戦国†恋姫 外史に飛ばされし者
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第9話
前書き
遅くなりましたー!
竜司「作者…ユーザーの皆様からお叱りのメッセージが届いてるぞ…早く更新しろって」
だってこの時期は色々ごたつくんよー。新入社員歓迎の準備とか仕事とか…!
竜司「まぁまだ失踪してないだけマシというものか…」
ね?そこは褒めて欲しいところだ!
竜司「調子に乗るな!」
竜司、作者「「それではどうぞ!」」
戦国†恋姫 外史に飛ばされし者
第9話
久遠の屋敷で行われた、織田家中の模擬戦も一段落つき、俺は、部屋の襖を開けて一休みしながら天幕を片付けるのを眺めていた。
そこに、ひよ子こと木下藤吉郎ひよ子秀吉が茶を持ってやってきた。
ひよ子とは、田楽狭間から尾張へ向かう途中に自己紹介を終えており、その時に、ひよ子と呼ぶことを許された。
ひよ子「失礼致します!お頭!お茶をお持ちしましたー!」
竜司「あぁ、ありがとう。あとお頭じゃなくて、俺のことは竜司で構わないんだが?」
ひよ子「い、いえいえ!これから私のお頭になるんですから、お頭と呼ぶのは当然のことです!」
竜司「はは。でも君は元々久遠の草履取りだろ?急に主が変わって困惑してるのではないか?」
いくら久遠の夫となったとは言え、急に押し掛けてきた見ず知らずの者が新しい主だと言われれば、混乱するのは普通のことだろう。
ひよ子「心配してくれてありがとうございます!でも武士になるのは夢でしたし、今私の夢が一つ叶っちゃいましたし、それにそれに、こんなすごいお方にお仕えすることができるんですから!私は幸せです!これからたくさん頑張っちゃいますよぉ!」
竜司「元気があってよろしいことだ。なら…」
すると竜司が姿勢を正す。
そして、ひよ子も俺に習い、同じように姿勢を正し、正座をして両手を自分の前に置き、俺の方を向く。
竜司「では改めて、竜司隊組頭三上竜司。これよりに我が配下として木下藤吉郎ひよ子秀吉に我の補佐役に任命する。貴公のこれからの活躍に期待する」
ひよ子「は、はい!改めて木下藤吉郎ひよ子秀吉と言います!お殿様より、竜司様のお世話を命じられました!今後とも、よろしくお願いします!あっ私のことはひよと、今まで通りお呼び捨てになさってください!」
ひよ子がそう言うと、お辞儀をする。
木下藤吉郎秀吉…豊臣秀吉といえば、知らぬ者はいないだろう。
墨俣一夜城の建造から始まり、金ヶ崎の退き口、高松城の水攻め、中国大返し、石垣山一夜城など、次々と功績を立て、戦国一の出世頭と評された人物。
天下人であり、三英雄のひとり…には今の時点では見えないが、この子には人を惹きつける何かがあるのかな…
竜司「…(この子が後の太閤秀吉とは…誰も思わないだろうな)」
ひよ子「あの?竜司様…?」
無言のままに考え込む竜司にひよが顔を覗かせる。
竜司「あぁ、済まない。少し考え事をしてしまったようだ?」
ひよ子「は、はぁ…どんなことを考えてらしたんですか?」
竜司「竜司隊を発足したのはいいんだが、部隊の隊形とかどういう位置になるのかなって。俺達はまだ二人しかいない。俺はともかく、ひよは戦闘向きじゃないだろう?」
ひよ子「あぁ…そうですよね。竜司様はお強いですから、先方でも十分やっていけますよね…それに比べて私は…」
自分に力が無いのが悔しいのだろう。ひよ子は下を向きながらズーンっと音が鳴るかの如く俯いていく。
竜司「あぁいや、俺にだってできないことはあるぞ」
ひよ子「えぇ!竜司様ってなんでもできる完璧超人な人かと思っていました。お殿様や他の家中のみなさんの前ではあんなに堂々となさってて、しかも戦闘だってあんなにお強いのに!」
竜司「まぁ、俺だって人だからな。で、ひよは何ができるんだ?」
ひよ子「あ、はい!お掃除は得意ですよ!料理はあまり得意じゃないけど!だから竜司様の家事のお世話は、料理以外はできますよ!」
竜司「へぇ、それだけできれば有難い。一応料理は俺も一通りやってたが、何分ズボラなものでな。家事とかそういうのは苦手だ」
