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久遠の神話

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第九十四話 憂いが消えてその七

「海のものに実によく合うよ」
「それでは」
「うん、やっぱり一つじゃ足りないよ」
 その一箱めの弁当を食べながらの言葉だ。
「二つでないとね」
「確か飛行機の中でも食べたのよね」
 そのことについてだ、智子はアポロンに問うた。
「そうよね」
「そうだよ」
「それでもお弁当を二つなのね」
 食べる、智子はこのことから言うのだった。
「相変わらずの大食ね」
「食べないとね」
「身体がもたないというのね」
「僕の場合はね」
「そのことは神話の頃から変わらないわね」
 その頃からだ、アポロンは大食だというのだ。
「いつも身体を動かしているせいかしらね」
「そうだろうね、しかも僕はいつも太陽を引いているから」
 太陽神としての務めだ、彼は日々日輪を動かし管理しているのだ。昼の世界は彼と共にあると言っていい。
「その分力を使うから」
「余計になのね」
「太陽の光は僕が出しているんだ」
 太陽神としてだ、そうしているというのだ。
「だからこそね」
「食べないと身体がもたないということね」
「そうだよ」
 それ故にだというのだ。
「いつも食べているんだ」
「そうだったわね。では日本のお料理もね」
「うん、食べさせてもらうよ」
 実際にそうすると答えてだった、アポロンはその海鮮弁当を食べた。そして二つ目を食べ終えてお茶を飲んでからだ。
 そのうえでだ、女神達に言うのだった。
「僕は病も怪我も治せる、けれどね」
「戦いはですね」
「うん、セレネー女神の戦いはね」 
 それ自体についてはとだ、豊香に答える。彼女達が今必死に止めようとしている剣士達の戦いはというのだ。
「止められないよ」
「そうなのですね」
「力にはなれるよ」
 今の様にだ、それは出来るというのだ。
 だがセレネーを止めること、そのこと自体は。
「兄様もね」
「ヘリオス兄様もですか」
「残念に思っておられるよ」
 彼と共に太陽を司る彼もだというのだ、月の女神がそうである様に太陽の神もまた一柱ではないのである。
「あの方もね」
「あの方はお姉様のお兄様ですが」
 それでもだとだ、聡美も無念の顔で述べる。
「残念ながらですね」
「うん、あの人でもね」
 そのだ、ヘリオスでもだというのだ。
「説得出来ないよ」
「どうしてもですね」
「それだけセレネー女神の想いが強いんだよ」
「あの人を想う気持ちが」
「誰かを想う気持ちはね」
 それはというのだ。
「何よりも強いものだから」
「この世で最も強いものですね」
「その一つだね」
 アポロンは苦く悲しい顔で聡美に話す。
「間違いなくね」
「そうですね、ですから」
「うん、説得出来ないよ」
 どうしてもだというのだ。
「あの人にはね」
「では若しもです」
 聡美はそう聞いてだった、そのうえでだった。
 アポロンの目を見据えてだ、こう問うたのだった。
「戦いを。全ての剣士に降りてもらえれば」
「その時にセレネー女神がどうするか」
「そのことについてはどう思われますか」
「アルテミス達と同じだよ」
 アポロンはこのことについて明るい顔では言えなかった、それで暗く沈んだ顔でこう自分の妹に言うのだった。 
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