ゲルググSEED DESTINY
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Another1 青春トライアングラー
突然だが、シン・アスカはかなりモテる。エースパイロット、英雄、エリートといったそれらの要素が女性(特に年上)が惚れてしまう原因となるのだろう。
事実、バレンタインデーでも紙袋が必要になるほどチョコを貰っていた。余談だがその翌日に鼻血が出ていたのはチョコレートの食べ過ぎが原因ではなく外的なものによるものである。ヒントはルのつく女性が原因だ。
勿論他のパイロットであるマーレやアスランもモテることに違いはないのだが、アスランはミーアがいる上にカガリの事が好きであり、マーレはシンとはジャンルの違うタイプなのでモテることになる対象が違う。
そんな彼であるが、とにかく鈍い。プラントでは本命チョコしかないにも関わらず、義理だと勘違いしたり、ルナマリアの積極的なアプローチに気付かなかったり、挙句告白された時に自分ではなく、自分に介して誰か紹介してほしいのかと尋ねたりと、恋人ごっこまでならともかく、実際に彼氏彼女の関係になるには果てしない壁が存在していると言っても過言ではない。
そして今現在シンは同僚のルナマリアと共に休暇を取りオーブの珈琲喫茶店~虎~に来ていた。
「それで、シンはこれからどうするの?」
一週間以上の長期休暇であり、オーブについた初日から三日目にかけては慰霊碑への家族の報告やトダカとの再会に感謝、知人へ挨拶を行うという当初の目的は達成した。
残っている日にちはプラントへ帰る分を除くと短いものの二日、いやシャトルへは午後に乗るので実質二日半の日程である。ルナマリアは喫茶店のデザートを食べながらシンがこれからどうするのかについて尋ねた。
「そうだな……どうしようかな?」
珈琲を飲みながらそう呟くシン――――今の所、予定らしい予定はない。観光をしようにも、ここは以前シンが住んでいた場所だ。改めて住んでいた頃には見向きもしなかった場所を赴くというのもあるが、それでも一日も潰せないだろう。
「じゃ、じゃあさ――――」
ルナマリアは予定が無いというシンに対して、これはチャンスだと考える。頭の中では幾通りもの計算が張り巡らされた。
(買い物に付き合って?それとも観光に付き合っての方が良いのかしら?ここに行かないっていう風に誘った方が良いかな……いいえ、駄目よルナマリア。そのパターンはシンだったら興味がなかった場合、他の人を誘ったらと言われる可能性が高い。でも、待って?女物だったらメイリンを、男物だったらアスランやマーレをって出してくるけど今は彼らが居ないじゃない!ならそうやって子囚われる可能性は無い?油断してはダメ!もし一人で行って来ればいいなんて言われたら!?いや、いくらシンでも……シンだからこそそんな冷たい対応はないはず!でも万が一断られたら……絶対に断らないなんて保障があるの?ただでさえ、故郷に戻ってきて慰霊碑だとか恩人への挨拶だとかしていてナイーブなのよ。精神的に疲れていれば断る可能性が高い……ならどうやって誘う?こんな事ならガイドマップでも用意してここでシンと話し合えるようにしておけば良かったー!!)
そうやってうだうだと考えながらどうやってシンを誘おうかと考えていると、同席しているパフェを食べていたステラがシンに言葉を掛ける。
「シン明日もいるの?だったらステラと町に行こう!」
「え、あ、うん。いいよ」
ルナマリアはその言葉を聞いて頭を机に叩き付ける様に突っ伏す。シンは急にルナマリアが行った異常な行為に驚くが、いきなり頭をぶつけたのを心配して声を掛ける。
「ル、ルナ……大丈夫か?」
そうやってシンが声を掛けるとまるで錆びたブリキ人形の様に首が動き、シンを鬼のような形相でにらみつけた。
「ひィッ!?」
「なら、明後日は私の買い物に付き合ってくれる?」
シンは恐怖のあまり、首を何回も縦に高速に振った。本能がそうしろと叫んだのである。そして、了承を得た途端、般若のようなルナマリアの顔は満面の笑みへと変化した。
「そう、ありがとう!」
(こ、怖ェ――――!?)
