Element Magic Trinity
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記憶の扉
魔導爆撃艇クリスティーナに乗るヒビキの調べにより、“古文書”の中からニルヴァーナの止め方が見つかり、判明した。
その方法はニルヴァーナの足8本の付け根に存在する魔水晶を全て同時に破壊するというもの。
だが、連合軍側で動ける状態にあり、魔水晶を壊せるのはエルザ、ジェラール、アルカ、一夜、ティアの5人だけ。
クリスティーナの壊れた翼を補っていたリオン、浮かせていたシェリーとレン、魔導弾を放ったイヴ、念話を繋げるヒビキは魔力の消費で戦えず、ナツ達妖精の尻尾の5人は六魔将軍のマスター・ゼロの前に敗れてしまった。
だが―――――――完全に諦め、倒れた訳ではない。
「聞こえてる」
ハァー、ハァー・・・と苦しそうな息の音と共に、ナツが呟く。
その声にヒビキとジェラールは笑みを浮かべ、ティアは溜息をついた。
「8コの魔水晶を・・・同時に・・・壊・・・す・・・」
続けてグレイの声。
エルザの表情に笑みが現れ、リオンは安心したような溜息をつく。
「運がいい奴はついでにゼロも殴れる・・・でしょ?」
ルーシィの、珍しく強気な発言。
シェリーは目に涙を浮かべたまま微笑み、一夜はブタの丸焼き状態で倒れたまま真剣な表情になる。
「ニルヴァーナ止められて・・・ゼロも、殴れるなんて・・・ラッキー・・・だね」
真剣さが混じったルーの声。
アランが安心したように目を細め、アルカが小さくガッツポーズする。
「あと18分。急がなきゃ・・・シャルルとウェンディ達のギルドを守るんだ」
ハッピーの言葉。
ウェンディとココロは空を見上げて微笑み、シャルルは目線を逸らした。
彼らは起き上がった。
傷だらけのボロボロの状態でも、仲間達の呼びかけに応えた。
〈も・・・もうすぐ念話が・・・切れる・・・頭の中に僕が送った地図がある・・・各・・・魔水晶に番号を・・・付けた・・・全員がバラけるように・・・決めて・・・〉
ヒビキの言葉に最初に答えたのはナツだった。
「1だ!」
それを皮切りに、他のメンバーも口を開く。
「2」
「3に行く!ゼロがいませんように」
「じゃあ僕はルーシィについてくよ!僕1人じゃ魔水晶壊せそうにないし・・・」
グレイが2番、ルーシィが3番、ルーは戦闘力に自信がない為ルーシィと共に3番に行く事を決める。
〈私は4へ行こう!ここから1番近いと香りが教えている!〉
〈教えているのは地図だ〉
〈そんなマジでツッコまなくても・・・〉
〈私は5に行く〉
「エルザ!?元気になったのか!?」
「ああ・・・おかげ様でな」
ナツの反応にエルザはウェンディに目を向ける。
ウェンディは謙遜するように首を横に振った。
〈んじゃあオレ6行くか。アラン、ついて来い〉
〈え?ぼ、僕ですか?〉
〈おう。お前だって自分のギルドが危険なのにボーっと突っ立ってたくねーだろ?〉
〈・・・はい!〉
一夜が4、エルザが5と決め、続くようにアルカがアランに目を向けながら声を上げる。
戸惑ったアランだったが、すぐに覚悟を決めたように頷いた。
〈それじゃあ私は7に行くわ。ヴィーテルシア〉
〈解っている。当然ついて行くさ〉
淡々と感情の篭っていない声でティアが呟く。
〈ではオレは・・・〉
ジェラールが口を開こうとするが―――――
「!?」
「お前は8だ」
それをエルザが顔の前に手を伸ばして制する。
そして代わりに呟いた。
「他に誰かいんのか?今の誰だ!?」
〈エルザ!今の誰よ一体!〉
途中で途切れた声にナツとティアが言うが、答えはない。
「ナツとティアはまだお前の事情を知らん。敵だと思っている。声を出すな」