ひよ子「そ、そそそそそんなー竜司様ご冗談を。本当はお一人でなんでもできるじゃないですか?」
竜司「料理はな。でも俺もそこまで生活力はないんだよなぁ…元の世界でも衣服とかは部屋に散乱してたし…」
ひよ子「じゃ、じゃあ私、竜司様の身の回りをお世話いたします!いつも竜司様が清潔にいられるように掃除でも洗濯でもなんでも頑張っちゃいます!」
竜司「あ、あぁ。よろしく頼む。(よかった…本当は着替える服もそんなにあるわけじゃないし、家事は全てできるけど…それでこの子を傷つかせる訳にはいかないからな…)」
一先ずは元気になったひよ子。
そんなひよ子を見て、ホッと安堵を浮かべる竜司。
すると、襖が開く音とともに、庭の片付けが終わったのだろう、帰蝶が入って来た。
帰蝶「あら。なんだか賑やかね」
竜司「まぁ、な。とりあえず、部隊のことと、お互いの自己紹介が終わったところだ」
帰蝶「自己紹介なら、尾張に来る前に終わってたんじゃないの?」
竜司「そうだが、折角同じ隊になったんだ。お互いの認識を込めて、もう一度自己紹介しただけだ。ひよ。帰蝶にも茶を馳走してあげてくれ」
ひよ子「は、はい!只今!」
帰蝶「早速こき使ってんのね。あの子も可哀想」
竜司「そう言わないでくれ。なら、帰蝶は俺が汲んだ茶を飲みたいか?一応茶の心得は持っているけど…」
帰蝶「いいや!私はまだあなたのことを信用してないのよ!そんな奴が汲んだお茶なんて、誰が飲むものですか!」
竜司「そう言うと思った。だからひよに入れるよう頼んだんだ」
帰蝶「ぐ……」
言い返す言葉がないのか、グウの音を一つ溢す帰蝶。
帰蝶「それにしても、まさか織田家自慢の武将達みんなやられるなんて…」
竜司「俺も鬼を倒すため、色んな修行をした。辛いことも耐えて耐えて耐え抜いて…耐え抜いた結果今の俺だ」
帰蝶「ふぅん…まぁ今はあなたがどこであんな力を手に入れたのかは聞かないでおくわ。そこは久遠が一番聞きたいでしょうし。でも、働かざる者食うべからず。…衣食住が保証されることになったんだから、それ相応に働いてもらいますからね」
竜司「あぁ、そこはわかっている。住む部屋を用意してくれる以上、俺にできる限りのことは何でもすると誓っておく」
帰蝶「よろしい。まぁ何時までになるかはわからないけど、一応!よろしくしておいてあげるわ」
竜司「一応…ね」
すると、お茶を汲んできたひよ子が戻ってきた。
ひよ子「ど、どうぞ!結菜様!」
帰蝶「ありがとう、ひよ。ん~。美味しいわ。じゃあこの子のこと、お願いするわね。木下藤吉郎。通称はひよ子。親しい者のあいだでは、ひよって呼ばれてるわ。武士になりたいって言って久遠の雑司になった子なの。あなた付きの従者として、追い回してやって頂戴」
雑司とは、雑用係のこと。この時代では公家や武士の役職の名前。
竜司「委細承知。だけど、いきなり新入りの俺に部隊を持たせるなんてな。久遠は何を考えているんだか…」
帰蝶「あなた、あんな力を見せつけたんだから、これからこの国で働く以上部隊を持つことは必定でしょう。まぁどんな部隊にするかは私にもわからないけど…」
竜司「はぁ…そこは久遠に直接聞くしかない…か?もしくは、俺が独自に新しく部隊を作っていくのか…」
帰蝶「その可能性は高いわね。あなたのような色んな特殊能力がある人なんていないでしょうし…久遠は全く新しい部隊を作るつもりかも知れないわね」
ひよ子「あ、あの…お頭、よろしくお願いします!」
竜司「お頭…ねぇ…」
ひよ子「あの…竜司隊の隊長なんですから、お頭、で間違ってませんよね?」
帰蝶「大丈夫よ。間違っていないわ」
ひよ子「ほっ。よかったぁ…」
ひよ子の安堵の溜息を聞き、一気にお茶を飲み干し、立ち上がる竜司。
竜司「さて、確か久遠が後で城に来いって言っていたな。一応聞くが久遠はまだ、戻っていないんだよな?帰蝶」
帰蝶「えぇ。まだお城よ。あなたの検分をしている最中、早馬が到着したのを覚えてる?」
竜司「あぁ」
帰蝶「久遠はそのことについて、協議がもたついてるみたい」