ステラの付添人であったネオと喫茶店のマスターはこの世のものとは思えないオーラと恐怖を味わったと後に語る。
◇
さて、こうした話し合い?の結果、先の一日をステラが、後のもう一日をルナマリアがシンと共にオーブの街巡りに連れていく事になったわけだが、ステラは海に行きたいと言ったのでサイドカー付のバイクでオーブ本島の外周部を回りながら海を見渡すというもので決定し、ルナマリアは買い物に付き合ってほしいという事か逆に内陸側の都市部での買い物という事になった。
二人の好みが違っていたことが幸いだったというべきか――――もしこれで目的が一致していたならどちらが先に行くか、いっそ三人で巡るかになどの論争となり、完全な修羅場と化していたことだろう。
「でも、本当に海を見るだけでいいのか?」
シンとしてはステラが海を見るだけでいいという考えに対して少し不安も覚える。外周部を回るというのも保護者であるネオが提案した事であってステラ自身は海さえ見れればどこでもいいというのだ。
(オーブに来て友達とかできたんだろうか……)
ステラの将来に若干不安を感じるシン。しかし――――
「うん、ステラはシンと一緒なら海を見るのが一番いい!」
満面の笑みでそう言われてしまってはシンとしてはルナマリアの時とは別の意味で頷かざる得ない。そういうわけでバイクに乗ってシンとステラは出発していた。海が見える道を進みながら、時折カーブコースで急カーブをしながら移動して、それにステラは喜びつつシンはステラと一緒に海の近くを走るドライブを楽しむ。
「~~~♪」
鼻唄を歌いながら海を見てはしゃぐステラ。シン達はそのまま昼になるまでそうやって景色を眺めながら移動し続ける。
「シン、海見えなくなっちゃったよ?」
昼過ぎになって昼食にしようとおもったシンは道路しかない海辺の道ではなく、山道に入る。木々に囲まれて海が見えなくなったことをステラは残念がるが、それも山道を登りきったところで反応を変えた。
「わあぁ――――!!」
山道を走ってまで来たのはオーブでも絶景スポットとして有名な場所だ。一望して海を見渡すことが出来、海だけでなく山や木々、そこに住む動物といったオーブの自然の美しさを際立たせる。
「じゃあ、ここでお昼にしようか、ステラ」
そして、この場所は絶景スポットとして有名なおかげで多くはないものの観光客が訪れたりもする。そういった人をターゲットにしているのか、それとも何もない侘しい所では絶景スポットとして人気が無くなることを危惧しているのか飲食店が一軒ではあるが存在している。まあ、飲食店といっても高速道路のパーキングエリアに近いものなのだが。
「いらっしゃいませー」
少々やる気に欠ける店員の対応を受けつつも、シンとステラは席に案内されて注文する。平日のやや遅い昼食というのもあってか、店内には客はサングラスをかけている黒髪の男性しかおらず、その男性もやや慌てた様子で支払いを済ませて出ていった。
「ステラ……それ食べきれるの?」
「大丈夫!」
シンとステラも昼食を食べようとしたが、その際、ステラは特大パフェ(一個当たり7000円相当というどう見てもパーティー向けのものだ)などというものを注文していた。
「もう、無理……」
「ああ、だから言ったのに……」
食べきれずに残したステラに頭を抱えつつ溜息をつくシン。支払いを済ませた後、すぐに外に出て少しでもステラの気分を良くしようと外の空気を吸わせた。
しばらくして、夕陽に照らされながら帰り道を走るバイク。結局ステラの気分が良くなるまでバイクに乗せるわけにもいかず、帰る頃には日が沈み始めていた。
「ごめんね、シン」
バイクのサイドカーに乗りながら謝るステラ。確かに帰るのが夕暮れになってしまったのはステラがパフェを食べて気分を悪くしたせいだが、シンはその程度の事で怒ったりなどしない。
「いや、それよりも海を見てみなよ」
夕暮れに沈んでいく太陽は海を茜色に輝かせ、普段は見えない海の様子を見せる。
そんな海に沈む夕陽を見て、機嫌を直したのか、ステラはバランスを取ってバイクのサイドカーの席から立ち上がった。
「え、ちょっとステラ!危ないって!?座って!!」
「大丈夫、大丈夫」
全然大丈夫などではない。道交法的にも、ステラの身の安全からしても、バイクのバランスが崩れる危険性からしてもサイドカーから立ち上がるなど危険すぎる行為だ。シンはステラがサイドカー上でバランスを崩さないようにゆっくりとスピードを落とす。
