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戦国†恋姫 外史に飛ばされし者

作者:藤吉
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第10話

 
前書き
キタァああああああ
ふた桁来たおおおお!

竜司「テンション高いなおい…」

いやだってフタケタだよ!ただでさえ更新遅いのにフタケタ乗ったんだよ!テンションが上がる上がる!

竜司「まぁいい。とりあえず…」

作者、竜司「「では、どうぞ」」 

 
戦国†恋姫 外史に飛ばされし者



第10話




少女「ふぅ~…」

少女「ええと…ひぃ、ふぅ、みぃ…うん。とりあえずはこんなものかな」

少女「はぁ。最近稼ぎが悪いから薪も少ないなぁ。なんとかしないとだけど…戦もないし」

少女「やっぱりどこかに仕官しないとマズイかなぁ。でも堅苦しいのはいやだし…」

少女「こんな私がのびのび仕えることの出来る大将って、どこかにいないかなぁ…」

ひよ子「ころちゃーーーーーーーん!」

正勝「あれっ?ひよ!うわー、久しぶりー!」

ひよ子「えへへ、久しぶりだね!調子はどう?風邪とか引いてない?」

正勝「大丈夫大丈夫。健康そのもの!なんだけどねぇ…」

ひよ子「ほえ?元気ないねぇ。どうしたの?」

正勝「最近、稼ぎが少なくて…はぁ。織田も斎藤も、もっと派手に戦してくれればいいのに」

ひよ子「あははは…」

正勝「で、ひよは今、何してるの?」

ひよ子「今は清洲の織田上総介様にお仕えしてるの。昔、言ってた夢…武士になって功を立てて、おっかあたちを養うって夢が、少しだけ実現できたんだよ!」

正勝「そうなの!?すごいじゃん!」

ひよ子「へへ~…♪」

正勝「で、そちらの方は同僚さん?」

ひよ子「違うよ!あのね、こちらは私のお頭で、織田上総介様の旦那様なんだよ!」

正勝「…えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?」


 いきなりの紹介に俺も驚いたが、俺が久遠の旦那であることに俺の数倍の驚きを見せる。


竜司「あぁ…えっと、はじめまして…かな?そんな緊張しなくてもとって食ったりはしない」

正勝「し、しかし…!」

竜司「確かに織田三郎信長の旦那になってはいるが、ある理由からだ。婚約もしていないし、式も上げていない。まぁ一応ひよ子の上司という認識で十分だ。だから畏まる必要はないぞ」

正勝「は、はぁ…」

ひよ子「えへへ。お頭はね、強くてかっこよくて、すっごく優しい方なんだよ!」

正勝「優しいというか…変わってる人にしか思えないんだけど…」

ひよ子「そんなことないよ!すごく、すごーくお優しくて、それでね、すっごい尊い人なんだよ!」

正勝「尊い?…あ、もしかして田楽狭間に現れた!?」

ひよ子「うんっ!えへへ~♪」

竜司「なんでひよが嬉しそうなんだ?」

ひよ子「だってだって、何だか嬉しいじゃないですか。お頭のこと、知ってる人がいるって!」

正勝「田楽狭間で織田に勝利をもたらすため、天が織田に贈ったと言われる、田楽狭間の天人ーーーー」

以後転子「ご無礼致しました!私、この辺りを仕切っている、蜂須賀小六転子正勝と申します!天より降り立ち、一切衆生を救い給う阿弥陀様の化身と言われる御身のご尊顔を拝し奉ること、卑賎の身でありながら恐悦至極ーーーー」

竜司「やっぱりこうなったか…いや、まぁ確かに神様からこの世界に送り込まれたのは事実だけど、俺自身はただの人間だから!いや…見た目以上に歳は行ってるけど…別に気兼ねしなくても構わないから!」

転子「しかし…!」


 それからは跪く体制を崩そうとはせず、完全に困惑してしまう。


竜司「ひよ。何とかしてくれ…話が進まん」

ひよ子「ええと、あのね、ころちゃん。竜司様はすごい人なんだけど、身分とか気にしない、お優しい人なんだよ!だからころちゃん、竜司様のお優しさを有り難く頂戴しないと、それこそ逆に失礼になっちゃうよ?」

転子「そ、そういうものなの?」

竜司「それで構わない。俺の配下や公式の場としてならともかく、会話をするなら常に対等の立場で会話をしたいと俺は常々考えている。それに、俺自身肩肘張って話すのは好きじゃないんだ。だから君も、緊張せずに接してくれたら有難い」

転子「ええっと…」


 こっちの世界での普通とは違う竜司の返答に戸惑っている様子。


竜司「ダメか?」

転子「…本当に御宜しいので?」

竜司「あぁ。是非そうしてくれ」

転子「あっ…その!し、承知しました!」

竜司「ありがとう」

転子「………はぁ~。やっぱり変な方ですね。私なんかにそんな気軽にお礼をお言いになるなんて」

ひよ子「変じゃないよ!お優しい方なんだよ!」

転子「はいはい。じゃあそういうことにしとくわ。…それでひよ。今日は一体?」


 やっと本題に入れることにホッと安堵の息を吐き、俺が説明しようと前に出る。


竜司「ここからは、俺が説明しよう。今回君に会いに来たのはほかでもない。実は野武士の棟梁である蜂須賀小六正勝殿に、ある依頼をしに参った次第だ」

転子「は、はい!依頼…ですか?」

竜司「あぁ。近々、墨俣に城を築くことになったので、君達にはその手伝いをしてほしい」


 依頼を聞いて、【墨俣築城】に反応したのだろう、転子の瞳が鋭くなり、顔が引き締まる。


転子「…なるほど。野武士を纏めている私の力が必要。そういうことですね」

竜司「理解が早くて助かる。それで返答を…」

転子「お待ちを。ここで立ち話をするような案件ではありません。詳しい話は私の長屋の中で致しましょう。荒ら屋ではございますが、どうぞ中へーー」


 確かにこんな太陽の下で話すような案件ではないなと判断し、転子に促され、俺達は転子の家に入ることにした。


転子「清洲織田の殿様が、墨俣の地に城を築こうとしているという噂は、予てより耳にしておりました。それに先日、家老である佐久間様の部隊が、築城に失敗して敗走を余儀なくされた、との情報も得ています」

