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久遠の神話

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第九十二話 百腕の巨人その八

 だからだ、聡美もコズイレフにこのことを話すのだった。
「神の一族ではありますが」
「それなり以上の頭脳があっても」
「そうです」
 その五十の頭であらゆることに考えを及ばせてもだというのだ。
「ではそこからですか」
「魔力を持っていない相手なら」
 それならというのだ。
「それなりの闘い方があります」
「ではですね」
「ここで」
 こう話してだ、そしてだった。
 コズイレフはここで剣の力を使った、彼の力である熱をだ。
 しかし今回はその熱を相手には向けなかった、どう使ったかというと。
 場を熱した、夜のアスファルトを。それも闘いの場だけを熱した、すると。
 巨人の百の目の視界が歪んだ、彼が見る夜の世界が。
 歪み遠くにある筈の檻等が傍に見える、遠近感までおかしくなっている様に見えた。しかもここでだった。
 大石の身体が無数に分かれた、分身の術を使ったのだ。その分身も歪みしかも傍にも見える、完全におかしく見えていた。
 それでだ、巨人は戸惑いどう攻撃すべきか一瞬迷った、その一瞬に。
 コズイレフは分身ではなく彼の本体を動かした、巨人に対して突進し。
 その身体の直前で跳ぶ、そして頭の一つが口を開けているのを見てだった。
 その中に己の全てを注ぎ込んで出した熱を繰り出した、その熱でだった。
 巨人はその身体を中から焼かれた、これにはさしもの巨人も耐えられなかった。
 五十の頭の七つの穴から蒸気を出してだった、そうして。
 さしもの巨人も悶絶し倒れた、異形の巨人はこれで倒れた。
 背中からゆっくりと倒れ姿を消す、後には多くの金塊が残された。コズイレフは着地しその金塊を見て言った。
「これで、ですね」
「はい、貴方の闘いは終わりました」
 声が月の方角から答えてきた。
「完全に」
「そうですね」
「その通りです、では」
「この金塊は受け取らせてもらいます」
 最後の闘いで得たそれはというのだ。
「これでこれからも」
「ご家族にですね」
「何かを買えます」
 贈りものにだ、それをだというのだ。
「これでよしです」
「そして貴方自身も」
「これもです」
 コズイレフはその剣を己の前に横に彼から見て水平に置いた、すると大刀はすうっと姿を消した。そこまで見届けてだった。
 コズイレフは微笑みだ、こう言ったのだった。
「僕は幸いに思います」
「戦いから降りられることをですか」
「それにです」
 それに加えてだというのだ。
「誰も。剣士のどなたも傷つけなかったことも」
「幸いでしたか」
「間違っている戦いの中で間違ったことをしなくて済みました」
 それもよかったというのだ。
「誰かを傷つけることを」
「その二つですか」
「それで幸いです」
 だからだというのだ。
「非常によかったです」
「ではその幸運を感じたまま」
「今降りました」
 剣士との戦い、それからだというのだ。
「そうさせてもらいました」
「そうですか」
「はい、それでは」
 また言ってだ、そのうえでだった。
 コズイレフは金塊も受け取った、大石は全てを見届けてから月の方に顔を向けてそのうえで彼女に対して言った。 
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