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万華鏡

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第五十七話 全てが終わってその九

「十連覇はね」
「巨人の記録を超えないと、よね」
「巨人に出来たのよ」
「それなら阪神もよね」
「そう、勝てるから」
 優勝出来るというのだ。
「巨人よりも西武の方が強かったかも知れないけれど」
「ええと、昔の西武よね」
「琴乃ちゃんが生まれる前のね」
 広岡、そして森が監督をしていた頃の西武だ。その頃の西武は下手をすると川上哲治が率いていた巨人より強かったかも知れなかったのだ。
「あの頃の西武も強かったのね」
「秋山さんがいた頃よね」
「そう、ソフトバンクの監督のね」
 秋山幸二だ、俊足強肩堅守にしてホームランも打てる素晴らしい選手だった。名球会にも入っていることで知られている。
「あの人にね」
「他にも選手がいたわよね」
「辻、平野、伊東、石毛、田辺、金森、工藤、東尾、渡辺ってね
「多かったのね」
「まあその殆どの人がね」
 その彼等はどうなったかというと。
「今は西武にいないけれど」
「清原もいたのよね」
「昔はね」
 自称球界の番長だった男も最初は西武だったのだ。
「そうだったのよ」
「そこで四番だったのよね」
「昔はね」
「その頃の清原はよかったのよね」
「打つだけじゃなかったのよ」
 三振するだけが取り柄の柄の悪さだけが評判だった男ではなかったのだ。
「ファーストだったけれど守備もよくて脚も早くて」
「あの清原が」
「いい選手だったのよ」
 その頃の清原はだ、あくまで西武時代の彼である。
「その頃はね」
「あんなのじゃなかったのね」
「そう、違ったのよ」
「巨人にいて変わったのね」
 琴乃はしみじみとして言った、母と同じ甘いロイヤルミルクティーを見つつ。
「あんなのになったのね」
「そう、悪く変わったのよ」
「人って変わるのね」
「よくも悪くもね」
 そうした話になった、ここで。
「変わるものよ」
「じゃあ私も」
「そうよ、琴乃ちゃんもそうだし私もね」
 自分自身もだというのだ。
「変わるのよ」
「そうなのね」
「よくも悪くもね」
 またこう言う母だった。
「人は変わるのよ」
「清原は悪くなったのね」
「本当に西武の頃は違ったのよ」
 若かりし日の清原だ、丁度その頃が西武の黄金時代であり彼はほぼ毎年日本シリーズにも出ていたのだ。西武時代で彼が日本シリーズに出た回数は八回にも及ぶ。そしてそのうちの六回日本一を経験している。
「あの頃は未来の球界をしょって立つアイドル選手だったのよ」
「嘘みたいね」
 琴乃にとってはだ、今の清原しか見ていない故に。
「あれでだったの」
「そう、あれでね」
 母もこう言う始末だ。
「アイドル選手だったのよ」
「若い頃は」
「滅茶苦茶強かった西武の中でね」
「狐に摘まれた気分よ」
「本当にそうみたいね」
「だって今は」
 今の清原はというのだ。
「変な髪型にお髭にピアスで」
「おかしいわよね」
「あんな格好でテレビに出たら」
 琴乃は顔を顰めさせつつ話す、今は紅茶の甘さも一緒に食べているもののそれもその顔を綻ばさせていない。 
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