ひよ子「ふわー。さすが野武士の棟梁だね、ころちゃん……」

転子「情報が私の稼ぎの源だしね。それで、ええと…」

竜司「竜司隊組頭、三上竜司…と言っても俺とひよしか居ない部隊だが、まぁ好きに呼んでくれ」

転子「それで竜司様。私達野武士の力が必要とのことですが…美濃衆と戦をするのですか?」

竜司「さっき言った通りだ。今回は戦ではなく、墨俣に城を建てる手助けをして欲しいと思っている。まずは俺の考えた策を聞いてもらえるか?」

転子「わかりました。聞きましょう。で、その作戦といのは?」

竜司「ひよ。持ってきた地図を出せ」

ひよ子「はい!」


 地図を広げ、指で位置を指し示しながら、建城予定の場所を説明していく。


竜司「この長良川の本流と、細い川が交差しているこの位置に築城予定地にしようと思う。でだ、この築城の際、肝心になってくるのがこの川だ」

転子「長良川ですね」

竜司「そう。佐久間殿の部隊が敗走したことに際し、詳しく聞いたところ、築城の準備をする間もままならず、敵の襲撃を受け、敗走を余儀なくされたようだ。そりゃそうだろうな。仮にも敵の目前で築城しようってんだから。敵襲を受けても仕方がないーーーー」

竜司「そこでだ。俺達は予め城の部品を長良川上流である程度組み立てておいて、そこから筏で一気に長良川を下る。夜の闇に紛れてな」


 俺の説明をひよ子と転子は黙って聞いている。
そして俺は指で進行経路をなぞりながら、説明を続ける。


竜司「後は一気に川を下って墨俣に上陸したと同時に、予め用意してあった部品を手早く組み立てる。組み立てる際、敵の襲撃も勿論予想される。なので、まずは防御柵を建て、堀を掘って美濃勢の襲撃に備える。後は順序よく組み立ててもらえれば良い。迎撃には俺も参加するしそこは心配いらないだろう。説明は以上だ」

ひよ子「なるほど!お頭すごいです!」

転子「うん。こんな築城の仕方、初めてみるけど、これだったら何とかなるかも…」

竜司「無理にとは言わない。けど俺達には人員が居ないんでな…できれば強力してくれると助かる」

転子「準備と報酬、その両方で結構な銭が必要になりますが、その辺りは?」

竜司「織田三郎曰く。美濃攻略は織田家の悲願。それが成功するならその辺は惜しまないだろう。おそらく君の言い値は飲んでくれるはずだ」

転子「ふむ…分かりました。仕事の危険度から考えればある程度、値は張ってしまうのは仕方ありませんが、そこはご理解いただきたく…」

竜司「承知している」


 後は久遠に説明すればいいか…後、もう一つこの作戦に必要なことも…。


転子「では私はすぐに仲間たちに渡りをつけます」

竜司「了解した。資材と資金はこちらが用意しよう。人数を集めるのにどれくらい必要か?」

転子「そうですね…大体七日ほど頂ければ十分かと」

ひよ子「資材の準備も同じくらいの日数があれば大丈夫ですね。じゃあ七日後に決行、ですか?」

竜司「いや、人数と材料を集めたとしても…いきなり決行するのは愚策中の愚策だ。材料をある程度加工して、組み立てる順序を確認しつつ、部隊編成や動かし方も訓練が必要だ。それに、運搬する資材も敵に感づかれないように隠しておく必要もあるから…最低でも……もう七日、二週間後になるか…」


 どこに敵の目があるかわからんからな…感付かれたら一貫の終わりだ…。
尾張でやるのは…駄目だ。間者の目があるかも知れない。
なら美濃周辺…それも駄目だ。地図を見る限り長良川の上流の森に隠しておくのもありかと考えたが、雨水などを吸ってしまえば木材が腐る可能性もある。
なら、どこに隠すか…この転子が纏めているこの村しかないだろう。


転子「妥当な判断です…こんなことを言うのもなんですけど、切れ者ですね、竜司様は」

竜司「まぁ今回に限っては原因も大体予測は出来ていたからな。その上で最善の策を考えただけだ」

ひよ子「もうそんなこと言って!お頭はすごいんです!すごいんですったら!」

竜司「落ち着けひよ。まぁ策をあげたところで、これからは転子、君と君が率いる者達の協力に掛かっている。報酬は弾むが…まぁよろしく頼む」

転子「了解しました。被災ながらご期待に応えられるよう、全力を尽くしましょう」

竜司「頼む。ひよ。君は転子と連携を取り、段取りを整えてくれ」

ひよ子「はい!」


 蜂須賀小六正勝、通称転子。
拒否されるものと覚悟はしていたが、快く引き受けてもらえてまずはホッとする。
その後大まかなことを打ち合わせ、俺とひよ子は清洲へ戻るのだった。


竜司「これでおおよその検討は着いた、か。後は久遠に説明して、報奨金とかを打ち合わせて…」


 人材の確保、資材の調達に人件費…その他諸々を含めてかかる費用は…
その辺りの計算も一応は学んではいたが…やれやれ…
ここにパソコンがあればどれほど楽かと思いながら、やはり俺も現代の人間なんだなと感慨にふける。


