知恵を手にした無限
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プロローグ2
前書き
何故か好評でびっくり
「お前達は負け犬だ」
「なっ……」
呼び出しに応えて、訪れた部屋。入室してまもなくオーフィスの放った言葉は、何の疑いも持てないほどに、心に響いた。だからこそ、許せない。それを認めた己がいたことも、それを問いかけたオーフィスにしても。
「ッ貴様! われわれ真なる魔王の血筋を愚弄するかッ!」
精一杯の反論だった。
そうだ、己たちは魔王の血筋。負け犬などではない。だが、それにしてもオーフィスは、目を細めて、手を口元に添える。
「ふッ」
笑う。
まるで咬みついてくる雑魚をみるかのように――否。確かにオーフィスからみれば、ここにいるすべての存在が雑魚だろうが、そうではない。哀れみを帯びた目だった、とでも言えばよいか。
「ぐぅッ」
「そうだ。お前達は負け犬、敗者、そして弱者だ。お前達は、竜のうろこを持って強気になる鯉のようなものだよ」
笑みは崩さずに、ワイングラスをあおる。
「それに、お前達ではアザゼルにも勝てないだろうな。あんな男だが、腐っても堕天使の長だぞ? 所詮弱者たるお前達など歯牙にもかけんだろう」
「…………ならば、オーフィス。お前はどうするんだ? まさか一人で仕掛けるわけではないだろう?」
曹操の問いにも、笑う。明らかに弄ばれている。どういうことだ。これが本当の無限の龍神なのか。
「それでも良いがな。お前たちはそれで満足なのか?」
いぶかしむ。どういうことだ?
「私が片手間に三勢力を潰すさまをみて――曹操。お前は満足できるのか?」
「…………」
「それはお前達にしてもだ。現魔王を私が十字にかけて、吊るし上げて、裁判にかけて。ハッピーエンドか?」
「…………」
声にだせない。
満足できるはずはない。この手で戦い、勝利する。そのために、それこそ龍のうろこさえも使おうとしてきたのだ。何のためのバックアップだ。なんのための無限の龍神なのだ。
「シンデレラも、姫になるまでに灰を被ってきたんだろう?」
――灰を被った英雄と魔王。二つが揃えばこれほどの強者はいないはずだ。
「なにをッ!?」
「ん? 違うか? 片や冥界を治めしもの、片や民を連ねる先導者。これ以上に最強の布陣はないだろうな」
「それは、つまり俺達に、力を合わせて戦えとでも言うのか? オーフィス?」
まさか。
人と悪魔が連なり、天下を治めるなど、笑い話にもならない。それを、やれと。
「馬鹿を言え。お前達にそんなことができるか?」
いや、出来ない。互いの誇りが邪魔をする。だとすれば、どう手を取り合えとすればいいのか。
「だから――さらなる強者に身を委ねろ」
「――っ!」
「私の名の下に、勢力を固める。それ以上の最善策は、無いだろう?」
笑う。
「もう十分だろう。苦汁は嫌というほどになめただろう。地べたに這い蹲り、上を崇め続けて、嫉妬して固執して、願ってあやかって、認められず目をそらし、強者になることを目指して」
狂わせる。
「そして完成した。勝利の美酒を分かち合う同士が。天をも揺らぎ、弱者を歯牙にもかけず、賛美して、傷をなめあい、さらに空を仰ぎ、力を手に入れた」
歪める。
「私の名の下に、これほどの存在が――強者たりえる、翼無き存在が集ったのだ」
崩しさる。
「誇りなき悪を、主なき使いを、大罪に身を委ねた鴉を。誰にも染められぬ白と誇り高き悪が、打倒するべき時がきた」
価値観を、信じてきたものを、諦めを、概念をも、書き換える。
「逆流を上り詰めろ。私の畏怖の名を糧とし、鯉が龍となる」
もう、この場にいるものに、迷いなど無かった。
分かった。理解した。
目の前にいる少女ならば。無限の龍神ならば、翼を手に入れる道標となることを。もう疑う余地などなかった。
「さぁ、戦争を始めようではないか」
――誇りと静寂をかけて
◇◇◇□□□◇◇◇
ところで、知恵を得た龍神ではあったが。思わぬ誤算もあった――まあ、そもそも予知すらできていなかった時点で、誤算とは言いがたいが、少なくともこのときは気付いていなかった。弱者を連ねた龍神の背後をつく、毒に。
これ以上ないほどに力を蓄えたオーフィスを狙う影には、まだ誰も気付かない。
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