素晴らしいと言える程の身体能力とバランス感覚によって立ったまま両手を広げるが、今すぐにでもやめて座ってほしい。だが、ステラはそれを止めることなく、それどころか夕陽に向かって叫んだ。
「シン!!好き!大好き!!」
「い、今好きって……それって!?」
波風の風切り音で聞こえにくかったものの、確かに聞こえた。ステラは自分の事を好きだといったのだ――――夕陽の海に向かってそう叫んだあと、満面の笑みをこちらに向けて笑いかけるステラ。
思わず見惚れ、ようやく減速していたバイクは止まるが、シンは茫然としてしまい、ステラは笑みを浮かべたまま。二人の時が止まったかのように感じてしまうほど、静寂を感じた。
◇
結局、シンは何をするでもなく茫然として我に返った頃にはすっかりあたりが暗くなり始めていたので急いで帰った。あの時言われた言葉を思い出すたびに顔が赤くなるが、未だにその真意を聞いてはいない。要はヘタレたのである。
そして翌日――――
「今日は私に付き合ってもらうんだからね、シン!」
「わかってるよ……それで、買い物って何を買うんだ?」
頭を切り替え、今はルナマリアの相手をしようとある意味集中して対応する。目の前のことに集中していれば昨日のことを考えなくてすむ、などとシンは馬鹿なことを考えつつルナマリアに買い物の予定を聞いた。
「そうね、折角だからプラントじゃ珍しいものを買いたいけど、とりあえずウィンドウショッピングをしながら品定めしたい所ね」
そう言ってオーブ本島にある四つの都市の内、シンが知っている限りでルナマリアが好みそうな町へと向かうことにした。
「男なんだから、荷物ぐらいもってくれるわよね?」
「仕方ないなぁ、あんまり買い過ぎんなよ……」
荷物持ちになることなど予想していたのか溜息まじりに同意するシン。こういう場合は断る方が面倒なのだと経験則で理解している。
「ねえ、シン。この服は如何?」
「そんなこと言われてもな……似合ってるけど、もうちょっと明暗ハッキリさせたら?」
とりあえずといった様子で彼らは洋服店に行き、そこで服を試着してシンに聞くルナマリア。シンは自分にそれに対して、自分なりに服装に関しての評価をする。
「そう?じゃあこっちの方がいいかな?」
「そっちの方が良いんじゃない?」
その後も、シンはルナマリアの希望に沿って買い物に付き合う。昼を過ぎて休憩に入った頃にはシンはすっかり疲れ果てていた。
「もう、まだ買いたいものは一杯あるのに」
女性との買い物というのは主に気疲れによるものが殆どだ。逆に言えば相手に気を使わないような性格の人間は殆ど疲れないのだが、そういった手合いは得てして買い物に付き合うという事をせず、一緒に買い物に行っても自分の買い物を優先するタイプだったり、相手に尽くすことを苦と思わない様な自己犠牲が大好きなタイプだったりする。
「いや、多すぎだろ?勘弁してくれよ」
ルナマリアが回る予定だと言う場所の多さを聞いて流石に辟易するシン。しょうがないわねと言ってジューススタンドで買ってきたドリンクを手渡され、ルナマリアはストローで、シンはそのまま直接口を付けて飲む。
「ねえ、シン。ちょっとそっちの味も気になるから飲んでいい?」
さりげない間接キスの要望。とはいってもそんな事を気にするのは大抵嫌いな相手か、思春期の男女、後は菌が如何とかそういったのを気にする潔癖症な人間位である(尤も、彼らは年齢的に思春期真っただ中だが)。
「ああ、別に良いよ」
ルナマリアはともかくシンは対して気にしていない。疲れているシンはそこまで頭が働いていないのだ。
そうやってぼうっとしながら景色を見ていると唐突にルナマリアが話しかけてきた。
「この国とついこないだまで……って言っても大分経つけど戦争してたなんて信じられないよね?」
「……ああ、そうだな」
「シンはさ、今オーブに対してどう思ってるの?」
これはシンがオーブに行くのを決めてから、ルナマリアが一番気になっていたことだった。おそらくだが嫌い、ではないのだろう。嫌っているのであればオーブに行こうなんて思わないはずだ。
「分からない……いや、分からなかった、が正しいのかな。だからオーブに来て確かめようって思ってたのかもしれない」
「じゃあ、実際にオーブに来て確かめれたの?」
「そうだな、言葉にはしにくいけど……多分、好きとか嫌いとかそういうのが入り混じってるんだ。でも、だからって別に今すぐ決める必要はない。この国は俺の故郷だ――――今はそれでいいんだと思う」
そういったシンはどこか大人びているように見え、ルナマリアは頬を赤く染める。
