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戦国異伝

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第百五十五話 加賀入りその十四

「戦が落ち着いたら数えてみるか」
「民の数をですか」
「伊勢の長島、近江、越前にな」
「この加賀もですな」
「そうじゃ、民の数を数えてみるとしよう」
「では寺社を使ってですな」
「うむ」
 織田家は寺社に信者達を数えさせそこから民の数を把握している、それをそのまま政に使っているのだ。
 それをだ、この戦の後もしようというのだ。
「二十七万も殺して国が乱れぬ筈もないしのう」
「ですな、それでは」
「この者達は退かぬ」
 それならだった、信長も。
「攻めよ、よいな」
「それでは」
 柴田は信長の言葉に応え攻め続ける、彼が軸となり激しく攻められた門徒達はそのまま押し潰されていった。
 彼等は確かに個々では強い、だが。
「よいか、一人で戦をするな」
「はい、まとまってですな」
「槍や弓で戦うべきですな」
「刀を使う時もじゃ」
 この指示は前田が出す、彼が言うには。
「一人で戦うな」
「三人で一人を、ですな」
「倒すのですな」
「そうじゃ、そうすれば死なぬ」
 一人で戦うから死ぬというのだ。
「そうなるからのう」
「だからですな」
「ここは」
「そうじゃ」
 それ故にだというのだ。
「一人では決して戦うな」
「ううむ、又左殿がそう仰るとは」
「それはまた」
「わしも槍ばかり振るわぬわ」
 こうして戦を指揮するというのだ。
「こうして兵も使って戦うわ」
「では、ですか」
「今は」
「そうじゃ、皆で戦え」
 馬上にいて槍を持っているがその槍を軍配代わりにして振っている、前田は今そうして戦っているのだ。
「よいな」
「では、ですな」
「槍で」
「皆で振り下ろせ」
 そうして上から叩けというのだ。
「よいな」
「この長槍で」
「そうせよと」
「そうせよ」
 また言う前田だった。
「槍は我等の方が遥かに長い、だからじゃ」
「叩き合いには勝てますな」
「うむ」
 その通りだというのだ。
「ではよいな」
「では」
 足軽達も応えそうしてだった、前田の指示通り槍を幾度も振り下ろし門徒達を倒していく。織田の兵達は集まって戦っていた。
 陣も崩さない、それも全く。
「よし、このままじゃ」
「陣を崩さずですか」
「敵を」
「このまま倒せ」
 河尻も指示を出す、陣で戦えと。
「さすれば死なぬわ」
「死なずに勝ちますか」
「そう出来ますか」
「そうじゃ、御主達は生きる」
 勝ってだ、そうなるというのだ。
「だから一人では戦うな、よいな」
「はい、それでは」
「そうします」
 足軽達も応えそうしてだった。
 彼等は陣を崩さず戦った、その結果個々では見事な動きを見せいい武器を持っている闇の服の門徒達を倒していった。
 そして朝になった時戦の場には。
 闇の服の者達はいなかった、ただ一人も。立っているのは織田家の軍勢だけだった。
 織田軍は勝った、信長はその戦場を見て皆に言った。
「皆ご苦労であった」
「我等は勝ちましたな」
「何とか」
「うむ、勝った」
 それは間違いないとだ、信長は己が率いる将兵達に告げる。
「間違いなくな、ではじゃ」
「尾山御坊ですか」
「あちらに向かいますか」
「いや、まずは飯を食え」
 それだというのだ。
「飯を食いそしてじゃ」
「それからですな」
「進むのですな」
「休め」
 そうせよというのだ。
「飯をたらふく食ったうえでな」
「それからですか」
「休めよ」
「寝るのじゃ、昨日一日戦ったからのう」
 それが信長が今彼等に言うことだった。
「よいな」
「しかしまだ門徒達はまだいますが」
「二十万も」
「よいのじゃ」
 それでもだというのだ。
「今は休むのじゃ、疲れておろう」
「今までの戦で」
「だからこそ」
「そうじゃ、よいな」
 信長はこう言って皆にたらふく飯を食わせた、そのうえで今はゆっくりと休ませるのだった。一日で二十七万の大軍を破り今はそうさせるのだった。


第百五十五話   完


                    2013・10・6 
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