竜司「なるほどね…」
桶狭間の戦いが終わって次にあるのは…
竜司「…(墨俣一夜城…だな)」
帰蝶「え?なにか言ったかしら?」
竜司「いや、なんでもない」
ひよ子「でもお殿様は。休憩が終わり次第、お城に来いって仰っていました。だから…」
竜司「そうだったな…じゃあ早速登城するか」
ひよ子「はい!」
俺に続いて、ひよ子も立ち上がる。
そして、お茶の片付けを帰蝶に頼み、俺とひよ子の二人は久遠の屋敷を後にした。
久遠の屋敷を出た俺達は、尾張の城下を歩き、清洲城へと向かっている。
スタスタ歩く俺の二歩後ろをひよが甲斐甲斐しく付いてくる。
竜司「…。もう少し近付いてもいいんだが…ひよ?」
ひよ子「はい…で、でも竜司様はお殿様の旦那様ですし、私なんかが並んでしまうと、竜司様のご身分に障りますし…」
竜司「現段階で、この尾張に住む者が俺のことを知っているのは本のひと握りだろう。見たところ、俺を気にしてこちらを向く民はいないようだし…気にしなくてもいいと思うが…」
ひよ子「あの、お頭は高貴なご身分のお方。私みたいな下々と近しく接するのは、身の穢れとなります…」
竜司「はぁ…あのな、確かに俺は君らとは違う世界から来た。鬼と戦う力…いや、人を殺す力も持っている。だけど、俺は人間、君らと何ら変わりはない」
ひよ子「そ、そんなことありません!竜司様は田楽狭間に降り立った天人とか、弥勒菩薩の生まれ変わりとか、阿弥陀様の再臨とか言われてるんですから!」
竜司「そこまで言われると恥ずかしいな…。それに俺…あまり目立つのは好きじゃないんだよな…まぁ久遠は俺を担ぎ上げる気満々だろうけど…」
ひよ子「だ、だから…その、恐れ多いですぅ。私のようなものがお言葉を交えるのは勿体無く思いますぅ…」
竜司「……参ったな。ひよ?」
ひよ子「ふぇ…?」
思い詰めた表情を浮かべるひよ子に、竜司が向き直す。
そしてこう言う。
竜司「確かに俺は君らとは違うところは多い、出生や力…身分、色んなことで、君は困惑しているんだろうことは見て取れる。けどな。これからは俺と君は仲間なんだ。同じ旗を掲げて、お互いが助け合う仲間。そんな奴に俺は気を使って欲しくはない。それに、俺はこの国ではわからないことがまだまだある。皆に迷惑をかけてしまうかも知れない。なんせ、この辺の仕来りなどは空っきしだ。だから俺には君の助けが必ず必要になってくる。だから俺のことは同じ隊の仲間として、織田家に仕える先輩として、俺を助けて欲しい」
ひよ子「で、でもぉ…」
竜司「これでも俺はひよのことを頼りにしてるんだぞ?」
ひよ子「頼り、ですか?」
竜司「そう。これから久遠を支えていく上で、判断に困ることがきっと出てくる。だからその時は、ひよ。君の力を借りたいと思っている。仲間として…な。」
ひよ子「仲間…そ。それはその、すごくすごく嬉しいって思うんですけど、竜司様はやっぱり、お殿様の旦那様ですし、私にとってはお頭なんです。だから、あの…お頭として、お側近くに仕えてお慕いさせていくというのじゃ…駄目ですか?」
竜司「ふむ…まぁ今はそれでいいさ。ゆっくり、少しずつ慣れてくれればそれでいい」
やはり、身分の風当たりが強いせいか、心を開くのに時間がかかりそうな気がした。
勿論俺は、そう言う身分がどうの、出生でどうのというつもりはないが、こういうのも時代の流れなのだと思う。
竜司「便りにしているぞ。ひよ」
ひよ子「はい!あの私。精一杯頑張りますね、お頭!」
満面の笑みを浮かべ、俺の横へ駆け寄ってくるひよ。
これで少しは、身分の差はなくなったかとホッと一息する竜司。
竜司「ひよは武士になるために久遠に仕え始めたんだよな?」
ひよ子「はい!私、生まれも育ちも貧乏でして。立派な身分になって家族を養いたいなって」
竜司「なるほど…でも最初は違うところにいたんじゃないか?」
ひよ子「そうなんですよねぇ。久遠様に仕える前は、松下之綱様にお仕えしていたんですけど、私、武士に向いてないって言われまして追い出されちゃって、で、丁度久遠様が台所役を募集していたのでそれに応募したら受かっちゃいまして」
