Element Magic Trinity
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希望のギルド
「ジェラール!」
ジェラールがニルヴァーナの封印を解いたのは、危険な魔法であるニルヴァーナを誰も手に入れられないよう、完全に破壊する為だった。
ニルヴァーナに自律崩壊魔法陣を組み込んだジェラール。
せっかくここまで来たニルヴァーナを破壊されてはたまらない。
解除コードを吐くようコブラに言われるが、彼が吐いたのは解除コードではなく血だった。
ジェラールは自らの体にも自律崩壊魔法陣を組み込んでいたのだ。
(魔法陣の解除コードを墓場に持っていく気かよ!?)
コブラが目を見開く。
エルザはジェラールに向かって駆け、その胸倉を掴んだ。
「許さんっ!このまま死ぬ事は私が許さん!お前には罪がある!思い出せ!何も知らぬまま楽になれると思うな!それでお前がキズつけた者達に償えると思うな!」
ジェラールの目に、緋色が映る。
「生きてあがけっ!」
エルザは叫んでいた。
その両目から、涙を流して。
「ジェラーール!」
体を小刻みに震わせるジェラールが、ゆっくりと口を開く。
「エルザ・・・なぜ・・・君が涙を・・・」
そう言われ、エルザは自分が涙を流している事に初めて気づく。
涙を拭った指にはそれを証明するかのように水が付いていた。
「やさしいんだな・・・」
「ジェラール!しっかりしないかっ!」
薄い笑みを浮かべ、ジェラールは再び力なく倒れ込む。
そんな彼にエルザは必死に呼びかける。
すると、そこに新たな声が響いた。
「これは一体何事か・・・?」
『!』
響いてきた声に全員の視線がそっちに向く。
そこには、六魔将軍の司令塔であるブレインがいた。
「自律崩壊魔法陣・・・」
「ブレイン」
コブラが呟き、エルザが涙を拭う。
「ジェラールが組み込みやがった!まずいぜ!このままじゃせっかくのニルヴァーナが消滅しちまう!」
慌てた様子でコブラが叫ぶ。
が、ブレインは特に慌てず、ニッと口角を上げた。
「案ずるな、コブラよ。私がなぜ脳というコードネームで呼ばれているか知っておろう?私はかつて魔法開発局にいた。その間に我が知識を持って造り出した魔法は数百にものぼる」
自分を睨みつけるエルザに目を向け、笑みを浮かべたままブレインはニルヴァーナへと歩いていく。
「その1つがこの自律崩壊魔法陣。私がうぬに教えたのだ。忘れたのか?ジェラール」
ジェラールに記憶はない。
だから知らないのだ。
ブレインはニルヴァーナに背を向ける形で立つ。
「解除コードなど無くとも・・・」
バッと、杖を持っていない左手を上げる。
「魔法陣そのものを無効化出来るのだよ、私は」
その瞬間、割れるような音が響いた。
ジェラールが組み込んだ自律崩壊魔法陣が、砕けていく。
「そんな・・・」
「おおっ!」
一瞬にして砕かれた自律崩壊魔法陣。
それを見たエルザは目を見開き、ジェラールは声を震わせ、コブラは歓喜の声を上げた。
ふとブレインはジェラールに目をやり、気づく。
「自らの体にも自律崩壊魔法陣だと?解除コードと共に死ぬ気だったというのか?」
「うう・・・」
キキキ・・・と音を立て、ジェラール自身に組み込まれた自律崩壊魔法陣は拡大していく。
「エーテルナノの影響で記憶が不安定らしい。どうやら自分が悪党だった事も知らねえみてぇだ」
「なんと・・・滑稽な・・・ふははははっ!哀れだなジェラール!ニルヴァーナは私が頂いたァ!」
「させるかァ!」
ジェラールが記憶喪失だと知り、笑い飛ばすブレイン。
エルザは別空間から剣を構え、ブレインに向かっていくが――――
「目覚めよ!ニルヴァーナ!」
「!」
ブレインの声が合図になったか否か。
突如光が増し、地面が盛り上がるように崩れていく。
「ぐあっ!」
「エルザ!」
盛り上がった地面から光が溢れる。
エルザは空中へと投げ出された。
ジェラールが身を起こす。
「姿を現せェ!」
「おおおおっ!聴こえるぞっ!オレ達の未来が!光の崩れる音がァ!」
光の柱が地面から生える。
その光は地面を崩し砕き、天へと伸びていく。
「ジェラール!」
「エルザ!」
光の中、エルザとジェラールは互いの手を掴もうと手を伸ばす。
その瞬間、光の柱は今までで1番巨大になった。
それをウェンディ達化猫の宿メンバー+ヴィーテルシアは目撃した。
ジュラ、ホットアイ、アルカの3人も目を見開いた。
ミッドナイトは表情1つ変えず目を向け、相変わらず捕まったままの一夜は目を見開き、ハッピーは天を見上げる。
ナツ、ルーシィ、グレイ、ルーは目と口を大きく開き、ティアは少し目線を上にあげ、すぐに興味なさそうに下げた。
光が出現すると同時に、樹海の地面が割れ始めた。
光を中心に、何本もの触手のようなものが地面を突き破って現れ始めたのだ。
