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八条学園怪異譚

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第六十話 時計塔その五

「うちの学校の生徒さん達が増えたのよ」
「高等部?」
「あと大学ね」
「というと運動部の」
「そうそう、ラグビー部とか柔道部とかね」
 そうした如何にも食べるといったイメージの部活がだというのだ。
「大挙して来てね」
「滅茶苦茶食べそうね」
「丼茶碗で五杯とかざらよ」
 そこまで食べるというのだ、普通に。
「キャベツだけじゃなくてね」
「じゃあうちもそういうのやったら」
「やってみたら?何か」
 愛実は実際に聖花にこう言った。
「パン屋さんでもね」
「何がいいかしらね、やるとなると」
「そうね、紅茶サービスとか?」
「紅茶?」
「お店に来たら紅茶飲み放題。駄目かしら」
「けれど紅茶一杯飲んだら何か買わなければならないってするのね」
「そう、どうかしら」
 こう言うのだった、聖花に対して。
「それね」
「紅茶ねえ」
「リプトンの紅茶ね」
 具体的にはその紅茶だった、スーパーでも普通に売っているものだ。言うまでもなくティーパックのそれである。
「あれね」
「あれならね」
 それならばだった、リプトンの市販ならだ。
「無茶苦茶安いし美味しいし」
「味もいいっていうのね」
「そう、いいでしょ」
 リプトンはというのだ、ティーパックの紅茶を馬鹿に出来る者は紅茶を知らない者だ。もっと言えばお茶を知らないと言える。
「あれも」
「確かにね。じゃあ」
「そうしたサービスだけでね」
「売れ行きがよくなるのね」
「まあ紅茶はホットで、何杯飲んでもいいことにして」
 そして尚且つだというのだ。
「一個絶対に買うってね」
「そう決めるのね」
「これで違うと思うわよ」
「そうね、それじゃあね」
 聖花は愛実の言葉に頷いた、そしてだった。
 そのうえでだ、こう愛実に答えた。
「お母さん達に提案してみるね」
「そうしてみてね。じゃあね」
「うん、お店の売り上げtがよかったら」
 それがどうなるかというと。聖花にとってもかなり切実なことだった。
「私も美味しいものが食べられるからね」
「そうそう、お店が繁盛していないとね」
「私達御飯食べられないから」
「包丁一本あればっていうけれどね」
 聖花の場合はパンを作る腕だ、包丁ではないがさして違ってはいない。
「やっぱりお家のお仕事を守ってこそだからね」
「そうそう、商店街も今やサバイバルだしね」
「私達の商店街はそれぞれ観光地にもなってるから安定してるけれど」
「八条グループの人も来てくれるしね」
 このことは八条町が八条グループの企業城下町だからだ。シアトルの様にこうした街はそれだけで強い味方を得ているのだ。
「学園の人も一杯来てくれてるけれど」
「それでもね」
「そうそう、油断大敵よね」
「お店はちょっと油断したらお客さん減るから」
「味に値段、サービスにね」
「工夫と法律の知識も忘れないで」 
 あれこれといるものだというのだ、二人はまだ高校一年だがそれでもだった。
 既に色々と考えている、それで今も話すのだった。
 そして食べ終わってからだった、二人は一緒に風呂に入った。現代風の浴槽の中に二人で入ってだ、愛実は聖花に言った。二人共今はそれぞれの髪の毛を上げて後ろで束ねている。二人は向かい合って浴槽の中にいるのだ。
「こうしてお風呂に一緒に入るのもね」
「最近なかったわよね」
「シャワーならあるけれどね」
「夏の間はね」
 一緒に浴槽に入ることはなかったというのだ。
「なかったから」
「秋になってはじめてよね」
「そうよね、本当にね」
「今日がね」
 はじめてだというのだ、聖花も言う。 
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