ひよ子「ひぃ、ふぅ、みぃの…ええとー…」


 そんなことを考えていたら俺の横でひよ子が何か計算をしながらボソボソと呟いていた。


竜司「何やってるんだ?ひよ」

ひよ子「あ、この作戦にかかる費用の計算をしてたんです。私、計算だけは得意ですから」

竜司「そう言えば、俺が尾張に来るまでは色々な役職をやってたんだっけな?」

ひよ子「そうですそうです!台所奉行から物資の計算まで色々やってたので」

竜司「そうなのか。じゃあそのへんの計算はひよに頼んでもいいか?」

ひよ子「はい!お任せ下さい!」


 役に立つのが嬉しいのだろう。
ひよ子はガッツポーズを取りながら俺に笑いかける。


竜司「それで、ひよから見て、今回かかる費用はどれくらいか検討は付いてるのか?」

ひよ子「そうですね…ころちゃんの配下は、確か二千人くらいでしたから~…」

竜司「へぇ…野武士で二千人…それほどの人数を一人で纏めてるんだな…あの子」

ひよ子「この辺りの野武士たちはみんな、ころちゃんのことを慕ってますからね。えへへ、自慢の幼馴染です♪」


 まるで自分のことのように喜ぶひよ子。
何十何百ならいざ知らず、二千の兵を抱えてるというのは相当慕われているということ。
それは素直に驚愕してしまう。


ひよ子「ええとー…ひぃ、ふぅ、みぃ、よぉ…木材と縄、それに人足が六百人としてぇ~…うん、出ました!およそ二千二十一貫あれば、おおよそ賄えると思います!」

竜司「えらく細かく計算できたな。大したものだ」

ひよ子「あぅ~…そ、そんなことありませんよぉ」

竜司「人には得手不得手がある。ひよのそれは今までの経験で培った力なのだろうな。そう言う細かな計算も部隊運営や国営においても大切なことだ。それが即座に出来るひよは、これから強い力になる。久遠がひよを俺に付けた理由が、少しわかった気がするな…」

ひよ子「…えへへ♪」

竜司「それじゃあ、これから隊の金の管理はひよに任せる。運営は俺もやるが、その辺りは頼む」

ひよ子「は、はい!頑張ります!」

竜司「よし。じゃあ必要な費用や材料の目録を書き出して纏めてくれ。それを後で久遠に見せるとしよう」

ひよ子「はい!じゃあザッと纏めてみますね!」


 そう言うと、矢立から筆を出し、大福帳にまとめていく。
ある程度纏め、俺が確認して、良いと判断した後、清洲城へ登城する。



久遠「どうした竜司?築城の算段はついたのか?」

竜司「まぁある程度はな」


 久遠に確認してもらおうと評定の間へ趣いてみると、久遠が仕事をしているのが見えた。


久遠「本当か?ならば説明せよ」

竜司「わかった。まずこの作戦にかかる費用のことだが…ひよ、説明しろ」

ひよ子「は、はひぅ!こ、これがしゅのまちゃちくじょのたにひっちゅような資金となりましゅ!」
訳(これが墨俣築城に必要な資金となります!)

久遠「…猿」

竜司「緊張するなひよ。落ち着いてゆっくり話せ」

ひよ子「は、はひ!」

久遠「竜司の申す通りだ猿。普通にやれ」

ひよ子「あわわわわわわっ、ふ、ふ、ふつう…普通ですか…普通普通…」

竜司「まぁ仕方があるまい…今まで小姓からいきなり武士になって初めての戦だ。緊張するのも無理はないな」

久遠「それはそうだが…我はそこまで身分は気にせぬ…心優しく接していたつもりなのだがなぁ…」

竜司「身分も違えば立場も違う…感じ方も違えば物の見方も違ってくる…こればかりは慣れるまで時間がかかるだろう…気長に待つんだな」

久遠「…おい竜司…」

竜司「なんだ?」

久遠「……なんでもない」

竜司「まぁ粗方想像は付く。初めて会ったとき、俺は堂々としていたのだから、ひよも慣れるだろうと思ったんだろう?」

久遠「……うむ」

竜司「それは簡単。俺がこの時代の、この世界の住人ではないからな。身分とかそういうのは元から気にしていなかったから」

久遠「………」

ひよ子「あぅあぅ!ごめんなさぃぃぃぃぃ!私が愚図でノロマなばかりに、ご気分を悪くさせてしまってぇ…!」

久遠「怒りはせん。だが猿よ。こやつの申すことは最もだが、こやつに接するように我と接して構わんのだぞ?」

ひよ子「無理ですぅ!」

久遠「……」


 ひよ子の全力の否定に口をポカーンとさせる久遠。
その表情に呆れる俺。


竜司「…(やれやれ…)」

久遠「り、竜司ぃ!何とかせよ!」

竜司「やれやれ…仕方のない。なら久遠、そしてひよ。お前ら二人、互いに真名を交換しろ。親しくなるにはまず互いの名を呼ぶところからだ」

久遠「そ、そうなのか?おい猿」

ひよ子「は、はい!」

久遠「これから我はそちのことをひよと呼ぶ。貴様も我のことは久遠と呼べ。これは命令だ」

ひよ子「そ、そんな恐れ多いことできませんよぉ!」

久遠「こやつのことは気安くお頭と呼んでおるではないか。…構わん。呼べ」

ひよ子「で、でもぉぉぉお!」

竜司「ひよ」

ひよ子「は、はい!」

竜司「ひよも言っていただろう。その者の優しさを有り難く受け取らないと、逆にその者にも失礼にあたると。今久遠はひよに真名を呼ぶことを許した。それは久遠の優しさだ。だからひよはその優しさを受け取る義務がある。ここは有り難く頂戴し、君もひよと呼ぶことを許せばいい」

ひよ子「は、はひぃぃぃぃぃ…」

竜司「よし。ならお互いが納得したところで報告を続けよう。ひよ、次はしっかりやれ。だが決して肩肘を張らず、深呼吸をしてゆっくりでいい」

ひよ子「が、頑張ります!」


 そう言うと大きく二回、深呼吸をして先程まとめた大福帳を取り出し、久遠の前に差し出す。


ひよ子「その、今回の墨俣築城に際し、おおよそ二千二十一貫の銭が必要になると計算が出ましたー!」

久遠「ふむ。見せよ」

竜司「今回俺達が立てた作戦はというと…」


 大福帳と地図を見比べながら、大まかな作戦の概要を説明していく。


竜司「…ということになる。だから今回は織田家の軍は使わない。これによって、織田家の動向を相手に気取られることなく組立てられるし、軍の損失も減るという寸法だ。俺たちが長良川上流から一気に下り、上陸したと同時に素早く組立作業に入る。夜の闇に紛れてな…。そうすれば、敵の不意をつくことも可能になるし、一から組み立てる手間も省ける」

