少年と女神の物語
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第三十四話
「そんな・・・ソウ兄・・・」
私の隣で、立夏がそう声を上げ、武双お兄様がいたところまで飛翔の術で飛んでいった。
動揺してるみたいだけど・・・あそこには神様もいるのに・・・
仕方なく、跳躍の術で立夏の元まで追いつく。
「ソウ兄・・・ドコ・・・ソウ兄!」
「落ち着いて、立夏」
今にも錯乱してどこかに行きそうな立夏を、どうにかして抑える。
「マー姉!ソウ兄が、ソウ兄が・・・」
「いいから、一回落ち着いて。大丈夫、武双お兄様はいきてる」
「どうして、そんな・・・」
「ちゃんとウィツィロポチトリの権能を使ってたし、それに、あの人が家族を残して死ぬはずがない。信じないでどうするの」
抱きしめながらそう言うと、ようやく立夏が落ち着いてきた。
「とりあえず、立夏は武双お兄様のことを霊視出来ないか、頑張って」
「う、うん・・・マー姉は?」
「私は・・・」
そう言いながら、私はシヴァの方を見る。
「ほう・・・貴様らは、あの神殺しの侍女か何かか?」
「違う・・・私達は、あの人の家族」
「そうか・・・なら、せめてもの慈悲だ。家族の元へ送ってやろう」
神様は人間のことなんて眼中にないと思ってたけど・・・宿敵の身近な人間には、少しは関心が湧くのか。
でも、
「その必要はない。武双お兄様は、まだ死んでないから。必ず戻ってきて、あなたを倒す」
「そうか・・・ナインディンよ!」
私の話に少しは関心を持ったのか、シヴァは自分の乗っていた牛・・・ナインディンから降りて、命令を出す。
「神殺しが戻ってくるまでの暇つぶしだ。あのものをと遊んでおれ」
「・・・それは、ちょっと勘弁」
といっても、向こうが人の頼みを聞くはずがないけど。
仕方ないから、私は着ていたものを脱いで、下に着ていた動きやすい格好になり、手にちょっとしたグローブを召喚する。
「BMOOOOOOOOO!!」
「ふぅ・・・時間稼ぎくらいなら、がんばれるかも」
相手は従属神として召喚されている。
神獣なんて目じゃないくらいに強いだろうけど・・・それでも、やるしかない。
大丈夫、武双お兄様が帰ってくるまでの、ほんの少しの間だけだから。
・・・戻ってきたら、目一杯甘えよう。
◇◆◇◆◇
「・・・ここは・・・」
間違いなく、来たことのない空間。少なくとも、もといたインドではない空間に俺はいた。
「あ、そうだ。さっきの子は・・・いた」
俺の足元で気を失っているその子を、動かない両腕の代わりに召喚した槍の柄を動かしておぶり、槍を引っ掛けて固定する。
かなり危ういけど、ここに放って置くわけにもいかない。刃の部分は折ったし、まあ大丈夫だろう。
「とはいえ、まずはここがドコなのか、だよな・・・」
立ち上がって周りを見回しても、特に何かあるわけではない。
さて、どうするか・・・
「・・・ただ、なんか変な感じはするんだよなぁ・・・」
呼ばれている、そんな感じがする。
ただし、俺が呼ばれているという感じではなく・・・こう、俺がもっているものが呼ばれている、そのついでに持ち主も呼ぼう、そんな感じだ。
「他に手がかりもないし・・・仕方ない、か」
他に手がかりがない以上は、この感覚を信じるしかない。
そして、そのまま変な感じがするほうへ向かって歩いていくと・・・そこには、建物があった。
「なんだ、これは・・・」
そう、建物。このわけの分からん、説明することも出来そうにない世界に、何故か一軒だけ建っている。それだけでもう、近づきたくないのが本音だ。
だが、他に手がないのもまた事実で、こんな小さな、一家族四人暮らしがどうにか暮らせるであろう、位の広さの建物に頼らねばならないのが、少し歯がゆかったりする。
それでも・・・ここなら、解決策があるかもしれないのも、間違いないだろう。ここまで、俺の体が高ぶっているのだから。
「今の状態で、戦闘とかになったらいやだなぁ・・・ま、そこは仕方ないと割り切るか」