竜司「なるほど…今川の…松下嘉平殿か…」
ひよ子「お頭は、之綱様を知っているんですか?」
竜司「まぁあったことはないんだがな…今は隠居なさってるのか?」
ひよ子「さぁ…私が久遠様に仕官するまでは、義元様にお仕えしていらっしゃったはずですけど、田楽狭間以降はなんとも…」
竜司「そうか…すまない。忘れてくれ」
ひよ子「…?」
竜司「まぁ、気にしないでくれ。…しかし、俺に仕えても出世ができるとは限らないぞ?」
ひよ子「それは…どうなんでしょう?久遠様には何かお考えがあるようでしたけれど…」
竜司「現時点では何も分からずか…はぁ、まぁ仕方ないか…わからないなら考えても仕方ないし、今は久遠を信じるしかあるまい!その上で、君が武功を立てられるように考えるとしようか」
ひよ子「えええっ!?竜司様はそのままでいいですよぉ!これ以上、ご恩を施して頂くのは忍びないです…」
竜司「部下の責任は上司の責任。部下が困っているなら上司が一肌脱ぐ。それに君の家族を養いたいんだろ?」
ひよ子「はいぃ…あの私、出世して妹を取り立ててあげて、一緒に泰平の世を築くのが夢なんです!」
竜司「素敵な夢だ…そのためにはならまず、問題を一つ一つ片付けて、どんどん武功を上げないとな」
ひよ子「お頭ぁ…ありがとうございます]
竜司「礼には及ばない。それにこれからひよには沢山働いてもらうんだ。勿論俺も働くけど…とりあえず、城へ急ぐぞ」
ひよ子「はいっ!」
ひよ子と共に清須の城門を潜り、城内へ入る。
すると、至るところで周囲がごたついているような空気を感じ取る。
竜司「登城したはいいものの…さて、この空気は何かな…」
ひよ子「ほえ?どうしたんですか?お頭」
竜司「辺りの空気がざわついている…何かあったのか…これからあるのか…」
ひよ子「そうでしょうか…?」
評定の間へ向かう途中、何人かの公家の者とすれ違ったが、妙に慌ただしく、落ち着きがない。
すると、和奏が俺たちを出迎える。
和奏「おっ、来たか、竜司。休憩はもういいのかー?」
竜司「あぁ、お陰様でな。壬月や麦穂、皆もあれが全力ではないだろうし俺も加減してたしな」
和奏「壬月様との戦いも全力じゃなかったのか…うぇ~おっそろしーな!」
竜司「和奏も加減してくれてたんだろ?」
和奏「へへーんわかってんじゃん!」
竜司「そのお陰であまり疲れも残らずにすぐに回復できた。ありがとな」
和奏「そーかそーか。うんうん。お前なかなか素直なやつじゃないか。気に入ったぜ!」
竜司「そらどうも。けど、さっきとは態度がエライ違いだな」
和奏「あ、あれは!その…仕方ないだろ!ボクじゃなくたって、あんな紹介のされ方したらキレるっての!」
竜司「まぁ確かにな。壬月も麦穂も最初の頃はえらく警戒されてたし。和奏の言葉は最もだ」
見ず知らずのやつが現れたと思ったら、いきなり自分の主の夫だもんな。
そりゃ誰だって怒っても仕方がない…当然の判断だ。
あれ?ってことは、悪いのは久遠…あぁいや、やめておこう…どう考えても結局とぱっちり食らうのは俺だ…。
和奏「まぁ仕合ってみて、悪い奴じゃないってのが分かったから。一応は認めてやるよ」
竜司「ありがと。…さて、和奏。この騒ぎはなんだ?誰か敗走でもしてきたか?それともどこかの国が攻めてきたのか?それとも、先程の早馬に関係があるのか?」
和奏「あぁ、気づいてたか。隣国の美濃に放ってた草から急報が入ってさ。今、てんやわんやの大騒ぎなんだよ」
ひよ子「はっ!?まさか斎藤龍興様が尾張に攻め入ってきたんですかっ!?」
和奏「バカ猿ー。あのぼんくらにそんなことする度胸、ある訳ねーだろー。ちょっとは頭を使えよ頭を」
ひよ子「へぅぅ~…すみません~」
竜司「まぁまぁ…」
ひよ子を叱りつける和奏を諌める竜司。
和奏「とにかく今から評定なんだ。竜司も来いよ」
竜司「あぁ、俺の丁度、久遠に呼ばれているからな。丁度いいか…」
和奏「まぁ、元から久遠様に竜司が来たら呼んでこいって言われてたんだよ。さっさと来いって」
