| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

八条学園怪異譚

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第五十九話 時計塔の話その十四

「身体を動かすことも色々あるからね」
「トライアスロンだけじゃなくてですね」
「ランニングや水泳以外にも」
「そう、あるから」
 だからだというのだ。
「じっくり考えてみてね、歩くだけでもいいし」
「じゃあこれまで泉を探して色々回ったのもですか」
「よかったんですね」
「いい運動になってたと思うわ」
 実際にそうだったというのだ。
「あんた達にとってね」
「歩くこと自体がですね」
「運動なんですね」
「運動は難しく考えることはないのよ」
「歩くだけでもいいんですね」
「たったそれだけでも違うんですか」
「自転車に乗るのも運動よ」
 これもまただ、運動だというのだ。
「要するに身体を動かしてカロリーを消費すればいいのよ」
「じゃあお料理もですね」
「あと家事も」
「そんなこと前にお話したでしょ、だからね」
 それでだというのだ。
「身体動かすといいのよ。もっとも私はお掃除で身体を動かすことはあまりしないけれどね」
「いや、動かしましょうよそっちでも」
「お掃除はしないと」
 二人は茉莉也の今の言葉にはすぐに突っ込みを入れた。特に愛実は眉を顰めさせてそのうえで強く言った。
「整理整頓、清潔は」
「うっ、そう来るのね」
「そうですよ、ちょっとお掃除しないと」
 どうなるかというのだ。
「埃が積もりますから」
「じゃあゴキブリが出るのは」
「問題外です」
 ゴキブリが何よりも嫌いな愛実らしい言葉だった、尚ゴキブリ嫌いについては聖花も全く変わらない。二人共食べものを扱う店の娘だからだ。
「そこまでいったらもう絶対に駄目です」
「厳しいわね」
「というか常識ですよ」
 やはり厳しい声で言う愛実だった。
「お掃除は。しかも隅から隅まで丁寧に」
「愛美ちゃんそういうの厳しいのね」
「愛実ちゃんこうしたことはしっかりしてますよ」
 聖花もこう話す。
「家事については」
「そうよね、今そのことを再認識したわ」
「今でもうお母さんって言われてますから」
「私そこまで歳取ってないわよ」
 母親と言われることには抵抗のある愛実だった、それでこのことについては多少むっとした顔でこう返すのだった。
「まだ高校一年じゃない」
「昔は高校一年の歳で結婚してたけれどね」
 茉莉也はこう愛実に話した。
「十六歳で母親にもなってたわよ」
「今は違いますから」
「じゃあ愛実ちゃんまだお母さんには」
「なりません」
 むっとしてだ、愛実は茉莉也にすぐに言い返した。
「絶対に」
「あと十年位先?」
「それ位ですね」
 母親になるのは、というのだ。
「そう考えてます」
「そうなのね。まああんたも聖花ちゃんもいいお母さんになるわね」
 家事が出来てしかも気が利く、その条件は揃っているというのだ。
「所謂良妻賢母ね」
「そう言われると嬉しいですね」
 お母さんと言われることにはまだ抵抗があってもだ、その言い方ならばまんざらでもない愛実だった。その呼び方ならだ。
「それなら」
「そうでしょ。とにかく愛実ちゃんはね」 
 彼女はというのだ。
「聖花ちゃんと一緒に頑張ってね」
「これからもですね」
「泉を見つけてもね。人生長いから」
「良妻賢母ですか」
「そう、楽しく精進していってね」
 精進は精進でもだというのだ、こうした話をしてだった。
 茉莉也はにこりと笑ってそのうえであらためて二人に言った。
「泉に入って何処に行くか、教えてね」
「すき焼きを食べながらですね」
「その時にですね」
「そう、楽しみにしてるからね」
「わかりました、それじゃあ時計塔に行って」
「帰って来て」
「何なら私のお布団の中でお話してもいいわよ」
 ここでこう言うのが茉莉也だった、今までよりも上機嫌でにこにことして話す。
「三人で仲良くね」
「そこでそう仰るのが先輩ですね」
「本当に」
 その茉莉也ににやれやれといった顔で笑う二人だった、そしてその中で時計塔に向かうことを決意するのだった。


第五十九話   完


                             2013・12・2 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