一方通行恋愛
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月と月
前書き
見てください!
面白いかどうかは保証できませんが(笑)
好き。貴方がとても。苦しい程に。
だけど、貴方はあの子が好き。
あの子も貴方が好き。
・・・・ああ、私の恋は一方通行。
*
いつからだろう。
アイツを、銀時を一人の男として見てしまったのは。
自分は女を捨てた身でありながら、女としての感情を抱いてしまった。
自分は素直じゃない。可愛くもない。女らしくもないし、茶だって汲んだことも無い。
良いとこなしだ。
・・・・奴の惚れた女とは違う。
奴の惚れた女は、可愛らしく、女らしく、ちょっと素直じゃない。だがその女の淹れた茶は美味いらしく、銀時は絶品だとか言っていた。
悔しい。上手くいかないでくれ。
・・・・自分を見てくれ。
そんな最低な感情が、次々と浮かび上がってくる。
自分に嫌気がさし、はあ、と溜め息を一つつく。
夜空に浮かぶまん丸い月を見上げ、月詠は煙管を吹かした。
「・・・・奴の惚れた女は太陽の様な女じゃ。奴は、月に照らされるより太陽に照らされる方が良く似合う。
銀時も月の様な男じゃ。月と月が重なる事はありんせん。
・・・・最初から、無駄じゃったんじゃ」
ツー、と傷の上を、一筋の涙が流れていく。
何を泣いている?
ごしっと涙を拭い、もう一度月を見上げた。
「・・・・終わりじゃ。奴を想うのは。わっちは、百華の頭。死神太夫」
そう言い聞かせるが、全く無駄。涙は溢れるばかり。
ああ、会いたい、銀時。会いたい、会いたい・・・・。銀時、会いた--
「月詠?」
ビクリと肩が揺れた。
聞き慣れた低い声。
「ぎ、銀時・・・・?」
何故個々に、とわざと冷たく言い放つ。
本当は嬉しい。
「いやよお、俺の優しい彼女がオメーにな、会いてえっつーんだ」
「わっちに・・・・?」
「あー、俺いっつもオメーの話してたからさ。悪ィな、こんな遅くに。明日はどうも予定が合わなくて」
「そうか。気にするでない」
「・・・・サンキュ。おーい、入っていいぜー」
障子に映っていた華奢な影がゆらりと動く。
しゃなりしゃなりという音が合うような綺麗な歩き方。高く結んだ髪、白い簪。美しいピンクの着物。凛々しい表情。
「紹介するわ、コイツが俺の彼女の志村妙。新八の姉貴な。
お妙、コイツが月詠」
「ど・・・どうも」
煙管を口から放し、お妙の近くに歩み寄った。
見れば見る程美しい娘だ。
「貴方が月詠さんでしたか。私はお妙です。
銀さんから良く聞いていますよ。俺の知っている女じゃ一番良い女だ、と。
酷くないですか? 彼女がいるくせに、他の女性が一番良い女だなんて」
失礼しちゃうわ、とクスリと微笑む。
美しい。
「そ、そうなのか」
カアー、と顔が赤くなる。
嬉しい、と素直に喜べない自分が嫌になる。
「お妙、誤解しないでよ。恋愛的な意味じゃないから。
俺の一番は永遠にお妙だから」
「さあ、どうだか」
チクリ、と胸が痛む。
壊したい、この二人を・・・・。
「・・・・のう」
壊したい・・・・。
あ?と顔をこっちに向ける銀時。
「・・・・幸せにな」
壊せ、ない。壊したいのに--
「サンキュー・・・・お前こそ、幸せになれよ」
「ああ、もちろんじゃ。お妙、修羅の道になると思うが、この不器用で馬鹿な銀時を、一番側で支えてやってくれ」
お妙は一瞬驚いた様に眼を見開いたが、すぐに
にっこりと微笑み、
「勿論です。浮気なんてしたらぶっ殺しますから」
なんて言っていた。
「銀時も・・・・女は兎じゃ。寂しいと死んでしまう。デリケートじゃしな。
わっちは女を捨てたからわからんが、サプライズやらが好きらしい。
たくさん話して、たくさん喧嘩して、幸せになりなんし」
ああ、と銀時からの短い返事が聞こえ、また煙管に火を付けた。
「・・・・ぬし、籍を入れてもヤンチャする気じゃろう?嫁さんを泣かせるでないぞ」
「泣かせねーよ。まあ・・・・ヤンチャは控えるけど、巻き込まれたときゃあな・・・・」
仕方ねえよ、とボソリと呟く。
全く、仕方無い奴だ。
