NARUTO 桃風伝小話集
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
その2
前書き
その1の続き。
お風呂から上がって、サスケ君の服を借りた私は、現在ミコトさんと台所に立ってます。
誰かに教わる料理というのも大変有意義ではあるのですが、この状況は一体何なのでしょうか。
冷や汗が止まりません。
「じゃあ、ナルトちゃん。これ、切ってもらえるかしら?」
「はい」
「あら、上手ね。いつも料理を作ってるのかしら?」
「えっと、まあ。一人ですし…」
「そう。偉いわね」
慈愛の籠る微笑みを向けられるのは、とっても慣れなくて、居心地が悪くなります。
引き攣った笑顔を一応、返しますが、その度にミコトさんは楽しそうにふふふと笑います。
この人、間違いなく、私の戸惑いを楽しんでます。
どうしてこんなに楚々とした人が、お転婆だったらしいお母さんと友達だったのかちょっと疑問でしたが、なんとなく納得しました。
これは、あれですね。
確実に、類は友を呼ぶですね。
ミコトさん、見かけどおりの性格ではないとみました。
だけど、逆らう事は出来ません。
だって、私、この人に弱みを握られてしまいました。
大人しくおもちゃになるしかないんでしょうね。
ええ。
きっと。
内心、涙を流していた時でした。
「母さん!ナルトの奴、まだ風呂に入ってるのかよ!!って、ナルト?お前、こんなとこで何してんだ?」
「あっ!サ、サスケ君!!」
救いの天使になってくれるかもしれないサスケ君が台所に現れてくれました。
お願いだ!
この状況から私を助けだしてくれ!!!!
期待を込めて私はサスケ君を見つめてしまいます。
包丁片手にミコトさんと台所に並んでいる私を、サスケ君は不思議そうな、微妙そうな顔で眺めています。
ましてや私に助けを求めるような目で見られてしまってはなおさらでしょうね。
不審そうな声と表情でサスケ君はミコトさんに問い詰め始めました。
「母さん、ナルトに何してんの?」
「何って、ナルト君に夕飯の支度のお手伝いしてもらってるのよ?どうして?」
おっとりとしたミコトさんの回答に、サスケ君は更に微妙そうな表情になりました。
「俺、ナルトと一緒に兄さんに忍術見てもらう約束してたんだけど…」
サスケ君!!
そんな約束はしてないですけど、でも、ありがとう!
さっきお風呂に言い捨てていったのは約束だったんですね!!!!
びっくりしたけど、いいですよ。
さっきの事は全部水に流して忘れます。
だから早くここから私を連れて行って!!
「あら、そうだったの?」
ミコトさんがのんびりとしながら、私に問いかけるように視線を向けてきました。
私は必死にこくこくと頷きました。
お願い。
信じて。
そして私をこの居心地の悪い状況から解放して。
でも、私の願いはかないませんでした。
「そう。でも、今日は私のお手伝いをしてくれないかしら?」
にっこりとミコトさんに微笑まれ、私は返答に詰まり、サスケ君の顔とミコトさんの顔を見比べ始めました。
「あの…」
言葉に詰まり、ミコトさんとサスケ君の顔を見比べる私に、サスケ君の顔は最早どこか諦め顔です。
何。
何なの、その顔。
ねぇ、ちょっと。
そんな顔してないで、私を助けてよ。
貴方のお母さんじゃないのよ、この人!
けれど、私の必死な思いは伝わりませんでした。
あっさりとサスケ君は私をミコトさんに売り渡します。
「分かった。兄さんにはそう言っとく。ナルト。悪いな。母さんの気が済むように付き合ってやってくれよ」
「え!!!!サスケ君!?」
ちょ、ちょっと待てーーーー!?!?
何だそれ!!!!
「悪いわね、サスケ。イタチに、また今度ナルト君と遊んであげて頂戴って言っておいてくれる?」
ミコトさーーん!?
「はーい」
ミコトさんに大変良い返事を返して、さくさく何処かへいってしまうサスケ君に、私は見捨てられた絶望感でいっぱいになっていました。
「さ。今日は私に付き合ってもらうわね。私、本当は女の子が欲しかったのよ」
にこにこと笑いながら私に話しかけてくるミコトさんの顔を見つめながら思いました。
これは。
逃 げ ら れ な い 。
どうやら回避は不可能のようです。
ならば、この状況の利点に目を向けて、付き合うしかないですよね。
確かに、この状況に利点がないわけではないのですよ。
楽しくない訳じゃないのですよ。
「これからも、たまに私に付き合ってくれないかしら?お料理、教えてあげるから。ね?」
優しい笑顔の提案に、私は何も言えなくなります。
「それとも、ナルトちゃんは嫌かしら?」
嫌ではないです。
嫌じゃないんですけど…。
どうしたらいいのか分からず、困った顔で首を横に振る事しか私にはできません。
「クシナが得意な料理とか、ミナト君が好きだったお料理とかも教えてあげるわ。それでもダメかしら?」
ミコトさんのその言葉に、私は思わずミコトさんの顔を食い入るように見つめてしまいました。
お母さんの得意料理!?
「ふふふ。興味あるでしょう?どう?私に付き合ってくれる?」
「あ、あの。その…」
笑いながら誘いかけられ、私は頬を染めて俯く事しかできません。
ミコトさん。
それは、卑怯ですよ。
「じゃあね、今度の週末に家に泊まりにいらっしゃい。その時一緒に作りましょう?サスケとも一緒に遊べばいいわ。ね?決まり!じゃあ、今日の夕飯を作っちゃいましょう。ナルトちゃんも一緒に食べて行ってね」
にこにこと笑いながらミコトさんはどんどん話を進めていきます。
私には口を挟む隙がありません。
「じゃあ、次は、お皿に切ったものを載せてくれるかしら?」
「…はい」
うきうきとして私に指示してくるミコトさんに、私は従うしかできません。
嫌じゃ、ないんですけどね。
楽しくない訳でもないんですけどね。
これって、何か間違ってるような、何か、違うような、そんな気がして仕方ないんです。
何か、恥ずかしいし。
ミコトさんの楽しそうな鼻歌がとってもくすぐったいです。
私のお母さんとも、こんな風に夕飯の支度を用意したりしたのかも、しれないです。
なんだか、ちょっと、ここに生まれる前の昔を思い出しました。
温かい気持ちになってきました。
……結構私も楽しいし、少しくらいなら、ミコトさんに付き合っても別にいいかな?
一応、いつか叶えて見たい夢…みたいに思ってた状況に近いしね。
ミコトさんって、さすがサスケ君達のお母さんなだけはあります。
本当に、『お母さん』って感じで温かいです。
ページ上へ戻る