竜司「わかった。あぁ、和奏。一つ頼まれてくれないか?」
和奏「なんだ?どうかしたか?」
竜司「ひよ子も武士になったんだ。だから、ひよ子も評定に参加できるかどうか聞いてきてれないか?」
ひよ子「え、でも…私、まだ御目見得以下の身分ですし…」
竜司「俺の補佐をしてもらう以上、参加してもらった方がいいんだがな…」
和奏「でもよ、御目見得以下ってことは評定とか公式の場で、殿に直接会える身分ではないってことだ。猿はまだ御家人として認められていないから、評定の間には出られないんだ」
ひよ子「はい。だからあの…お頭だけで行ってください…私はここで待っていますから。はは…」
竜司「また身分か…」
元の世界でも、身分の格差はあったし、お偉いさんのパーティなどの護衛でそう言った世界は直に目にしているが…やはりこう言う格差社会は慣れないな。
この世界ではこれが普通なのかも知れないが…
竜司「よい。ひよ、お前は俺の補佐役として、評定に出ろ」
ひよ子「へぁ!?」
和奏「はぁ!?お前何言ってんだよ?御目見得以下の身分の者を評定にあげたら、家中の秩序が保たれなくなるだろっ!」
竜司「和奏、君の言も最もだけどな。俺はまだこういった仕来りには慣れていない。誰かが教えてくれないと困る。それにひよ子は武士になり、俺の補佐役になったんだ。だから評定に出る資格は十分だと俺は思う。けどまぁ、久遠がダメというなら仕方ないからここで待ってもらう。だから和奏。久遠に聞いてみてもらってはくれないか?」
和奏「てめ!調子に乗ってんじゃねえぞ!それにさっきから聞いてれば人のこと呼び捨てにしやがって!」
竜司「ダメか?親しみ安くて俺は好きだがな?」
和奏「す、すすすす好きって…ダ!ダメじゃ。ねーけどぉ…////」
竜司「なら、済まないが頼む。和奏しか頼める者がいなくてな…」
和奏「…しゃ、しゃーねーなぁ!分かったよ。ちょっと待ってろ、すぐに聞いてきてやるから」
竜司「感謝する。さすが黒母衣衆を率いる佐々成政殿だ」
和奏「調子の良いこと言いやがって。だけど…へへっ、良いさ、頼ってるやつをほっとくなんて出来ないしな。ちょっとそこで待ってろよ!」
そう言い残し、評定の間へ入っていった。
ひよ子「ほわー…」
竜司「どうした?ひよ」
ひよ子「いえ、あの…佐々様ってすごく怖い人だって、家中で有名なんですけど…」
竜司「あの子がか?」
ひよ子「はい…」
竜司「まぁ、確かに威勢は良いわな…だけどだからって怯える必要はないだろうさ、気は強くても根は優しい。確かに外面そう言う想像はしてしまうかも知れないが、内面を見れば全く逆。根はまっすぐのいい子だ。前田利家と滝川一益を見る限り、仲間を大切にしてる子のようだし」
ひよ子「そ、そう言えるのはきっとお頭だけですよぉ…」
竜司「そうだろうか?」
ひよ子「私とは身分も大きく離れていますし、あの…こんなこというのはよくないんでしょうけど、私、正気、和奏様が苦手なんです」
竜司「それは、ひよが和奏の外側だけをみてたからじゃないのか?そいつが苦手だから相手にしたくない。会いたくないって気持ちは、人間としては当然ある。俺もそうだったからな。けどだからといってそれで、その人のことを理解しようともせず、怯えてるだけでは何も変わらない。苦手意識があるのなら、もっとその人を理解して、その人が何を考えているのか、何を伝えようとしているのかをしっかりと捉えなければ、何も始まりはしない」
ひよ子「そ、そう言うの、私にできるでしょうか…」
竜司「誰だってできることだ。だから少しずつでいいから、和奏や他の三若、壬月、麦穂、そして帰蝶や久遠のことをしっかりと見て、相手がどうしたいのか、何を考えているのかをしっかり見定めることだ。そうするのはまず、恐怖心を捨て、普通に接してみろ。そうすれば相手も気兼ねなく、君に接してくれるし、君も話しやすくなるはずだぞ」
ひよ子「はぁ~…そんな風に考えたこと、今まで一度もありませんでした。じゃあ、あの…頑張ってみます!」
竜司「その意気だ。ゆっくりと頑張っていこう」
ひよ子「はい!」
