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久遠の神話

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第九十四話 憂いが消えてその一

                     久遠の神話
                  第九十四話  憂いが消えて
 聡美は智子、豊香と共に空港にいた、大阪にある関西新空港だ。
 窓の向こうに離着陸していく飛行機達を見ながらだ、聡美は共にいる二人に言った。
「もう少しですね」
「ええ、間もなくね」
「あの方がここに来られます」
 三人で空港の待合室にいる、そこから窓の向こうを見つつ席に座っているのだ。二人は聡美の向かい側に並んで座りつつ言うのだった。
「そしてそのうえで」
「その足で」
「もう既に病院の方にお話は届いています」
 そちらも安心していいというのだ。
「ですから」
「これでまた一人の剣士が戦いから降りるわ」
 智子は聡美に確かな顔で告げた。
「無事にね」
「そうですね、戦いは確実に終わりに近付いています」
「その通りよ。けれど今の貴女は」
 ここで智子は聡美の顔、特に目を見て言った。
「焦っているわね」
「はい、実は」
 その通りだとだ,、聡美も智子に答える。
「どうしても」
「そうなってしまうわね」
「あと少しでお兄様が来られて」
「炎の剣士と彼の家族が救われるならね」
「これ以上いいことはありません」
 だからだというのだ。
「私も今は」
「焦っているわね」
「焦っても意味がないことはわかっています」
 そうしたからといって彼女の兄が来ることも中田の家族が助かることも早まりはしないことはわかっているのだ、だがそれは頭でわかっていることだ。
 心ではどうなのか、それが問題なのだ。
「ですがそれでもです」
「気が逸るわね」
「どうしても」
 焦りはそこからだった。
「気持ちはわかるわ。それならね」
「何か飲みましょう」 
 豊香はこう聡美に勧めた。
「そうしましょう」
「何かを」
「お茶かコーヒーを」
 豊香は具体的に言って来た。
「そうしましょう
「そうしたものを飲んでね」
 智子も聡美に言う。
「今は気持ちを落ち着けるのよ」
「焦っても仕方がないからこそですね」
「ええ、そうした場合はね」
「何かを飲むこともですね」
「いいのよ。若し焦ってはならない場合で焦れば」
 こうしたいことは人間世界でも常だ、焦ってはならない場合は落ち着いてことを進めねばならないのだ。暴走はもっての他だ。とはいっても焦り暴走する様な輩は止めても無駄でそもそも何かに関わらせてはならない。無能な働き者という言葉があるが実はさらに下がある、それは有害な愚か者という存在である。
「ことは為せないから」
「そうですね、では」
「ええ、今はね」
「何か飲みましょう」
 ここでまたこう言う豊香だった。
「丁度自動販売機もありますし」
「そうね」
 豊香は自分の右手、聡美は左手を見た、そこには壁に面して白いジュースの自動販売機が三つ並んでいた。 
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