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八条学園怪異譚

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第五十八話 地下迷宮その六

「あれがあるとないとで運動会の作業とか大変だしね」
「他のものもだけれど」
「あれも凄いわよね」
「いい発明品よね」
「丸いものは転がるのじゃ」
 このこと自体が極めて重要なのだとだ、博士は二人に話す。相当とは言えないまでの高齢だが自転車はその博士をよく導いている。
「人はそのことを知ってそこからもはじめたのじゃよ」
「ううん、些細なことですけれど」
「そこからも凄い発明が出来ていくんですね」
「そうじゃ、コロンブスの卵じゃ」
 ここでこの諺が出て来た。
「何でもな」
「些細なことでも発見することは難しい」
「そして、なんですね」
「そこから凄いものがはじまるんですね」
「そういうことですね」
「そうじゃ、自転車もまた然りなのじゃよ」
 無論他の車と名前が付くものもだ。
「そしてわしはこうした自転車を作ってみた」
「俺のサイドカーもだ」
 牧村は自身がいつも乗っているそれのことを話に出した。
「あれも博士に改造してもらって生まれ変わった」
「あのサイドカーもですか」
「そうだったんですか」
 二人もそのサイドカーを見て知っている、特撮に出て来る様な見事なサイドカーで牧村に相応しい車だと言える。
「博士に改造してもらったんですか」
「そうなんですね」
「そうだ、あのサイドカーに助けられたこともあった」
 どうして助けられたかは言わない、二人には彼の過去のことは話さない。
「いいマシンだ」
「うむ、ではな」
 こう話してだった、四人で道も部屋も通り抜けていく。そうしてかなりの速さであっても相当な時間乗っていることがわかった時にだ。
 博士は二人にだ、こう言った。
「そろそろじゃよ」
「泉の候補地ですか」
「もうすぐなんですね」
「そうじゃ、その部屋にな」
 辿り着くというのだ。
「そろそろな」
「相当な距離を進みましたけれど」
「いよいよなんですね」
「うむ、とにかくここは広い」
「ですね、本当に地下迷宮ですね」
「凄い場所ですね」
「こうした場所が幾つかあるのじゃよ、日本には」
 どうしてあるのかもだ、博士は知っていて語る。
「戦争中に作った防空壕等がな」
「何か東京にあったんですよね」
 聖花が博士の話を受けて言った。
「確か」
「海軍が作っておった巨大な防空壕がな」
「作られて四十年程しれから公にされたんですよね」
「そうじゃ、そうしたものもあったしな」
「他にも国会議事堂の下にあるとか」
「実在するかどうかはわからんがな」
 国会議員ですらそうではないかと疑っている噂だ、つまりことの真相はその国会議事堂に出入りしており国家の中枢にいる彼等も知らないことだ。
「そうらしいのう」
「あと長野の松代ですね」
「秘かに作られておった」
 ただこの松代大本営の話を聞かされた昭和帝はその松代には行かないと明言された。空襲を受けつつも帝都に残り頑張る臣民を捨てて自分だけ行けるかというお考えであられたのだ。
「そうしたこともあった」
「それでこの学園の下にもですね」
「あるのじゃよ」
「その防空壕なんですね」
「そうじゃ」
 まさにそうだというのだ。
「それがこの地下迷宮じゃ」
「学園の人達がいざという時に中に入る為に」
「当時の理事長さんが海軍と協力して秘かに作っておった」
「よく誰にもわからなかったですね」
 ここで愛実がまた話に加わってきた。
「こんな巨大なものを作っていたのに」
「そこは気を使った、当然な」
「あくまで極秘にですか」
「真夜中に入ってやっておったしのう」
 作ることをだというのだ。 
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