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久遠の神話

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第九十二話 百腕の巨人その十一

「若しそうなればです」
「ロシアの寒さではですね」
「死んでしまいます」
 冗談抜きにだ、そうなってしまうというのだ。コズイレフはピーナッツや胡桃もその口の中に入れつつこのことも話した。
「実際にロシアでは凍死者も多いのです」
「お酒が原因のですか」
「家の中は暖かいのです」
 例えロシアでもだ、家の中はそうだというのだ。
「充分に」
「三重の扉と窓、それに厚い壁と暖房で」
「それに着ている服も厚いですから」
 ロシアの寒さはロシア人が最もよく知っている、だから備えも万全だというのだ。
 しかしそれは家の中だ、家の外では例え厚着をしていてもなのだ。
「ですがロシアの冬の中で酔って伏しますと」
「それで、ですね」
「凍死してしまいます」
 文字通りそうなってしまうというのだ。
「ロシアでは交通事故の死者よりそうして死ぬ凍死者の方が多いのです」
「だから飲み過ぎはですね」
「少なくとも外では危険です」
「そこは日本とは違いますか」
「日本は暖かいです」
 ロシア人である彼にしてみればだ、相当だというのだ。
「夏の暑さには参った程です」
「そうでしょうね。モスクワでしたね」
「モスクワは夏でも日本よりも涼しいのです」
 日本の夏、それよりもだというのだ。
「サンクトペテルブルグなら尚更です」
「あの街は最早北極圏ですしね」
 その北極圏に街を築いたのである。その際寒さと飢え、疫病により多くの犠牲者が出た。サンクトペテルブルグはこのことから人骨都市と言われている。犠牲者の屍の上に築かれた街だというのだ。
「余計に寒いですね」
「他の場所もです。とかくロシアは寒いです」
「そのロシアではですか」
「お酒は友であると共に死の入口です」
 その相反するものがだ、同時にあるというのだ。
「そうなっています」
「成程、噂以上ですね」
「ロシアのことはもうお聞きですね」
「少しですが」
 実際に聞いているとだ、大石は答えた。
「そうしていました」
「そうですね、そして今僕もです」
「友であり死の入口をですね」
「死神という程度ではないですが」
 外で酔い潰れなければいい、だから死神と言う程ではないというのだ。この辺りは言葉の加減と言っていい。
「それを楽しんでいます」
「そうなりますね」
「そうです、それで飲む時は」
 ウォッカを楽しむ、その時はというのだ。
「ナッツや干し肉、干し魚です」
「チーズは」
「これも好きです」
 日本のプロセスチーズだ、それを手にしての笑顔での言葉だ。 
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