「もう、それじゃあ結局先延ばしにしただけで何の解決にもなってないじゃない!」
頬を染めたのを誤魔化すようにシンのいった事を否定するような発言をする。
「別にそれでもいいじゃん。単純に決めつけるのが一番良くない様な気がするし。オーブだからとか、故郷だからとかで、この国に対する認識を決めたら、相手をよく見れないままに間違いを犯すことになるかもしれないんだからさ」
そうやって話し合ったる内にシンの気疲れもなくなったのか、買い物を再開する。二人で並んで歩くその姿は、先程より少しだけ距離が縮んでいたようにも見えた。
◇
「で、坊主?結局お前さんは二人の気持ちに気付いていながら、それに応えてないっていうのか?」
深夜といっても良い時間に珈琲喫茶店~虎~で呑んでいたネオはシンを問い詰める。
「気持ちって言われても、それが本当に好きとかそういうのかわかんねえし……ステラの好意だって恋愛じゃなくて友愛かも――――」
「カー、この馬鹿野郎!あんだけの事があってなんでそう勘違いできるっていうんだ!?こういうのはね、直感で分かるだろ、普通!」
ネオだけでなくシンも随分と酔っていた。シンはどちらかというとダウナーなのか、沈んだ様子で自分が本当に好意を持たれているのかと不安を口にし、ネオは逆にアッパーなのかシンを焚き付けようとする。
「酒なら余所でやってくれんかね?うちは珈琲の喫茶店であってバーでも何でもないんだが?」
「偶にはいいだろ!別にもう閉店してる時間なんだから営業妨害ってわけでもないんだろ!もっと呑めって!」
シンは更に無理矢理呑まされる。間違いなく二日酔いしてしまいそうなほど呑まされているが、シンは抵抗できない。
「お前さんは結局どっちが好きなんだ?」
酔いも回ってシンの口も滑りやすくなっただろうと思った所でネオが尋ねる。
(俺って……どっちが好きなんだろ?)
ステラの満面の笑みも、ルナマリアの遠回しな優しさも、どちらもシンに好意を持っているからこそだと理解できる。だからこそ、余計にシンは悩むのだ。
「俺が……俺が好きなのは――――」
◇
「頭いてー」
「シン、大丈夫?」
「飲み過ぎよ。もう、昨日あんなに注意したのに」
シンは二日酔いの痛みを堪えながらシャトルでの受付を済ませていた。少しでもマシになろうとぎりぎりまで寝ていたのだが、それでも二日酔いの痛みは消えていない。
「はい、飲み物と睡眠剤。シャトルに乗って吐くなんてことはしないでよね?」
「ありがと……」
ルナマリアが買ってきたスポーツ飲料と睡眠剤を手渡す。シンはその心遣いに感謝しつスポーツ飲料を飲んで少しだけだが気分がマシになったような気がする。
「ねえ、シン。また来てくれるよね?」
「ああ、勿論。何なら、今度はステラがプラントに来なよ」
頭を痛めつつもそう応えるシン。それに対してステラが―――――
「うん、シン。必ず行くから!」
そう言って頬に口づけする。不意打ち気味に放たれた事と、シンが二日酔いで動きが鈍っていたことによって止めたり避けるといった事でが出来ずにキスされた。
「シン!アンタ何やってんのよ!!」
「わー、止めろって!?叫ぶな!頭に響くー!?」
それを見たルナマリアが怒り叫ぶがシンはその大声が頭に響いてその場にうずくまり、ステラは微笑みかけているだけだ。
その後も、ルナマリアが追及を続けていたが、シャトルの出航予定時刻も間近になり、シンとルナマリアはシャトルに向かう。
「バイバイー!」
ステラは彼らが見えなくなるまで片手を大きく振り続けた。
「ったくよ……狡い奴だぜ。最後までどっちが好きか言わないで寝ちまうとはな」
ネオがそんな事を呟く。それに対して反応を返したのは、その時一緒にいた喫茶店のマスターだ。
「お前さんが呑ませ過ぎたんだろう?二日酔いだったじゃないか。シャトルに乗って大丈夫なのかね、あれで?」
結局、昨夜喫茶店で酔わせて本心を曝け出させてやろうとしたネオの企みは結局シンが言おうとした直前に寝てしまった事で失敗に終わった。起こしても良かったが、それはネオとしてはなんとなくそれをするのは負けな気がしたのでやらなかった。
「ま、もうしばらくはあいつ等の三角関係は続くって事かね?」
ネオ達は施設の屋上まで上がり、出発するシャトルを見上げながらネオはそう言って彼らの恋の行く末を楽しみにするのだった。
後書き
完結後のお話その一。その二以降はまだ未定。とりあえず次はアスランとカガリの組み合わせかな?
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