久遠「なるほど…そのような手があったか…」

竜司「そこでだ…一つ、久遠に…というか、織田軍にやってもらいたいことがある」


 俺たちが建城作業に入っている間、相手が襲ってこないとも限らない。
しかも、斎藤家には一人、問題の将がいるからな。
より築城を安全に、そして素早く行うには…


久遠「うむ。囮になれば良いのだな」

竜司「さすがだな。俺達考えを読み取ったか」

久遠「まぁな。この作戦に何が足りないのかを考えれば、自然と答えは出よう。そしてお前が頼みそうなことを考えれば、な」

竜司「その通りだ。久遠たちが敵の目を引きつけれくれればその分作業の効率も上がる」

久遠「わかった。決行はいつだ?」

竜司「資材の運搬、こちらの部隊の編成に用兵や組立ての訓練…その辺りを考えると約十四、五日あれば、何とかなるだろう」

久遠「わかった。雛に命じ、美濃方面に流言を流しておく」

竜司「了解だ、後この作戦が成った暁には一つ頼みがある」

久遠「なんだ?今日はおねだりが多いのだな」

竜司「今回の作戦にひよの幼馴染が協力してくれる。そしてその子は野武士でな。今はどこにも仕官していない」

久遠「言いたいことが分からん、みな言え」

竜司「もしこの作戦が成功したら、そのころの幼馴染を織田家の仕官を認めて欲しい。名を蜂須賀小六正勝。通称は転子」

久遠「なるほど。褒美としてか?」

竜司「あぁ。その子が来ればひよも昔馴染みの子と仕事ができて今後仕事もやりやすくなるだろうし戦力も確保出来る。一石二鳥だろ?」

ひよ子「お頭…」


 友達と一緒に働けることに喜び、目が潤んでいるひよ子。
それを聞き、久遠も納得したという表情になる。


久遠「ふむ、構わんぞ?ただし面倒は貴様が見ろよ」

竜司「なに?」

久遠「我の直臣ではなく、貴様の臣にすると良い。その方がその者も気楽であろう?」

竜司「なるほど…わかった。ひよと転子は俺が面倒みよう」

久遠「銭は用意させる。…頼むぞ竜司」

竜司「委細承知」


 俺達の案が承諾され、久遠も納得したところで、俺たちは直様準備に取り掛かった。
資材の手配や運搬などは、ひよ子が一手に引き受けてくれた。
そうしたら今までの経験からだろう、作業は効率よく、スムーズに進んでいるようだった。
そして俺は主に、築城する際の手順や部隊の編成の割り当て、作業効率を上げるための道具の開発など、やることは山積みだった。
細かな指示などは転子が出す使者に書状でやりとりをしている。
本当は連絡用の術式、テレパシーの術式で作った紙があるのでそれを渡せば良いのだが…。


帰蝶「……」

竜司「……」

帰蝶「ねぇ…」

竜司「……」

帰蝶「ねぇったら!」

竜司「うわっ!なんだ帰蝶か…脅かさないでくれ。どうした?」

帰蝶「あなたが気付かないのが悪いんじゃない…それで、さっきから何してんのよ?地図なんかとにらめっこなんかして」

竜司「これか…これはもし敵がきた時にどこに柵を配置すればいいか、どこから敵が来るかを予測して、印をつけてるんだ」

帰蝶「ふぅん…あなた、壬月達以上の力を持ってるのに、まるで軍師みたいなこともするのね…」

竜司「まぁ、出来る限りの危険は回避したいし、俺がやると言ってしまったからな」

帰蝶「……あんたは…」

竜司「ん?」

帰蝶「…いいえ、なんでもないわ」

竜司「変な帰蝶だな」

帰蝶「あんたに言われたくないわよ…」


 そう返事をすると、あっという間に黙ってしまった。
一体何を聞きたかったのか。
そんなこんなで、あっという間に二週間が過ぎ、いよいよ作戦決行の日。
俺とひよ子は長良川上流に待機する転子達と合流する。


ひよ子「んーと、木材よし、縄よし、鍬よし、しゃべるよし…」


 ひよ子は目録と見比べながら運搬する材料や道具を確認する。


竜司「便利なもんだろ?これで作業効率も上がるはずだ」

ひよ子「はい!こんなのを作っちゃうなんて、お頭って発明家さんですねー♪」

転子「確かに。この鉄鍬としゃべるを使うと、びっくりするくらい早く穴が掘れますね」

ひよ子「ちょっとした空堀くらいなら、すぐにつくれちゃいそうですね!さすがお頭です!」

竜司「元の世界では一般の家でも使っているものだが、今回はなるべく早く城を建てなければならんからな。ついでに言っておくがこの道具は俺達の隊以外は使うなよ。お前たちもこの道具の情報を外部に漏らさないように」


 俺の注意に周りは「へい!」「了解でさぁお頭!」などという声が上がる。


竜司「…(なるべく俺が前に出て、敵を引きつけよう。人に使うのは癪だが…今回ばかりは…)」


 そう心に決めていると、後ろからひよ子が声を上げる。


ひよ子「お頭ー!資材その他諸々、準備完了でーす!」

転子「人足、足軽達も準備完了です。いつでもいけます!」

竜司「分かった…」


 そう返事をすると、竜司は武士たちの前に出る。


竜司「まず、今日まで付き合ってくれた君たちには心から感謝する。墨俣築城…これは我ら織田軍が未来を掴む新たな一歩となる。だが、此度の作戦、時間との勝負だ。いかに早く築城し、我らが殿を迎え入れるかは、君たちの手にかかっている。だが…臆することはない。君たちには我が加護がある!我の力で、君たちには指一本触れさせはせん!気負わず、各班長の指示に従い、訓練通りにことを運べ!」