すると、和奏が評定の間の襖から出てきて。俺たちに近付いて来た。
和奏「おーい!聞いてきてやったぞー!猿も評定に出て良いってさ!」
竜司「すまない!助かった。っというわけだ、ひよ。ともに評定に出るとしよう」
ひよ子「はい!」
和奏「御目見得が許されたってことは、これから特別に評定に出られるってことだからな?ボクのことは先輩なんだから敬えよ、猿!」
ひよ子「はい!」
竜司「…(やれやれ。しかし、女の子に猿はないよな…仕方ない。ここはひとつ…)」
和奏「どうした竜司?」
竜司「いや、それより、何故ひよを猿と呼ぶんだ?通称を交換していないのか?これから共に評定に出るんだここはお互い通称で呼び合わないか?」
和奏「それはわかってるけどさー。ボク、猿の通称、直に教えてもらってねーもん」
ひよ子「あ、あの!木下藤吉郎、通称ひよ子です!これからよろしくお願いします!」
和奏「ひよ子って何か弱そうな通称だな。…まぁいいや。ボクは和奏。佐々内蔵助和奏成政!これからよろしくやってやるよ、ひよ!」
ひよ子「はいっ!」
和奏「という訳で、ボクについてこい猿!」
ひよ子「はいっ!」
竜司「やれやれ…」
結局猿に戻るんだな…。
まぁこれでひよ子が和奏に対して恐怖心を覚えることはなくなったかな…。
そんなこんな思いながら、俺達3人は評定の間へと足を運んだ。
評定の間
二人の後を追いかけて評定の間に入ると、先程まで戦っていた知った顔や、さっきまでいなかった素知らぬ顔がちらほらと見え、総勢三十人といったところか。それほどの武将たちがここに詰めていた。
久遠「来たか。竜司、前へ」
竜司「そちらでいいのか?」
久遠「我の夫である貴様が下座に座るな。上段に来い」
竜司「応…」
傍から見ればわからないだろうが、草の報告を聞いていらついているのであろう。
先ほどより重い空気を感じ取った。
何より、時間が惜しいのだろうことがわかり、ここは素直に従っておくことにした。
久遠「では、評定を始める」
俺が腰を下ろしたのを確認したと同時に久遠が評定の開始を宣言する。
その言葉に、下座に座っている武将達が一斉に頭を垂れる。
久遠「まずは状況を整理する。五郎左、言え」
麦穂「はっ。…先程、墨俣の地に出城を築くべく、現地に出向いていた佐久間様の部隊が壊滅。敗走してくるという早馬が到着しました」
和奏「な、なんだってーーーーーーーーーーー!」
雛「いや、そこはそんなに驚くことじゃないでしょー」
犬子「仕合の時に報せが来てたじゃん」
和奏「わ、分かってるよそれくらい!」
壬月「墨俣は長良請願の中洲に位置する…長良の向こうは既に斎藤家の勢力圏なため、築城するのはかなりのこんなんが予想されていたが…」
麦穂「はい、まさかこれほどまでに早く、佐久間様の部隊が壊滅するとは…」
久遠「困難は分かる。しかし美濃攻略のためには、是が非でも墨俣に城を築かねばならん」
壬月「しかし殿…」
久遠「言うな。…蝮から託された美濃を、いつもでもあのうつけの龍興に任せておくなど、許せんことなのだ」
竜司「…」
美濃の蝮:斎藤道三…久遠が正徳寺で謁見した際、「うつけ者」と評されていた久遠が多数の鉄砲を護衛に装備させ正装で訪れたことに大変驚き、斎藤利政は信長を見込むと同時に、家臣の猪子兵助に対して「我が子たちはあのうつけ(信長)の門前に馬をつなぐようになる」と述べた。とされている。
犬子「佐久間のおばちゃんが失敗したってのは良いけどさー。じゃあ次は誰がやるんだろ?」
雛「雛は築城とか、あんまり得意じゃないから無理ー」
和奏「築城、となれば麦穂様の出番だけどなぁ」
久遠「いや、麦穂は出せん。未だ膠着状態である今川や、小うるさい長島にも備えんとならんからな」
和奏「ですよねぇ。じゃあ他に誰が?」
犬子「和奏がやれば?」
和奏「ボクができる訳ないだろー!」
雛「いやそこで威張られてもー…」
墨俣に築城するために警戒するべきは、やはり築城している最中、敵の攻撃があるということ。
確かに、昼間、敵の真ん前で堂々と築城などしよう物なら敵の奇襲を受け、一貫の終わりだろう。
