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万華鏡

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第五十八話 活動再開その四

「その頃は問題になったのよ」
「普通ですけれどね、もう」
「まだアメリカも大人しかったのよ」
 六十年代のアメリカである。
「映画で言うとローマの休日ね」
「ヘップバーンですね」
「その頃のアメリカの音楽もいいのよね」
「プレスリーにしてもですね」
「そうそう、勉強になるから」
 部長は腰の振りを止めた、そのうえで制服の上を着つつ言う。
「聴いていると楽しいしね」
「部長さんプレスリーもお好きなんですね」
「好きよ、結構ね」
 実際にそうだというのだ。
「アメリカの音楽はお手本の一つにもなるしね」
「ロックもポップスもですね」
「そう、ジャズもね」
 そちらの音楽もだというのだ。
「こっちは三十年代とかね」
「古くなりましたね、時代が」
「サックスとかね」
 この楽器の名前も出た。
「そっちもいいから」
「サックスですか」
「今のバンドではあまり使わないけれど」
 ロックではサックスはあまり使わない、どうしてもジャズのイメージが強い楽器であろうか。
「ポップスではまだ使うけれどね」
「チェッカーズとかですね」
「久留米のね、あのバンドならね」
 八十年代の日本を代表するグループだ、それまでのフォークやグループサウンズとはまた違った音楽だった。
「サックスも使ってたから」
「ううん、サックスは」 
 琴乃はサックスについては難しい顔で述べた。
「私達は誰も」
「そうよね、ロックだとね」
「ちょっと使わないですから」
「けれど聴くと面白いから」
 そのサックスもだというのだ。
「勉強にもなるわよ」
「プレスリーとかサックスも」
「前から何度かこうしたお話してるでしょ」
「はい」
「考えてみてね、そうしたことを考えることもね」
 それもだというのだ。
「気持ちを上向けさせるから」
「いいんですね」
「そう、いいのよ」
「何かを思うこと自体がですか」
「気持ちの切り替えになるのよ」
 そうだというのだ。
「だからいいのよ」
「そうですよね」
「そう、休んで気を切り替えてね」
「また、ですね」
「頑張るのよ」
 そうしようと話してだ、そしてだった。
 二人は部室を出た、琴乃は教室ではもうかなり気持ちが切り替わっていた。そして教室では話題はこのことで持ちきりだった。
「今回こそはな」
「ああ、勝たないとな」
「阪神がな」
「ロッテにな」
 こう話すのだった。
「前はボコボコにされたからな」
「今度こそはな」
「何とかして勝たないとな」
「駄目だからな」
「雪辱だよ雪辱」
 それを晴らそうというのだ。
「是非共な」
「それで日本一にならないとな」
「ずっと日本一になってないからな」
 その伝説の八十五年からだ、もう二十年を優に超えている。 
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