「何だーっ!?」
「そこらじゅうの地面から・・・」
「ここにいたら危ないじゃん!」
「ひえーっ!」
「何慌ててるのよ。冷静になりなさいな」
凄まじい音を立てて、岩が落ちてくる。
それぞれがそれぞれに喚くなか、ティアは至って冷静に呟いた。
「うわ!」
「きゃあ!」
「ぐあ!」
「うあ!」
近くの地面から触手が現れる。
崩れる地面に、ナツ達はバランスを崩した。
地面が崩れ、触手が現れる。
ウェンディ達がいた丘も崩れ始めた。
慌ててシャルルがウェンディを抱えて飛び、ヴィーテルシアが翼を生やし背中にアランとココロを乗せて飛ぶ。
「何、あれ・・・!」
その触手の生える先。
そこに目を向けたココロが小さく呟いた。
8本の足のような触手のようなものに支えられる、それ。
幾つもの建物のようなものが集合した動く都市。
――――――超反転魔法ニルヴァーナが、姿を現した。
「ついに・・・!ついに手に入れたぞォ!光を崩す最終兵器、超反転魔法ニルヴァーナ!」
ニルヴァーナの1番高い建物。
そこに立つブレインの歓喜の叫びが響いた。
「正規ギルド最大の武器である結束や信頼は、今・・・この時をもって無力となる!」
「く・・・うう・・・」
ニルヴァーナの側面。
数人の人が乗れそうな足場に右手を掛け、左手にジェラールの手を掴み、エルザは文字通り宙吊り状態にあった。
「エルザ・・・」
ジェラールが呟く。
エルザは目線だけをジェラールに向け、口を開いた。
「自分の体にかけた自律崩壊魔法陣を解け」
その言葉に、ジェラールの表情に戸惑いに似た感情が浮かぶ。
それに気付いているのか否か、エルザは言葉を続けた。
「お前には生きる義務がある。たとえ醜くても・・・弱くても・・・必死に生き抜いてみせろ・・・」
ガシ、ガッと音を立て、エルザは自分とジェラールを足場へと引っ張り上げる。
力なくジェラールは引き上げられた。
弱々しく、口が開かれる。
「オレは・・・ニルヴァーナを止められなかった。もう・・・終わりなんだ・・・」
ジェラールが発したのは諦めの言葉。
が、エルザはそれをすぐに否定する。
「何が終わるものか・・・見てみろ」
風に靡く緋色の髪を押さえるエルザの視線の先。
見てみろと言われたジェラールはそっちに目を向けた。
―――――――――そして、気づく。
ニルヴァーナの足の1本に、5人の人影が見えた。
「うおおおおおおおっ!」
それは―――――――足にしがみ付き這いずるようにして本体へと向かっていくナツ、ルーシィ、グレイ、ルー、ティアだった。
「行け・・・妖精の尻尾。お前達になら止められる」
その姿を、気を失うシェリーを抱えたリオンが見上げ、呟いた。
―――――――それだけではない。
ニルヴァーナに向かっているのは、妖精だけではなかった。
「シャルル!アラン君!ココロちゃん!私達もあそこに行こう!」
「当然!」
「ヴィーテルシアさん、お願いします!」
「任せておけ!落ちるなよ!」
シャルルに抱えられたウェンディ、ヴィーテルシアに跨るアランとココロは空からニルヴァーナへと向かっていく。
「掴まってくださいデス!」
「ウム!」
「よっしゃーっ!本当に面白れぇのはこっからだコノヤロー!」
ジュラとホットアイ、そしてはしゃぐアルカはナツ達同様にニルヴァーナの足の1本に掴まって向かっていく。
善と悪を入れ替える超反転魔法ニルヴァーナという危険な魔法が復活したにも拘らず、連合軍誰1人として諦めていないその姿に、ジェラールは信じられないものを見るように目を見開いた。
「私達は決して諦めない」
足を登るナツ達に目を向けたエルザが口を開く。
「希望は常に繋がっている」
その言葉は正しい。その事実は誰にも否定出来ない。
何故なら――――――
「これを伝って本体に殴り込みだー!」
「よーし!行っくぞぉ!」
「てか、何でお前ら3人ペアルック?」
「知らないわよっ!」
「3人でもペアでいいのかしら?」
―――――目の前に広がる光景が、それを示しているから。
「生きてこの先の未来を確かめろ。ジェラール」
エルザの言葉は、確かにジェラールへと届いている。
耳に響く言葉に、ジェラールの体は自然と小刻みに震えていた。
後書き
こんにちは、緋色の空です。
今回はヤケに文字数が少なめ・・・なぜでしょう?
ま、気にしないでおこう。
・・・新しいの、書きたいなぁ。
いやね、ちょっとキャラが1人浮かんでるんですけど・・・EMTは多いし、百鬼憑乱には向かない。
だからそいつ主人公で書くかーっと思ったけど、こちらにゃ2作品あるんだぜっていう・・・。
困った困った。
感想・批評、お待ちしてます。
ナツとティア、やっと同じ場所に揃ったのに次回またバラバラになる!
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