ジェラールが記憶喪失だと知るのはエルザ、アルカ、ウェンディ、アラン、ココロ、シャルルだけ。
ナツ達は――――特に直接的に戦ったナツとティアは未だにジェラールを敵だと認識しており、ここで声を出せば気づくに違いない。
そうすれば魔水晶破壊どころではないし、他にも多々理由があるのでエルザは制止を掛けたのだ。
「おいっ!」
声の主が誰かを知らないナツが叫ぶ。
が、それを最後にプツリと念話が切れた。
「念話が切れた・・・」
「ヒビキも限界だったんだ・・・」
「ヒビキ達の分まで頑張らないとね・・・」
呟きながら、ナツ達は立ち上がる。
ハッピーが拳を握りしめた。
「とにかくちゃんと8人いるみたいだ。行こう!ゼロと当たったら各自撃破!皆持ち場があるから加勢は出来ないよ!」
ハッピーの言葉を聞いた後、ナツ達は向かう。
決まった番号を付けられた、破壊すべき魔水晶へと。
ここに、ナツ達とは違った意味で苦労している男がいた。
違った意味で、というのは、ナツ達がゼロに敗れ大怪我を負っているから魔水晶破壊が大変だ、という事に対して全く逆の理由という事だ。
簡潔に言うと―――――
「ぬぅー!メェンメェンメェーン!ゼェー・・・ハァー・・・ゼェー・・・ハァー・・・」
まともに歩けないのだ、一夜は。
何故なら、手首足首を縛られ木の棒に括りつけられた、一言でまとめればブタの丸焼き状態だからである。
「“4”だ!私は“4”に行く!皆期待している!絶対に裏切る訳にはいかんのだァ!」
そう言う一夜の顔は、元々イケメンとはかけ離れた顔立ちだったが、更にそれをパワーアップさせていた。
汗はダラダラ、鼻水も出ているし、犬のように舌も出ている。
「息切れ・・・なんか・・・してないぞ・・・私はまだ若い!」
と言いながら「ゼェー・・・ハァー・・・ゼェー・・・ハァー・・・」と息を切らす一夜だった。
ここは1の数字を付けられた魔水晶のある場所。
傷だらけの体をフラフラと揺らしながら、ナツは到着した。
そこには――――先客の姿が。
「フン」
六魔将軍のマスターゼロだ。
「まだ生きてやがったのか」
「ハァ・・・ハァ・・・」
魔水晶を守るように仁王立ちするゼロは、薄い笑みを浮かべる。
「何しに来た?クソガキ」
ゼロが問う。
それに対し、ナツはニッと笑みを浮かべた。
「ん?」
浮かんだ笑みにゼロはこちらも笑みを浮かべたまま問うように呟く。
ナツは普段と変わらない笑みを浮かべたまま、言い放った。
「壊れんのはオレかお前か、どっちだろうな」
「なー、エルザー」
「どうした?アルカ」
「ゼロはよ、きっと“1”にいるよな?」
「だろうな」
「!?」
「ナツさんのトコだ!」
エルザとアルカの言葉にジェラールが目を見開き、ウェンディが声を上げる。
「アイツは鼻がいい。解ってて“1”を選んだハズだ」
「あーあ、あの1番トコは面白れぇ気配があったのに、すぐに取られちまった」
アルカはつまらなさそうに赤い髪をくしゃっと掴む。
どうやら彼は『1番の所に面白い物がある』との気配を察知したらしいが、ヒビキが言い終えると同時にナツが取っていってしまった為、不機嫌なようだ。
「だったら加勢に行きましょう!皆で戦えば・・・」
「その心配はいらねぇよ」
ゼロの強さを見た訳ではないが、ナツ達が簡単にやられてしまうほどの強さだという事は解る。
ココロは加勢に行こうというが、それをアルカが首を横に振って止めた。
エルザも解っているように頷く。
「ナツの加勢なら、おそらくアイツが向かうハズだ」
「『全く・・・ボロボロのくせにラスボスと戦うなんてバカが過ぎるわ』とか言いながらな」
「!」
「まさか、ティアさん!?」
アルカが口調を真似ただけで解るというのもなかなか凄い。