ようやく決心がついて、俺は建物の中へと足を進める。
入り口の扉を足で乱暴に開けて、そのままずかずかと進んでいく。一瞬違和感を感じたが、それくらいは違和感だろうと割り切る。
途中で負ぶっていた子が古い印象を受ける、青銅器の小物に変わったのには驚いたけど・・・
「服に偶然引っかかったから良かったけど、落としたら拾うのどれだけ大変なのか分かってるのか・・・」
まあ、引っかかるような形になっていた辺りに何かしらの意図を感じるけど。
「・・・・・・ところで、こんなに道って長かったか?」
明らかに、進んだ距離と外から見たおおよその距離とが一致しない。
そして、それでようやくここがドコなのか、心当たりが出来た。
「・・・ここが幽界か・・・始めて来たな」
幽界、アストラル界。隠居した神様などが、暮らしているらしい世界。つっても、知り合いからの伝聞だけど。
ただ、だからといって問題が解決したというわけではない。
「仕方ない、か・・・ロンギヌスよ、神の御技をここに壊せ!」
多少力技ではあるが、ロンギヌスの神をも殺す技を使い、無理矢理にこの結界もどきを壊す。
すると、そこには先ほどの外観どおりの空間が広がっていた。
「・・・オイオイ、力技過ぎやしねぇか?」
「それくらいがちょうどいいだろ、俺たちとあんたらの関係なんて」
その先にいたヤツがそう声をかけてきたので、俺もそう返す。
へんに下手に回る必要はないしな。
「ま、確かにそうだ。ただ、それは地上で暴れまわってるまつろわぬ神の連中だろ?オレはもうそんなヤンチャはやめた、隠居した神だぜ?」
「だったら、たずねた矢先にあんなことをしてきたことの説明をしてくれるか?」
「ほっほっほ。それはそこのどら息子じゃなく、私の仕業ですぞ、羅刹の君よ」
後ろから声をかけられて慌てて振り返ると、そこにはどう見てもアルコールだろうな、という瓶をコップを三つ持った老人がいた。
先ほどまで話していたやつは青年という印象だったので、見た目も性格も間逆であろうこの二人が同じ空間で暮らしていることに少し驚く。
「まあ、その無礼についてはお詫び申し上げます。ただ、こちらとしても事情がありまして」
「・・・事情?」
「はい。まず一つ目に、我々も生と不死の境界に住まうものです。生の領域に住むものに、そこでの情報を与えるというわけにはいかぬのですよ」
「それで、コイツはこんな姿に変わったのか。・・・ああ、この後神様と戦うことになるだろうから、酒はいらん」
「それはそれは。気が回らず申し訳ありませぬ」
一応未成年ではあるんだが・・・家では普通に飲んでるからな、俺を含める一部の姉弟(兄妹)は。
飲めないのは、調と切歌、桜、それに林姉くらいか。
「それで、二つ目は?」
「二つ目は、オレたちの相棒の現相棒が、どれだけの実力なのか知りたくてな。ちょうどピンチみたいだったし、つれてきて試してみた、ってとこだ」
「言ってることが一切分からないが・・・相棒?」
そんな呼び方に該当しそうなものなんて・・・二つくらいしか、心当たりがないぞ・・・
「・・・俺は、神代武双。ゼウスを殺してカンピオーネになった。あんたらは?」
「ん?まだオレたちは挨拶もしてなかったか?悪い悪い!」
「すみません、羅刹の君よ。私もこのどら息子も、挨拶すらしておりませんで」
そして、その二人は、自らの名を名乗った。
「オレはクー・フーリン。ケルト神話の英雄だ。ま、これから何度か会うことになるかも知れんが、よろしく頼むわ」
「私の名前はルー。ケルト神話の太陽神にございます。これから先、幾度となくお呼び出ししてしまうことになるかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします」
その名前は、俺が予想していた名前と一切違いない、名前だった。
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