 俺の激を聞き、至るところで鬨の声が上がる。


竜司「降河開始!」


 一方織田軍率いる久遠も竜司の時間を稼ぐべく、東口に到着していた。


久遠「我らも出る!東口より北進し、美濃勢の動きに合わせるぞ!深追いはするな!」

兵士「「「応!!」」」



竜司「もうすぐ築城予定地に到着…皆の士気は重畳…後は敵が来ないのを祈るばかりだが…」


 辺りに敵がいないかを警戒しながら目標地点を目指す。


ひよ子「お頭、墨俣に到着します」

竜司「いよいよか…皆、墨俣に上陸し次第、すぐ作業に取り掛かれ!ひよ、ころは陣頭指揮を。敵が来たら迎え撃つぞ!」

転子「はい!上陸準備!」


 転子が指示するのと同時に、筏が岸に乗り上げる。


ひよ子「上陸ー!みんな駆け足ー!」

足軽「応!」

竜司「では早速作業開始だ!人足は防衛を固めるため、柵を建て、堀を作れ!どの地点を掘ればいいかは木下藤吉郎が指示を出す。足軽たちは蜂須賀小六が。築城の班は各班長の指示に従え!それと、ころ」

転子「はい!」

竜司「北、及び東に斥候を放ちたい。君の衆から何人か選抜して放ってくれ。それと、情報は密に。敵が来たら部隊指揮をとってくれ」

転子「承知しました!」

竜司「その他の者達は作業を開始せよ!時間がない…急げ!」


 竜司が指示を出し、不測の事態に備えている頃、織田軍も美濃勢を発見していた。


壬月「殿!前方に美濃勢を発見!」

久遠「旗はどうだ?誰が率いている?」

壬月「あの旗は美濃の長井ですな。他に、丸に九枚笹などが見受けられますが」


 長井というのは、美濃斎藤家家臣の長井道利のこと。
斎藤道三・義龍・龍興の斎藤家三代に仕えている重臣で、美濃可児郡・中美濃に勢力を築き、対織田戦で活躍。
斎藤道三とは姉妹関係にある。


麦穂「美濃の麒麟児・竹中殿ですか。前の戦では散々に打ち破られてしまいましたからね」


 美濃の麒麟児竹中とは竹中半兵衛のこと。
竹中半兵衛は斎藤龍興に仕えて、今日まで織田家の進軍をその天才的な知略で何度も防いできた。
最近龍興との寄り合いも悪く、龍興や美濃三人衆から何度も蔑まれてきた。
だが、何度蔑まれようと斎藤家に忠義を尽くしている。


久遠「長井、か…」

壬月「殿、抑えてください」

久遠「わかっている。蝮の仇とて、今は自重する。…壬月、麦穂、展開せい!なんとしてでも、竜司の時間を稼ぐぞ!」

壬月、麦穂「「はっ!」」

壬月「三若ぁ!前に出ぃ!」

和奏「よっしゃー!やっと出番だぜー!」

犬子「わんわん!竜司様にも犬子の活躍見てもらいたかったけど、仕方ないから後で教えちゃおー!」

雛「二人とも~あまり入れ込み過ぎないようにね~」

壬月「まぁそれくらいが丁度良い。…では殿。行ってまいります。麦穂は殿をまもってくれぃ」

麦穂「はい。気をつけて行ってらっしゃいませ」

久遠「励め」

壬月「応っ!…足軽どもよ、此度は深戦はせんが、総崩れにならんよう、少ない勇気を振り絞れぃ!和奏ぁ!此度の戦、貴様の鉄砲で幕を開けぃ!」

和奏「了解でっす!おらぁ、皆々、撃っちまえーーーー!」


 作業に取り掛かっていると、東の方角から鉄砲の爆撃音が聞こえてくる。


転子「竜司様ぁ!東の方角より鉄砲の音が!」

竜司「わかっている。皆気張れよ!敵が来ても奥するな!」

ひよ子「ころちゃん、物見の報告は?」

転子「まだ来てないよ。多分、稲葉山城はこっちの動きにまだ気づいてないんじゃないかな?」

竜司「ひよ。城周辺の堀と柵はどうだ?」

ひよ子「堀、及び、柵も準備完了です!蜂須賀衆には柵内に入って敵襲に備えてもらっています!」

竜司「分かった。ひよ、ころ。ここは任せる。俺が前に出て敵の進軍を止める。後は臨機応変に対応してくれ」

転子「え!?そ、そんな!竜司様一人で美濃勢を受け止めるなんて無茶です!」

ひよ子「えっと…大丈夫だよ。ころちゃん」

転子「ひよぉ!あんたも竜司様を止めてよぉ!」

ひよ子「私もころちゃんの意見には賛成だけど、でも大丈夫!なんてったって、竜司様はあの柴田勝家様に勝った人だよ!」

転子「うぇぇぇ!あの、掛かれ柴田とか鬼柴田とかで畏れられてる柴田勝家様に!?本当なの?ひよ!」

ひよ子「そうだよー!私、ちゃんとこの目で見たんだから!」

転子「竜司様…」

竜司「あの時は俺も、壬月…あぁ勝家殿の真名な。も力制御してたし強さは同じくらいじゃないかな。まぁとりあえず、そういう訳だから俺のことは心配ない」

転子「しかし、相手も兵数は多い。竜司様が抜かれれば、私達は柵の中に閉じ込って、味方の援軍を待つしかないでしょう」

竜司「それに関してだが、ころ、二百ほど森に潜ませてくれないか?」

転子「何を…あぁ、伏兵というわけですか?」

竜司「それもあるな。けどそのうち百に旗を持たせてくれ。初撃を俺が受け止めて様子を見る。そして合図を出すから百の伏兵部隊で墨俣城に向けて突撃。味方を受け入れたらすぐに門を締めてくれ。後は旗を持った部隊が旗を揚げると同時に鬨の声を上げ続ければ…どうなると思う?」