「愛想尽かされても知らぬ! 少しはしっかりしなんし!」
「尽かされねーよ!」
これからも・・・・このままでいたい。
変わらぬまま。
「じゃあわっちはそろそろパトロールの時間じゃ」
「じゃー終わったら電話しろよ。三人で飲もうぜ」
「いや、すまない。パトロールが終わるのは大体深夜一時くらいじゃ。そんな遅くに危険な街、吉原に二人をブラブラさせるわけにはいかぬ」
そうか・・・・と銀髪をボリボリと掻く銀時を横目に、ふうと息を吐く。
すると、今まで黙っていたお妙が口を開いた。
「じゃあ銀さん、今日はゆっくりお二人で飲んできてくださいな。
最近全く休んでないでしょ? たまにはゆっくりしてきてください」
「でも・・・・」
月詠も口を開いた。
「良いんです。確かに月詠さんは私より胸が大きくて、美人だし・・・・不安でもありますけど。
さっき言ったでしょう? 浮気なんてしたらぶっ殺すって。それに--信じてますから、ね」
「・・・・!」
月詠は眼を見開いた。
なんと良い女だ。銀時には勿体無い。
「じゃあ・・・・なるべく早く帰るわ。まあ送ってく。月詠、パトロール終わったら連絡くれ」
「わ、わかった」
「じゃーな」
*
ガラリと万事屋の扉が開く。
お妙が居るはずだ。多分、あの餓鬼共も。
まあ理由は言ってないが、一応同棲している。
新八は不審がっていたが。
ただいま、とポツリと呟いてリビングのドアを開けた。
もう三時だ。いくらお妙でも、もう寝ているだろう--
「お帰りなさい」
不意に聞こえた、柔らかい声。
「えっ? お前起きてたの」
「ええ、当たり前でしょう?」
「・・・・あのさ、お妙」
「はい?」
いきなり真面目な顔付きになる。お妙はにっこり微笑みながら振り向いた。
「さっき、巻き込まれた時は仕方ねえっつったけど--」
「待ちます」
銀時の言葉を遮り、お妙が口を開いた。
「待ちます。待ってます。何年経とうと、何十年経とうと、私は貴方を待ち続けます。
そして・・・・貴方が帰って来た時には、笑って貴方を迎えます」
銀時は眼を見開いた。
自分より五、六歳下なのに自分よりしっかりしている。
「やっぱり俺の女だ。本っ当言い奴・・・・」
「あら、そんなの前から知ってたでしょ」
「そーいうトコも流石です・・・・」
つい敬語になる銀時。
きゅ、とお妙が銀時を優しく抱き締める。
銀時はお妙の腕の中で眼を瞑った。
*
月に背を向け、月詠はふー、と煙を口から出した。
そっと傷を撫で、月を見上げる。
そして煙管を口元に運んだ。
「月は・・・・幸せになれぬのか?」
ポツリと出た言葉。
「わっちは・・・・奴に本気だったんじゃ。もう他の奴なんて好きになれぬ」
「月詠姐ー!!」
ビクッと肩を震わす。
「清太!? こんな遅くに何をやっとるんじゃ!」
「だって月詠姐遅いんだもん・・・・」
そうか・・・・心配されていたのか。
「ありがとう、清太」
「ヘヘッ。オイラ将来、月詠姐を嫁にするんだー!」
「ほう、それは面白い。楽しみじゃな」
「相手にしてないだろ! 本気だからねっ」
真剣な清太の顔に、少しドキリとする月詠。
「月は・・・・幸せになる。
きっと・・・・きっとだ。」
「清太!? さっきの話聞いてっ・・・・」
「まあまあ気にしない気にしない! 月詠姐にはオイラがいるだろ?」
「ふふ、まあそうじゃな」
*
「朝です銀さん」
「んあー?」
「今日お仕事あるんでしょ?」
パッチリと眼を見開いてガバッと起き上がる銀時。
「やっべ!」
「全く・・・・。じゃあ気をつけて行ってきてくださいね」
銀時はふっと微笑み、お妙の頬にキスをする。
「行ってきますのチュー」
お妙は顔を真っ赤にしている。
やり過ぎたか?と口を開こうとした時、チュッと短いリップ音がする。
「行ってらっしゃいのチュー・・・・ですっ」
一方通行だった月詠も、幸せになれそうで。幸せな銀時とお妙は、互いに毎日微笑み合う。
'志村妙'が'坂田妙'に変わるのは、
もう少し先のお話し--
後書き
どうでしたか? 面白いと言って頂けたら幸いです。
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