が、アランが首を傾げる。
「でもティアさんって7番の担当じゃ・・・」
「ティアってのは無愛想で性格悪い曲者だってのに基本周りから愛されキャラだからな。アイツが大好きでアイツの頼みなら何だって引き受ける奴が行ってるだろうよ」
自分でそう言いながら「・・・あれ?行くとすりゃヴィーテルシアだよな?まさかここにきてクロス登場しねェよな?」と呟くアルカ。
「でもティアさん、どうして“1”にゼロがいるって・・・」
「仲が悪いからだよ」
「え?」
意味不明な言葉にウェンディ達は顔を見合わせ首を傾げる。
「ティアはな、仲が悪い相手の全てを知ろうとするんだ。んで弱点を見つけてそこに毒を突き刺す。だからアイツと口でモメた奴は勝てねぇ。序でに言えばティアは自分と真逆―――簡単に言えば考えなしに動くタイプに興味があるらしい。どんな思考か知りたいんだと・・・ま、あーゆー頭脳派タイプの考える事は解らねぇがな」
一旦そこで区切り、続ける。
「自分と仲が悪い、考えなしに動く・・・ティアの周りじゃ、この2つに該当するのがナツだったんだよ。だからティアはナツの思考を知ろうとしてる。そうなると自然とナツの考える事も読めて来る・・・そんでもってティアは色恋沙汰以外の勘は鋭い。アイツならこう考えただろうな」
口角が上がる。
アルカは話しているのが楽しくて仕方ないようだ。
「『滅竜魔導士のアイツが即答するって事は、“1”にゼロがいるようね。全く・・・ボロボロのくせにラスボスと戦うなんてバカが過ぎるわ』ってな」
そう言いながら、アルカは考える。
ティアの行動の全ては頭の中で繊細かつ緻密に組み立てられた計算。
ナツを信じて行動した訳ではないなど、彼女らしい、と。
「でも、たった2人じゃ・・・」
「ナツとティアを甘く見るな。あの2人になら全てを任せて大丈夫だ」
「そーそー。何てったってティアはギルド最強の女問題児だぜ?ゼロだろうが何だろうが半殺しさ。それにナツもやる時にゃやる。心配ご無用って事だ」
エルザとアルカの言葉にウェンディとアランとココロは少々唖然とした表情を2人を見つめる。
ナツはボロボロ、ティアだってレーサーと戦っている。
それなのに大丈夫だと、心配ご無用だと言い切るなど、2人を心から信じていなければ出来ない事だ。
「ナ・・・ツ・・・ティ・・・ア・・・」
すると、ずっと黙っていたジェラールが小さく呟く。
が、エルザは気づかない。
「私達も持ち場に行くぞ!私は“5”、アルカとアランは“6”、ジェラールは“8”だ」
「っしゃあ!ゼロは倒せねーが面白れぇっ!行くぞアラン!」
「は、はいっ!それじゃあ行ってくるね!」
「頑張って!」
「無茶はしちゃダメだよ!」
「うん!」
今にもスキップしそうな軽さで駆けていくアルカを慌ててアランが追う。
「!」
すると―――――俯いていたジェラールが、目を見開いた。
ぞわっ、と寒気が走る。
「ジェラール?」
持ち場に行かないジェラールをエルザは不思議そうに見つめる。
ジェラールは小刻みに震えながら、頭を押さえていた。
「いや・・・何でも・・・ない・・・」
震えと頭の手はそのままに、ジェラールはつかつかと歩いていく。
背を向けていた為、エルザは気がつかなかったが―――――
「ナツ・・・ドラグニル・・・ティア・・・T・・・カトレーン・・・」
ズキズキと痛む頭を押さえるジェラールの表情は険しく。
2人の名を呟く声は―――――憎しみに似た感情に、溢れていた。
「だぁらぁああぁあぁっ!」
雄叫びを上げながら、ナツは炎を纏った右拳を振るった。
ゼロはそれを軽く後ろに下がって回避する。
「!」
そこからナツは軸となっている右足で軽く地面を蹴り、拳を振り切った勢いのまま体を捻る。