転子「なるほどー。敵は織田の援軍が来たと勘違いして戦意を無くすかも知れませんね。承知しました。そちらもご用意致しましょう」

竜司「後は…久遠がどれだけ時間を稼いでくれるか…だな」


 

少女「数を揃えて討ち入った割に、尾張衆の動きが鈍いように感じますね…これは…陽動、ですね。…となれば、織田の狙いは…なるほど、墨俣ですか。なかなか上手い手です。ですが…ふむ。私はどうするべきでしょうか…」


 少女は少し考え込み、ため息を一つ吐く。


少女「…やめておきましょう。例えこの推測を告げたとて、稲葉山の愚人たちは否定し、あざ笑うだけでしょう。我慢にはもう飽いた。…やはり動くべきですね。はぁ…鷺山殿が愛した美濃も、枝折れ根腐り、見る影もなし…無念です」




 作業が着々と進んでいく中、物見に出ていた足軽が俺達のところに駆け込んできた。


足軽「お頭ー!北方に美濃衆の旗を発見しましたぜー!」

竜司「来たか…敵との距離は?」

足軽「ざっと見て、五里向こうってとこでしょうかね」


 ちなみに中国では一里は約500m。
そして日本での一里は約4km。
なのでこの場合、約18、9キロということになる。


竜司「へぇ…案外近いな。よし、俺は前に出る。ひよ、ころ!」

ひよ子、転子「「はーい!」」

竜司「これから敵を迎え撃つ。ころは先程言った伏兵と偽兵の準備を。合図は…」


 そう言うと、竜司はベルベルクを出現させ、二人の前に見せる。


竜司「この銃を上に向けて撃つから、それが合図だということを伝えてくれ」

転子「うわっ!どこから出したんですか!?」

竜司「説明は後で頼む。時間がない。後は俺のうちこぼした敵を足軽率いて迎え撃て」

転子「了解しました!」

竜司「大丈夫か?ひよ」


 見ると、ひよ子はこれから戦闘になることに怯え、体を身震いしていた。
今までは久遠の付き人だったので人を殺したことがないのだろう。
だが、これからは慣れて貰わなければならない。


ひよ子「あ、あの私…腕っ節は全然自信がないですぅ…」

竜司「そうだな。最初はみんなそうだし、人が死んでいくのを見るのは怖い。俺だってそうだ。ころも久遠もみんなもそう。だけどな、全ては無事に明日を迎えるため…この国の民が笑って暮らせる世を作るためでもある。だから…前に出て敵を殺せとは言わない。陣で怯えていても構わない。だけどせめて、ひよにひよだけに出来ることを精一杯してくれればいい。それが、俺達が明日を掴む力となる。だからこの局面。皆で力を合わせて乗り越えるぞ」

転子「皆で力を合わせて…ですか。良い言葉です」

ひよ子「お頭ぁ…かっこいいですぅ…!」


 これで少しは希望が持てたかと安堵する。
そして二人は頬を赤らめて、尊敬の眼差しを竜司に送る。


竜司「ありがとう。ならひよは、弓隊を指揮。後方から援護してくれ。ただ指示だけ出せばいいから。後は蜂須賀衆と足軽たちが何とかしてくれるはずだ」

ひよ子、転子「「はい!」」

竜司「よし…竜司隊組頭、三上竜司!出るぞ!開門!」

転子「蜂須賀衆棟梁、蜂須賀小六転子正勝!出陣!」


 北の方で敵の馬であろう、掛ける音と鬨の声が上がる。


竜司「いよいよか…よし…」


 竜司が刀を出現させ、胸の辺りで刀を横にして構える。
そして…


竜司「薙ぎ払え!斬月!」


 すると、竜司の周りで暴風が吹き荒れる。
そして、竜司の持っている刀は、まるで出刃包丁のような形をし、とても大きく鋭いものだった。


竜司「これでもくらってな!月牙…天衝!」


 刃先から超高密度の霊圧を放出し斬撃を巨大化させて飛ばす。


斎藤家足軽「うわぁああああああああああああああああああああ!」

斎藤家足軽「な、なんだぁあああああああああああああ!」

斎藤家足軽「ば、化物…」

竜司「今だ…ベルベルク!」


 月牙天衝で敵を吹き飛ばし、相手の混乱を誘う。
そしてベルベルクを出現させ、空に向かって氣弾を発射させる。



組頭「来たぞ!お頭の合図だ!俺達も突撃だー!」

足軽「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 突然の伏兵に美濃の兵たちは驚き、面食らった顔をする。


斎藤家足軽「くそ…伏兵か!?」

斎藤家足軽「このままじゃまずい…お、俺は逃げるぞー!」

斎藤家足軽「お、俺も!命があっての物種だ!」

斎藤飛騨「こ、こら待てお主ら!伏兵如きに慌てるな!!前に出て戦わんか!」

斎藤家足軽「し、しかし…!」

斎藤飛騨「ええい!全軍、後ろからの攻撃を突破し、一度距離を置くぞ!退けぃ!」

斎藤家足軽「は、はっ!」



竜司「いい具合に混乱してきたな」

転子「お頭ー!敵は大混乱です!今のうちに追撃をかけましょう!」

竜司「そうだな。よし。なら偽兵も使って、更に混乱させる。ころ!蜂須賀衆、足軽を率い、敵を追撃!ただし深追いはするな!」

転子「はい!」


 そう言うと、偽兵に合図を送るため、もう一度氣弾を打ち上げる。
この場合、普通は鏑矢の音で知らせるのだが、敵はただ弾を外しただけだと勘違いし、油断するだろう。
そこを狙って今回は俺が合図することにしたのだ。
俺の合図に東に伏せた兵たちが旗を掲げ、閧の声を張り上げる。


