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八条学園怪異譚

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第六十話 時計塔その十三

 だからだ、二人もこの駅はよく見ているのだ。
 それでだ、こう言うのだった。
「もう閉まってるとね」
「駅はね、夜は閉まるから」92
 列車も動かなくなるからだ、列車がなければ駅も活動を止める。
「閉まってる駅はね」
「はじめて見るけれど」
「何か違うわね」
「うん、人がいる駅を見てきたから」
 これまではそうだった、しかし今はじめてそうした駅を見て言うのだった。
「違和感あるわよね」
「人がいなくて閉まってる駅って」
 どうしてもだというのだ、そしてだった。
 愛実は駅を見上げたままだった、また聖花に言った。
「こうした駅って怖いわね」
「夜の学校みたいよね」
「普段人がいる場所に人がいないのって」
「急に強くなるわよね」
「外から見てもね」
 それでもだ、雰囲気を感じ取っての言葉だ。
「怖いわね」
「妙にね」
「それでだけれど」
 聖花は話題を変えた、今度の話題はというと。
「帰る?皆のところに」
「泉が何処か確かめて何処に出るかわかったからよね」
「うん、終わったから」
 終わった、確かにだった。
 二人は遂に泉を見付けた、これで二人の捜索は終わったのだ。だが今愛実と聖花の心の中にあるものはというと。
 充実感ではない、あるものは。愛実が最初に言った。
「終わったけれどね」
「そうよね、終わったけれどね」
「満足しているけれど」
「それ以上にね」
「何かからっぽになったっていうか」
「空虚よね」
 聖花がその偽らざる感情を言葉に出した。
「そう言うものかしら」
「うん、何かね」
 愛実も聖花に応えて言う。
「終わってほっとしてて。満足してるけれど」
「からっぽになったって感じよね」
「そうよね」
「うん、けれどね」
 それでもだった、聖花は少し呆けた感じで言うのだった。
「これから何をしようかってね」
「思えないわよね」
「寝る前、いえ入試のテストが全部終わってね」
 中学時代の最後のテストを思い出した。
「真っ白になったっていうか」
「ううん、真っ白ね」
「そんな感じよね」
「そうね、言われてみればね」
 愛実は聖花のその言葉に頷いて言った。
「真っ白だわ」
「そんな風になってて」
「何処かのボクサーみたい」
 伝説とさえ言っていい名作漫画だ、主人公は真っ白に燃え尽きてしまい満足している顔でリングの端で死んだ。
 そのボクサーの様だとだ、愛実は言い。聖花もこう言うのだった。
「真っ白よね」
「そうよね」
「うん、けれどね」
「けれど?」
「ここにずっといてもね」
 仕方がないとだ、聖花は愛実に言った。
「仕方ないから」
「そうね、ここにいてもね」
 愛実も聖花の言葉でこのことに気付いた。
「仕方ないから」
「戻ろう」
 聖花はまた愛実に言った。 
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