勢いを崩さずナツは炎を纏った足で、ゼロの頭部目掛けて回し蹴りを放つ。
が、ゼロはそれをしゃがむ事で回避した。
だがこちらもそれを想定していたらしく、ナツは大きく息を吸い込んでブレスを放った。
そのブレスは小規模の爆発を起こし――――――
「ほう、さっきよりは動きがいい」
「!」
それにも拘らず、ゼロには傷1つついていなかった。
「常闇奇想曲!」
ゼロが左手を構える。
そこからブレインと同じ、黒い回転するレーザーのような魔法を放った。
「くっ!」
ナツは身を左に逸らして避ける。
魔法はナツの背後の地面に直撃した。
が、目の前にいるのはブレインではない。
「ブレインのものと一緒にするなよ」
「!」
ゼロが左手を動かした。
すると、ゴゴゴゴ・・・と何やら音が響く。
「ぐあっ!」
先ほど壁に当たったはずの常闇奇想曲。
そして常闇奇想曲は貫通性の魔法。ジュラの岩鉄壁さえも貫いてしまう。
その貫通性をフルに活用して壁の中を掘り進み、ナツの足元へと現れ、ナツを襲った。
「ははっ!」
ゼロが左手を振るう。
それに動きを合わせるようにレーザーも自由に動く。
「がはっ!うあっ!」
左から来たと思えば右、上から来たと思えば足元と目で追う事も難しいほどの速度で常闇奇想曲はナツを攻撃し続ける。
「クハハハハハッ!壊れんのはどっちかって!?テメェに決まってんだろうがーーーっ!」
邪悪な笑みを浮かべ、ゼロは常闇奇想曲を操作し続ける。
すると、ナツは左拳を振るった。
「火竜の・・・鉄拳!」
その左拳を常闇奇想曲に向かって叩き込む。
が、常闇奇想曲の勢いは止まる事を知らず、ナツは凄い勢いで押されていく。
でもナツは拳を引っ込めない。
「ぎいい・・・おおおおああああっ!」
拳に力を込める。
吹き飛ばされまいと足腰にも力を入れる。
そして――――――常闇奇想曲は消滅した。
ナツの左拳を、更に傷だらけにして。
「貫通性の魔法を止めるとは、面白い・・・」
そんなナツに対し、笑みを浮かべたまま呟くゼロ。
その時だった。
「!」
「!」
ナツとゼロ・・・2人が2つの気配を感じ取った。
その瞬間―――――
「ぐあっ!」
「がっ!」
2つの魔法が、ナツとゼロ・・・それぞれに直撃した。
ナツに直撃したのは、炎。
この場所に来る為の多くの通路の1つに、その魔法を放った男はいた。
ゼロに直撃したのは、水。
この場所に来る為の多くの通路の1つに、その魔法を放った女はいた。
「誰だ!?」
突然の攻撃に初めて傷を負ったゼロは、まずはナツに攻撃した魔法の方向へと目を向ける。
そこに立つ男を見て、ナツは炎を纏いながら目を見開いた。
左手を前に突き出す男を、ナツは知っている。
「ジェラー・・・ル・・・」
8番魔水晶に行ったはずの男。
不気味な笑みを浮かべたジェラールが、そこにはいた。
「貴様・・・記憶が戻ったのか・・・で、そっちは誰だ?」
ゼロは笑みを浮かべ、自分に放たれた魔法の方向に目を向ける。
ナツとジェラールもつられるように目を向け、ナツは目を見開いた。
「ふぅん・・・竜の勘ってのもよく当たるのね」
淡々と、冷静で冷淡で冷酷な声色で呟く少女。
青い髪を靡かせ青い瞳を冷たく鋭く煌めかせる閃光。
「ティア・・・」
7番魔水晶に行ったはずの彼女が、そこにはいた。
後書き
こんにちは、緋色の空です。
うん、ナツとティア共闘だぜーっと思った方、ちょっとハズレ。
やっぱここはナツが1人で決めるからカッコいい!さっすが主人公!わーっ!って感じなんでね・・・(どんな感じだ)。
でもティアが何もせず突っ立ってる訳もないです。
待て次回!
感想・批評、お待ちしてます。
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