今そのことを誓い合うのだった。そうして部屋を後にしようとする。するとそこで部屋が急に明るくなり仲間達がやって来た。その先頭にはシンカランが言った。
「この部屋は終わりですね」
「ああ、これでな」
「二人いたけれどな。二人共な」
「そうですか」
「それでこれで終わりだよな」
 アンボンがシンカランに対して尋ねた。
「この仕事は。これで」
「はい、そうです」
 その問いにすぐに答えるシンカランだった。
「もう全ての部屋を制圧しました」
「そうか。じゃあもう何もしなくていいんだな」
「お疲れ様でした」
「時間になったら帰らせてもらうぜ」
「俺もな」
 アンボンだけでなくマナドも敬礼をして述べたシンカランに対して言葉を返した。
「後はゆっくりさせてもらうさ」
「家でな」
「これから打ち上げがあるのですが」
 しかしここでシンカランはこう言ってきた。
「作戦成功を祝うパーティーが」
「パーティーか」
「御馳走が出ますよ」
 にこりと笑って二人に言ってきたのだった。
「あとアッラーも謝罪が必要ですが」
「酒もか」
「如何ですか?」
 御馳走と酒の話を出したうえでまた二人に対して問うてきた。この国はムスリムが多くそれで体面としては酒は飲んではいけないことになっているのだ。あくまで体面ではあるが。
「それで」
「そうだな。酒が出るんだったらな」
「それじゃあな」
 この辺りは現金だった。その二つに対しては断ることがなかった。
 だがそれでも。やはりこの状況には思うところがあるのだった。
「また出て来るんだろうけれどもな」
「その時には。まただな」
「はい。宜しく御願いします」
 シンカランも真剣な顔で答えたのだった。
「市民の安全の為に」
 彼のこの言葉を最後に戦士達は戦場を後にした。彼等は彼等の大義を果たした。それにより多くの市民達が守られたことは事実である。


大義   完


                   2008・12・30
 
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