八条学園怪異譚
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最終話 最後の宴会その五
「そうでしょ」
「じゃあそうした時はですか」
「お互いにですか」
「その心の傷を」
「癒せばいいのよ。一人でも辛い傷でもね」
「二人ならですね」
「癒せるんですね」
二人も頷いた、茉莉也の言葉に。
「二人共傷ついていても」
「出来るんですね」
「周りが何も考えないか悪意で傷に触ってきてもね」
失恋の傷は本当に痛いものだ、それに触れるということはそれだけで人間として間違っている場合がある。だがそうしたことをしてくる人間はどうしてもいる、しかし茉莉也はその場合でも一人ではなく二人ならというのだ。
「お互いにいるから」
「例え何があってもですか」
「二人なら」
「恋愛が普通に進んでいる時も傍に誰かいたらね」
つまり友人がいればというのだ。
「アドバイスとか相談も出来るから」
「私達そういうことは何も知らないですけれど」
「それでもですか」
「そう、それでもよ」
二人いればだというのだ。
「誰かが傍にいてくれるだけで全然違うからね」
「一人でも二人」
「そういうことですね」
「そうよ、二人ならね」
全く違うと話すのだった、そうしてだった。
茉莉也は二人のそれぞれの椀に肉を入れた、そのうえで笑顔で言った。
「食べてね」
「あっ、有り難うございます」
「すいません」
「お礼はいいのよ、とにかくあんた達はね」
今の二人はというのだ。
「一つのことを成し遂げたわ」
「だからですね」
「これからは」
「別のことをね」
「はじめるべきなんですね」
「そういうことですよね」
二人も応える、もう茉莉也の言いたいことはわかっている。
「恋愛とかも」
「そうしたことも」
「かるたやお家のこと、学校のこともいいけれど」
「恋愛ですね」
「そちらに」
「それでなくてもいいけれど」
浅春の中の選択肢の一つとしてだ、茉莉也は二人に勧めるのだった。そしてこんなことも言うのだった。
「愛ある結婚じゃないとね」
「ああ、結婚もですね」
「それもありますね」
二人は今の時点では遥かに思える未来のことについても考えを及ばせた。
「何か凄い未来に思えますけれど」
「やがては」
「結婚するつもりでしょ」
かなりダイレクトにだ、茉莉也は二人に問うた。
「二人共」
「はい、やっぱり」
「そうしたいです」
二人にしても結婚願望がある、それでこう答えたのだった。
「生涯独身とかは」
「そういう考えはないです」
「そうよね、まあ最近ね」
どうかというのだ、近頃は。
「三十過ぎてもってざらだけれどね」
「アラサーですか?」
「若しくはアラフォーとか」
「ええ、あるけれど」
それでもだというのだ。
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