斎藤飛騨「な、なんだ!」

斎藤家足軽「も、申し上げます!東より、織田木瓜の旗を確認!敵の増援です!」

斎藤飛騨「な、なんだと!ということは…竹中半兵衛がしくじったと言うのか!」

斎藤家足軽「お、おそらく!」

斎藤飛騨「くっ…しかし今退く訳には…!」


 普通は退く場面なのだが、この斎藤飛騨という少女は今まで織田家を侮っていたせいか、中々引こうとはしない。すると、周りの兵が徐々に混乱してきた。


斎藤家足軽「もう駄目だぁ!当方敗北!当方敗北ぅ!皆逃げろぉ!」

斎藤家足軽「こんなところで死にたくねぇ!逃げろぉおおお!」

斎藤飛騨「こ、こら!おい逃げるな!それでも誇り高き美濃侍かぁ!取って返して戦え!くっ足軽どもの腰が引けててこれでは戦にならん!退け!退けぃ!足軽どものせいでこの戦、最早我らに勝ち目はない!稲葉山城に戻る!」

斎藤家足軽「し、しかし!これでは墨俣に城が!」

斎藤飛騨「わかっておる!だが足軽が逃げたら戦にならんではないか!逃げるのではない!足軽は逃げたから仕方なく一度退くだけだ!」

斎藤家足軽「は、はっ!皆退け!退けぃ!」



竜司「敵が退いて行くみたいだな…ころ!追撃だ!」

転子「はい!」

ひよ子「ああん!みんな待ってよぉ!」


 敵が退くのを確認して俺達は更に追尾する。
だが、一気呵成に攻め込むのではなく、あくまで追うふりをするだけだ。
それだけで、戦意をなくしている今の美濃の兵には十分な追い討ちになった。
ある程度追い散らし、あまり距離を置かないためこれ以上の追尾は不要と判断し、本陣に戻り、後は久遠の到着を待つばかりとなった。


竜司「はぁ…」

ひよ子「はぁ、ひぃ、ふぅ、へぇ、ほぉ…」

転子「あ、あははっ、ひよってば変な声ぇ~」

ひよ子「だ、だってぇ~…」

竜司「まぁ、何はともあれ、敵は追い払った。皆よくやった!」


 俺の言葉を聞き、あちこちで勝鬨が上がる。


竜司「とりあえず、これでしばらくは美濃の兵もおとなしくなるだろう。後は久遠が来るまで、作業を進めればいい。それくらいの余裕もある」

ひよ子、転子「「はい!」」

竜司「それじゃあ、被害状況を報告してくれ」

転子「はい!竜司様が前線で敵を抑えていただいたお陰で、こちらの死者はありません。まぁ多少のけが人はいますけど、被害といってもたかが知れてる程度です」

ひよ子「なお、墨俣城築城も約五割は完成している模様です。久遠様が来られる頃にはもう少し完成に近づけるかと思います」

竜司「そうか。じゃあひよは引き続き、築城の陣頭指揮を。ころは、怪我をした者達を俺の周りに連れてきてくれ」

転子「はい!うぇ?何をするんですか?お頭」

竜司「怪我を治す。まぁちょっと普通とは違う方法だけどな」

転子「そ、そんなこともできるんですか!?さすがは天人と呼ばれるだけのことはありますね!」

竜司「まぁそういうわけで、よろしく頼む」

転子「はい!了解しました!}

竜司「それと、元気なものを集めて、遺体を一箇所に集めてくれ。後で火葬する」

転子「そ、そんな!敵ですよ!」

竜司「それでも、この世に生を受けた者達だ。最後に看取ってやるのも敵に対する礼儀でもある。俺はそう思っているがな」

転子「なるほど。分かりました。おっしゃる通りに」

竜司「…(それにしてもさっき…お頭って言わなかったか?ころのやつ)」


 そんなことを考えなら、ひよたちに命令する。
そして、怪我をした者は治療し、そして戦死した敵の兵は城の外に纏め、一斉に燃やし皆で手を合わせた。


竜司「安らかに眠れ…そして次に生を受けし時は平和であることを祈る…」


 時間にして数分と言ったところだろう。
この長く、短い時間で皆の顔はより一層引き締まった。
まるで、その者達の分も俺たちが背負って生きていくと誓うように…。
その後、久遠からの援軍に城を引渡し、俺達は尾張へ帰還することになった。
これにて、俺達竜司隊の初陣、墨俣一夜城防衛戦は、俺達の大勝利に幕を下ろした。




 墨俣一夜城から一夜明け、その日は前日の興奮がまだ続いているのか早起きしてしまった。
そして帰蝶から久遠に呼ばれているとのことで、俺は早々と準備をし、清洲城へ向かった。


久遠「竜司!よくぞ…よくぞやってのけてくれた!」


 久遠がいるであろう評定の間に入ると、いきなり久遠が抱きついてきた。


竜司「やれやれ…落ち着けよ。俺は役目を果たしたまでなんだから」

久遠「そう言うな!我はとても感謝しているのだ。いや、感謝してもしきれん。我は言葉が浮かばん。…とにかくありがとうだ。竜司」

竜司「まぁ…その言葉、有り難くもらっておこう。と言っても俺は大して何もしてはいない。ただ下知を下して、敵の初撃を受け止めただけだしな。全てはひよところ。そして、囮を引き受けてくれた久遠たちのおかげだ」

久遠「我らとて大したことはしていない。が、そうだな。…ありがとうだ。竜司」

竜司「あぁ…」


 久遠の言葉に頷くと、俺はその場に座り込む。


久遠「お、おい!どうしたのだ竜司!」

竜司「いや…人を殺すのは…相変わらず慣れないなと思ってな」

久遠「竜司は今まで何人殺めて来たのだ?」

竜司「さて、ね。今まではこんな感情になることはなかった…多分それは俺が一人だったからかも知れんな。けど今は…守るものが増えてしまった…」

久遠「後悔…しているのか?」

竜司「さぁどうだろう。少なくとも最近、俺はここの生活も気に入ってる。ひよやころ、そして久遠やみんな…守るものも増え、今結構充実してる。こんな気持ちは初めてだ。今まで感じたことのない…だが、悪くない。そして守る戦いなんてやったことがなかったからな。急に気が抜けた」

