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久遠の神話

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第九十三話 炎の選択その五

「とはいっても普通のスライスチーズだよ」
「あれですね」
「あれもいいからな」
 美味いというのだ。
「じゃあ二人で今はな」
「チーズを食べてですね」
「飲もうな」
「はい」
 こうしてだった、中田は今は上城と楽しく飲んだ。しかしその間ずっと彼の目を見ていた。
 上城も気付いてだ、こう言うのだった。
「あの、僕の目に何か」
「いや、いい目だと思ってな」
 中田は微笑んで上城に答えた。
「そう思ってな」
「そんなにいい目をしていますか?」
「澄んでいてな。純粋だな」
 今も彼の目を見ている、そのうえでの言葉だ。
「そのまま強くなるといいさ」
「剣道をですね」
「剣士としてもな」
 そのことでもだというのだ。
「君なら戦いも終わらせられるさ」
「そうなればいいですね」
「強く持てよ、心を」
 第一にはだ、それだというのだ。
「いいな、何があってもな」
「何があっても」
「そうだよ、何があってもな」
 グラスでワインを飲みつつの言葉だ、二人共今は白ワインを飲んでいる。上城の目と同じく透き通っているそのワインをだ。
「そうすれば剣士の戦いも終わらせられるよ」
「そうありたいですね、実は」
「実は?」
「今度物凄い怪物と戦うことになっていまして」
「どんな奴だよ、その怪物は」
「ラドンっていいまして。スフィンクスさんが出してくるとのことで」
「ラドンか、あの頭が百あるドラゴンか」
 ラドンと聞いてだ、中田はすぐに言った。
「馬鹿でかい奴だよな」
「不死身でしたよね」
「神話に出て来るのはな」
 つまりオリジナルのラドンはというのだ。ただヘラクレルが黄金の林檎を手に入れる時に彼か若しくは彼に林檎を取って来てくれるように頼まれたアトラスに倒されたという話もある。こうした複数の展開はギリシア神話ではよくあることだ。
「そうだよ」
「けれど僕が闘うラドンは」
「流石に不死身だと倒せないだろ」
 中田はこのことは笑って返した。
「それだとな」
「ですよね。幾ら何でも」
「だから倒せるさ」
 このことは間違いないというのだ。
「安心していいさ」
「そうですね。そのことは」
「ただ、強さはな」
「相当なものですよね」
「頭が百個で洒落にならない大きさだよ」
 その二つがあるからこそだというのだ。
「もう尋常なものじゃ倒せないぜ」
「それがラドンですね」
「気をつけなよ、倒せるにしてもな」
「強いことはですね」
「ああ、それで勝てよ」
 このことは絶対にだというのだ。 
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