万華鏡
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第五十八話 活動再開その五
「何とか勝ってな」
「阪神日本一だよ」
「折角今シーズン優勝したから」
「今年こそはな」
こう話すのだった、そうして。
琴乃もその教室の中に入ってだ、こう言った。
「甲子園での胴上げ観たいわよね
「そうそう、阪神の」
「あのチームのね」
女の子達がその琴乃のところに来て応える。
「日本一の胴上げよね」
「それも甲子園で」
「大騒ぎになってもね」
本拠地の胴上げでボルテージが最高潮にならない筈がない、ましてや阪神ファンは日本のあらゆるチーフのファンの中で最も熱狂的である。
その彼等が騒がない筈がない、しかしそれでもだというのだ。
「やっぱり甲子園よね」
「そうそう、日本一になるのならね」
「やっぱり甲子園よ」
「甲子園での胴上げよ」
「それが一番よ」
女の子達もこぞってこう言う。
「琴乃ちゃんもそう思うわよね」
「阪神の甲子園での胴上げ」
「絶対にそれよ」
「それしかないわ」
是非にという言葉だった、そうした話をしてだった。
クラスの中も阪神の話で持ちきりだ、見ればスポーツ新聞まで持ち込んで読んでいる男子もいるし黒と黄色の縞も見える。
しかしだ、皆ロッテについてはこう言う。
「ロッテも強いからな」
「何か土壇場でいつも妙に強いんだよな」
「特にここで負けたらっていうチームにはな」
「昔から以上に強いよな」
マジックが残り僅か、特に一になっているチームには負けないことで知られている。そしてよりによって二位のチーム等にだ。
「一位のチームには負けてな」
「それでシリーズじゃ神掛かり的に強くてな」
「シリーズで負けたのって二回か?」
「まあどっちも相手が悪かったか」
その二回の負けはというと。
「大毎の頃と四十五年な」
「相手が巨人の頃だったな」
「大毎の時は相手が大洋でな」
大洋ホエールズとのシリーズだ、この時は大毎圧倒的有利と言われたが大洋を率いる知将三原脩の魔術師の名に相応しい采配により敗れている。
「四十九年から負けてないんだよな、シリーズ」
「ああ、バレンタイン監督の時もな」
その阪神とのシリーズだ。
「クライマックスで二位で上がってきてな」
「それでシリーズにも勝ってな」
「とにかく土壇場で強いからな」
「チームバランスもいいからな」
「ホームランは普通でもな」
だがそれでもなのだ。
「打線つながりいいんだよな、マリンガン打線」
「昔のマシンガン打線みたいにな」
横浜ベイスターズの看板だった打線だ。一発長打はないがつながりのある打線で得点を重ねてきた。マリンガン打線もここから名前が来ている様だ。
「しかもピッチャーいいしな」
「あそこも伝統的にピッチャーいいんだよな」
「癖のある奴多くてな」
「こりゃ苦戦するな、今回も」
「それは間違いないな」
こう話すのだった、彼等はロッテとのシリーズは苦戦を覚悟していた。
そして琴乃はここでだ、クラスメイトの一人が手に出したロッテのチョコレートを見て言った。
「あの、それ」
「ああ、チョコレートね」
「ロッテじゃない」
「だから今からロッテを食べてね」
「勝つっていうのね」
「そうよ、ヤクルトを飲んでいくじゃない」
ヤクルトとの勝負の時はだ。
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