問題はいつ、どうやって築城させるかが問題である。豊臣秀吉が最初に武功を上げる墨俣築城…。
ここは、俺が手を貸す他ないか…。
竜司「少し…いいかな?」
先程まで黙っていた竜司が口を開く。
すると、久遠を含め、この部屋にいる全ての者が俺に視線を向ける。
久遠「どうした竜司。何か意見があるのか?」
竜司「その墨俣築城戦…俺がやってやろうか?」
久遠「………何だと?」
竜司「俺に考えがある。もしかすれば…うまくいくかも知れん」
壬月「阿呆ぅ。素人が何をぬかす。貴様が考えているよりも、遥かに困難な任務なのだぞ?」
和奏「そーだそーだ!ちょっと強い…じゃなかった、ちょっとだけ腕が立つ…でもない、ちょっと調子に乗れるからって調子に乗るなよー!」
雛「和奏、そのツッコミ意味がわからない…」
犬子「まぁでも言いたいことは分かるかなー。和奏らしいツッコミだと思うよ?」
和奏「うっせー、お前らちょっと黙ってろってば!」
雛「はーい。けど竜司君、なんでまたそんなことを?」
竜司「まぁ、何故失敗するのか、その原因がわかっているということだけ、今は言っておこうか。後はその原因を無くすための一手を打つ。それだけだ」
麦穂「どういうことです?」
竜司「今は言えん。が、もしやらせてもらえるのなら、成功させるための策は考えてあるから、後は下拵えと仕上げだけだ。それにそろそろ勝っておかないと、久遠の名に傷がつくのは必定。その点俺はまだ、世間に名は知れ渡っていない。言わば弱卒以下の存在だ。よほど、尾張に間者が居ない限りはな。そんなやつが成功させれば、久遠の評判も上がる。俺はそう踏んでいるがな」
久遠「…竜司」
竜司「どうする?久遠」
久遠「やってくれるか?」
美濃の蝮斎藤道三から譲り受けた、美濃譲状…それを現実にしたいという意思が搾り出した久遠の言葉から読み取った竜司は、力強く頷いた。
竜司「任せろ…!と言いたいところだが、俺のこと…信じられるか?」
久遠「正直わからん。…しかし我らとは違う考え方を持つお前なら、あるいは出来るのではないかと思えるのだ。だから我はお前に賭けようと思う。…頼まれてはくれぬか?」
竜司「…(もしかしたら…初めてかもな…久遠がこんな弱気になっているのを見るのは…)」
ならば、成し遂げる理由がもう一つ増えた。
そう思った竜司は戦う覚悟を表する。
竜司「まぁ俺から言い出したことだ。言動の責任は取る。墨俣築城戦…必ず成功させるとしよう」
ひよ子を養い、ひよ子がひよ子の家族を養うようにするのは、俺から動くしかない。
墨俣一夜城築城戦…有名な戦だ。まさか自分がそんなことをするとは夢にも思わなかったが、これは現実。
これから俺は沢山の人間の命を刈り取ることになるだろう。その覚悟を決めるため、そしてひよ子を養うため今は全力を尽くそう。
壬月「本当にやれるのか、竜司」
竜司「必ずできるという確証は今はない。だが、それを確証に変えるためにこれから準備を拵えるんだ。まぁ見ていろ。」
和奏「おいおい、簡単に言いやがって、失敗したら承知しないんだからなー」
竜司「まぁ、何とかするさ。それにいざとなれば、和奏が助けてくれるんだろ?」
和奏「なっ!ま、まぁ、しゃーねーなぁ。そうなったら手伝ってやるよ!ボクに任せとけ!」
雛「…うーん、このチョロさ。さすが和奏だねー」
犬子「ふわー和奏の扱い方うまいなー…」
竜司「どうも。さて、じゃあ俺は資材やら何やら、色々と揃えて置くから、詳しい策や資金何かは準備の目処が立ち次第伝えるから準備だけはしておいてくれ」
久遠「当然だ。…頼む、竜司」
竜司「委細承知…ひよ、行くぞ!」
ひよ子「は、はいぃ!」
評定の間を後にした俺達は、城下をに出て、どうやって城を建てるかを話し合うことにした。
歩いている途中、団子屋を見つけて休憩がてら腰を下ろす。
竜司「すいませーん!お茶と団子を2人分!」
女将「毎度ー!ちょっと待ってて!」
ひよ子「お、お頭ー!暢気に団子なんて食べてる場合じゃないですよぉ!久遠様にあんなこと言っちゃって、本当に大丈夫なんですか!?」
