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万華鏡

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第五十七話 全てが終わってその八

「確かに打たないけれど」
「そうよね、華があるのよね」
「何があってもね」
 例え勝っても負けても優勝してもお家騒動があってもだ。
「華があるのよ」
「絵なるわよね」
「どんな勝ち方をしてもどんな負け方をしてもね」
 そして不祥事があってもだ。
「阪神は絵になるのよ」
「それが不思議よね」
「阪神だけよ、そうしたスポーツチームは」
 野球だけでなくあらゆるスポーツでもだというのだ。。
「勝っても負けてもなのは」
「そうよね、阪神は」
「そうしたチームだから」
 愛する心があればというのだ。
「誰でも似合うのよ」
「ユニフォームがね」
「バースにしても金本にしても」 
 兄貴と呼ばれた広島から来た彼もまた、というのだ。
「あの人も阪神のユニフォームが似合ってたでしょ」
「凄くね」
「何をしても華があるチームで阪神を愛する心があれば」
 それでだというのだ。
「誰でもああしてね」
「阪神のユニフォームが似合うのね」
「そうよ、それでその阪神がね」
 その阪神がだというのだ。
「日本一になるのよ」
「夢みたいな話だけれど」
「戦前に生まれてね」
 創設は昭和十一年だ、全人類の怨敵である巨人の次に生まれたプロ野球チームとして知られている。
「それでこれまで日本一は」
「一度だけよね」
「二リーグ制になってからね」
  日本一は二リーグからカウントされる、それまでは数えられない。
「一度だけよ」
「リーグ優勝は五回よね」
「日本一の年も入れてね」
 それだけになる。
「それだけよ」
「五回ね、少ないわよね」
「そうよね」
 巨人だけがやたら多いのだ、それは如何に戦後の日本がマスコミに権力と資金が集中し巨人に注ぎ込まれたかの証左でもある。戦後日本は豊かになっていたが歪みもあり巨人はその歪みそのものと言っていい。
「どうしてもそう思えるわよね」
「巨人の黄金時代もあったけれど」
 昭和二十年代後半から三十年代前半、そして忌まわしい昭和四十年代の九連覇だ。日本球界、いやスポーツ界の暗黒時代である。巨人が強い時代はそれだけで日本スポーツに恐ろしい暗黒をもたらすものだからだ。
「阪神はね」
「なかったわよ」
 そうだったのだ、阪神の黄金時代は。
「一年強くてもね」
「黄金時代じゃないわね」
「何年もあってこそよ」
 何連覇、若しくは数年の間に三度は優勝しないとだ。
「せめて九十年代のヤクルトみたいに」
「二年に一度は優勝してくれたらよね」
「黄金時代だけれど」
 しかし阪神はというのだ。
「確かに二〇〇三年と二〇〇五年は優勝出来たら」
「それでもね」
「確かに強かったけれど」
 それでもだというのだ。
「あれ位じゃね」
「黄金時代じゃないわよね」
「もっと優勝してくれないと」
 母は切実な顔で娘である琴乃に話した、そのうえで熱いミルクと砂糖をたっぷりと入れたロイヤルミルクティーを飲みつつ言った。
「寂しいわ」
「じゃあ今年だけでなく」
「もっとね」
 優勝して欲しいというのだ。 
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