久遠「うむ。よい。あれほどの困難な任務を成しとけ、初陣を飾ったのだ。さすがは我の夫よ」

竜司「これで皆…少しは認めてくれるかな…」

久遠「心配せずとも、皆、貴様のことは認めておる。ともあれ、これでしばらくは美濃攻略に集中できる。…貴様はしばらく休んでおれ」

竜司「すまん。あぁそうだ…蜂須賀小六のことはどうなった?」

久遠「あぁ、それならすでに使者を出して、本人に伝えてある。これで祝ってやれ」


 そう言うと、久遠は懐から小さな袋を取り出し、俺に渡す。
その袋はずっしりとした重みで中からジャラジャラと音が聞こえる。
どうやら金のようだ。今回墨俣築城の報酬だろう。


竜司「了解。有り難くもらっておくよ」


 そして久遠はまだ仕事があるらしいので城に残るといい。俺は城を後にした。


ひよ子「お頭ぁああああああ!」

転子「お頭!おはようございます!」


 城から出て、城下を歩いていると、向こうからひよ子と転子がやってきた。


竜司「おはよう。ひよ。そしてころ。織田家への仕官。おめでとう。これで正式に仲間ってことになるな」

転子「ありがとうございます!あの…久遠様より、竜司様から進言があったと聞いて、どのようにお礼をしたらいいか…!」

竜司「なに。これくらいどうということはない。これで俺も少しは楽出来るだろうし、ひよも仕事がやりやすいだろうからな」

ひよ子「もう…竜司様ったら。…えへへ、でも、これでころちゃんといつでも一緒にいられるねぇ~♫」

竜司「一緒にってことはつまり…」

転子「はい!久遠様のご命令で、正式に竜司隊に所属することになったんです!」

ひよ子「それに竜司隊の長屋も作ってくれたんですよ!へへー。だからいつでも一緒だなって♪ころちゃんのお鍋が食べ放題ぃ~…じゅるる」

竜司「ひよ…よだれよだれ…」

転子「あははっ、いつでも作ってあげるけど、ひよもちゃんと手伝ってよ?」

ひよ子「うん!」

竜司「いつの間に…」


 元々俺の隊は俺と、ひよ子しかいない部隊。
隊としての動きなど元から出来なかった。
だが転子が加わりちゃんとした部隊としての運営が出来る。
今回の墨俣築城は俺を中心に動いていたのでそこを評価されたのだろう。
まぁ…久遠のことだ。最初から転子を俺の隊に組み込むつもりだったんだろうが…。


竜司「…(久遠には叶わんな…以前俺は聡い奴と言っていたが…お前の方が余程聡いやつだよ久遠…)」

竜司「まぁ、仕方ない…蜂須賀小六転子正勝!」

転子「は、はい!」

竜司「貴殿の入隊を歓迎する。今後とも一層努力せよ」

転子「はい!ありがとうございます!頑張ります!」

ひよ子「えへへ~♪この時の竜司様はかっこいいでしょーころちゃん!」

転子「うん♪」

ひよ子「あっお頭!今日はこれから、ころちゃんのためにお祝いしましょう!」

竜司「そうだな。ならどこかの店に入るか?」

ひよ子「あぅぅ、でもそこまでおぜぜがありませんので…あまり高いところは…」


 そこでさっき久遠からもらった袋を見せる。


竜司「一応さっき久遠から金はもらってる。これでころを祝えと言っていた。これで足りるだろう」

ひよ子「ええとぉ~…」


 そう言うと、ひよ子に袋を渡し、ひよ子はその中身を見る。


ひよ子「………ひぃぃぃぃ!」

竜司「どうした?」

ひよ子「こ、こ、ころ、ころちゃ…」

転子「何?巾着の中身がどうかし…ひぃぃ!?」

ひよ子「お、お頭、あの、これ…」

転子「小粒金がこんなにもあるなんて…私、金なんて初めて見ましたよ…」

竜司「それほどの働きをしたってことだろう…確かこの時代の金の相場は…」

ひよ子「小粒金一粒で、多分一ヶ月くらい余裕で飲み食いできちゃいます」

竜司「なら、これはひよ、君が管理してくれるか?これは竜司隊の資金にしよう。まぁ今日くらいは1粒2粒位使わせてもらうとして…後は今後のためにとっておこう」

ひよ子「そ、そうですね。何をするにしてもお金は大事ですからしっかり管理しておかないと」

転子「お頭…いくらなんでもいい加減過ぎでは…」

竜司「こういうことは慣れた人間がやったほうがいいさ。それにひよなら無駄使いはしないだろうし…俺もそこまで使わないしな。ついでに言っておくと、墨俣築城の費用を計算したのは他でもない、ひよだし。適材適所ってやつだ」

転子「全く…今日はご飯を食べながら、お金の大切さをきっちり理解してもらいますから!良いよね、ひよ!」

ひよ子「うん!お金がどれだけ大切か、お説教しますから、逃しませんよ、お頭!」

竜司「お手やわらかにな。さて…行くか」

ひよ子、転子「「はい!」」



 一先ず、墨俣の一件は片付いた。
だが、まだ戦いは始まったばかり。
これから竜司は…そして戦乙女たちはどんな物語を紡いでいくのか…。


刮目してみよ!


戦国†恋姫 外史に飛ばされし者
墨俣一夜城篇 これにて閉幕 
 

 
後書き
ってなわけで第10話はこんな感じ。

竜司「とりあえず山は越えたというべきか…」

まぁね。転子ちゃんも正式に仲間になったしこれからは幕間の話を入れていくよ!

竜司「まぁ、ここでまた時間がかかるのは目に見えているが…皆さん、どうか気長に付き合ってもらえれば幸いです」

作者、竜司「「それでは…また次回!」」 
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