竜司「まぁ…そう慌てるな。とりあえず少し休もう」
ひよ子「は…はい…はっ!?お頭のことですから、きっと何か策があるんですね!さすがお頭です!」
竜司「いやまぁ。別に策というほどのことではないんだがな…」
ひよ子「へっ?じゃ、じゃああの…もしかして行き当たりばったりで受けてしまわれたんですかっ!?」
竜司「まぁとりあえず、その辺は団子を食べてから話そうか。「はーい!団子二人前お待ちどー!」丁度団子もきたところだし」
ひよ子「あうあぅ…」
竜司「まぁそう心配することはないさ。ちゃんと考えはある。まぁひよ子の力が必要になるけどな」
俺の知ってる歴史上の人物がいてくれれば…あるいは。
ひよ子「わ、私の助け、ですか?」
竜司「そういうことだ。さて、とりあえず…いただきます」
ひよ子「い、いただきます…はむ…あっ美味しい」
ほんの数分で食べ終えて、席を立つ。
竜司「御馳走様でした。女将、代金ここに置いておくよ」
女将「あいよー!また来ておくれー」
竜司「あぁ。ひよ、行こう」
ひよ子「は、はい」
こうして団子屋を後にした俺達はまた城下を歩き始める。
竜司「さて、さっきの話だが、ひよ。墨俣周辺に詳しい、野武士か大工の知り合いって、いるか?」
ひよ子「墨俣の地理に詳しい知り合い、ですか。うーん…」
俺の質問の答えを探すため、首を傾けて考え込むひよ。
ひよ子「あ、一人いますね。幼馴染なんですけど」
竜司「その者の名は?」
ひよ子「蜂須賀小六正勝。通称は転子って言います。今はどこにも仕えず、野武士を率いて尾張と美濃の小競り合いに横入りして、陣稼ぎをしている子です」
竜司「予想通りか。…ならその子に依頼して手伝ってもらうとしよう」
ひよ子「えっ!?ころちゃんにですかっ!?」
竜司「そう。野武士を率いているならそれほどの人数を抱えている。なら報酬次第ではこちらが考えてる通りに動いてくれるってことだ…」
ひよ子「それは…はい。そうだと思いますけど」
竜司「今回使うのは野武士だが、今回はなるべく織田軍の兵は使えない。いや、使いたくない」
ひよ子「え?織田の兵は使わないんですか?」
竜司「今回に至ってはな。織田の兵を使うと色々と面倒になるからな…。その点、野武士ならどこの軍か悟られることはまずないだろう。なんせどこにも所属していないんだからな」
ひよ子「敵に久遠様が城を築くことを悟られないようにするためなんですね!」
竜司「それもあるな。後、久遠は美濃に相当の斥候…あ、いや、草を放っている。そうだな」
ひよ子「はい。久遠様は結構な草を使ってるって聞いてます」
竜司「なら、相手、美濃方面からも、こちらに草を放っていてもおかしくないよな」
ひよ子「あ…言われてみればそうですよね」
竜司「さて、じゃあここで質問。その草が調べているのを知らず、戦の準備を始めたら…どうなるかな?」
ひよ子「目的を調べた上で本国に報せが行って、きっと向こうも戦の準備を始めると思います。…なるほど。だから正規の兵を使わないんですね」
竜司「正解だ。だから佐久間殿も、築城もままならず、壊滅して敗走したのだろうな。だから、どこにも属していない君の友達の力が必要なわけだ」
ひよ子「うううううーーーーーーーーーー…!お頭、すごいです!私、そんな風に考えたことありませんでした!」
竜司「だから言っただろ?ひよの力が必要だってな」
ひよ子「はい!ありがとうございます!お頭ぁ!」
これも歴史を勉強していたお陰だなと思う竜司、歴史の教科書に感謝だな…。
竜司「さて、話も纏まったことだし、早速君の友達に会いに行くか」
ひよ子「はいっ!」
こうして野武士をしているという、蜂須賀小六正勝に会いに行くことになったひよ子と竜司。
小六は竜司達の案を受けてくれるのか。
後書き
てなわけで、第9話はこんな感じ。
竜司「えらく中途半端に終わったな」
えーそうかなー…俺としては結構区切りがいい感じだと思うけど…
竜司「とりあえず、この小説が上がったあとも執筆中かと思いますので」
作者、竜司「「次回もお楽しみに!」」
ページ上へ戻る